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2013.05.22
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カテゴリ: 読書案内
【大岡昇平/花影】
20130522

◆三十代独身、子なし、囲われ者として生きる女の生涯

今までいろんな純文学に触れて来たが、『花影』はまた独特なオーラを放つ作品である。

現代では、三十代後半の女性と言ったらまだまだ瑞々しく、年齢のことを気にするような世代とは言えないが、戦後のまだ貧しかった社会を生きる女の三十代後半というのは、何となく心寂しいものがあった。
とくに、家庭を持たない独身女性の境遇は、現代とは比べものにならないほどの暗いイメージがつきまとった。(無論、明るくたくましく暮らしている方々もいたと思うが)
この小説は、そんな三十代後半の女性が、愛人であることを解消した後から自殺するまでのプロセスを追うものだ。とはいえ、そんな俗っぽいことが話の中心になっているにもかかわらず、色恋にまつわるエロスからは程遠く、主人公の女の、月日とともに衰えゆく容姿や、酒で孤独を紛らす心寂しさに作品全体が覆われている。
おそらく、著者である大岡昇平のカラーがこの作風に大きく影響しているのであろう。代表作である『レイテ戦記』に見られるような歴史小説としての筆致が見られ、しがない女の歴史の点みたいな晩年を淡々と綴っている。
しかもこの主人公の女は実在しており、著者・大岡昇平の愛人がモデルとなっている。(文庫本巻末の解説に記述あり)

あらすじを紹介しておこう。
葉子は、大学の教師・松崎に囲われの身となり3年が経つ。
ところが最近、松崎がどうやら自分とは別れたがっているような素振りに勘付く。

結局、別れ話をはっきりと言い出せないでいる松崎に代わり、自分の方から別れを告げ、生活費が入らなくなることから古巣の銀座のバーに再び戻ることにした。
だが、もともと松崎とは嫌いで別れたわけではないので、いつも葉子の胸にしこりのようにわだかまっていた。
とはいえ、ホステスとしての宿命なのか、酒と色と金に彩られた夜の世界を渡っていくには、自分に寄せられる男の欲望を利用せずにはいられなかった。
次から次へと男に抱かれ、虚しい色恋を繰り返す他なかったのだ。

今でこそシングル・ライフを楽しむアラフォー世代がもてはやされるところだが、『花影』を読むと、何やら複雑な心境でいっぱいになる。
40歳を目前にした女性が結婚もしておらず、もちろん子どももいない。手に職がなく、頼るものは男の懐のみ、という境遇に陥った時、一体どんな心境なのだろう? 想像を絶する。
人生の目的が結婚ではないと頭では理解できても、それに代わるやりがいのある仕事とか、研究とか、何か生きがいが見つからないと、空恐ろしい末路が脳裏を過ぎるのも致し方ない。
独身女性の方も、既婚女性の方も、『花影』を読んで、己の女性としての生き様に今一度目を向けてみてはいかがであろうか?
私自身、主人公・葉子の孤独に、涙せずにはいられなかった。

『花影』大岡昇平・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.71)はAliの『十五』を予定しています。


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最終更新日  2013.05.22 06:27:27
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