吟遊映人 【創作室 Y】

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2008.03.13
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カテゴリ: 映画/ヒューマン

「車椅子の生活は、失った自由の残骸にすがりつくことだ。たとえば君はそこにいる。わずか1メートル、その距離は常人(健常者)にはわずかなものだ。でも僕にとってこの距離は無限だ。君に触れようと手を伸ばしたくても・・・永遠に近づけない。叶わぬ旅路、はかない幻、見果てぬ夢だ。・・・だから死を選ぶ。」

人間の身体が「機能してそこにある」のか、それとも単なる「物体」として横たわるだけに過ぎないのか。
その差は大きい。
身体感覚のない肉体を持て余す人生とは、一体どんなものなのだろうか。
当事者の立場になって考えてみるという浅はかな思いやりは、もはや陳腐な同情にも及ばないのだ。
所詮、誰かの苦悩、絶望、孤独を他人が取って代わることなどできないのだから。

「海を飛ぶ夢」は、ラモン・サンペドロの手記“レターズ・フロム・ヘル”をもとに、実在の人物をモデルにしたヒューマンドラマである。
洋画では多々オリジナル・タイトルをそのまま使用する昨今、「海を飛ぶ夢」という邦題は、この作品に相応しく魅力的なタイトルだと思った。


そこで育ったラモンは、25歳の時に岩場から引き潮の海へダイブした際に、海底で頭部を強打。
その衝撃で首から下が完全に麻痺状態となってしまう。
以来、ベッドで寝たきりの生活を送る。
変化のない生活で、ラモンにできるのは想像の世界で自由に空を飛ぶこと。
そんな生活を20数年も送った後、ラモンは尊厳死を求めて、女性弁護士フリアの援助を仰ぐ。
しかし、そのフリアも不治の病に侵されており、いつしか彼女自身も尊厳死を望むようになる。

作中、度々出て来るラモンの空想シーンでは、彼が山を越え、谷を越え、川を渡り、大海を舞うという浮遊感にあふれている。
これは正しく自由への願望であろう。
さらに、浜辺を散歩するフリアに、徐に手を伸ばし、しっかりと抱きしめ、彼女の髪の香りを感じながらその唇をふさぐのだ。
まるで、愛がこぼれ落ちることのないように、丁寧で深いキスを交わす。
これを肉欲と言ってしまうことに抵抗があるのだが、あえて肉欲と表現したい。

精神的な愛情は、肉体の快楽を伴った上で成立するものなのであろうか。
ここではキレイゴトを書かない。
ラモンの望んだ尊厳死の理由とは、そこから端を発しているような気がしてならない。

そして、作品最後の場面は見事だった。
不治の病(脳血管性痴呆症)が進行したフリアに、友人がそれとなくラモンの話題を出したところ、すでに彼女の記憶にラモンはなかったのである。


2004年(西)、2005年(日)公開
【監督】アレハンドロ・アメナーバル
【出演】ハビエル・バルデム(祝アカデミー賞助演男優賞受賞「ノーカントリー」)

また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。
See you next time !(^^)





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最終更新日  2008.03.13 06:08:44 コメントを書く


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