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2014.09.04
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カテゴリ: 映画/ヒューマン
【ツリー・オブ・ライフ】
20120617a

「“主は与え、主は奪う”それが神よ。神は私たちを苦しめ、嘆かせ・・・そして癒す」
(中略)
「あいつに謝る機会がなかった。ある晩、あいつは理由もなく自分の顔を殴った。“楽譜のめくり方が悪い”と僕が叱ったからなんだ。みじめな思いをさせた。自分が情けないよ」


この作品の感想を書くのに、一体どんな言葉で綴ったら良いのか迷っている。
いかなる賛辞の言葉も、お決まりの美辞麗句になってしまいそうで、私の語彙の少なさと表現力の貧しさを呪う。
何がすばらしいかと言えば、創世記のプロセスがヒトの一生と見事にリンクしていて、生命の尊さや自我の目覚め、身近な人の死に直面し、その繰り返しによって我々が命を紡いでいくことを表現していることだ。
神とは、唯一絶対的な存在であるがゆえ、我々は逆らえない。
たとえどんな横暴で理不尽な行為を突きつけられたとしても、神の前には無力なのだ。

永遠から永遠に渡って存在し続ける神にとって、ヒトは点の集まりに過ぎず、宇宙空間を無数に浮遊する星くずにも等しい。
子ども時代のジャックが、横暴な父親に押し付けの愛情を注がれ、毎日塞いだ気持ちを引き摺っていたり、無償の優しさを与える母には反抗的な態度を取ってみたり、窓ガラスを割り、女性用の下着を盗んだりと、生きていく上で必要な抑圧と解放を体験していく。
こういう子ども時代のドラマは、きっと誰もが記憶の片隅に押し込めていて普段は忘れている体験だ。
だから、作品からかもし出される切なくなるような青い風景や、降り注ぐ太陽の陽射し、芝生を潤す水まきの光景は、鮮やかな記憶となってよみがえる。


1950年代半ば、テキサス州の田舎町が舞台。
オブライエン夫妻と3人の息子たちが暮らしていた。
父親は厳格で、金こそが全てだと考えていた。
自分はしがないサラリーマンだが、3人の息子たちには実業家として社会的成功と富を手に入れてもらいたいと願っていた。
だがある日、オブライエンは長年務めた会社を辞めなくてはならない状況に陥る。
長男のジャックは、アメリカン・ドリームを果たせなかった父親の大いなる喪失と挫折を、目の当たりにするのだった。
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言うまでもなく、ミスター・オブライエン役のブラピの演技は冴え渡っていた。
信じて疑わない仕事第一主義の男が、人生の挫折に打ちのめされるシーンなどすばらしかった。
また、少年ジャック役のハンター・マクラケンも、多感な思春期をリアルに表現。お見事。
物語は、大人になったジャックが少年時代を回想しつつ、孤独感と喪失感に苛まれているシーンが繰り返される。
ラストでは、憎しみさえ抱いていた父親への感情も、やがて変化を遂げ、“慈悲”の境地に至る。


この作品を単なる家族の絆の物語だなどと言うつもりはない。
だが、ヒトという無数の点がやがて一本の線となり、壮大な絆を紡いでいく叙事詩なのではと思った。
『ツリー・オブ・ライフ』は、2011年にカンヌ国際映画祭においてパルム・ドール賞を受賞している。
映画が芸術の域に達したことへの証でもある。
当然の結果だろう。


『愛することだけが幸せへの道よ。愛がなければ、人生は瞬く間に過ぎる。』

2011年公開
【監督】テレンス・マリック
【出演】ブラッド・ピット、ショーン・ペン

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最終更新日  2014.09.04 05:58:40
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