第35工兵部隊

第35工兵部隊

1:エリア参百参拾弐



西暦3450年

第五次世界大戦開戦

月面太陽砲の活躍により、人類の三分の一と引き換えに約一年と比較的短期間

で終結したこの五度目の世界大戦は、人類にとって新たな時代の幕開けの狼煙

ともいえる出来事だった。

この大戦により、世界の権力構造は一変した。


というのがこの世界の歴史である。


だが、大戦から約二百年後、各企業間での対立が各地で発生しており、とても

平和が訪れたとは言いがたかった。

大戦の影響で砂漠化した大地で、企業からの依頼を資金源として活動する傭兵

『トループス』の一員であるアクアは、愛機であるMT『シヴァ』の片隅で破

壊目標である輸送部隊の様子を双眼鏡で伺っていた。

「輸送車が5に自走砲が5でMTが3か・・・たいした部隊だ」

アクアは双眼鏡から目を離しながら呟いた。

今回の依頼は、地下都市の食料を輸送する輸送部隊の殲滅であった。

地下通路を通れば楽なのだろうが、輸送する地下都市には通路が通っていなか

ったらしく、陸上輸送の方法をとっていた。

特に航空支援の様子も無く、アクアはシヴァのコックピットのハッチを開け、

その中に乗り込んだ。

操縦席のOS操作用コンソールに起動操作を行い、各計器に目を走らせ、異常

が無いことを確認すると、ペダルを踏んだ。

すると、シヴァはエンジン音と共にゆっくりと立ち上がった。

「頼むぜシヴァ」

アクアは愛機にそう呟くと、右武装の操縦スティックを握り、輸送部隊の中心

を走っている輸送車に照準を合わせた。

右腕に装備しているのは実体弾を使用する狙撃用ライフルであり、連射速度は

遅いが、その分集弾性と射程が非常に高かった。

ロックオンの表示がモニターに映されると、FCSの自動照準追尾装置が働

き、銃口の射線調整が行われた。

アクアはトリガーを引いた。

ライフルから轟音と閃光と共に銃弾が放たれ、輸送車に真っ直ぐ飛んでいっ

た。

弾丸は輸送車の側面に直撃し、あっけなく爆発した。

そして、巨大な空薬莢が地面に落ち、それと同時にシヴァの機体各所に装備さ

れた電磁推進ブースターから火が放たれた。

と同時にシヴァが地面を滑走して行く!

そして、先ほどの攻撃で浮き足立つ敵部隊に容赦無く銃撃を浴びせた。

自走砲の車体ごと旋回しなければ砲身の向きを変えられないという欠点を利用

し、巧みに砲弾を避けつつ左に装備されたマシンガンの引き金を引いた。

突然目の前現れた逆関節のMTの銃撃を左前腕に装備した追加防弾盾で受け止

め間髪入れずにコックピットに銃口を突きつけ一撃の下で葬り去った。

この調子で次々と敵機を蹴散らし、10分で全ての敵を葬り去った。

後に残った敵機の残骸の中で、周りに残存兵力が残っていない事を確認する

と、アクアは安堵の息を漏らした。

「ま、今日はこんなもんかな」

そう言うと、アクアは無線のスイッチを入れ、依頼主の周波数に合わせた。

無線からは、ノイズが流れたが、すぐに収まった。

アクアは、無線のマイクに向かって、自分の名を言った。

「アクア様ですね?」

すると、無線の向こう側から男性の声が聞こえてきた。

別に数は多くは無いが、このとても丁寧な口調の依頼主は少なくは無い。

「ああ、今回の輸送部隊強襲の依頼を受けたアクアだ。依頼の完了を報告しと
こうと思ってな」

「はい、わかりました。後ほど報奨金を口座に振込みます」

アクアは了解した、と返事をすると無線の周波数を切り替えた。

「は~い、こちらはMT輸送艦ハマークで~す」

突然、物凄く陽気な少女の声が聞こえてきた。

「アリス!!てめぇ無線の時ぐらい普通しやがれや!」

アクアは呆れて頭を掻き毟りながら言った。

「え~?物凄くふっつ~じゃん」

まったく気にしていない様子のアリスにまたアクアは頭を掻き毟り、

「それのどこが普通だ!一般電話で会話してんじゃないんだぞ」

「それが?」

アクアは立ち上がろうとして、コックピットの天井に頭を思いっきりぶつけた。

「っ~~~~!!」

「とにかく、迎えに来てほしいんでしょ?要するに」

「・・・まあ、そう言う事だな」

アクアは頭をさすりながら、画面にマップを表示させ、自分とハマークの現在位置を目で追った。

「今の現在地は・・・」

アクアが現在地を言おうとした瞬間

「エリア332でしょ?」

「・・・」

アクアは、MT輸送艦には大抵、マーカーが設定されたMTを追跡するトレーサー機能がある事をすっかり忘れていた。

「じゃあ、今からいくね~」

それから10分後。

シヴァの上空に大型MT輸送艦『ハマーク』が現れた。

この輸送艦は、やたらとデカくMTを最大4機まで積載でき、同時に機体下部に設置されたMT投下用クレーンで更に3機運搬できた。

元々、アクアには、ロバートと言う80歳のパートナーが居り、ロバートがハマークを操縦していた。

だが、ロバートは病に倒れ、亡くなった為、代わりに15歳のアリスが操縦することになった。

操縦系統の細かい部分は自動操縦に出来る為、特に特殊な訓練を積む必要は無く、15歳のアリスにも操縦できた。

もっとも、アリスには天性の操縦の才能があったため、そんな装置が無くとも普通に操縦できるのだが。

「クレーン降ろすよー」

アリスはそう言うと、クレーンの昇降レバーを押した。

シヴァに向かって、牽引クレーンが降りてきて、肩部に設置されたジョイントに接続された。

「接続を確認した。上げてくれ」

アクアは計器類を見ながら言った。

「はーい」

アリスはそう、答えると今度はレバーを引いた。

クレーンが完全に巻き上げられ、シヴァがハマークの腹に吊るされる形となり、MT格納庫へと移動し、そこでアクアはシヴァのコックピットを開けて近くのハシゴに飛び移った。

そのまま通路を通り、コックピットへと向かった。

コックピットの中は、多数の計器類があり、その中に三つある椅子の真ん中の椅子に長い茶髪の髪後ろで結った少女・・・アリスは座っていた。

アリスはこちらに気づくと、こちらに振り向き、そしてすぐに前に向き直った。

「今度の依頼はどうだった~?」

「つまらんかった」

アクアはあくびをしながら近くの椅子に腰掛けた。

「え~?どうして?」

アリスは意外そうな表情で答えた。

「敵が弱すぎる。もうちょっと楽しませてもらいたかった」

アクアはため息をついた。

別に強い相手を希望・・・しないでもないが、どちらかと言うと殺し足りないのである。

「相変わらず戦いの男だね~」

アリスはからかうように言った。

戦いの男とはどんな感じなのだろうか?

アクアはふと、窓ガラス越しから外を見た。

ハマークはすでに雲の上におり、外は見事晴れ渡っていた。

その青空の中で一つ、いや、多数の何かが太陽の光に反射した。

「・・・おい、向こうで何か飛んでるぞ」

「鳥じゃないの~」

「いや・・・あれは・・」

いやな予感がする、アクアはそう直感した。

そしてそれは気のせいではなかった。

「敵だ!!」

アリスが叫んだ。

「敵だと!?この距離で何で分からなかった!」

アクアは椅子から急いで起き上がり、ハマークのレーダー画面をアリスの横から覗き込んだ。

「ジャミング(妨害電波)だよ!ハマークにはジャミングセンサーが無いから・・・」

「ちっ・・・シヴァをだす!準備しろ!」

アクアはコックピットの扉へ急いだ。

「え!?この高度で!?無茶だよ!」

「うるせぇ!ここで撃墜されるよりゃマシだ!」

アクアは格納庫へと走った。


つづく

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