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今、トゥパク・アマルを照らし出すかのように、朝一番の陽光が、朝霧の中を貫いて真っ直ぐに彼の元へと差し込んでくる。それと共に、朝霧を成していた細やかな水の粒子に陽光が煌いて反射し、辺り中が眩い黄金色の光を燦然と放ちはじめた。天空都市マチュピチュ全体が、神聖な黄金色の炎に燃え上がる瞬間である―――。やがて、こちらに歩み来るトゥパク・アマルを、やや離れた場所から護衛していたビルカパサが、丁寧に礼を払って迎える。黄金色に輝く霧の中から、次第に姿を現す主(あるじ)の姿は、燃え上がる清冽な炎に包まれているかのようだ。その姿は、どこか人間離れした、非常に厳粛な気配に満ちている。ビルカパサは、息を詰め、そちらに釘づけられた。「ビルカパサ、待たせてすまぬ。陣営に戻ろう」トゥパク・アマルの声に、ビルカパサはハッと我に返った。「は、はい!!トゥパク・アマル様!!」彼は、冷風を切って歩みゆくトゥパク・アマルの後を、慌てて追っていく。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパクと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.09
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斥候が非常に深く畏まり、地につくほどに身を低める気配が伝わってくる。(ですが、陛下、この大陸全土の沿岸各地に散って情報収集に奔走している者たちには、海の向こうの動きさえも、微かに打ち寄せるさざ波をとらえるがごとく、敏感に、耳聡く、察知するに長けております者もおりますゆえ……!沿岸部には海向こうの噂も流れ込みやすく、それに、スペイン人の貿易商と密かに通じている仲間たちもおりますゆえ、国外の情勢も、ちらほらと伝わって参ります。しからば、此度の件も、あながち的は外れていないかと…!!)トゥパク・アマルは研ぎ澄まされた厳然たる面差しで、姿の見えぬ相手の言葉に耳を傾けつつ、低く言う。「いずれにしろ、よく調べてくれた。今は、国際情勢を正確に把握することこそ重要だ。容易な任務ではないが、引き続き、状況の推移を追ってくれるか」(はっ!!皇帝陛下……!!)トゥパク・アマルが頷くと、声の主は朝もやの向こうで再び深く恭順の礼を払い、たちまち、その気配を消した。相手の気配の遠ざかるのを確認すると、トゥパク・アマルは、やや下向き加減にしていた鋭利な横顔をゆっくりと上げる。そして、次第に昇りくる太陽に向き直り、深く礼を払った。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.08
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白い霧の向こうに、何者かの微かな気配がする。トゥパク・アマルは変わらぬ静寂な佇まいのまま、意識だけを、すっと、そちらに向けた。霧の向こうで、その気配の主が居住まいを正して跪き、深々と恭順を払う様子が窺える。一呼吸あってから、トゥパク・アマルの低く囁く声が、朝もやを微かに震わせた。「何か動きがあったか?」(はい……トゥパク・アマル様……!)濃密な霧の向こうで、草陰深く身を隠しているのだろうか、全く姿の見えぬその何者かが、深く礼を払う気配だけが返ってくる。「そうか。それで、如何なる様子か」(はい…!トゥパク・アマル様のご計画通り、事は動き出したもようでございます……!!)トゥパク・アマルは、切れ長の目を僅かに細めた。その目元に、瞬間、閃光が走る。それから、彼は、姿の見えぬ相手の、つまりは彼の放った斥候の一人なのだが、その声の主の方向に一歩、踏み出した。「では、実際に動き出した可能性があるということか?」(はい…!ですが、畏れながら、陛下…なにぶん、海を隔てた遥か遠方での動きゆえ、正確に情報を掴むことは非常に難しいのです……)「うむ。それは、わたしも心得ている」(畏れ多いことでございます!トゥパク・アマル様……!)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.07
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かくして、その頃、アンドレスが見上げていたのと同じ明けの明星を、遥か離れた山岳の秘都で見つめている人物がいた。反乱の本拠地、ペルー副王領―――。早朝のマチュピチュは、どこまでも白く立ち込める朝もやに、深く包まれている。まさに天空都市の名そのままに、完全に空と雲霧の中に溶け込み、この地が最も神秘的な表情を見せる時間帯である。白い濃霧の中に霞んで見え隠れする遺跡の石壁たちの間を、一人、朝露に濡れた石畳を歩みながら、トゥパク・アマルは、静かな眼差しで天空を見上げていた。水滴を帯びて、しっとりと風に舞う絹糸のような長髪は、女性のそれのようでさえあるが、その表情は美麗でありながらも非常に精悍で、厳然としている。古(いにしえ)のインカ帝国時代、神殿や家々の石壁は白亜に塗られていたという――そんな神々しく純白な輝きに満ちた聖都でありし時代を彷彿とさせる、白い朝霧に抱かれた早朝のマチュピチュ――……。褐色の逞しく引き締まった長身に、まるで真綿がまとわりついてくるかのように濃密な朝もやは、一寸先の視界さえ利かせてはくれぬが、対照的に、見上げる天頂は、実にすっきりと澄み渡っている。夜の濃い群青色から柔らかな紫色へと移りゆく上空では、白く輝く星々が、ひとつひとつ光の中へと淡く溶けていく。それらの星々の中で、ひときわ眩い煌きを放つ明けの明星を見つめながら、やがて、彼はゆっくりと足を止めた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.06
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本当は、すぐにでも、コイユールの傍に駆け寄って、抱き締め、今の自分の気持ちの何もかもを話したい、聞いてほしい、そして、彼女自身の中に深く刻まれた心の傷つきの何もかもをも包みたい――そんな、強い衝動に駆り立てられる。しかし、周囲は、朝の行動を開始した兵たちで次第に賑わいはじめており、アンドレスは、思いをぐっと堪(こら)えて足を止めた。無意識に、彼の指先は、その胸元から光る小瓶を取り出していた。小指サイズほどの、そのガラス瓶は、透明なオイルで満たされ、その中に、色彩美しい種子類や鉱石の欠片などが9種類ほど、ぎっしりと詰められている。清々しい朝日を浴びてキラキラと眩い煌きを放つ小瓶――それは、コイユールが、彼のために作ってくれたグランデーロのお守りだった。アンドレスは、暫し、手の平の中の優しい輝きを見つめた後、そっと、その小瓶に口づける。そして、今一度、コイユールの姿を振り返ると、静かに踵を返した。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪コイユール≫インカ族の貧しくも清らかな農民の少女(18歳)。義勇兵として参戦。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.05
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アンドレスは、もう一度、天空を振り仰ぐ。白みゆく空に溶けゆく、純白に輝く明けの明星……――見つめる彼の脳裏には、愛しいひとの姿が甦る。(強制労働という名で両親の命を奪われた君の気持ちが、今、やっと本当に分かる気がする…コイユール……!!)やがて彼の足は、知らず知らずのうちに、負傷兵たちの治療場界隈へと向いていた。相変わらず、治療場では夜を徹して看護の女性たちが熱心に立ち働いていて、案の定、それらの女性たちに混ざって、コイユールの姿もあった。アンドレスの先日の水攻め作戦では、街中での銃撃戦を伴う結果となり、それ故、負傷兵の数は再び増加していた。それでも、献身的な従軍医たちの治療や、看護の女性たちの熱心な介抱により、それらの兵たちも、次第に快方に向かっているようだった。そうした負傷兵たちに向けられるコイユールの柔和で繊細な眼差しも、静かに染み入るように嬉しそうに見える。アンドレスは治療場外の木陰で足を止めると、熱く込み上げる胸を片手で押さえた。(コイユール…――……!)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪コイユール≫インカ族の貧しくも清らかな農民の少女(18歳)。義勇兵として参戦。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.04
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時々、道で出会っては、「アンドレス様、お早いですね!」と、朗らかに礼を払って、早番の衛兵たちが過ぎていく。そんな早朝から活動をはじめている兵たちの目を、今は、そっと逃れたい気持ちで、彼の足は自然に野営場のはずれに向いていた。この先々の反乱の展開を思うと、まだ頭は激しい混乱の渦を巻くばかりだった。(まさか…英国まで巻き込む方向に動いていただなんて…――!!)深い息をつきながら見つめる空は、藍色から次第に透明な蒼色へと移り、徐々に白みが差してくる。移りゆく空の景色の中で、明けの明星が、変らぬ清い光を放ち続けている。その星を仰ぎ見るアンドレスの瞳から、一筋の涙が頬を伝って流れた。(しかも…父上は暗殺……――)これまでも、侵略者たちの非道な暴虐ぶりには、怒り心頭に発すること数知れず、彼の心は幾度となく憤怒の炎に燃え上がってきた。だが、これほどに己の身近でも、その暴挙が行われていたとは―――!!アンドレスは涙を流しながらも、強くその拳を握り締める。今、彼は、はじめて、真にインカの民の舐めてきた苦汁を、己自身の血肉として、鮮明に理解することができる気がしていた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.03
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アンドレスも、また、非常に険しく真剣な眼差しでベルムデスを見つめた。―――まだ見ぬ新たな大いなる波の到来に備えるのだ―――先刻の使者が携えてきたトゥパク・アマルの言葉の意味が、今、アンドレスは、完全に理解することができていた。(まだ見ぬ新たな大いなる波…――それは、海の彼方から押し寄せる英国艦隊のこと…!!いや、正確には、その英国艦隊とスペイン軍との激突の機を捉えて、我がインカ軍が再び巻き起こす戦闘という大旋風、それら一連の事態のことなのだ――!!)アンドレスは、ベルムデスの視線を真正面から受け留めながらも、己の胸の鼓動が速まるのを止めることができなかった。ベルムデスも改めて畏まり、その年輪の刻まれた面持ちに深遠な光と険しさを宿して、しかと頷き返した。 やがて、ベルムデスとの話しを終え、どこか意識の飛んだような状態で、アンドレスは天幕の外へと出た。外では、既に、夜明けを告げる山鳥の声が、遠く、甲高く、響いている。今しがた、ベルムデスと過ごしたのは、ほんの数時間のはずなのに、めまぐるしく、長大な時が流れ去ったかのような感覚が、強い残光のように残っていた。天幕の出口で立ち止まったまま、深呼吸なのか、溜息なのか、長く深い息がアンドレスの口元から漏れる。辺りは、漆黒の闇の頃を過ぎ、透明な藍色がかった清涼な空気に満たされている。ふと見上げる早朝の空には、明けの明星が白く清らかな光を放っていた。気付けば、あれほど激しく吹き荒れていた雪も、今は、すっかりやんでいる。(いつの間に、雪がやんでいたんだろう……)美しい白銀の世界へと変わった大地の上で、降り積もった雪を踏みしめながら、アンドレスは朦朧としながらも、一歩、一歩、歩みはじめた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.02
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ついにアンドレスは、決然と頷いた。そして、腕で、ぐいっと、噴き出した涙を力強く拭き取る。「ありがとうございます、ベルムデス殿……!」父の暗殺の事実を聞かされ、まだ激しい衝撃を引き摺(ず)ったままのアンドレスに、トゥパク・アマルの秘策の内容は、さらなる衝撃の連打であった。頭の中は非常に混乱していたが、しかし、自分に咀嚼させようと懸命に噛み砕いて説明し続けたベルムデスの言葉は、それこそ、決して把握し損ねるわけにはいかぬ種類のものだった。そして、ここまで思い切った決断をせざるを得なかったトゥパク・アマルの覚悟も苦悩も、恐らく、彼と魂の本質をとても近しくするアンドレスに、分からぬわけはなかった。(トゥパク・アマル様…―――)ぎこちなく揺れ動きながらも、徐々に鋭利になりゆくアンドレスの視線は、暫しの間、風に煽られる燭台の炎を見据えていたが、やがて、ゆっくりとベルムデスへと移っていった。「それで…叔父上は?その書状の件は、叔父上も、納得されてのことだったのですか?」「はい。ディエゴ様も、最初はかなり戸惑われておりましたが、最終的には、納得されました。あの時は、まだトゥパク・アマル様も捕われてはおらず、トゥンガスカの本陣での決戦の勝負もついてはおりませんでしたから、わたしも、トゥパク・アマル様のご判断には、少なからず驚かされました。ですが、今、この情勢となりましては、トゥパク・アマル様の、あの思い切ったご判断は、誤ってはいなかったと感じております。ただ……あの書状が、果たして、無事にアリスメンディ殿の元に届いたのか…――仮に届いていたとしても、アリスメンディ殿が実際に行動に移されるか否かは、全く、予測ができません。それに、もし、本当に英国が攻め込んで来たときに、果たして、スペイン軍がどうなるのか、そして、何よりも、我々インカ側が、上手く事を運べるのか……全く、予断は許さぬ状態に代わりはありません」そう言って、ベルムデスは、アンドレスの顔を真っ直ぐに、ひたと見据えた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。≪ディエゴ≫インカ皇族で、名実共にトゥパク・アマルの右腕的存在。トゥパク・アマルの亡き父親ミゲルの弟の長男(トゥパク・アマルの従弟)。インカ軍本隊でトゥパク・アマルの副官的役割を果たしてきた。アンドレスの叔父にあたる人物で、アンドレスの父親代わりでもあった。 ◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2008.01.01
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「腹背の敵……!」「はい。それに、スペイン軍は……いくら、かつてのような海軍力の威光は薄れつつあるとはいえ、英国軍にとって、今でも強敵であることには変りはありません。しからば、両者の戦いによって、スペイン軍も英国軍も互いに消耗し合うことは必定。その間に、我らインカ軍が、この国の内側から植民地支配を瓦解せしめる、という策は、リスクも相当に大きいですが、決して非現実的なものではありますまい。ただ、トゥパク・アマル様が英国側の僧侶との連絡を図ったという事実は、下手をすれば…、アンドレス様も危惧された通り、スペインの代わりに英国の支配を許すのか、という誤解を招きかねません。ですから、あくまで内々に、ディエゴ様とわたしとにだけ、お打ち明けになられたのでございましょう。もちろん、アンドレス様があの戦場にいらしたら、アンドレス様にも打ち明けられていたに相違ありません。ですが、実際には、あなた様は、既にこのラ・プラタ副王領に遠征されていて、あそこにはおられなかった。そのため、こうして事後報告となってしまったわけなのですが……」☆ご挨拶☆今年も、いよいよカウントダウンとなりました。。。本年も『コンドルの系譜』をお読みくださいまして、本当にありがとうございました。来年は、いよいよ反乱のクライマックスに向けてストーリーは展開していく予定です。暫し登場の少なくなっていたトゥパク・アマルも、やがて主人公の座に復帰の予定です^^トゥパク・アマルやアンドレス共々、『コンドルの系譜』を、来年もどうぞよろしくお願いいたします。皆さまにとりまして、幸多き素敵な新年の訪れとなりますように!【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.31
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話し込んでいるうちに、すっかり夜は更け、天幕の外では、ますます勢いを増しながら雪が舞い飛ぶ唸り音がする。隙間から吹き込む冷気に、天幕内部も、かなり気温が下がっているはずなのに、アンドレスも、ベルムデスも、その頬を熱く紅潮させていた。ベルムデスは、乾いた喉にチチャ酒を流し込むと、その老賢な慧眼を、石のように身動きできなくなっている眼前の若者に戻す。「アンドレス様が驚かれるのも無理はありません。わたしも、この話をトゥパク・アマル様から聞かされたときは、暫く頭が真っ白になりました。ですが、今、こうして冷静に考えてみますれば、あのスペイン軍を押さえ込むには、我らインカ側にとって、時機を得た外圧を利用するという手段は――もちろん、陛下におかれましても、苦渋の選択ではありましたでしょうが……ここに至っては、むしろ、賢明な見極めであったと、わたしは思っております。スペイン側とて、腹背の敵、つまりは、海の向こうからの英国軍と、内地で暴れる我々インカ軍と、両方共を、同時に相手にするのは難儀なはずでありますから」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.30
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そんなアンドレスの正面で、ベルムデスは、なおも続ける。「スペイン側と我々インカ軍との間の軍事力の差、特に、火砲の威力の差は、この反乱期を実際に経験してこそ、いかに策を練ろうとも、それがいかに超えがたい鉄壁であるかを徹底的に知らしめさせられて参りました。もちろん、此度のアンドレス様の水攻めは、そのようなスペイン軍さえもを押さえ込んだという点で、我がインカ軍にとって、革新的な大いなる前進であったことは間違いございません。ですが、大概においては、我々インカ側が、あれほどの敵の火砲を凌駕して勝利するのは、まだ非常に難しい。ことに、あの総指揮官アレッチェ殿の指揮するスペイン軍主力部隊は、わたしも本陣戦では目を疑いましたが、無数の種類の大砲から銃まで、武器の博物館さながらの驚くべき装備ぶりでございます。その上、スペイン本国では、さらに新たな武器の開発も進んでいるはず。此度のアンドレス様の水攻めの際にも、ロレンソ殿が、敵の新型の高射砲を目の当たりにしたと申されておりました。それほどの火器を大量に持つ相手に、いかに策を弄して戦闘を繰り返しても、そればかりでは、もはや埒が明きますまい」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.29
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非常に深刻な面持ちで、ベルムデスは続ける。「あのトゥパク・アマル様のことです。大いなるリスクも、十分すぎるほど悟っておられたことでしょう。ですから、本当に、ギリギリまで、この手ばかりは使わずにおられたのです。ですが、トゥンガスカでの本陣戦の時、初日を終えてみて、まだ外面的な形勢は、インカ軍もスペイン軍も互角に見えましたが…――しかし、あの予見的な洞察の鋭いトゥパク・アマル様のことです……恐らく、初日の決戦を経て、あのままではインカ側に勝機の薄いことを早々に悟られたのでありましょう。密かに、あの晩、ディエゴ様とわたしをお呼び出しになられ、書状を英国のアリスメンディ殿にお送りになられることを打ち明けられたのでございます。もちろん、この国が、スペインの代わりに、今度は英国の属国になるなど、トゥパク・アマル様の真意でありようはずがありません。トゥパク・アマル様のお考えは、この情勢に至っては、もはや英国の外圧を利用してでも、反乱を成功に導きたいというものであったということ……。つまり、この国のスペイン側が外敵への対処にその意識を向けている隙に、植民地支配を内側から覆し、独立を達成し、当然ながら、英国の侵入も許さないという、壮大なるご構想とご覚悟の上でのご判断であったのです」怒涛のようなベルムデスの説明に、もはやアンドレスは言葉も出ぬまま、完全に充血した目で、ただただ聴き入るしかない。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。≪ディエゴ≫インカ皇族で、名実共にトゥパク・アマルの右腕的存在。トゥパク・アマルの亡き父親ミゲルの弟の長男(トゥパク・アマルの従弟)。インカ軍本隊でトゥパク・アマルの副官的役割を果たしてきた。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.28
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だが、アンドレスの混乱した擦れ声が、再び天幕の空気を振るわせる。「いや…本当に、ちょっと待ってください!!」彼は懸命に気持ちを落ち着けようと、暫しの間、ぎゅっと額を押さえた後、険しい眼でベルムデスに体ごと向き直った。「英国軍なんか呼び寄せたら、もしスペイン軍を撃退できたとしたって、今度は、俺たちは英国の支配下に置かれるだけじゃないんですか?!」ベルムデスは、誠実な瞳で深く礼を払う。「アンドレス様のご懸念は、ごもっともでございます。我がインカ軍への援護の依頼とはいえ、英国が何も見返りを求めずに援護などあり得ぬことは、トゥパク・アマル様とて百も承知。書状の真の目的は、英国による我が軍の援護などではなく、反乱のためにスペイン側が手を焼いているという英国側の喜びそうな情報を流し、アリスメンディ殿を通して英国軍を動かして、スペイン軍と激突させ、両者を消耗させたいというのが真意でございます。ですが……トゥパク・アマル様とて、さぞや苦渋の選択であられたことと思います。スペインへの復讐心に燃えるアリスメンディ殿は、スペイン人でありながらも、今は英国王室と近しい間柄の高僧。トゥパク・アマル様の書状を読み、この地で大規模な内乱の起こっていることを英国が知れば、今がスペインをこの地から叩き出す絶好の機会とばかりに、あの恐るべき英国艦隊が、大挙して当地に押し寄せてくる可能性が本当にあるわけです。トゥパク・アマル様は、それを狙った一方で、今のアンドレス様と同様、大いなる危惧も抱いていたはず…――。英国軍に当地のスペイン軍を叩かせ、外圧をかけさせるに留まればよいが、下手をすれば、我々の支配者が、今のスペインから英国に取って代わるだけ、という顛末にもなりかねないのですから」「…――……!」アンドレスは涙の滲む目を剥いたまま、わななく唇をきつく噛み締めた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.27
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今、アンドレスの涙に霞んだ瞳が、カッと大きく見開かれていく。「そう…か…!!トゥパク・アマル様の書状は、つまりは、スペインに敵意を持つ英国を利用して、スペイン側に外圧をかける――そういう意図なのか…――!!」ベルムデスは、深々と頷いた。「その通りでございます、アンドレス様。トゥパク・アマル様は書状の中で、当地にて大々的な内乱の起きている事実を伝え、独立闘争を行なう我がインカ軍の援護をアリスメンディ殿に依頼したのでございます。もちろん、表向きは、かつてペルー副王領にいた時にアリスメンディ殿がインカの民の独立を支援していたことに鑑み、書面も、英国王室に対してではなく、アリスメンディ殿いち個人に対する相談という形をとっておられます。ですが、当然ながら、アリスメンディ殿には、そのバックに英国王室があることを見込んでのこと。アリスメンディ殿が動くときは、英国軍が動くとき、と見定めてのことでございます」「な…なんという……!なんという手に打って出られたのだ…トゥパク・アマル様は…―――!!」「アンドレス様、どうか落ち着かれてくださいませ。まだ重要なお話は続きます。どうか、どうか冷静にお聞きください」愕然と擦れ声を漏らすアンドレスの前で、鋭利な眼差しのベルムデスが、老齢にもかかわらず筋骨逞しい、その褐色の腕を、決然と組みなおした。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.26
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額を押さえ込んで俯(うつむ)いたアンドレスの顔面と肩が、わななき震えている。だが、彼は、苦しい息のままに声を絞り出した。「それで……どうなったのですか…。どうか…どうか、お話しください。ベルムデス殿…!」アンドレスの様子に、ベルムデスは苦悶の面持ちで顔を強張らせたまま、しかし、真っ直ぐに座り直した。そして、ここは話し切らねばならぬ、と、まるで誓約を立てているがごとくに語りはじめる。「アンドレス様のお父上が亡くなられてから、お父上と共に行動していらしたイエズス会の神父たちも、さすがに怯みはじめました。ご親友のアリスメンディ殿は、最後まで当地に残っておられましたが、ですが、やはり、身の真なる危険を感じたのでありましょう。最終的には、英国へと亡命されたのでございます。そして、アリスメンディ殿は、恐らく、スペインに対するその激しい復讐心が、逆に、英国では効を奏したのでありましょう。スペインに敵対する英国王室の覚えもめでたく、今や、英国では屈指の力を持つイエズス会の高僧となられたのでございます」「なっ…?!では…アリスメンディ殿はスペイン人なのに、今は、英国に住んでいるのですか?!しかも、英国王室と近しい間柄って……!!そ、そんな相手に…トゥパク・アマル様が書状を送ったって…そ…それって…――!!」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.25
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ハッとして己を見据えるベルムデスの目の色を見た瞬間、アンドレスは完全に悟った。(父上は…――殺されたのだ!!)蒼白になって愕然と凍りついていくアンドレスを、その眼差しで支えるようにしながら、ベルムデスが身を乗り出した。「アンドレス様…どうか、気をお確かに…!」アンドレスはあまりの衝撃に貫かれたまま、額を指で激しく押さえ込んだ。(父上までもが…そんな…!!そんな…――!!)重く長い沈黙の後、ベルムデスが苦しげに口を開く。「お辛い事実ではありますが、アンドレス様のお察しの通りなのでございます。お父上は、表向きは事故死とされておりますが…、真実は、スペイン側の策謀による暗殺であったろうとの見方が濃厚でございます」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.24
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「はい、アンドレス様。お父上は、そのアリスメンディ殿と共に、ますますイエズス会弾圧が強まる中でも屈することなく、我々インカの民の窮状を救うために、懸命に道を探っておられました。ただ…そんな時のことでした…お父上が急死されたのは……」そこまで言うと、ベルムデスは、ぐっと言葉に詰まった。その表情が、みるみる硬く強張っていく。アンドレスも、息が止まる。それと共に、彼は、己の中に稲妻が走るように直観した。(まさか…父上……!!)目をそらし、言葉を継げずにいるベルムデスの横顔を見つめるアンドレスの顔面は、次第に色を失っていく。彼の口元から、震える声が漏れた。「ま…さか…父上は…事故なんかじゃなくて……殺された…のか?」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.23
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アンドレスの姿を見つめるベルムデスの瞳が、いっそう深い苦渋の色に覆われていく。「はい。アンドレス様の仰る通りでございます。既にフェリパ様とご結婚され、幼いアンドレス様のいらしたニコラス様は、表向きはイエズス会を脱会されて、当地に残っておられたのです。そして、まだペルー副王領に残って水面下で活動していたイエズス会の他の神父たちに働きかけて、この地の民の解放のために行動を続けておられました。もちろん、イエズス会の神父たちとて、一皮剥けば、実際にはアンドレス様のお父上のように勇敢な方ばかりではなく、むしろ、形勢が悪くなってくると、スペイン国王を恐れ、その顔色を窺(うかが)って上手く立ち回ろうとした者が殆どであったのですが…。それでも、そのような中、お父上と共に最後まで果敢に活動を続けておられたのが、ご親友であり、イエズス会の神父でもあられた、あのアリスメンディ殿だったのです。特に、アリスメンディ殿はお人柄的にも闘争的で、イエズス会を廃したスペイン国王への復讐心が、人一倍強いお方でした」アンドレスは、今、やっと合点がいった、というように体ごと深く頷いた。「あ…!!そのお方が…トゥパク・アマル様が書状を送られたという、スペイン人の神父なのですね!なるほど…それが、アリスメンディ殿なのか……!!」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.22
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ベルムデスは深く息をつくと、感情を押し込めるようにして奥歯を噛み締めた。「――皮肉にも、イエズス会を追放したことで、この国は優れた指導者を失ったのでございますが…。その上、お父上たちの代わりに台頭してきたのが、よりによって、あのモスコーソ司祭たちだった、というわけです」アンドレスは言葉も失って、その瞳を大きく揺らしながら微動だにできず、半ば放心したまま、呆然と宙を見つめている。ベルムデスは案ずる眼差しで、まだ若い眼前の将を見やった。(アンドレス様…まだ、お話は途中――。とても大事なお話は、ここからでございます……)他方、次第に深く肩を落としゆくアンドレスの視線は、ぎこちなく天幕の地を彷徨っている。隙間風に揺らめく蝋燭の炎に引かれた二人の長い影が、天幕の地の上で、魔物のように黒々と不気味に揺れていた。アンドレスは、拳を握り締めた。彼の乾いた唇が、震えながら僅かに動く。「だけど…!追放なんて……!!父上が、国外に出ていたなんて、俺は聞いていない…!亡くなる直前まで、この地にいたはずだ…――」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。≪モスコーソ司祭≫現在、植民地ペルーにおけるカトリック教会の頂点に立つ最高位の司祭。単に宗教的な意味合いで高位に君臨する存在というだけでなく、植民地統治においても絶大な発言力を有する政治的権力者。キリスト教の名を傘に着て、いかなる冷酷な所業をも行う一方で慈愛深げに振舞う、奇態な人物。スペイン軍総指揮官アレッチェと並ぶ、トゥパク・アマルやアンドレスの宿敵的存在。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.21
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天幕の外で吹きすさぶ雪の音は、まるで悲痛に泣き叫んでいるかのようだ。そのような悲しげな雪音をぬって、ベルムデスの声が、再び、低く聞こえてくる。「あの教団の神父たちは、スペイン国王よりも、むしろローマ教皇に忠節を尽くしていたのです。そのことは、当然ながら、スペイン国王カルロス陛下には気に入らなかった。その頃、この国のスペイン側の暴政に肝を煮やしていたアンドレス様のお父上は、他のイエズス会の神父たちに協力を呼びかけながら、インカの民の独立に向けて、本格的な準備を進めていたほどでした。ですが、国王である自分に従わず、しかも、そうした闘争的な側面をもつイエズス会の神父たちの存在を、カルロス陛下は黙認しなかった。あれは、確か、1767年頃…、アンドレス様のお年で言えば、やっと5歳になるかならぬか、という頃ですが、ついにカルロス陛下は、イエズス会を、スペイン本国とこの植民地から、追放することを命じられたのでございます」「つ…追放…――?!」「はい……。そして、実際に、スペイン国王は、それを断行されたのです」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.20
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「イエズス会の神父たちは、数々の保護統治地を築いて、支配国…つまりは、スペインの理不尽な暴挙から、インカの民を手厚く庇護しはじめました。そのような熱心な…と申しましょうか、革新的な、と申しましょうか、ともかく、そんなイエズス会の勢力は、ますます強まっていき……、いえ、イエズス会の勢力は、スペイン本国でこそ、強くなっていったのですが――いずれにしろ、イエズス会の神父たちは、スペイン国王の思い通りには動かなくなっていったのです。当然ながら、スペイン国王はそんなイエズス会に良い心象は抱かず…、いえ、実際、イエズス会をけむたく思いはじめたのは、国王だけでなく、この植民地の民から搾取していた国王側近たちや、スペイン人の事業家たちも、同様でしたが。そして…その頃から、イエズス会をめぐる情勢の風向きが、次第にあやしくなっていくのでございます……。それは、まだ、あなた様が、この世にお生まれになられて、ほんの数年しか経たぬ頃でございました」そう言って言葉を区切ると、ベルムデスは目を伏せて、小刻みに瞼を震わせた。アンドレスは無意識のうちに視線を落とし、再び、ぎゅっとカップを握り締める。指先が、いつしか、氷のように冷たくなっていた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.19
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「それで、父上たちは、植民地となったこの地にも遥々と渡ってきたのですね?」「その通りでございます。そして、もともと教育に熱心なあの教団は、この植民地の中でも、宗教活動のみならず、様々な活動を展開しておりました。例えば、貧しいインカ族の人々に熱心に産業を指導し、使命感をもって人々を教育し――言ってみれば、優れた教師のような側面をもっていたのです。しかも、それだけでなく、イエズス会の神父たちは、キリスト教徒になったこの地の民の権利をも、主張するようになっていきました」「この地の民の権利を…?!」「はい。それは、我が国のみならず、他の植民地諸国でも同様でしたが…。我が国で言えば、インカの民の復権を主張したのです。もちろん、『キリスト教徒になった』場合、という条件つきでしたが……。スペイン侵略後、アンドレス様もご存知の通り、インカの民は『物』同然の扱い。想像を絶する様々な搾取に蹂躙――人としての権利も何も、ありませんでした。いえ…それは、今も同じで、それ故、トゥパク・アマル様やあなた様が、こうして立ち上がられたわけですが。しかし、イエズス会が存続していた頃、あの会の神父たちも、また、今のあなた様がたと似たように、インカ族を守ろうとしていました。その中に、あなた様のお父上もいらしたのですよ、アンドレス様」ベルムデスの温厚で優しい眼差しに、アンドレスは、思わず胸の高鳴りを覚える。「父上のこと、そんな経緯があったなんて…俺は、何も知らなくて…!」「アンドレス様は、まだ、あまりに、お小さかったですから、知らなくて無理もございません。それに、こうして時期が来るまでは、皆、あなた様に、真実をお伝えすることも憚(はば)かられたでありましょう……」「え…?」ベルムデスの含みのある言葉に、アンドレスは、ハッと息を詰める。一方、ベルムデスは、にわかに苦渋の色に変わった面差しを隠すように、不安定に揺れる燭台の炎へと視線をずらした。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.18
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深く息を継ぐと、ベルムデスは、今度は深遠な声音になって続ける。「ですが…スペイン侵略後、この国では、いえ、スペイン本国でもそうでしたが、幾つかのカトリック教団が勢力を争って参りました。そして、アンドレス様のお父上ニコラス様が属されていたイエズス会は、アンドレス様がお生まれになる頃には、数あるカトリック教団の中でも最も活発な教団でした」「あの…待ってください…!その――イエズス会っていうのは…?」やや躊躇(ためら)いながらも、相手の言葉を遮ったアンドレスの真剣な瞳に、ベルムデスは丁寧に礼を払って頷いた。「はい。アンドレス様が物心つかれた頃には、もうこの国にはありませんでしたからな。ご存知ないのも、無理からぬことでありましょう。イエズス会とは、スペイン出身の宗教家イグナティウス・デ・ロヨラが、フランシスコ・ザビエルたちと共に1534年に結成した、カトリックの男子修道会でございます。イエズス会員は、『教皇の精鋭部隊』とも謳われたほどに、いろいろな意味で、改革的…そして、闘争的な側面をも有しておりました」「教皇の精鋭部隊…――?!」「はい。創始者のイグナティウスが、もともとは騎士だった、ということもありましょうが、彼らは聖職者の階級制度を取り払い、いわゆる…堕落した部分もございましたカトリック教会の内部改革を推し進め、その他にも、いろいろと…。そして、海外布教にも大変熱心な教団でした」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.17
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ベルムデスは、再び深く頷くと、静かな口調で語りはじめる。「お父上は、スペイン本国からイエズス会の神父として、この国に渡ってこられ、熱心に布教活動をされていました。そんなある時、お美しく、慈(いつく)しみ深い、インカ皇族のフェリパ様、つまりはアンドレス様のお母上と出会われたのでございます。お父上は、いずれはスペイン本国へご帰国されるはずだった身分の高い神父様であられましたから、いくらインカ皇帝のご血族とはいえ、インカ族とのご結婚ともなれば、恐らく、お父上の周りのスペイン人からは激しく反対されたことでしょう。それでも、この地に生涯を捧げるお気持ちで、お父上はお母上と一緒になられたのでございます。そして、アンドレス様、あなた様がお生まれになられた。あの頃も、あなた様の叔父上であられるディエゴ様や、あなた様のお母上と、近しくさせて頂いていたわたしは、お父上とも面識を持たせて頂いておりました。お父上もお母上も、幼いあなた様をたいそう愛(いと)おしみ、それはそれはお幸せそうに暮らしておられました……」ベルムデスは、懐かしそうに細めた目元に光るものを隠すように、そっと目頭を押さえた。アンドレスも、堪えきれずに、目元を押さえる。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.16
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他方、まさか、このような場面で、己の出生に絡む話に展開するなどとは夢想だにしていなかったアンドレスは、チチャ酒のカップを両手で握り締めたまま、息を詰めて瞳を揺らしている。そんなアンドレスに、ベルムデスは考え深げな視線を戻すと、そっと目を細めた。「お父上のニコラス様は、スペイン本国渡来の生粋のスペイン人で、僧侶としても、ご身分の高いお方でございました。ですが、スペインの圧政に苦しむインカの民の置かれた状況に、とても同情的であられたのです。もし、今も生きておられたら、必ずや、トゥパク・アマル様やアンドレス様の素晴らしいお味方になられていらしたに違いありません。そう…アンドレス様に似ておられましたよ。お姿も、ご性格も……。いや、アンドレス様が、ニコラス様に似ておられるのですね。お父上も、お優しく、純粋で、誰にでも分け隔てなく、そして、とても意志の強いお方でした」今、恍惚たる表情で、喰い入るように己を見つめるアンドレスに、ベルムデスは、その目元に皺を寄せ、実の祖父のごとくに包み込むような眼差しで微笑んだ。アンドレスは、カップを握る指先に、ぎゅっと力を込める。「ベルムデス殿、教えてください、父上のこと…!!どのようなことでも、俺は知りたいのです。父上は、俺が6歳になる頃には…、もうこの世にはいなかった……」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.15
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アンドレスの見開かれた目を僅かにそらしたベルムデスは、不意に、苦しげに眉間に深い皺を寄せた。それから、慈愛と悲愴の混じった面持ちで、アンドレスに向き直る。「アンドレス様。お父上のことについて、あなた様がご存知のことを、まず、教えてくださいませ」「あ…はい……」にわかに態度の硬くなったベルムデスの様子に、アンドレスは、何か、ただならぬことを聴かされることを予感して、やや身を退(ひ)き気味になっている。だが、アンドレスも、ここで逃げるわけにはいかぬ、と、己を奮い立たせるようにして話し出す。「父上のことで俺が知っているのは、まず、スペインから渡ってきた神父であったこと、そして、事故で亡くなったこと…。それから、トゥパク・アマル様から、以前、少しだけ聞いたことがあるのですが、父上はスペイン人だったけれど、インカのために尽力したと。だから、誇りに思って良いと…――そう言って、トゥパク・アマル様は力づけてくださったのですが」「そうでしたか」ベルムデスは思慮深い老練な眼差しで、深く頷く。「それで…トゥパク・アマル様から、もっと何か具体的にお聞きでしょうか?」「いえ。それ以上は、何も」「そうですか…。では、お話しせねばなりません。アンドレス様のお父上のことと、本陣戦の晩にしたためられたトゥパク・アマル様の書状のことは、無関係ではありませんからな」そう言って、ベルムデスは、やや伏し目がちになった面差しを、天幕の隙間から吹き込む雪の方に向けた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.14
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一方、ベルムデスは、一口、チチャ酒で喉を潤すようにしてから、改めて話しはじめた。「まず、トゥパク・アマル様が書状をお送りした先の、そのアリスメンディ殿ですが、このお方は、ある深いご事情で、現在はこの南米の地を離れておられます。ですが、かつては、そう…今から十数年前まで、ペルー副王領におられたお方なのでございます。まだ若かりし頃のトゥパク・アマル様との面識もございました」「トゥパク・アマル様と…!?」「はい。そして、アンドレス様…、そのアリスメンディ殿は、あなた様の亡きお父上、ニコラス様と知己の仲、つまり、ご親友であられたのです」「!…――え…父上の?!」思いもかけず、突然、父の名が出て、アンドレスは、はじかれたように背筋を伸ばした。そして、ゴクリと固唾を呑む。「父上……の?!」アンドレスの表情に、強い恍惚が滲みはじめた。ベルムデスは深く礼を払いながら、しっかりと頷いた。「はい。アンドレス様は、お父上のニコラス様が、生前は、この国には今は無きイエズス会に属していらしたことをご存知でしょうか?」「え…あ…いえ…神父であったとしか」と、アンドレスは口ごもる。「俺は父上のことは、詳しいことを何も聞かされていないのです。父上の話を聞こうとすると、母上があまりにも悲しそうな顔をするので…――」「そうですか…。では、これからのお話は、アンドレス様にとっては、とてもお辛いものになるかと……」「え…?!」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.13
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「アンドレス様、一つずつ、お話を進めて参りましょう。まず、トゥパク・アマル様が、そのお手紙をお送りしたお相手は、アリスメンディ殿…――」「え?」アンドレスは、全く聞いたこともないその名に、呆然とベルムデスの顔を見据えた。「ア…アリスメンディ…って?それは誰です?!何者なのですか?!」「アンドレス様、どうか落ち着いてお聞きくださいませ。アリスメンディ殿は、スペイン人の神父様でございます」「神父ですって?!」アンドレスはいっそう混乱し、全く咀嚼できず、そのせいか、むしろ憮然とした声になっている。「しかも、スペイン人の?!な、何故です?!何故、トゥパク・アマル様が、わざわざ戦時に、スペイン人の神父なんかに手紙を書いたりしたんです?!」「突然のことに驚かれるのも無理はございません。ですが、アンドレス様、実は、アリスメンディ殿は、あなた様とも関わりの深いお方なのですよ」決然とした、しかも、思いもかけぬベルムデスの言葉に、アンドレスはハッと息を呑み、再び居住まいを正した。そして、真剣な表情のまま、じっと聴き耳を立てる。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.12
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アンドレスは、ぐっと、いっそう身を乗り出した。ベルムデスは、そんなアンドレスに、瞳で、どうか落ち着いて、と促しながら、さらに声を鎮(しず)めて続ける。「その通りでございます。あの時、アンドレス様は、既に、このラ・プラタ副王領に遠征に出られておられました。あのトゥンガスカでの本陣戦の晩、トゥパク・アマル様から、ディエゴ様とわたしが呼び出され、内密で、あることを打ち明けられたのでございます」アンドレスは、既に興奮からか、その頬を紅潮させはじめている。「内密で?あること……とは?!」「はい。とても重要な内容のお手紙を、トゥパク・アマル様がしたためられたのでございます。そして、それを、あるお方に送られる手はずを取られたのでございます」「え?手紙…ですか?トゥパク・アマル様が、手紙?あの重要な本陣戦の最中(さなか)に…?!」アンドレスは、訳が分からぬ、という表情になってきた。「そんな大事な時に、手紙なんて…。一体、誰に、です?その内容は、何だったのですか?!」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。≪ディエゴ≫インカ皇族で、名実共にトゥパク・アマルの右腕的存在。トゥパク・アマルの亡き父親ミゲルの弟の長男(トゥパク・アマルの従弟)。インカ軍本隊で、トゥパク・アマルの副官的役割を果たしてきた。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.11
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すっかり混乱した表情のアンドレスに、ベルムデスは言葉を探しながら、軽く咳払いをした。「アンドレス様、ご説明いたしましょう。ただ、一口で説明しきれる内容ではないのです。それに…少々、驚かれるかもしれません。どうか、お気持ちを落ち着けて、お聞きくださいませ」恭しくも慎重な口調で、何か、ゆるぎなきものを宿しながら話しはじめるベルムデスの様子に、アンドレスは、とても重要なことが伝えられることを直観して、居住まいを正した。ベルムデスは、気持ちを落ち着けようとでもするかのように、一口、チチャ酒をすすって、それから、ゆっくりとカップをテーブルに置いた。そして、改めて、真正面からアンドレスに向き直る。「実は、トゥパク・アマル様の…内々の策のことなのでございます」「え?!」と、アンドレスは目を見開いた。「トゥパク・アマル様の内々の策ですって?!」「はい。…――とは言っても、わたしがその秘策について知らされたのは、あのトゥンガスカの本陣戦の時で、それこそ、トゥパク・アマル様が囚われる前夜のことなのですが」「では、俺は、既に、このラ・プラタ副王領に遠征に出ていた頃ですね?どうか、どうか詳しく教えてください!!」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.10
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ますます真剣な眼差しで問うてくるアンドレスの方に、ベルムデスの老練な瞳が、静かに動いていく。そして、おもむろに頷いた。「はい、アンドレス様。実は、当地に来てから、ずっと機会をみつけて、アンドレス様にお伝えしておかねば、と思っていたことがあるのです。恐らく、そのことかと……」「え…!!では、この意味が分かるのですか?!」パッと大きく顔を輝かせるアンドレスに、ベルムデスは、深く礼を払って頷いた。「はい。多分、あのことかと…――」アンドレスは前のめりになって、早口で畳み掛けるように問い続ける。「スペイン軍のことですか?!」「いえ…恐らく、スペイン軍ではなく……。いや、厳密には、スペイン軍も含まれているかとは思いますが」「!?――」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.09
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ベルムデスは、歓喜に打ち震える声を絞り出した。「この書状は、間違いなくトゥパク・アマル様ご自身がしたためられたもの…――!!アンドレス様…!やはり、トゥパク・アマル様は、獄中から脱出をはかられていたのですね…!!」「はい!ロレンソたちから噂があるとは聞いていましたが、本当に…本当だったなんて…!!」「アンドレス様…おお……このようなことが……」二人は、目頭を押さえて、込み上げる涙を指先で拭(ぬぐ)った。暫し、放心状態のまま時が流れた後、二人は、改めて書状を広げ、内容を確認していく。恍惚と沈着の入り混じったベルムデスの横顔を窺いながら、アンドレスは、気になっていた箇所を、淡い褐色の指先でスッとなぞった。「ここなのですが…。『まだ見ぬ新たな大いなる波の到来に備えるのだ』と、トゥパク・アマル様が仰っている、この部分。どうにも、俺には意味を掴みかねるんです。スペイン軍との次の戦いのことかとも思うけど、何故、『まだ見ぬ新たな』なのか……?ベルムデス殿には、解読できますか?」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.08
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「どうぞ」と促され、アンドレスは礼を払って、チチャ酒を口元に運ぶ。それを見つめながら、ベルムデスも、片手でカップを口に運んだ。やがて、ベルムデスが、穏やかな声で口を開く。「アンドレス様、わたしに何か御用でございますね?」アンドレスは顔を上げ、真摯な眼差しで老賢者を真っ直ぐに見た。「はい。実は…―――」意を決したように、彼は懐から書状を取り出すと、丁寧な仕草でベルムデスの前に差し出す。「これは、先ほど、ビルカパサ殿の陣営から参じた使者が携えてきた書状です。内密な内容ではあるのですが、ベルムデス殿には、隠し立ては無用かと思って……」ベルムデスは、ハッとして、アンドレスを見た。「ビルカパサ様の陣営から?わたしが読んでも、よろしいのですか?」「はい。さあ、中を見てください」非常に真剣なアンドレスの視線に促され、ベルムデスは、書状を手にとって開いた。そして、ぐっと息を呑む。「!!…――こ…これは……」皇帝陛下…―――!!―――先刻のアンドレスと同様に、激しい驚愕と恍惚で硬直したようになっているベルムデスの様子に、傍で見守るアンドレスの胸中も、再び、熱く込み上げる。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。≪ビルカパサ≫インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常に彼と共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。現在は、マチュピチュにて反乱の建て直しを図るトゥパク・アマルの元で、引き続き護衛を行なっている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.07
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奥まったマリアノの天幕から、アンドレス自身の居所の傍にあるベルムデスの天幕までは、暫くの距離がある。ふと、アンドレスの火照った頬に、冷たいものが触れた。見上げれば、冬の高い空から、はらはらと粉雪が舞い降りはじめている。(雪が……――)今は可憐な花びらのように舞い散る雪も、このアンデスでは、ほどなく全てを、その容赦無い白い翼で覆い尽くしてしまう。次第に勢いを増す雪の中で、彼は、いっそう足を速めた。やがてベルムデスの天幕へと到着したアンドレスは、声をかけるのも忘れて、蝋燭の灯りが零れる入り口へと走り込む。激しく白い息を吐きながら、ただならぬ様子で飛び込んできた彼を、しかし、ベルムデスは常の温厚な笑顔で、にこやかに天幕内部へと招き入れる。ベルムデスは燭台の輝く広いテーブルにアンドレスを誘(いざな)い、「どうぞお座りください」と、恭しく着座を促した。そして、二つカップを取り出すと、チチャ酒の壺を棚から下ろしてきた。「アンドレス様、いかがされましたか?さあ、まずは…せっかくですから、いかがですか?たまには、ご一緒に…」柔和な笑みをつくって問うベルムデスに、アンドレスは、懐の書状を服の上から押さえながら頷いた。ベルムデスがチチャ酒を注ぐコポコポという音が、静かな天幕に響いていく。蝋燭の溶け出す音まで聞こえてきそうな、とても静寂な雪の夜だった。天幕の一隅では、小さな火鉢が暖かな朱色の光を放ち、微かな火の粉を上げながら燃えている。その炎の放つ閃光を目元に反射させながら、いつにも増して真剣な表情をしているアンドレスに、ベルムデスはカップをそっと差し出した。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、副官的存在としてアンドレスを支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.06
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アンドレスは感極まって、再び、強くマリアノを抱き締める。そんな彼の腕の中で、マリアノは、とうとう大声を張り上げて泣き出した。大粒の涙を流しながら堰を切ったように泣いているマリアノの声は、天幕の外に完全に筒抜け、それは、アンデスの山々にまで、こだまするのではないかと思えるほどの激しいものだった。マリアノを抱き寄せるアンドレスの目元からも、涙が伝う。(この幼い身で、今まで、どれほど悲しかったか、不安だったか…怖かったか……!どれほど堪えに堪えてこられたのか…―――)ついにマリアノが泣き疲れて眠ってしまうまで、彼はマリアノを抱き締めたまま、ずっとそこにいた。やがて、アンドレスの腕の中で、マリアノがすっかり眠ってしまうと、彼は皇子を寝台にそっと寝かせて、天幕を静かに抜けた。その頃には、外は、すっかり夜の帳がおりていた。清(す)んだ月明かりに照らし出される静かな陣営を、アンドレスは書状を懐に抱き、そのまま急ぎ足で、今度はベルムデスの天幕へと向かう。たった今しがたのマリアノとの一件で、その余韻に、まだ胸は熱く高まっていたが、書状の内容についても、早急に把握せねばならなかった。彼は夜の冷気を胸いっぱいに吸い込むと、祈るような心境で足を速める。(『まだ見ぬ新たな大いなる波の到来に備えるのだ』――あのトゥパク・アマル様の言葉が何を意味しているのか…どうかベルムデス殿が何か知っていますように…!!)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪マリアノ≫トゥパク・アマルとミカエラ・バスティーダスとの間に生まれた第二皇子(10歳)。二人には他に、長男イポーリト(12歳)、末子フェルナンド(8歳)がいる。3人共、両親に似て、凛々しくも天使のような愛らしい皇子たち。≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、彼を支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.05
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アンドレスはマリアノの両腕を優しく掴むと、身を低めて跪(ひざまず)いた姿勢のまま、ゆっくりと皇子の体を己の胸から離していく。そして、大きく揺れているマリアノの瞳を、同様に揺れる瞳で、真っ直ぐに見上げた。「マリアノ様、今しがた、トゥパク・アマル様からの使者が参られて、俺も、はじめて、ご無事を知りました!!間違いなく、皇帝陛下たちは、牢を出て自由になられ、お元気に生きておられます!!」アンドレスは素早く懐から書状を取り出し、マリアノの目の前に高々と掲げ上げた。「マリアノ様、ほら、ご覧ください!!トゥパク・アマル様からのお手紙が、ここに!!マリアノ様のことも書いておられます!!トゥパク・アマル様たちは、今は、マチュピチュに陣を張り……」しかし、アンドレスは、言いかけて言葉を呑んだ。目の前で、まだ呆然と立ち尽くしているマリアノの、彼の父に似た美しい目元から、一筋の涙が、つっ、と褐色の頬を伝って流れた。何か言おうとしているのだろう、マリアノの唇は動いているのだが、声にならない。(!…――マリアノ様……)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪マリアノ≫トゥパク・アマルとミカエラ・バスティーダスとの間に生まれた第二皇子(10歳)。二人には他に、長男イポーリト(12歳)、末子フェルナンド(8歳)がいる。3人共、両親に似て、凛々しくも天使のような愛らしい皇子たち。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.04
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少し年の離れた兄も同然のアンドレスは、今ではすっかり任務で忙しそうで、皇子のマリアノでさえ、平素は、なかなか捕まえられない――そんなアンドレスの突然の来訪に、マリアノは素直な喜びを隠さず、アンドレスの腕を掴んで天幕の奥に引っ張っていく。一方、アンドレスは、そのようなマリアノの様子や、その幼い身に背負ってきた何もかもが、切ないのと愛しいのと、そして、携えてきた朗報を伝えられることの喜びとが込み上げ、思わず皇子の体を胸に強く抱き締めた。「マリアノ様!!どうか、お喜びください!!今、使者が、朗報を!!」「!…――アンドレス…??」突然抱き締められた腕の中で、漆黒の瞳を大きく見開くマリアノの耳元に、歓喜に震えるアンドレスの声が響く。「マリアノ様!!お父上のトゥパク・アマル様も、お母上も、ご兄弟も、皆、ご無事で牢を脱出されたとのことです!!」「!!――え……?!!」あまりのことに、すぐにはアンドレスの言葉の意味を呑み込めず、マリアノは呆然と驚愕の声を上げた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪マリアノ≫トゥパク・アマルとミカエラ・バスティーダスとの間に生まれた第二皇子(10歳)。二人には他に、長男イポーリト(12歳)、末子フェルナンド(8歳)がいる。3人共、両親に似て、凛々しくも天使のような愛らしい皇子たち。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.03
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まだ興奮の冷めやらぬままに瞳を大きく輝かせて走り込んできたアンドレスに、マリアノの天幕周辺の衛兵たちまで、つられるように表情を明るくして、「アンドレス様、何か良いことがあったのですか?」と、問いたげな視線を向けてくる。アンドレスは、全軍の兵たちはもとより、国中の全ての民たちにも、トゥパク・アマル様がご無事で牢を出られたと大声で伝え、喜びを分かち合いたい!!――その衝動に駆られずにはいられなかったが、時機が来るまでは伏せておくようにとのトゥパク・アマルの言葉を思い出して、ぐっと堪(こら)えた。(皆も、遠からず、この朗報を知る時がくるはずだから、それまで待っていておくれ…!!)内心でそう囁きながら、アンドレスは衛兵たちに笑顔で礼を返して、その場を遣り過ごす。そして、皇子の天幕の入り口に立った。「マリアノ様、俺です!大事なお話が…!!中に入ってもいいですか?」「アンドレス?!」中からは、すぐに、マリアノの澄んだ声が返ってきた。と、同時に、天幕の入り口の垂れ布が、内部から勢い良く開かれた。トゥパク・アマル似の切れ長の目を、まだ、あどけなさの残る表情に宿した、褐色の天使のような少年の顔が覗く。「アンドレス!!どうしたの?!中へ入って!!」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪マリアノ≫トゥパク・アマルとミカエラ・バスティーダスとの間に生まれた第二皇子(10歳)。二人には他に、長男イポーリト(12歳)、末子フェルナンド(8歳)がいる。3人共、両親に似て、凛々しくも天使のような愛らしい皇子たち。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.02
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トゥパク・アマルの第二皇子である10歳のマリアノは、かつてトゥパク・アマルが本陣戦の最中に敵将アレッチェの罠に落ちて囚われた後、命懸けの逃亡の果て、このアンドレス陣営に辿り着いたという過酷な経験を持つ。それ以来、皇子マリアノは、アンドレスたちの手によって、手厚く厳重に庇護されてきた。しかしながら、今はトゥパク・アマルたちも無事に牢を脱しているとはいえ、当時は、父トゥパクに続いて、母ミカエラや兄弟たちまでもが次々と敵の手中に落ち、しかも、アンドレスをはじめとする生き延びたインカ兵たちも、トゥパクらの救出に為す術も無く、それら全ての無残な状況を渦中で目の当たりにしてきたマリアノの心に刻まれた傷は、どれほど深く大きかったことであろうか。だが、外見も内面も、トゥパク・アマルに良く似た利発なマリアノは、そのような状況であればなおのこと、己の生き延びることの重要性を良く認識していたのであろう――決して、自暴自棄になることなく、実の兄のように慕うアンドレスの前でだけは、時に子どもらしい素直な涙を見せることはあれども、概して、他の兵たちには少年らしい明るさを保って気丈に振舞っていた。先日の水攻め作戦の時も、水の堰き止めに手こずるアンドレスや兵たちの士気を上げるために、少年とはいえ、トゥパク・アマルの皇子たるマリアノの存在が、如何に強力な威光を放ったか――そのことは、まだ記憶に新しい。そんなマリアノが住まう天幕は、陣営の最奥にあり、敏腕のインカ兵たちに幾重にも堅く守られていた。インカ軍の陣営内とはいえ、どこに敵の斥候が潜むかも分からぬ状況下で、マリアノの居場所を絶対に悟られずに完全に守り抜くために、アンドレスも、他のインカ兵たちも、どれほど心血を注いできたかは言うまでもない。そして、今、煌く松明(たいまつ)に浮かび上がるマリアノの天幕に、トゥパク・アマルの書状を携えたアンドレスが、すっかり浮き足立った様子で駆けてくる。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪マリアノ≫トゥパク・アマルとミカエラ・バスティーダスとの間に生まれた第二皇子(10歳)。二人には他に、長男イポーリト(12歳)、末子フェルナンド(8歳)がいる。3人共、両親に似て、凛々しくも天使のような愛らしい皇子たち。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.12.01
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『まだ見ぬ新たな大いなる波の到来に備えるのだ』――己の中で再び響き渡るトゥパク・アマルの声に突き動かされるように、アンドレスは立ち上がった。(もしかしたら、トゥパク・アマル様が絶対の信頼を置くベルムデス殿なら、何か知っているかもしれない…!)にわかに激しい鼓動の高まりを覚えながら、アンドレスは素早く書状を懐にしまう。(あのベルムデス殿は、トゥパク・アマル様が囚われたトゥンガスカの決戦の時も、ずっと陛下のお傍におられたのだ。きっと、何か知っているはず!!すぐにベルムデス殿のところへ……!)アンドレスは勢いよく己の天幕を飛び出すと、黄昏時の陣営を、ベルムデスの居所へと駆け出しかけた。が、ハッと我に返ったように、大きく瞳を見開く。「いや…待て!それよりも、まずは、マリアノ様にご報告すべきじゃ…!!」アンドレスは足を止めると、身を翻して踵を返した。そして、吹きつける冷風の中、真っ直ぐマリアノの匿(かくま)われている天幕へと走る。(そうだった…!!何をおいても、マリアノ様に、トゥパク・アマル様たちのご無事を知らせるのが先だ!!―――マリアノ様!!)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪マリアノ≫トゥパク・アマルとミカエラ・バスティーダスとの間に生まれた第二皇子(10歳)。二人には他に、長男イポーリト(12歳)、末子フェルナンド(8歳)がいる。3人共、両親に似て、凛々しくも天使のような愛らしい皇子たち。≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、彼を支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.30
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夕刻時の隙間風に揺れる蝋燭の炎に透かしながら、アンドレスは、改めて書状を見つめなおす。まるで、紙面に隠された透かし文字でも探すかのように…――。揺らめく炎に紙をさらに近づけて覗き込む彼の鼻先に、不意に、つんと何かが焦げる臭いがした。え?――と、視線をずらすと、炎に近づけすぎた書状の先端が、チリチリと燃えている。「うわぁ…っ!!」炎に触れていた紙面を咄嗟に翻すと、彼は大慌てで火を吹き消した。そして、はぁぁ…と、大きく溜息をつく。「まさか、あのトゥパク・アマル様が、紙に細工なんかしてるわけないか……」アンドレスは、眉間に深く皺を寄せる。何度読んでも、その意味を、いまひとつ把握しかねた。だが、どうにも引っかかる。あえて言葉をぼかしているのは、万一、この書状が他者の目に触れても、真意を悟られぬための安全策なのではないか?だとすれば…――ここに込められている含意は、相当な極秘事項に違いない。すっかり真顔になって、アンドレスは、トゥパク・アマルの美しい文字を凝視し続けた。この書状は、重要な指令書でもあるのだ。その意味を、微塵も取り零すわけにはいかなかった。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.29
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無意識のまま、アンドレスは天幕の地に跪き、震える両手で、恭(うやうや)しく書状を掲げ上げていた。トゥパク・アマル様……トゥパク・アマル様!!あの噂通り、やはり、牢を無事に脱出されていたのですね!!なんと、ミカエラ様や皇子様たちもご一緒に……!!ああ…本当に…本当に、よかった――!!!それから、彼は、大地の神の元に深く身を屈めて平伏し、天幕の地に口づけた。(インカの神々よ!!感謝します―――!!)やがて、アンドレスは、腕で、ぐっと涙を拭うと、輝くような横顔を上げた。そして、まだ頭の芯に痺れの残る陶酔感を覚えながらも、ゆっくりと回転をはじめた頭脳で、書状中の一つのフレーズを反芻する。―――まだ見ぬ新たな大いなる波の到来に備えるのだ―――「『まだ見ぬ新たな大いなる波の到来に備える』……?まだ見ぬ新たな大いなる波って、スペイン軍との次の戦闘のことか?いや…だけど、まだ見ぬ…っていうのは、どういうことだ?スペイン軍だったら、もう、いやというほど見てきているぞ…!」いつしか涙も乾いて、アンドレスは真剣な面持ちで、蝋燭の明りの傍に寄った。(トゥパク・アマル様は、何を言いたいんだ?!…――敵軍のことではないとか…?もしかして、何か、もっと全然違う、別の何かを意味しているのか?)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.28
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今、アンドレスの手の中にある書状は、その文面こそ非常に簡潔ではあったが、忘れるはずもないトゥパク・アマルの流麗な文字で、丁寧に、心込めて綴られていた。『アンドレス、ソラータ奪還、おめでとう。そなたの働きは、ペルー副王領にも聞こえてきており、頼もしく感じている。マリアノも、そなたの元にいるとのこと、世話になった。此度のわたしの捕縛の件では、そなたには、ずいぶん心配をかけたことと思う。すまなかった。既に、わたしは牢を脱し、今、マチュピチュに陣を張っている。ミカエラや息子たちも無事だ。わたしの脱獄のことは、いずれ民に知らせる時が来ようが、それまでは、そなたも伏せておいてほしい。そなたは、この後、アパサ殿を援護し、ラ・プラタ副王領の重要な拠点ラ・パスを奪還せよ。しかとラ・プラタ副王領の足場を固め、まだ見ぬ新たな大いなる波の到来に備えるのだ。それでは、いずれ、ペルーにて再会できる時を楽しみにしている。誠意を込めて―――ホセ・ガブリエル・トゥパク・アマル』アンドレスは、歓喜の涙にむせびながら、すっかり霞んだ視界で、幾度も幾度も、繰り返しトゥパク・アマルの文字を追い続けた。頬を伝う無数の涙で、幾度、紙面を濡らしてしまいそうになったか分からない。(トゥパク・アマル様……!!)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。年齢は30代半ば。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.27
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「これは、ビルカパサ殿から?」書状を受け取るアンドレスの方に向ける使者の視線には、押さえようの無い興奮と恍惚が滲んでいる。その使者の表情に吸い込まれるように見入っていたアンドレスは、途端、激しい直観に突き上げられた。(!――まさか…――?!この書状は……!!)アンドレスは、使者の瞳の奥を貫くように見据えた。使者は、いっそう輝きを増した瞳で、力強く頷く。(はい!!アンドレス様!!)咄嗟、アンドレスは、跳び上がるようにして使者の前から立ち上がると、一人、己の天幕に飛び込んだ。脚から力が抜け、天幕の地に倒れるように跪く。(まさか…まさか…本当に?!!)興奮に打ち震える指先で、書状を開いていく。そして、既に焦点の危うい瞳を凝らし、必死に書面を見据える。その瞬間、アンドレスの全身を、強い電流が貫いて走った。(トゥパク・アマル様…――!!!)紛れもなく、その書状は、トゥパク・アマルからのものだった。アンドレスは、書状を開いたまま、身動きできない。あまりの強度の驚きと興奮と歓喜のために、本当に意識も飛びそうだった。こ…これは夢なのか?!だけど…だけど、この筆跡は……!!―――意識朦朧となって、到底、まともに文字など読める状態ではなかったが、それでも、アンドレスは、懸命に、その書面に綴られている懐かしいトゥパク・アマルの筆跡を追っていく。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ビルカパサ≫インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常に彼と共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。現在は、マチュピチュにて反乱の建て直しを図るトゥパク・アマルの元で、引き続き護衛を行なっている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.26
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だが、そのような意気消沈気味のアンドレスの元に、思いがけない朗報が飛び込んだのは、それから間もなくのことであった。まるで、それは、天からの祝福かご褒美のように、天馬を駆るがごとく精悍で溌剌(はつらつ)たる使者によって、明るい笑顔と共に運ばれてきた。「ビルカパサ様の陣営から参りました!!」というその使者は、危険な長旅で疲労も激しかろうに、そのような気配は微塵も見せず、アンドレスの前に礼儀正しく跪いたまま、輝くような凛々しい眼差しを真っ直ぐに上げている。アンドレス自身も、つられるように胸の熱くなる思いで、その使者の前に身を屈め、深く礼を払った。「ビルカパサ殿の陣営から…?よくぞ、ここまで来てくれた!!ビルカパサ殿はご無事か?!」とても嬉しそうなアンドレスに、使者は瑞々しい凛とした笑顔で、「はい!!」と、応える。アンドレスは興奮と深い安堵で頬を紅潮させながら、「そうか!!」と、瞳を輝かせた。歓喜に揺れる、その大きなアンドレスの瞳を見つめながら、使者は懐から一通の書状を非常に大事そうに取り出すと、アンドレスの前に掲げ上げるように差し出した。「アンドレス様、こちらを!!どうか、お人払いの上、お読みくださいませ」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ビルカパサ≫インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常に彼と共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。現在は、マチュピチュにて反乱の建て直しを図るトゥパク・アマルの元で、引き続き護衛を行なっている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.25
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かくして、此度の作戦を振り返ってみれば、アンドレスを中心にインカ側が練った苦肉の策は、その様相を既に見てきた通り、水攻めを二段階に分ける、というものであった。それは、住民たちが人質として街中に囚われていたためであり、彼らを無事に逃がすことが、作戦の重要な眼目の一部であったためである。従って、最初の水による攻撃では、敢えて一部の堤防のみを決壊させ、完全には街を水没させることをしなかった。そして、敵兵の退却する隙をついて住民たちを避難させ、その後、住民たちの避難を安全に完了するため、及び、敵兵たちを街中に再びおびき寄せるために、一旦、堤防の決壊部を塞ぎ、水を堰き止めなおした。その後、住民の避難が完了し、敵兵たちが街中に布陣しなおしたところで、間髪入れずに本格的な二段階目の水攻めを決行し、敵を潰す――という作戦であった。このアンドレスたちの水攻め作戦は、結果的には、インカ側の勝利という形で、一応の決を見ることができた。しかしながら、インカ軍にも、被害が出なかったわけではない。特に、一段階目の堤防の決壊部を塞ぐ作業に、アンドレスら堤防に残った軍勢が手こずったがために、住民を守りつつ敵をおびきよせるために街中で銃撃戦となった際のインカ兵の犠牲は、少なからぬものであった。それらの戦死した兵たちを手厚く弔い、また、街の復興作業に勤しむアンドレスの横顔には、作戦決行後数日を経ても、なお、どこか苦渋の陰を拭えない。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.24
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<アンドレスが奪還したソラータってどこ?>此度の反乱は、大きく「ペルー副王領(トゥパク・アマルが総指揮)」と「ラ・プラタ副王領(アンドレスとアパサが総指揮)」にまたがる(正確には、さらに広範囲)。地図の薄緑色の部分が、「ラ・プラタ副王領」の主要部(現在のボリビア界隈)。アンドレスが奪還した「ソラータ」は、地図上には記されていないが、ラ・パス(La Paz)の少し上、ティティカカ湖東岸の国境付近に位置し、両王領を結ぶ要衝の地。ラ・プラタ副王領では、この「ソラータ(アンドレス軍が水攻めで奪還)」と「ラ・パス(アパサ軍が奮戦中)」を中心に、インカ軍がスペイン軍と激闘を展開。---------< 物語続き >--------- この後、アンドレスたち当地のインカ軍には、決壊させた堤防を再び修復して水を止めるという、大事業が待っていた。そして、川を元の状態に戻し、ソラータの住民たちが、また街で平和に暮らせるようにしなければならない。それは、住民たちのためのみならず、この反乱の成功のためにも必須のことであった。ここまでソラータ奪還に過大なエネルギーを注いできたのも、この街が、ペルー副王領とラ・プラタ副王領をつなぐ要衝の地にあるが故であり、従って、今後の反乱の展開のために、もう一度、この街が元の機能を取り戻さねば意味は無い。従って、此度の大惨事に巻き込まれたソラータの街そのものの復興事業も、アンドレス軍に残された重要な仕事であった。洪水後の街がどれほど悲惨な状態になるか――…それは、まさに想像を絶するものであった。その復興ともなれば、要する労力は、ただならぬものである。だが、あのギリギリの作戦渦中に比べれば、その負担は、いかに物理的な困難さを伴おうとも、心理的には、だいぶ軽いには違いなかった。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。年齢は30代半ば。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.23
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「アンドレス様…」俯くアンドレスの傍に、寄り添うように声をかけたのはベルムデスだった。アンドレスは苦しげに目を上げて、常に静かで穏やかな佇まいを纏う老練の重臣を見つめた。「ベルムデス殿…」「アンドレス様、あなた様の策は、ご成功されたのです。おめでとうございます」「ベルムデス殿……」揺れる瞳で己を見つめる彼に、ベルムデスは、そっと微笑んだ。「どうか、そのようなお顔をなされますな。ソラータの地を奪還するという、インカの民の切望をついに叶えたのです。あなた様やインカのために、此度の作戦で懸命に力を振り絞った兵たちは、今は、あなた様の笑顔をこそ、見たいと願っているはず。それに、まだ、全てが終わったわけではありませぬ。さあ、アンドレス様、陣営に戻りましょう。そして、次のご指示を―――」静かなベルムデスの声に、やがてアンドレスは黙って頷いた。そして、今一度、完全に水没した眼下の街を見下ろし、吹っ切るように踵を返した。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ≪ベルムデス≫トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣(60歳代)。武勇にも優れる高徳の賢者。既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。現在は、アンドレスの陣営で、彼を支えている。◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.22
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そのような敵兵たちと街の様子を、裏山の崖上から、まんじりともせず見届けたアンドレスは、僅かに瞼を伏せて、街の方向に弔いの礼を払った。生き延びて、がむしゃらに陸地を探すスペイン兵たちの浸かる水底には、その何倍もの、否、何十倍もの、敵兵たちの亡骸が浮遊していることだろう……。今のアンドレスには、命からがら生き延びた彼らまで追い討ちをかけにいく気持ちには、到底、なれなかった。戦闘の後、たとえ勝利の戦に終わっても、どこか寥々たる隙間風が吹き抜ける――それは、彼にとって、今も、以前も、あまり変わってはいなかった……。特に、此度の水攻め作戦は、己が言い出したこととは言え、今、こうして終わってみれば、眼下に展開する情景は、あまりに悲惨極まりない。その責め苦は敵方が受けているものとはいえ、胸のむかつきとやるせなさを、じくじくと感ぜずにはいられなかった。否、敵方だけではない――己の不手際故に至った銃撃戦では、味方の兵にさえ、少なからぬ犠牲を生じてもいたのだ。(これほどの惨状にならぬために、俺は、何度だって、和議を進めようとしたじゃないか…!いや、実際に、和議の場だって設けた…!!スペイン兵たちさえその気があったなら、俺は、彼らを安全に当地から退却させる準備があったのだ…なのに……!敵はあまりに強硬だった…だから、結局は、ここまでせざるを得なかったんだ――……!)そのように思い巡らせて懸命に己を納得させようとしてみても、己の中に渦巻く空々しい思いを拭い去ることはできなかった。アンドレスは、微かに震える指を握り締め、俯(うつむ)いて目を伏せた。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪アンドレス≫トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。 ◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆ ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちらランキングに参加しています。お気に入り頂けたら、クリックして投票して頂けると励みになります。(月1回有効) (随時)
2007.11.21
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