ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)の指導者とされる アブ・バクル・アル・バグダディの映像がインターネット上にアップロード された。この武装集団は4月21日にスリランカであった爆破事件を実行したのは自分たちだと主張している。
当局の発表によると、直接的な実行者は地元の武装集団、ナショナル・タウヒード・ジャマート(NTJとも表記される)に所属する7名で、その集団の指導者と言われているモウルビ・ザフラン・ハシムはダーイッシュを支持する発言をしている。
ジョージ・W・ブッシュ政権の命令でアメリカ主導軍がイラクを先制攻撃、サダム・フセイン政権を倒したのは2003年3月のこと。その翌年にダーイッシュはAQI(イラクのアル・カイダ)として組織されたと言われている。
2006年にISI(イラクのイスラム首長国)が編成された際、このAQIは中核になり、2010年にISIのリーダーになったのがアブ・バクル・アル・バグダディだという。
調査ジャーナリストの シーモア・ハーシュが2007年にニューヨーカー誌に書いた記事 によると、それまでにジョージ・W・ブッシュ政権はシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラを最大の敵だと定め、スンニ派の過激派と手を組むことにしたという。
アメリカ政府を動かしていたネオコンはフセイン体制を倒した後に親イスラエル政権を樹立するつもりだったが、その計画は失敗し、イラクの多数派であるシーア派が主導権を握ってしまった。その結果、同じシーア派のイランと接近する。
2009年1月にアメリカ大統領となったバラク・オバマは翌年の8月にPSD-11を出し、ムスリム同胞団を主力とする体制転覆プロジェクトを始めた。スンニ派の過激派とはサラフ主義者やムスリム同胞団を指しているので、オバマはブッシュ・ジュニア政権の方針を引き継いだ、つまりチェンジしなかったと言えるだろう。
そして2010年12月にチュニジアでいわゆる「アラブの春」が始まり、11年2月にはリビア、3月にはシリアで戦争が勃発する。当然のことながら、いずれもムスリム同胞団が中心的な役割を果たした。
2011年10月にリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制が倒され、戦闘員や武器/兵器はトルコ経由でシリアへ運ばれるが、その際にNATO軍とアル・カイダ系武装集団LIFGの連携が明らかになった。カダフィ体制が倒された直後、反カダフィ勢力の拠点だったベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられたのは象徴的な出来事だった。( ココ や ココ )
輸送の拠点になったのはベンガジにあったCIAの施設やアメリカの領事館 で、アメリカの国務省はそうした行為を黙認していた。 マークを消したNATOの輸送機 が武器をリビアからトルコの基地まで運んだとも伝えられている。
アメリカ領事館は2012年9月11日に襲撃され、大使だったクリストファー・スティーブンスが殺された。 領事館が襲撃される前日、大使は武器輸送の責任者だったCIAの人間と会談、襲撃の当日には武器を輸送する海運会社の人間と会っていたとされている 。ちなみに、当時のCIA長官はデイビッド・ペトレイアス、国務長官はヒラリー・クリントンだ。
襲撃の前月にアメリカ軍の情報機関DIAはホワイトハウスに対し、シリア情勢に関して報告している。 その中でシリアで政府軍と戦っている武装勢力はサラフ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)、ムスリム同胞団、アル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘されていた) だとしている。ちなみに、アル・ヌスラの主力はサラフ主義者やムスリム同胞団だ。
アル・カイダ系武装集団との連携が露見していたバラク・オバマ政権は「穏健派」を支援していると主張していたが、そうした勢力は存在しないと報告している。オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフ主義者の支配地域を作ることになるとも警告していた。ダーイッシュの出現を見通していたと言える。
ISI(イラクのイスラム首長国)は2013年に活動範囲がシリアへ拡大し、西側ではシリア(Syria)のSを加えてISIS、またはレバント(Levant)のLを加えてISILと呼ばれるようになるが、現地での呼び名はダーイッシュ。2014年に売り出された当時のダーイッシュは残虐性を演出、アメリカ主導軍のシリア空爆の口実に使われる。
アメリカ主導軍とダーイッシュの連携でリビアと同じように体制を転覆させようとしたのだろうが、シリア軍がリビア軍と違って強かったことに加え、アメリカ政府が大規模な軍事介入へ入る動きを見せる中、2015年9月30日にロシアがシリア政府の要請で軍事介入し、ダーイッシュを含むジハード傭兵の支配地域は急速に縮小していく。
そこでアメリカ軍は手先をクルド勢力に切り替え、ダーイッシュが支配していた油田地帯をアメリカ軍が占領していく。現在はイラクで同国政府の抗議を無視して軍事力を増強、中東支配の拠点にしようとしている。
敗走したダーイッシュなどの戦闘員をアメリカ軍は救出、アフガニスタンなどへ運んでいると言われているが、出身国へ戻る動きもあり、東アジアでの活動も活発化している。
例えば、2017年5月にはフィリピン南部にあるミンダナオ島のマラウィ市をダーイッシュ系だというマウテ・グループやアブ・サヤフが制圧、普通のイスラム教徒をワッハーブ派へ改宗させる工作が数十年にわたって続けられてきたインドネシアでは2016年1月にジャカルタで何回かの爆破と銃撃戦があった。ミャンマーのロヒンギャが住む地域や中国西部の新疆ウイグル自治区へも戦闘員が潜り込んでいると言われている。
新疆ウイグル自治区、アフガニスタン、スリランカ、インドネシアは中国が進める一帯一路の重要な場所。次のターゲットはトルコになるのではないかとも言われている。