虹の空

虹の空

笑顔の行方【1】



「つまんない。楽しくな~い。あ~このお弁当の時間だけが唯一の楽しみだわっ!」
 わたしはお弁当を広げながらそう言った。
「また~。どうしてそう、毎日毎日、楽しくないかな?」
「だってさー、深夏はいいよ。カッコいい彼氏がいて……。もうすぐクリスマスだっていうのに男ひとりいないなんて……」
 ため息が出ちゃう。
「何言ってるの! 花澄だって竜也いるじゃない」
「わたしと竜也はそんなんじゃないでしょ! いっつも何かとケチつけてくるしさ……。やってられないわよ」
「そうかなぁ~? 竜也とじゃれてる花澄見てると、すごく楽しそうなんだけど……」
「じゃれてる……か……」
 そうにしか見えないんだよね……。
 わたしはお弁当のハンバーグをほおばった。
「ねぇ、花澄、そろそろ潮時じゃない? 4年も我慢して……。高1にもなったんだしさ、ここで勇気を出して……」
「言わないよ!」
 わたしは深夏の言葉を遮るように言った。
「すぐこれだもん……。言わなきゃ、竜也だって気づかないよ!」
 確かに深夏の言う通り。
 でも、言えない理由だってわたしにはある。

 わたしが竜也を初めて見たのは小学校6年のとき。
 中学校を受験したときなんだ。
 中学校の正門のところで初めて竜也を見たんだ。
 中高一貫の学校ということもあってかなりの人が受験しに来ていたんだ。
 そのなかでなぜか竜也に目がいっちゃったんだよね。
 わたしより背が低かったけど、ちょっと好みのタイプだったからかな?(笑)
 そして入学式。
 竜也のこと、見つけたんだ!
 あの子も受かってたんだーってうれしかったのを覚えてる。
 そしたら、同じクラスで、な・ん・と、同じ委員会!
 ラッキー! て思ったのもつかの間。
 自分は文句を言うだけ言って何にもやらない。
 嫌なことはすぐ人に押しつける。
 気に入らないと、すぐに怒って帰っちゃう。
 すごく自己中心的で、気まぐれやさん。
 特にわたしなんかクラスも同じだから、何でもやらされてた。
 最悪よぉー。
 このとき、はっきりと、人は見た目で判断しちゃいけない! って思ったもん。
 わたしも、断ればいいのに、何だか断りづらくていつもやってた。
 竜也のことは、大ッ嫌いだった。
 今のわたしからは想像もつかないくらい嫌いだったんだ。


~2~

 でもね……。
 久しぶりに竜也がまじめに委員会に来た日があったの。
 そういう日に限って長引いちゃって……。
 わたしは、絶対竜也は帰っちゃうって確信してたの。
 ところがっ!
 何かまじめにやり出したの!
 おまけに、暗くなったからって言って、わたしを家まで送ってくれたの!
 すごいびっくりしちゃった。
 地球がひっくり返るんじゃないかって思うぐらい。
 竜也に何があったんだろう? って。

 でもね、竜也のこと、ちょっと見直したんだ。
 それからかな……。
 竜也のこと、最悪! から、好きに変わったのは……。
 だけど……。
 いっつも顔を合わせるとケンカ腰にものを言っちゃう。
 回りから見たら、わたしと竜也なんてただのケンカ友達なんだ。
 だけど、その態度とは裏腹に、わたしはどんどん竜也のことを好きになっていった。
 でも……。
 そんなこと、誰にも言えなかった。
 もちろん竜也にも……。
 今の関係を壊したくなかった。
 ここでわたしの気持ちを言ったら、今まで築きあげたものが、すべて壊れていく気がして……。
 だから、友達には、
「竜也くんのこと好きだから協力して!」
って言われたときだって、笑顔で、
「いいよ!」
なんて答えてた。

 本当はいいはずなんてない。
 苦しくて、毎日のように泣いて……。
 だけど、わたしの気持ちを言う勇気もなかった。
 結局はわたしが弱いんだよね。
 そういう日々が続いて、もうすぐで4年になる。
 竜也と出会ってから4回目のクリスマスがもうすぐ来る。
 今年も竜也と一緒に過ごせるのかな……?


~3~

 いつもクリスマスは、わたし、深夏、真奈、竜也、優也、郁巳の6人で過ごしている。
 中1のときからの仲良しグループなんだ!
 しかも、わたしと深夏、竜也、優也は同じクラスなんだ。
 そのうえ、竜也とは席も隣!
 竜也の前には深夏もいて、優也とも近いんだ!
 くじの席替えで、ちょっと細工したんだけどねっ(笑)

 だから、とっても楽しいはずなのに……。
 竜也とは相変わらずケンカばっかりだし……。
 中1から何にも進展なし。
 変わったのは、竜也の背だけ。
 はじめは、どんぐりの背比べだったのに。
 いっつの間にかでっかくなっちゃったんだよね……。
 しかも、カッコよくもなって……。
 竜也の顔見るたびに、ドキドキしちゃう。

「言わなきゃ気づかない……か……」
 わたしはそう呟くと教室の窓からグランドを見た。
 外では、竜也たちがバスケしてる。
 この寒いのに元気だねぇ~。
 竜也はバスケに夢中になっている。

「竜也ってさ、本当にバスケ好きだよね~」
「んー、そうなのよねー、竜也って、バスケを愛してるんだもん。バスケに妬いちゃうわよ!」
「そんなこと言ってるんだったら、竜也に言っちゃったら? そうしたら、バスケより花澄のことに夢中になるんじゃない?」
「変わらないよ。言っても」
 変わるわけないじゃん。
「そんなの、言ってみないと分かんないじゃない?」
「分かるよ! でも、バスケやってる竜也も好きだから……」
 顔が緩む。
「はいはいはい……」
 深夏はあきれてる。
 わたしはお弁当をしまうと溜息をついて机に伏せた。


~4~

「はぁ~」
 竜也は、一番得意なんだよね。
 バスケ。
 勉強するよりも、休み時間よりも、何よりもバスケをしてるときの竜也が一番いい顔をしている。
 すごく楽しそう。
 そんな顔にさせるのは、バスケしかないと思ってる。
 そう思うと気が重くなっちゃう。
 わたしには無理なんだろうな……。

「できるわけないよな~」
 わたしがそう呟いたとき。
「何が?」
 わたしの後ろに竜也が立っていたんだ。

「えっ? 何でいるの?」

 わたしはびっくりして慌てて振り向いた。
 だって、今、バスケ……。
 してた……で……しょ……?
「何で? ってここ、オレのクラス。そしてお前が座ってるのがオレの席。どけや!」
 竜也は息を切られながらも、そういたずらっぽく言った。

 そしていつもここで、わたしと竜也の言い合いが始まる。
 はず……だった……。
 だけどねぇ~。
 わたしは、何か突っ掛かっていく気力がなかったんだ。

「あっ、もう授業始まるのね……」
 そう静かに言うとわたしは席に戻った。
 あまりにもいつもの反応との違いにみんなはキョトンとした様子だった。
 一番驚いていたのは竜也みたい。

「花澄ちゃん? お前……昼に悪いもん食った?」
「……ううん」
「あっ! 分かった。オレがいなかったから淋しかったとか?」
「……別に……」

 何か……わたし、めちゃめちゃ冷めてない?
 本当だったら、
「食ってないわよ!」
とか、
「竜也がいなくて淋しかったの~」
とか、冗談で言ってるはずなのに……。
 何だか、竜也に何もできないんだ~って思うと気が重くなっちゃう。
「お前、何か変だぞ? 何かあった?」
「……ううん」
 わたしは首を振ってみせた。
 竜也は、わたしの顔を覗き込んでくる。
「な、何?」
「花澄ちゃん、今日、海行こ!」


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