わんこでちゅ

21 ヤマダくんが逃げ出した










患者の病状は、大事なプライバシーでもあるということが、今回のカーク君の飼い主の笑い話で、本当によくわかった。あれ?よく考えてみると、いつもいつも女性と接していると、必ず文句や意見をいわれる俺だが、この人はそういえばただの一度も文句どころか、批判めいたことさえいわないなぁ。

「ところで、早くきかせてくださいよ。なんなんだったんです?その寄生虫。」

この手のものに興味のある俺は、早くききたくてうずうずしていた。

「それが、後日検便して二度もあの病院で恥かしい思いしたのに、、、」

「あっ、勿体つけないで教えてくださいよう!」

「やだ、先生もそういうのお好きですねぇ。ぷぷっ。実は、なんにも検便からでなかったんです。でたぶん前の日に食べた鍋のえのきか、白滝の消化不良のものが、水流によって動いているように見えただけだろうってことになりました。そのあと何ヶ月もなにも便にはでてきませんし、、。」

「やはははっ、そうでしたかぁ。最近は有機栽培、無農薬の野菜のせいで、結構多いらしいですよ、人間の寄生虫。僻地への海外旅行でもらってくる人も多いらしいです。」

がちゃ、かちゃん。そのとき、となりのテーブルの人がナイフをがさつに皿の上におく音がした。せっかく二人で食事と会話を楽しんでいるのに、気分を害するなぁ。第一食器の音を立てるなんてマナー違反だぞ。俺は隣のテーブルのカップルをにらみつけた。そして話を続けた。

「いや~犬の条虫も、あれ薬のむとびっくりものなんですよ。排便のとき、その上になにか白い短いゴムみたいなのがうごくなあって、びっくりして病院にかけこむ飼い主さんいるんですが、あいつは少しづつからだをわけて便といっしょに出てくるけど、本体は、体の中でとてつもなく長いままいるんですよ、、。」

「ええっ、そうなんですか?私まだみたことないけど、どのくらい長いんですか?」

「あっ、興味ありますか?そういう寄生虫ばっかり展示してある面白いところあるんですよ。今度みにいきませんか?」

そのときである。ウエイターがたのみもしないワインをもう一本もってきた。俺はむっとした。

「こんなワインたのんでないよ。」

ウエイターは、丁寧に丁寧に頭をさげこういった。

「これは当店からのサービスです。それから気分を害されて悪いとはおもいますが、当店はイタリアンレストランでございます。スパゲティーなどのパスタ料理もございますので、寄生虫のお話はご容赦いただきたいのですが。」

俺はしまったと思って、恥かしくなりまわりをみまわした。さきほどのとなりのテーブルのカップルは、パスタの皿の上にいぜんとしてフォークをなげだしたまま、うらめしそうにこちらをみつめている。そうだったか!デザートも食後のコーヒーもそこそこに俺はカーク君の飼い主と慌てて店をにげだした。そして店をでてから、二人で顔を見合わせて大笑いした。

獣医師ヤマダくんは架空の人物ですが、カーク君の飼い主、病院で検便事件は本当にあったお話です。









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椿をのせるカーク


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