「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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Cymruのお喋り
RS異聞記2 4
わが身よ刃となれ!武器変身」
うさぎ変身で飛び出していたディオの姿がふっと消え、
アウィンの手に剣が現れ、レイピアを受けた。
「なんだ?!」
「痛っぁ~~い。訓練のときこんなに痛くなかったのにぃ~」
「観覧を許していたのはまずかったようですね」
素早く後ろに飛びのいて
魔力をチャージしながらニッコリと微笑むミルティク。
「私たちは武器にもなれるのよ(はあと)」
「ディオ姫・・・でしたね」いろいろ言っても根は女好きのアウィン。
一度会った女性の名前は忘れない。
「感謝いたします!」剣の刃に口づけて恭しく礼。
すぐにミルティクに視線を戻すと剣を上段に構えた。
先程までの剣は片手剣。彼には軽すぎた。
今手にした剣は、重さも大きさもアウィンの望むとおりのものであった。
”ただの我儘姫かと思ったが・・・”
第一声は文句であったが、その後容赦なく続く攻撃を
ディオは無言で耐えていた。
「タイフーンインパルス」
剣を激しく振り回し、ミルティクに向かい剣圧の嵐を飛ばす。
それを左手をかざしてミルティクが避けた隙に
アウィンは両手で剣を高く掲げ、天に向かって叫んだ。
「すべてのものに沈黙を。出でよ、氷の力宿したる偉大なる竜神!」
中空に次々と現れる氷の塊。
それらはアウィンが大きく動かす剣に纏いつくように
集まり始める。
「ドラゴンツイスター」
ドラゴンの姿となった氷霊は、アウィンの周囲を舞い、
触れたもの総てを凍りつかせる。
あの2つの黒い塊も今は青く沈黙していた。
氷のドラゴンの冷気がその場に立ちこめ、ピリピリと空気を振るわせる。
と、ミルティクの首飾りが深紅の光を放ち始めた。
カムロが、トテトテと歩き出す。
「カムロ、何してんだ、危ないぞ!」
σ(=^‥^=)v お約束は守るじょ♪
ドラゴンはカムロの周りを避けるようにその身をくねらせ
消えた。
そちらに向かい
(=^‥^=)ノ おつだじょ~~♪
と手を振ってから、赤い光に包まれているミルティクの背中に飛びつく。
「わぁーーーっ」
絶叫とともに膝をついたミルティクの髪が銀色に戻ってゆく。
(=^‥^=)σ 返すじょ♪
銀色の髪。プラチナの瞳。
そこにはいつものミルティクがいた。
「偉大なるドラゴンの王となられるお方に
心よりの謝意を捧げます・・・」
(=^‥^=)v おかだじょ♪
”なぜ・・・だ・・・ぁ・・・”氷を溶かし元に戻った塊がぶよぶよと動き出す。
”闇・・・がぁ・・・闇を・・・よ・・・こ・・・せぇ・・・”
「それがあなた方の実態でしたか」ミルティクは柔らかな表情で微笑み、
メテオを打ち込む。
ジュッという鈍い音とともに髪の毛が燃えるような臭気が漂った。
「・・・ミル・・・だな?!」アウィンがミルティクを見つめる。
「御意」ミルティクはその場で片膝をつき深く礼をした。
”どう・・・して・・・戻・・・れたぁ”
”な・・・に・・・を・・・したぁ・・・”
アウィンは、武器変身を解き、床に崩れ落ちそうになったディオの体を
軽々とお姫様抱っこし、マートンたちのもとに運ぶと
踵を返しミルティクの横に並んだ。
鞄から予備の剣を取り出し、構えた瞬間、
背後から閃光が襲ってきた。
反射的に左右に飛び退くアウィンとミルティク。
が、その光が狙っていたのは黒い塊の方であった。
”ぐえっ”とも”ぎゃっ”ともつかぬ鈍い音をたて
その光に貫かれた2つの塊はそのまま宙に浮き
猫が首根っこをつかまれているような姿で移動していった。
振り向くアウィンとミルティク。
マートンたちも視線を向ける。
「なにやら強力な石のオーラを感じ覗いて見れば、
これは興味深い・・・」
そこにいたのは、こちらの世界ではデーモン族と呼ばれる者たちに
酷似した外見の男。
(=^‥^=)ノ お久だじょ♪
「これはこれは大飯食らい殿、お久しゅうございます」
敵か味方か判断できず、臨戦態勢のまま見守るアウィンたち。
「カムロ、お前の知り合いか?」
「ドラゴンの王となるお方の知り合い?とんでもございません」
両手に猫でもぶらさげるように2つの黒い塊を持ち
楽しそうに笑いながら男は言った。
「おのが立場もわきまえず、あのお方のご命令を放置し
欲望のままに闇を我がものにしようなどど・・・
しばらく地の底で反省して参れ!!!」
悲鳴をあげる間もなく2つの塊は消滅した。
「当方の身の程知らずどもが、とんだご無礼をいたしましたようで
心からお詫び申し上げます」悪びれた様子もなくそう言い放つと
目を細めて一同を見回す。
「さて、私はこれで失礼いたしますが・・・そちらの魔法使い殿」
男はにこやかにミルティクを見つめる。
「あなたは私たちのお仲間のようですな」
アウィンがすっとミルティクの前に出る。
「ミルは私の相棒だ!」
「おおっと、そんなに恐ろしい顔で睨まれては足がすくみますな」
カラカラと笑いながら男は両手を上げ、戦意のないことをアピールした。
「催眠状態の自分を私は客観的に見ておりました。
そう・・・私は闇に属するもの。
あなたのおっしゃるようにそちら側の存在なのでしょうね」
ミルティクは穏やかに微笑みながら静かに答えた。
「こちらにいらっしゃいませんか?あなたの能力はまだまだ未知数。
我々を司るお方の闇は無限。必ずやあなたの力を高めてくれましょうぞ」
「ガリレオをご存知ですか?」ミルティクは唐突に尋ねた。
「はっ???申し訳ございませんが・・・存じません」
男は怪訝そうな表情で答えた。
「いえ、ご存じなければよいのです」
ミルティクはアウィンをじっと見つめてから男に向き直る。
「アウィン様とお目にかかれていなければ、私はあなたのお誘いを受ける前に
そちらにいたことでしょう。
けれど・・・
天空に浮かぶ星たちが育む命は、
己が踏みしめる大地が動いているという事実を認めず、
天に輝く太陽の方がこの星の周りを回っているのだと信じていた。
太陽の周りを回り続け、その光と熱がなければ生きられぬことを知らず」
「・・・何喋ってんだ、あいつ???」すでに完全に理解不能のマートン。
ジェイドは、マートンの尻尾を握り締めたまま、いつの間にか眠っている。
体力と魔力を使い果たしたディオは
朦朧とした意識の中で、それでも男に向かって蝿殺しを構えていた。
カムロはディオが朦朧としていることをこれ幸いと
ディオの鞄からケーキやキャンディー、クッキーを取り出しムシャムシャ。
「おっしゃることの意味がわかりかねますが・・・」男は目を細め、ミルティクを見つめる。
”お待たせいたしましたアウィン様”突然響いた”耳”にチラリとミルティクを見て
小さく頷くアウィン。
「私が闇であっても、それを照らして下さる光があれば
私でも陽の当たる場所で生きていける」
ミルティクとアウィンは背中合わせに立ち、それぞれの剣を高く掲げた。
「天空の星々よ我が願い聞き届けたまえ!メテオシャワー」
「出でよ、氷の力宿したる偉大なる竜神!ドラゴンツイスター」
氷と炎が同時に男に襲い掛かる。
耳を劈くような爆発音にジェイドが飛び起き、
周囲をキョロキョロと見回し、半べそをかく。
慌てて肉球を触らせるマートン。
ジェイドは、はぁ~と息を吐くと、尻尾を枕に
またすやすやと寝てしまった。
爆風が薄れてゆく。
マントを盾に、その衝撃をなんとか防いだ男は舌打ちをすると
全員を睨め回し、消えた。
足元がグラリと揺れるような感覚に襲われ、
ふと気がつくと目の前にはアラク湖。
ヘラクレム高原に飛ばされていた。
「凄ぇ、あんたたちいいコンビネーションだったぜ!」
眠り込んでしまったジェイドをおんぶしているため
なんとなく小声で褒めるマートン。
それをスルーでディオに駆け寄るアウィン。
「姫、お怪我は?」膝をつき彼女を抱き起こすと
カムロが散らかした鞄の中身から赤ポを拾い
そっと彼女に飲ませてやった。
「ありがとうございます」
うつろな表情でアウィンの方を見たディオは
アウィンの後ろを凝視し、悲鳴をあげた。
「ミル様!!!」
アウィンに向かい臣下の礼をしたミルティクが
手にしていた剣を己の心臓に向けていた。
「何をしている!!!」
アウィンは凄まじい剣幕で叫ぶと
ディオの鞄からこぼれていたファイアーボトルを投げる。
ミルティクの手から剣が落ちた。
物音に目を覚ましたジェイドは、
ただならぬ気配に泣きべそが張付いたまま
マートンの手を握って立ち尽くす。
「どんな理由があっても、主君に剣を向けた者は死罪。
それがダグザ国の決まりでございます」
ミルティクは地面に落ちていた剣をゆっくりと拾う。
「アウィン様、万歳」
「ラビットラッシュ!」
その切っ先がミルティクの喉をかすめ、滲み出した血が
白い首に赤くまとわりつき、レイピアとともに地面に落ちる。
「えっ?!」
ディオのうさぎが跳ねるところにミルティクの姿はなかった。
ディオの魔法より早く剣を叩き落したのはアウィン。
「やっぱはえぇ・・・」マートンは低く唸る。
「やがて王となる方が決まりを破るなどなりませんぞ」
流れる血を拭うことなく穏やかに微笑むミルティク。
「たとえどんな理由があろうとも、主君に剣を向けた者は死罪。
確かにそれが我が国の掟」
アウィンはミルティクの目を見つめた。
「そんな・・・」ディオの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「だが、ミルよ・・・」アウィンは微かに肩を震わせた。
「私が最初にお前に申し渡した言葉、よもや忘れたなどとは申すまいな?」
アウィンの体がふわりと動き、ミルティクを両手で抱きしめる。
「ミルは家臣ではない。友達だ」
アウィンは微笑むと、ミルティクの頬に口づけた。
ミルティクの脳裏に鮮やかに蘇るその記憶。
ビワの木から落ちてきた少年は
満面の笑みで”ミルは家臣ではない。友達だ”と告げ、
怪我を治療したミルティクに飛びつき、
精一杯背伸びをして頬に口づけた。
少年のぬくもりに
人はこんなに暖かいのだと
初めて知った
あの日。
ミルティクの瞳が大きく開かれ天を仰ぎ、
そのままアウィンの肩に顔を伏せ嗚咽した。
「あっ・・・」
「ん?」
ポワンと小さな音がし、空中に黒い骸骨が現れ
そのまま落下。ばらばらになったかと思うと
次の瞬間、再生。
その手際のよさにディオ、カムロ、ジェイドが拍手♪
ミルティクも顔を上げ、慌てて涙を拭う。
「マートン殿はタイムリミットだったようですね」
近くに落ちた彼の鞄を拾い上げ、しゃがみこんで
マートンと同じ高さの目線で微笑み、
「お預かりいたします」
両手の剣?をカマキリのように動かし「よろ~」
”皆、無事かぇ?”
「あ、可愛いのが飛んでる」ジェイドが指をさす先には
ぱたっこがいた。
”わらわじゃ。そのままではこちらの世界にはこれぬのでな、
このものに頼んで憑代(よりしろ)となってもらったのじゃ”
呆気にとられたようにぱたっこを見つめるアウィンとミルティクに
一回転して見せる。
”わらわはふうの先代にあたるもの。
お目にかかれて嬉しゅうございますぞ”
狐につままれた感は否めぬ2人であったが
丁重に挨拶をかえす。
”何やら懐かしい顔がチラリと見えたようじゃが、まあよい。
今回はお互い見逃すことで貸し借りなしじゃな”
厳しい口調でまくしたてるが、フラフラと飛びながらなので
いまひとつ迫力に欠ける。
一同^^;;;
”にしても、皆、ボロボロじゃな・・・ま、とりあえず
天空邸に戻るかぇ”
ぱたっこから何かもわっとしたものが離れ、
皆を覆う。
濃い霧が晴れたように視界が開けたとき、
全員、天空邸の中庭に立っていた。
ディオとカムロの姿が忽然と消え、
何が起きたのかわからず大騒ぎの第二部隊と
ハノブの家がもぬけの殻で大騒ぎの第三部隊の
訴え仏状態の第一部隊
天使たちがバタバタしている横で
主が祈りの間に篭ってしまっているため
なんとも平和な姫リトルたちが中庭の一行に気づき
今度は彼女たちが大騒ぎ。
何を聞かれても(涙目)(泣)(大泣)そのうち(号泣)で
事情聴取には向かぬと帰されていたCymruは
カムロを迎えに天空邸を訪れていた。
(涙目)になりながらも
疲労の色が隠せない一行の様子に
テキパキと指示を出し、対応する。
カムロには食事が
ディオとジェイドにはベットが用意され
アウィンとミルティクにはCymru自身が治療にあたった。
「アウィン様におかれましては腕のお怪我、
完治なさっていらっしゃいますわ(感涙)」
高位神官のCymruの目にはアウィンの腕が
通常の武器で受けた傷でないことが明白であった。
ひどい油汚れが油でしか落とせぬように
闇の力によってつけられた傷は闇の力でしか治せない。
「ミルティク様のお力かしら」Cymruはなんでもないことのように
さらりと呟いて微笑んだ。
思わず、彼女を見つめるミルティク。
「あの・・・」
「ミルティク様の傷はたいしたことございませんわね。
ご自分でアスヒをかけていらしたようですし。
ただ・・・」
何か問いたげなミルティクの目を真っ直ぐに見つめると
小首をかしげて嬉しそうに続けた。
「明日は全身筋肉痛を覚悟なさって下さいませね♪」
「それでは重症の方から失礼いたします」
そのままアウィンの傷の手当をはじめるCymru。
小さな傷にもヒールをかけ、
骨や筋肉に損傷がないかを確認しながら丁寧に治療する。
「はい、これで明日にはすっかりよくなられますかと。
鍛えてらっしゃる方は違いますわ^^」
「ありがとうございます」体のあちらこちらを動かしてみてから
アウィンは笑顔で丁重に礼を述べた。
「これならば今からでも戦えます!」
「あらあら(涙目)そんな無茶をおっしゃらないで下さいませ(泣)」
潤んだ瞳で見つめられ、さすがのアウィンもたじたじ。
「たっぷりのご休息と栄養補給をお願いいたします(大泣)」
「か、かしこまりました」最敬礼の主の動揺ぶりに
下を向いて笑いをかみ殺すミルティク。
そちらに向かいしかめっ面をしてみせてからアウィンも噴き出した。
Cymruはそんな2人の様子に笑顔を見せ、
治療室入口に控えていたリトルに合図する。
「あちらにお食事の支度がしてございます。
たっぷり栄養補給なさって下さいませ」
リトルがアウィンを案内して部屋から出て行くと、
Cymruはミルティクに椅子をすすめた。
「拝見いたしますわね」
「いえ、私は・・・」
「ミルティク様ではございませんわ」
Cymruはミルティクの前に立つと首飾りをそっとはずした。
「すぐにお返ししますので、少々お待ち下さいませ」
Cymruが両手で首飾りを包み込むと
それは微かに光を放ち始めた。
「あらあら・・・(涙目)大変でしたのね(泣)」
「あの・・・アウィン様の傷のことですが・・・」
ミルティクは先程聞きそびれた問いを口にした。
「初めてお目にかかったときは本当に何もかもがお辛そうで、
痛々しい笑顔でいらっしゃいましたのに
今はとても素敵な笑顔になられましたわね」
Cymruはそっと両手を開くと、首飾りを胸に当てて静かに祈ってから
ミルティクの首に戻した。
「しばらくは休ませてあげて下さいませ。
ミルティク様のためにだいぶ無理をしたようですわ(涙目)」
「はい・・・あの・・・私は、どうやら闇に魅入られているようです」
ミルティクは石を掌に乗せ見つめた。
この石がなければ今自分はここにはいなかったであろう。
あの黒い塊たちと同じようにあの男に取り込まれ・・・
「どんな力もその源が何であるかではなく
その力を何のために、何に使うかが大切なのではないでしょうか?
私たちの力では治せなかったアウィン様の傷をミルティク様の闇の力が治した。
何か問題がございますか?」
「自己催眠にかかっている間、ただ闇に身を任せていた・・・
それは心地好いものだった」ミルティクは両手で首飾りを握り締める。
「生まれて初めて心の底から笑えた・・・アウィン様を攻撃することが楽しかったのです」
ミルティクは頭を抱えて俯いた。
「闇の力は余りに心地好い・・・私はいつか、闇にのまれ
あのお方をこの手に掛ける化け物になるかもしれないんだ」
「マートン様も同じことをおっしゃいましたわ」
「彼が・・・ですか?!」陽気でまっすぐで、ミルティクから見れば
悩みなどなさそうなあのワンコが?
「ミルティク様もマートン様も化け物になど決してなりません。
化け物というのは己のためだけに力を使うもの。
誰かを助けるために力を使おうとはしません。
ミルティク様はアウィン様の力になりたいという想いだけで
生きてこられた方ではございませんか^^」
首飾りが温かくなっていた。
ミルティクが握り締める力を弱めると、それは静かに宙に浮いた。
σ(=^‥^=)カムロだじょ♪
いつの間にか戸口にカムロが来ていた。
いっぱい喰ったじょ (=^‥^=)b
おねむ(-_ゞだじょ
「それじゃあ向こうのお部屋でディオ様やジェイドちゃんと一緒に
お夕寝しましょうね」
Cymruはカムロを抱き上げると、会釈して隣の部屋に入っていった。
ミルティクがこの石に託した真の願い。
それは、
『アウィン様の右腕となるにふさわしい力が欲しい』
という想い。
あの高位神官はそのことを知っていた?
石と会話できたのか?
この世界に迷い込んでつくづく思う。
それは、武力だけではダグザ国は
遅かれ早かれ衰退するであろうこと。
あの高位神官のような存在を敵に回した時の
武力の無力さはどうだ!
天空に浮かぶ邸があるということを
祖国のものは信じまい。
が、これは現実。
ふうのような存在を万が一にも敵に回したら
戦うことすらできず滅ぼされてしまうであろう。
ミルティクのことを
あれほど忌み嫌っていた祖国のことを
案じている自分が悲しい。
この世界はミルティクには居心地がよかった。
このままここに留まり、アウィン様と2人、
傭兵でもしながら過ごすのも悪くはない
と思っていた。
けれど
ここはアウィン様がいるべき場所ではない。
ならば・・・
今の自分になら魔力のコントロールが出来る。
欠陥品と烙印を押されようが、
気味が悪いとののしられようが、
そんなことはどうでもよい。
生涯の主と決めたアウィン様の側でなら、
あの輝きのもとでなら
誰かのために力を使うことが出来る。
闇の力に屈することなく生きていけそうな気がする。
「失礼いたしました」Cymruのおっとりとした声に
はっと我に返る。
「カムロから預ってまいりました」
差し出されたのは、小さなボンボン※
「”ミルにあげるじょ♪”だそうですわ」
Cymruはミルティクの手をとると、その掌にそれをそっと置いた。
「あの子も頑張りましたの。受け取ってやって下さいませ」
そうだ・・・
あの時、自己催眠を解くためのきっかけを
ドラゴンツイスターにしたのは
主がギル戦で、食い入る様にあのスキルを見ていたから。
戦いとなり、いよいよの時、アウィン様なら一か八か
あのスキルを使うと信じていたから。
咄嗟にそれを思い出させてくれたのは、
この石に願いを託したときに、
エンシェントドラゴンの幼生の姿が脳裏に浮かんだから。
「ありがとうございます」
ミルティクはその贈り物を押し頂いた。
「彼の声が私を支えてくれました。
狂気にとりつかれた私を見つめるもう一人の私が
意識を保ち続けられたのは、
カムロ君の応援の声が聞こえていたからなんです」
闇の力に完全に呑み込まれそうになると
カムロの姿が見えた。
※o(^‥^=)ノフレー※\(=^‥^=)/※フレーヽ(=^‥^)o※フレーだじょ♪
そのたびにハッと意識を保ち、自らかけた催眠を解くことの出来た
唯一の瞬間を逃さずに戻ってこれた。
「換わりにこの石をカムロ君にお返しいたします」
ミルティクはボンボンを大事そうにポケットにしまうと
首飾りをはずした。
「はい、お預かりいたします」
「ありがとうございました」
石に向かい深々と礼をしたまま動かないミルティクの肩に
そっと手を置いて祝福の言葉をかけてから
Cymruは首飾りを手に、部屋を出て行った。
翌日・・・
Cymruの予言通り全身筋肉痛で話すこともままならないミルティクと
少々頑張りすぎたディオとジェイドはベットの住人。
骨の間はジェイドと離れられないマートンはベットサイドでウロウロ。
たっぷり食べて寝たアウィンとカムロは何事もなかったかのように
元気一杯。
朝食後、Cymruがカムロを連れて邸を辞するとき、
「ミルティク様がご回復なされるまで、
こちらでお過ごしになられたらいかがでしょうか?」
という侍女頭の誘いを
どちらかというとディオの見舞い目的で受けたアウィン。
一度Cymruのエバキュで街へ戻り
花と果物を買って天空邸に帰館。
眠り続けるディオの横で、目を覚ましたジェイドに
果物をむいて食べさせてやってから静かに部屋を出て行った。
”・・・あいつ、まめだなぁ・・・”
『将を射んと欲すればまず馬を射よ』
の言葉通りの見事なアプローチに
唖然のマートン。
”ま、オレには関係ねぇがな”
大あくびをしてこちらも昼寝と決め込んだ。
ミルティクの見舞いも済ませるとアウィンは
第一部隊の訓練への参加を希望した。
先日のギル戦でルンが見せた
見事な指揮をなんとか盗もうと
驚異的な回復力で復帰していたルンに張付く。
あの戦いで、祖国では考えたこともなかった
物理攻撃と魔法の融合の威力を思い知った。
更に、覚醒したミルティクの魔法攻撃に
防戦一方だった現実。
魔法を武器として戦う天使たちと
実際に手合わせすることにより
魔法への対処法と、それをいかに自国の軍隊に
生かすかを知りたかった。
今までは体を鍛えることしか頭になかった。
が、それではルンたちには到底太刀打ちできない。
日に何度かのディオへの見舞い。
第一部隊との訓練。
その他の時間のほとんどを勉強に費やすアウィン。
主の変わりようと努力に、体が動くようになったミルティクも
第一部隊との訓練に参加するようになっていた。
半月が過ぎた。
人の口に戸は立てられぬの言葉通り、
この度のギル戦での怪異への取調べから
商人ギルドとシーフギルドの本当の目論見が露見。
その発端となった贈収賄事件の当事者が
芋蔓式に検挙され、裁判にかけられることとなった。
これでもう、カムロが狙われる心配はない。
お礼のご挨拶にクルネスに伺うというCymruに
何故かしっかりとついてきたのは
ディオとジェイド・・・おまけの黒骸骨ことマートン。
”いい加減、オレとジェイドは別々にしろ!!!”
と抗議してみたが、ペットとして蘇生した以上、
骨の状態でジェイドと離れると即昇天と言われて涙をのむ。
「いらっしゃ~い(*´д`*)」
相変わらず、アウグでは珍しい木造のホールでお出迎え。
「ごきげんよう、皆様。
本日は大勢で押しかけ申し訳ございません(涙目)」
σ(=^‥^=)カムロだじょ♪
「ごきげんよう。ディオと申します。
お目にかかれて光栄に存じます(はあと)」
「いらっしゃいだわん♪」
ホールでこたつになっていたふもふが、むっくりと起き上がった。
「こ、こんにちは・・・ジェイドです」
Cymruの後ろからネクロがそっと顔を出す。
立ち上がったワンコの艶やかな毛並みの尻尾が華麗に揺れる。(ふさふさふさふさ)
「綺麗・・・」うっとりと呟くディオ。
ジェイドは尻尾に触りたいのだが、触ってもよいかを判断しかね
Cymruの法衣を掴んだまま、じっとふもふを見つめている。
「ふもふだわん♪ネクロちゃん・・・ジェイドちゃんだっけ?
おいで^^」その様子に気づき優しく手招きする。
ジェイドは少し不安そうにCymruを見上げたが
彼女がにっこり笑って頷くと、はじけるように飛び出し、
ふもふのもとに駆け寄った。
ハグハグむっぎゅ~♪ ふかふかもふもふ~ん(はぁと)
しゃがんでジェイドを受け止め(はぁと)バージョンの博愛固め。
ジェイドは頬を紅潮させてふもふにくっついていた。
「あっ、ジェイドちゃん、いいなあ」
羨ましそうなディオにも(はぁと)バージョンの博愛固め。
カムロは・・・すでにテーブルについてもぐもぐ。
「そこの骨君はどーするわん?(ふさふさ)」
マートンは両手の剣?を忙しく動かし辞退。
「遠慮しなくていいわん♪」
ふもふ的にはおとなしめバージョンであったが
元が骨だけに、見事に砕け散ったマートンが
必死で自己再生する中、
お茶会開始。
「なんておいしいケーキなんでしょ(はあと)」
いつもは多少気にしてケーキは2個までのディオが
3個目に手を伸ばしてにっこり。
Cymruはいつの間にかかいがいしく給仕を務めている。
ダイエットという言葉すら知らないジェイドは
すすめられるままに次々にお菓子に手を伸ばし
ホワンとした顔で幸せそうに笑っていた。
”た、足りねぇ・・・(涙)”
自己再生能力には自信のあったマートンだったが
今回は勝手が違った。
どう組み合わせても、骨が足りない。
そういえば・・・
他の人を博愛固めした時は動いていなかったふもふの口が
マートンをハグした時だけ、何やらもぐもぐと動いていたような・・・
元は同じワンコ。
気持ちはわからないでもないが・・・
”しかたねぇ・・・肋骨2本分と背骨1個分を他にまわして(涙涙)”
粉々の状態からやっと自己再生が終わったマートンは
やれやれと溜息をつき、
皆が盛り上がっているテーブルの近くに座り込む。
左党の彼は甘いものには興味がない。
考えるのは残り1個のサイコロを使って
いつ飲みに繰り出すかということ。
”冥土の土産にやっぱ馴染みのハノブで飲むかな・・・”
腰の袋の口を広げ中のサイコロを見ながら考える。
次にサイコロを使えば時間切れとともにまた眠りにつく。
ということはこの世界からは消える・・・はず。
金を持たずに飲んでも大丈夫♪と企んでいた。
「ヒック・・・ヒック、ヒク、ヒク・・・」
おいしいケーキと薫り高いお茶に皆が舌鼓をうっている中
カムロの体に異変が起こった。
「大丈夫?(o ´Д`)σ)Д`)」つついてみるちぇる。
「半月くらい前から時々こんな風に
しゃっくりが止まらなくなりますの(涙目)」
お水を飲ませてみたり、背中を叩いてみたりするが
いっこうに治まらないしゃっくり。
いつの間にか、ふもふの姿が見えなくなり、
カムロの背後に忍び寄る黒い影。
鋭い牙がきらりと光り・・・
「わ~~~~っ!!!だわん♪(つんつんぴとっ)」
カムロの体がピーンと硬直した。
ギョロリとした大きな目がグルンと回り、椅子から転がり落ちる。
「ま、しゃっくり止めるのに驚かすは基本よね(ノ´∀`*)」
「カムロ、大丈夫?(涙目)」慌てて抱き起こそうとするCymru。
が、カムロはそれより速くピョコンと跳ね上がると
炎炎炎炎>(◇^=*)ブオォォオだじょ♪(*=^◇)<炎炎炎炎
「ぎゃ~~~、だからうちは火気厳禁!!!」
一同、手馴れた消火活動開始。
ジェイドは火に驚いてマートンに向かい突進してくる。
「お兄ちゃん、怖いよぉ~~~」
「おい、待て、今オレ、骨だし・・・」カンカラガッシャ~ン。
コロン・・・
「あ・・・」開いていた袋の口から床に転げ落ちたサイコロ。
6を上にして止まった。
「こんな時でも6出すオレって・・・
やっぱラッキ~?なのか・・・(遠い目)」
運犬マートン登場。
「わ~~ぃお兄ちゃんだ」無邪気に喜び尻尾を掴む。
「いて;;」
「あれ・・・あの骨くん、ワンコだったんだ(・m・*)」
「・・・マートンお兄ちゃん、背、縮んでない?」
「うるさい、それはそこのワンコに・・・」
なにかを言おうとしたマートンをふもふが遮る。
「いいから消火だわん!」
この状況では仕方なくマートンはWIZに変身。
ウォーターキャノンを使い消火に参加。
”Cymru、いるかぇ・・・”
”はい、ふう様”
”ポタが開く・・・お二人をお送りしてたもれ”
数箇所煙が上がってはいるが、なんとか鎮火したホール。
「誠に申し訳ございませんでした(涙目)」と平謝りのCymruに
「いや~これくらいは日常茶飯事なのよね(ノ´∀`*)」
「慣れてるから大丈夫わん♪」
「費用はちゃんとイスにつけとくしc(*゚ー^)ノ」
と、温かく見送ってくれた一同に深々と礼をして、
迎えの天使とPTを組み、コールされた。
スバインビーチ。
モンスターが跋扈する山を越え、森を越えなければ来る事の出来ぬ海辺。
一番近い町バリアードには、この大陸に張り巡らされている町間移動システムがない。
送迎役の天使が邸に戻ると、夜のビーチには
アウィン、ミルティク、カムロ、ディオ、ジェイド、
マートン、Cymruの他に人影はなかった。
”南中になるまでのどこかでポタが開くはずじゃ”
月は水平線から少し高い場所に輝いていた。
「今夜は満月か・・・」マートンは月に向かって咆哮。
体に力がみなぎってくる「やっぱ生身はいいねぇ・・・」
深呼吸して月光浴。
生まれて初めて本物の海を見たジェイドは、
海水浴には向かない季節であるのに
波と追いかけっこをしてびしょ濡れ。
マートンは焚き火をおこし、暖めてやろうとするが
しめった木材しかなく火がつかない。
σ(=^‥^=)ノ 任せろだじょb
深呼吸して
炎炎炎炎炎炎>(◇^=*)火吹くじょ♪(*=^◇)<炎炎炎炎炎炎
凄まじい炎が上がった。
(=^‥^=)b 焼き芋するじょ♪
鞄を開けて、サツマイモを取り出すカムロ。
「お前、そういう用意だけは万全だな」(-_-;)
σ(=^‥^=)ノ エライじょ♪
「・・・褒めてないから・・・(遠い目)」
嬉々として焼き芋の準備を始めるドラゴン、ネクロ&ワンコ。
よく見ると、砂までが燃え上がっている。
「この炎は・・・」ミルティクがはっとしたようにCymruを見る。
「はい・・・さきほど初めて吹きましたの(涙目)
さっきはまだ可愛らしい火でしたが
これはコントロールさせませんと危ないですわね(泣)・・・
ふう様がおっしゃるには、大切に護られていた石が
カムロに融合するとき、それを護って下さっていた方の能力も
一緒に吸収されるようなのです」
「では私の闇の力も?」
「恐らくは・・・でもご心配には及びませんわ。
前にも申し上げたとおり、どんな力もその源が何であるかではなく
その力を何のために、何に使うかが大切なのですから・・・
それにいたしましても優れた能力をお持ちですわね(感涙)
あの子、吸収するのに2週間かかったようですわ」
「過分なお言葉いたみいります」
「そのお力、思う存分お使い下さいませ。
ご自分のお心のままに」
「ありがとうございます」ミルティクはポケットのボンボンを握り締めた。
焚き火がちらちらと瞬く。
ウンゲホという変わった名前の蟹を見つけ
┏( )┛ウン┏(・o・)┛ゲホ┗( ・o・)┓
┏( )┛ウン┗(・o・ )┓ゲホ┏(・o・)┛
と踊っているカムロとジェイドを眺めながらミルティクが呟いた。
「本物の海は不思議な魅力を持っておりますね」
「命は海から生まれ、地上に広がったとも言われておりますわ」
「母なる海ですか・・・」ミルティクはCymruの横顔を見つめた。
「望まれぬ命などございません。この世に生まれ出た命は
皆、気の遠くなるほどの偶然が重なり生み出された選ばれた大切な命。
気高き魂をお持ちのミルティク様なら、ご自分が望む未来、
お掴みになれますわ・・・あの、大変、申し訳ございませんが
レイピア貸していただけませんか?(涙目)」
「あ、はい・・・」慌てて鞄から剣を取り出し、Cymruに渡す。
いつの間にか焚き火の焼き芋担当になっていたCymruは
手渡されたレイピアでお芋を突いてみてからにっこり微笑み、
そのまま1本レイピアに刺してミルティクに差し出した。
”こ・・・この人は・・・海より深いな^^;;;”
熱々のお芋を手の中で転がしながら
ミルティクはもう一度海を見つめた。
「お芋、焼けましたよ^^」海岸に響くCymruの声。
そちらの方をチラリと見て、
アウィンはディオの方に向き直った。
「召し上がりますか?」
「いえ、今は結構ですわ^^」
そして2人はまた、月の光に照らされた海を見つめる。
ルンたちとの激しい訓練をこなしながら
一日も欠かさずディオの見舞いに通ったアウィン。
その度に気の利いたプレゼントを持参し、話題も豊富。
「いまのままでも十分に美しく魅力的なディオ姫が
数年後、花々がその美しさに嫉妬するようになられた頃
またお目にかかれるとよいのですが・・・」
寄せては離れる波の音。
水面(みなも)に輝く月の光。
「本当にお口がお上手ですこと^^」ディオは上品に微笑んだ。
(*^▽^*)/ 焼き蟹と焼き芋だじょ~~~♪♪♪
右手に蟹、左手に芋を持って駆け寄ってくる
カムロとジェイド。
空気を読むなどという言葉は彼らの辞書にはない♪
焼き芋を配ってから
焼き蟹をしきりにアウィンに押し付ける。
(=^‥^=)σカニさんにバッテン欲しいじょ!
「・・・もしかして、食べやすいように切れ目を入れろと?!」
ブンブンと尻尾を振って頷くカムロ。
カムロとジェイドの期待に満ちた視線に抗うこと叶わず、
腰の小刀で蟹を切り分け、食べやすいように切れ目を入れてやる。
\(*^▽^*)/ありりだじょ~~~♪
ドドドドドと去るドラゴン&ネクロ。
アウィンとディオはそれを見送り
焼き芋を一口頬張りながら、
お互いを見つめてにっこり微笑んだ。
月に雲がかかり、光を遮った。
海岸に伸びる一筋の影。
それは左右に揺れ、ゆっくりと旋回し始める。
再び姿を見せる満月。
影はその光を受けて急旋回をしながらポタを形成し始めた。
ミルティクは焚き火を消し、Cymruはカムロを、マートンはジェイドを捕まえ、
ポタに向かい移動する。
アウィンとディオも無言でその場に近づいてきた。
”時間ですじゃ。ここからは、お2人のお心を併せお進み下され・・・”
ふうの声が響く。
「もう時間がないようだ・・・」アウィンは名残惜しそうに微笑んだ。
「世話になった。礼を申す」
「こちらこそありがとうございました」Cymruは丁寧にお辞儀をすると
「このお二人に大いなる力のご加護篤き事願います」澄んだ声が響き渡たり
アウィンとミルティクをエビ・ブレが包んだ。
「これは心強い」
揺らめくポタが現れた。
「ミル、まいるぞ」
「御意」
”煌く日の光に透けるその姿
大いなる力の加護限りなくと願う”
つぶらな瞳いっぱいにCymruのお株を奪うほどの涙を浮かべ
ディオは美しい声で歌っていた。
”夜の帳のもとでは月よ星を
その輝きを彼らに
永久の栄と永久の愛を
惜しみなく与えん・・・”
「何よりの餞、ありがたく頂戴する!」
「ごきげんよう、アウィン様」
リトルから姫に戻り、宮廷礼法に寸分なくのっとった礼。
アウィンは膝まづきその手に口づけた。
「それではこれで」
その瞳に一瞬煌いたのは月の光か涙か・・・
主君がポタに消えたのに続き、深く礼をしてミルティクの姿が
消えた。
「ねぇ、見て見て!」ジェイドが指をさす。
消えてしまったポタの上に美しい虹がかかっていた。
「ムーンボウでございますわね(感涙)」
「ジェイド、あそこいってみたい!」
「おし、背中に乗れ」
マートンはWIZに変身。自分にヘイストをかけるとワンコに戻り
ジェイドを呼んだ。
この姿でいられる時間はもうほとんどない。
飲みにはいけなかったが焼き芋と焼き蟹はうまかった。
食後の運動もおつなもの。
「しっかりつかまってろよ」満月の今夜ならいつもの何倍も力が出る。
最後に思う存分力を使うのも悪くない♪
マートンは助走をつけ思いっきり跳躍した。
「わ~~~い」
背中にしがみつきながら首だけは虹に向かっていっぱいに伸ばすジェイド。
”ありがとうございました”
マートンの頭の中に響く声。
”私たちはこの子をどこにも連れて行ってやれなくて・・・”
ふたつの光がマートンとジェイドの周りをまわっていた。
”山や海、遊園地、公園・・・
いろいろなところに連れて行ってあげたかったのに・・・”
”ジェイドのこんな笑顔を見せてくれて、
本当にありがとうございます”
「お兄ちゃん、パパとママがお迎えに来たの。ジェイド行くね♪」
背中がふっと軽くなる。
3つになった光が虹に吸い込まれていった。
”お兄ちゃん、ありがと^^ジェイドお兄ちゃんだ~~い好き♪”
どうしてオレより先にジェイドが?
”ジェイドはたくさん遊んできてたもれ^^”
そうだあん時、オレには回数と時間制限があったのに
ジェイドにはなかった・・・で、あいつはディオが渡した砂からの
記憶だけで生き返ったって・・・
マートンは海岸に向かって落下しながら
歯を食いしばった。
オレがジェイドとセットだったのはそういうことかよ!!!
そう・・・
この世とのつながりがあまりに希薄で彼女単体での復活は難しく
マートンと一緒に蘇ったジェイド。
オレが消えればあいつも消える。
オレのリミットがあいつのリミットだったのかよ!
虹が
消えた。
海岸には---
Cymruにしがみついて静かに泣いているディオ。
頭上に輝く満月にか、消え去った虹へか
なにかを伝えようとするかのように紅蓮の炎を天空に吐くカムロ。
着地とともに、背中に残った砂を
一粒たりともこぼすまいと必死の形相で集めるマートン。
それを、
今は空となった腰の袋に大事にしまった時、
全員を光が包み、天空邸へと誘った。
マートンは祈りの間にいた。
もはやなかば霊体に戻りつつあるのだろう。
陽炎のようにゆらめくワンコ。
腰の袋をふうに託す。
「こたびの働きに免じ、そなたの残りの借金はちゃらにしておくぞぇ」
「おっ、まじ?オレってラッキ~♪」
「で、じゃ・・・」
ふうが合図すると侍女頭が盆を捧げて進み出る。
「これが立替分なのじゃが」
「ん?」
「鳩たちから請求書が届いておる」
「ヲイ」(-_-;)
「それに・・・エウィンがディオに与え、ハノブで保管しておった消耗品代」
「あっ・・・ばれたか^^;;;」
「合計は・・・端数値引きしてしんぜよう。特別に2000万でよいわ」
新しい契約書がマートンの前に鎮座する。
「サインしてたもれ♪」
マートンは手にペンを持ち契約書の方を見たまま、もごもごと呟いた。
「これサインすると、オレ、また婆ぁにこき使われるんだろ?」
「人聞きの悪いことを申すでない♪借金したら返すのが道理であろう。
そなたが酒代踏み倒そうと画策しておったこともわかっておるぞぇ」
マートンは思わず苦笑。
本当にこの婆ぁにはかなわねぇ。
「そしたら、1つだけ頼みがあるんだが・・・」
マートンはスラスラとサインをして、
その書類をふうに押し付けながら、真剣な眼差しを向けた。
「今度みたいに、ジェイドの子守、させてくんねぇかな・・・
あいつ、まだ遊園地にも公園にも昼間の海にも新緑の山にもいってねえんだ!」
マートンは歯噛みした。
「こんなオレだって、小さいときは育ての親に、遊んでもらったり、
どっか連れてってもらった記憶があるのに、あいつには・・・」
ふもふに抱っこされてとろけるように笑ったジェイド。
カニと一緒に横歩きをしながら砂だらけになっていたジェイド。
お芋やカニをカムロのまねをして大きな口をあけて頬張っていたジェイド。
月明かりの中、マートンにしがみついて
声をたてて笑いながらはしゃいでいたジェイド。
そんなささやかなことでも笑顔を見せたジェイドを
夏の海・遊園地・花が咲き乱れる公園に連れて行ってやったら
どんなに喜んだことだろう・・・
「オレ、馬鹿だから、生きてる間さんざん飲んだ酒、また飲むために
サイコロ1個使っちまった!
あの分があれば、ジェイドをどっか連れてってやれたのに・・・」
ふうは受け取った書類を横に控えていた侍女頭の持つ盆に
そっと置いた。
「その望み、しかと覚えておく。約束いたしますぞ」
ふうは静かに微笑みながら、マートンを見つめた。
「この度も世話になったのぅ。礼を申します」
ふうは掌と掌をあわせ静かに祈る。
その手が離れたときシャボン玉のようなものがふわふわと宙に舞い
マートンを包んだ。
”カムロやディオによろしくな。約束してくれて嬉しいぜ^^
オレって本当にラッキー♪”
シャボン玉のようなものがはじけて消えた。
ふうはそちらに向かい深々と正式な礼をした。
「ん~~~んと・・・こっちが公社からの請求書(*´д`*)
なんかどっかの石柱、吹っ飛ばしたらしいね・゚・(ノД`)・゚・。
こっちはギルドからの請求書(ノ´∀`*)
いや~あやうく全焼免れたけど大変だったわ。・゚・(ノД`)・゚・。
そのかわり、Cymru様への借金はちゃらになってるよ。
ギルメンに感謝してねぇ~(o ´Д`)σ)Д`)プニョプニョ」
総額うん千万の請求書の山。
イスティスは呆然。
彼女殺すに刃物はいらぬ。
請求書の山で(以下検閲削除)
口をパクパクしてその場から動けなくなっているイスティスに
忍び寄るしなやかな影・・・黒い鼻が彼女の耳元に触れる。
「おかえりだわん♪(ふさふさ)」
スキンシップに博愛固め(イスティス専用)
ハグハグぎゅぎゅ~むぎゅむぎゅむぎうぅぅ~~
と、なにやら不穏な音がホールに響き・・・
「あれ、イス、寝ちゃったかな(o ´Д`)σ)Д`)プニョプニョ」
「白目むいて、泡吹いて寝るなんて
お茶目なイスだわん♪(ぺろぺろがじがじぺろぺろがじがじがじがじ)」
「じゃ、ベットに放り込んで、私たちはお茶にしよ~~c(*゚ー^)ノ」
クルネスのホールでは今夜も素敵なお茶会が始まった。
押しつぶされるような違和感が薄れてきた。
前方に微かに明かりのようなものが見える。
”歪みの修正に多少の誤差が生じておりますのじゃ。
お2人が到着する時間と紫の化け物が出現する時間はほぼ同じはず。
お戻りと同時に戦闘となります。心してお帰り下さいませ”
ふうの言葉を思い出し、アウィンは剣の柄に手をかける。
ミルティクは杖を振り魔力をチャージ。
「Cymru殿のエビブレはまだ消えぬようだな」
「はい。心強うございます」
あんなに嫌っていた祖国が近くなる。
また、世間の冷たい視線にさらされる日々が始まる。
「状態異常抵抗の指もつけている。今度は不覚をとらぬぞ!」
ルンたちとの訓練でその力を増した主はやる気満々で
前を見据えている。
この主を支えるために帰ってきたのだ。
そんなことなどなんでもない!
コートのポケットに忍ばせたボンボンを握り
深呼吸する。
私が望む未来はこの方と共にあること!
o(^‥^=)ノフレー\(=^‥^=)/フレーヽ(=^‥^)oフレーだじょ♪
カムロの声が聞こえたような気がした。
「アウィン様」
「なんだ、ミル?」
「それでも地球はまわっておりますね^^」
「ん???????」
きょとんとした表情の主と自分にエンヘイをかけた次の瞬間。
2人は城内に立っていた。
城内を覆いつくすようなガーゴイルたち。
兵士たちがじりじりと追い詰められている。
「ソニックブロー!」
アウィンの剣から放たれる真空波で消え去る敵。
「アウィン様だ!!!」歓声があがる。が、
「こっちからも来たぞ!!!」それはすぐに悲鳴に。
「メテオシャワー!」
凄まじい爆発音とともに消え去るガーゴイルたち。
何が起きたのかわからぬまま、
攻撃した者を探す兵士たちの目に映ったのは
銀の髪の魔法使い。
「誰・・・だ・・・?」
「ミル、まいるぞ!」
ミルティクは杖を振り、アウィンに向ける。
アウィンの背に美しい白い羽が見えた。
アウィンは高速で剣を振り回しはじめる
「タイフーンインパルス!!!」
その剣圧の嵐の凄まじさに、廊下を進んできた敵の陣形が崩れる。
「ミルって・・・まさかあの・・・」どよめきが広がっていく。
ミルティクは杖を振り、それを高く掲げる。
「古よりの盟約により我願う、我に流れる統べての血潮よ
熱き力となりて具現したまえ。
地深く眠る太古の力よ、我の血潮にその力、より添わせたまえ!」
コントロールされた魔力が炎となり敵を焼き尽くす。
アウィンはそれを見てニヤリと笑うと、剣を高く掲げた。
「すべてのものに沈黙を。
出でよ、氷の力宿したる偉大なる竜神!ドラゴンツイスター」
氷竜が雄たけびをあげ、敵を凍りつかせ消滅させる。
「お、お2人に続けぇ~~~!!!」隊長の声が響く。
流石音に聞こえたダグザ国の兵士たち。
見事に陣形を立て直し、城内の敵を葬ってゆく。
「ミル、こっちはもう大丈夫だろう。大物狙おうぞ!」
ミルティクは、嬉々として瘴気に飛び込む主に
もう一度支援を掛けなおすと
自らにもエンヘイをかけ、レイピアを構え続いた。
吟遊詩人は謳う。
城の上空に
城内を跋扈する怪物たちより更に怖ろしき紫の多肢生物あり。
石を探すことのみ欲するその姿は、
空の星々の輝きを月の煌きを奪いて
怖ろしき瘴気発せり。
”探せ、探せ、探せ、さ・・・が・・・ぁ・・・あ・・・せ・・・ぃ”
石を護りしは若き魔法使い。己の力まだ知らず、ただただ、逃げ惑う。
若き魔法使いに危機迫り、その命尽きんとするその時、
石より赤き光放たれる。
光と石が消えし場所に、若き王子と若き魔法使い
背と背を合わせ剣を構えたり。
王子の剣より氷の竜現れ、怪物たちを葬り去り
魔法使いの剣より火の霊現れ、魑魅魍魎を焼き尽くす。
空に浮かびし紫の多肢生物。
たまらずいずこかに消え去る。
すべてのものが歓喜雀躍し
若き王子と若き魔法使いを讃える声
国中に響き渡る。
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