Cymruのお喋り

Cymruのお喋り

RS異聞記外伝 2


寒暖の激しい冬となった。

異常気象は作物への多大なダメージのみならず
人々にも影響を与えた。

とある地方で流行った病が瞬く間に近隣の村に里に
広がっていったのだ。

修行も兼ねて、地方の村や里を巡回診療している見習い神官たちから
殺到する罹患報告に、中央の厚生医療担当部門はパニックとなり、
公社に助力を求めた。

公社は、1人の少女をその地方に派遣することを決めた。

その少女は、わずか12歳で二つ名を与えられた天才少女。
”赤鱗の癒し手プリムローズ”

彼女にいつも寄り添うのは黒い修道服に身を包んだ母親。

プリムローズが祈るとその体は赤い鱗のようなオーラに包まれる。
母ギボディスがそれをすくい取る様に緑の袋に注ぐと
薄桃色の花びらのようなものとなる。

病人ならばそれを1枚飲めば、怪我人ならば患部に貼れば、
たちどころに治癒した。

プリムローズとギボディスは
求めに応じてどこへでも出向く癒し手となっていた。




突然の高熱。
どんな薬も解熱剤すらも効かず、
食べ物どころか水分も受付けなくなり、衰弱して死亡する。

死亡後すぐ蘇生しても同じ症状でやがては亡くなってゆく。
しかも感染力が強く、診察や看護にあたる者たちまでが次々と倒れていった。

プリムローズとギボディスは
次々に村を里を訪れ、感染の拡大と必死に戦った。

「お疲れ様、プリムローズ」
ギボディスは娘の前にカモミール、オレンジピール、
ローズヒップ、ハイビスカス、甘草、オールスパイスなどを
ブレンドしたお茶を置いた。

「ありがとうございます、お母様」

プリムローズは微笑み、カップに手を伸ばした。

春が来れば15歳になるプリムローズ。
本来ならば、その名が表すような可憐で美しい少女であるのに・・・

こけた頬。
目の下には濃いクマができ、
肌のあちらこちらは粉を吹いたように乾いていた。

二つ名”赤鱗の癒し手”の由来である
祈りと共に現れる全身を覆っていた赤い鱗のようなオーラは
最近では肘から指先にうっすらと立ち上るだけになっていた。

「プリムローズ、一度お休みをいただいた方が・・・」

「大丈夫ですわ、お母様。
今、休んでしまったら、折角ここまで頑張ったことが無駄になります」

一口飲んだカップをテーブルに戻し、
小さなため息をついたプリムローズは、
そのまま眠ってしまった。




「ようこそおいで下さいました、御子よ」

(=^‥^=)ノ

ふうの住む館の祈りの間には強力な結界が張られ、魔の者は勿論
大抵の者には、どこが入り口かを知ることすら、かなわなかった。

だが、カムロときたら・・・
ほぼ日替わりの入り口を迷うことなく見つけ
気軽に入室。

キョロキョロ (・_・ ) ( ・_・) キョロキョロ (・_・ ) ( ・_・) キョロキョロ

「何をお探しかな?」

ヾ(^‥^=)~ 見っけだじょ♪
カムロは巨大な光の柱の周囲を巡る赤い光を指差した。

「それは・・・」ふうは目を細めてその光を凝視する。
「思い出しましたぞ・・・それはもう十何年も前に
御子の光が空に放たれ、行き場なく彷徨っておりました者たちの想いと融合し、
大きく膨れ上がった光。
魔の物ではございませんでしたので、そのままにしてございますが?」

σ(=^‥^=)ノ 呼ばれたじょ♪

ふうは両手を合わせなにやら呟く。
赤い光は引き寄せられるようにふうの胸の前に移動し
止まった。

ふうが両手を離すと水晶球が現れ、彼女の前の赤い光を取り込み
輝き始めた。

水晶球に映し出された光景の中で---

キャスガットは最後の青POTを飲み干し
赤ん坊に盾をまわすと大きく手を振って、PTを見送った。

その直後、大きな爆発が立て続けに起こり、
彼の足元から床が消えた。




落下してゆくキャスガットの上には容赦なく瓦礫が降り注いでいる。
全身を貫く痛み。
が、今の彼にはそんなことはどうでもよかった。

”生まれてくるのは男の子かな・・・それとも女の子?”

背中から地面に叩きつけられた。
内臓が飛び出したような衝撃。
口の中に溢れた血の塊を吐き出し。なんとか息をする。

”オレみたいにがさつで腕っ節だけの男の子(やろう)より
ギボディス似の可愛い女の子がいいな・・・”

ふっと微笑み、ゆっくりとまぶたを閉じる。
すでに動かぬはずの両腕が微かに掲げられた。

”一度でいい・・・抱っこしたかったな、オレの子”

一筋の涙がキャスガットの頬を伝い地面に落ちる前に
彼の姿は崩壊した建物の残骸に覆いつくされた。

その瞬間、赤く煌く美しい光が残骸から飛び出し、空へと向かった。
その一角に漂っていた様々な思念がそれを追いかける。

上空には禍々しい黒い塊が消えゆく魂を喰らおうと待ち構えていたが、
赤い光はそれらを蹴散らし、ひたすらに飛翔する。

追いかける思念は、黒い塊に喰われ消えてゆくものもあったが
大半は先に飛び去った赤い光跡をたどり
魔のものたちから逃れて行った。

「あの剣士、紛れもなく『護龍の民』に連なる者じゃな」

(゜ー゜)(。_。)(゜-゜)(。_。)

その後その光は、更なる思念を吸収しながら愛するものたちの元へと向かい、
本来の居場所であった袋に戻ろうとしたが、
吸収したものの方がはるかに多く、溢れ出し、ギボディスの中の命と融合した。

翌日生れ落ちた2つの命。

「火ペットもどきの方は問題ない・・・となると
あの少女が?」

(゜ー゜)(。_。)(゜-゜)(。_。)

「ふむ・・・」ふうはもう一度印を結ぶとなにやら祈り始めた。

水晶球に浮かび上がった人影は今にも消えてしまいそうな
微かな赤い光を身に纏い苦しげに肩で息をしていた。

「なんと、あんなに幼い少女が・・・御子のお力だけでなく、
自分の生命力を使ってまで治療をしておるのか?!
あのままではあの子は・・・誰か、大至急Cymruを呼んでたもれ!!!」




「という訳で、このままではこの少女の命は風前の灯じゃ」

ふうは小さなため息をつくとカムロをまっすぐに見た。

「御子はこの少女を救いたいと思し召しですな?」

(゜ー゜)(。_。)(゜-゜)(。_。)

「私はどうすればよろしいのでしょうか?」
すでに(涙目)を通りこしほぼ(大泣)のCymru。

「御子と同じ力を宿しておる赤い鳥が間もなくこの少女と再会する。
その鳥が御子と力を合わせてくれれば、この子を助ける道があるやもしれぬ・・・」

ふうはふっと言葉を切った。

(=^‥^=)v みゅんもカムロだじょ♪

「エレナ様とともにあるみゅんがカムロと同じ起源
であることは存じております」

「みゅんと呼ばれておるものは御子の光の他にも
あまりにいろいろな思念を吸収しすぎておるのでな、
あのままでは御子と融合はできませぬ。
今あの少女を救えるのは、同じ光を吸収し同じ時に生まれたみゅんのみ」

ふうはカムロの頭を愛おしげに撫でた。

「みゅんが今持つ力だけでは恐らく足りぬこととなりましょう。
御子よ、お力を貸していただけますか?」

σ(=^‥^=)ノ みゅんににらめっこ負けたじょ♪

「にらめっこに勝ったみゅんにご褒美あげてくれるのね?」
(号泣)しそうになっている所をなんとか(感涙)に留めるCymru。

(゜ー゜)(。_。)(゜-゜)(。_。)

σ(=^‥^=)v エライじょ♪

移動部隊長のガディが用意してくれた移動網で
カムロとCyrmuは一瞬でカラドックの里へ飛んだ。




カラドックは腕組みをしたまま、すでに1時間近く
微動だにしなかった。

「里長、これ以上この状況を放っておくわけには・・・」

里にも流行病(はやりやまい)が広がっていた。
次々と倒れる人々。
診療所のビショたちも例外ではない。

もはや建物内に収容できる人数を超え
周囲にベットを並べている状況。

「助かりそうも無いものの治療は諦め、症状の軽い者だけを・・・」

「そんな命令ができるものか!」カラドックは呻くように言った。

「頼みの綱の癒し手が、あんな頼りない子供だったとは・・・」

村や里をまわり、この疫病を治していたプリムローズであったが
カラドックの里に着く頃には、彼女自身が弱りきっていた。

彼女がいくら心を込めて祈っても
二つ名の由来となった赤い鱗のようなオーラが立ち上ることはなかった。

「里長、いつかの神官さまが・・・」
里の入り口を護るシーフが長の家に飛び込んできた。

「おお、もしやCymru殿か?!」
カラドックは立ち上がると一目散に里の入り口に向かった。




シオンもこの病に倒れた。
が、みゅんが彼の枕元で輝き続けることで
病状が進行する事はなく快癒した。

「みゅん、お前、普通の火ペットじゃないね」

エレナの脳裏に森で獣たちを追い払った時の
みゅんの姿が思い浮かんだ。

「みゅぅぅ~~ん・・・」
いつもならエレナがこんな風に睨むと縮みあがるみゅんが
上の空で返事をすると急に外へ飛び出した。

そのただならぬ様子に、シオンは起き上がり
エレナとともにみゅんの後を追った。

二つ名をもつ少女が治療に来たが
そのまま倒れたという話は
あっという間に里を駆け巡っていた。

「何が二つ名だ!」

「ただですらベットが足りないのに、
なんであんなよそ者の治療なんかしてるんだ!」

人々の期待は絶望に変わり、怨嗟の声すら沸きあがる。

「だいたい何者なんだあの2人!」




「ち、治療を・・・さ・・せて・・・下さい」

「お願い、プリムローズ、もう止めて、あなたが死んでしまうわ」
ギボディスはビショとなり
アーチとレストを炊いた状態で娘を回復し続けていた。

”あなた、どうかこの子を・・・”手にした緑の袋を握り締め
天へ祈る。

横たわったまま立ち上がることすら出来なくなっていたプリムローズは、
老婆のように血管の浮き出たしわくちゃの両の掌を何とか合わせ祈ろうと
もがくが、腕は空をきるのみ。

「おと・・・う・・・さま・・・」

エレナがいなくなった後、
ギボディスは肉親を失った子供たちが集まる施設で働きながら
娘を他の子供たちと分け隔てなく育てた。

「あなたのお父様は戦争でたくさんの人を悲しませることをなさったの。
母様はそれを止めることはできなかった・・・
お父様は私とあなたを護るために戦うしかなかったから。
でもね、お父様は最後にご自分の命と引き換えに
2人の方の命を救われたのよ。
あなたはお父様の分も、誰かの命を護ってちょうだいね」

娘が赤ん坊の時から繰り返し繰り返しそう話し、
プリムローズは母の願いに共感し、治療スキルを磨いた。

12歳で”赤鱗の癒し手”と呼ばれるようになってからは
親子は大陸中を巡り人々を治療し続けていた。

が・・・
もう
限界であった。




ほとんどの者が身内に病人を抱えている今、診療所は人で溢れていた。

最後の望みであった癒し手が倒れるという状況に、
里中を重苦しい空気が覆いつくしている。

「その2人、あのキャスガットの女とガキだ」

この里で最もレベルの高い魔道士が血相を変えて
診療所に飛び込んできた。

人々の冷たい視線が一斉にギボディス親子に向けられる。

この里では悪魔よりも憎むべきものとして伝えられる
”キャスガット”の名前。

「よくもこの里に・・・」

「疫病をふりまいてるのはこいつらじゃないのか?!」

身内の看病をしていた男がずかずかとプリムローズのベットに近寄り
彼女をベットから引きずりおろそうと手を伸ばした。

「まて!」

男の後ろから腕を掴んだのは、カムロとCymruを伴ったカラドック。
「仲間を殺し、兄を殺したのは・・・わしだ」

どよめきが起こった。

「里長、どういうことだ?!」
親族を友人をあの戦いで失った者たちが色めき立った。

あの戦いの時、カラドックと共に戻ってきた数人が
ギボディスとプリムローズを護るように里長の周囲に並んだ。

「戦いを有利に進めるためには
敵側がその名を聞いただけで戦意を消失する存在が必要だった。
わしはそれにふさわしい人物としてキャスガットを選んだ」

何が語られ始めたのか、きょとんとしていた人々が隣の者に
話しかける。
しっ!という叱責の声。

「彼は若く勇敢な青年だった・・・」

”いいですよ、オレでいいなら”
キャスガットは二つ返事で奇襲の陽動部隊長を引き受けた。
”オレ、もうすぐ親父になるんです。
生まれてくる子供には、こんな戦場じゃなくて
もっと安全で美しい場所で走り回って欲しいじゃないですか。
次の世代にこんな戦い引き継いだらオレら大人の恥ですからね。
終わらせるためなら、オレなんでもしますよ”

笑顔の中に決意を宿し、
汚れ役を引き受けてくれたキャスガットの忘れ形見。
なんとしても護らねば・・・

カラドックは里の者たちを鋭い眼光で見渡し言葉を続けた。




「あの日、我らは敵の砦を奇襲した。
キャスガットの名は敵陣を混乱に陥れ、作戦は成功。
こちらの精鋭部隊は敵の親衛部隊を全滅させ、敵首領を殺害。
が・・・」カラドックは顔を歪ませ俯いた。

「里長、その先は私が・・・」

「いや、これはわしが言わねばならぬこと」
カラドックは唇をかみしめ顔を上げた。
「だが、敵はこの奇襲を想定し、首領は影武者を残して砦から逃げ出していた。
そして・・・その影武者は我が兄、スリウェリンであった」

固唾を呑んでカラドックを見つめていた人々に動揺が走る。

「わしの作戦で全滅した親衛部隊は、
影武者がスリウェリンであることを知っていた者たち・・・
おそらくは全員がこの里の者・・・
すまない、もっと早く皆に謝らなければならなかった」

カラドックが深く頭を下げた。

「い、今更謝られたって、あの人はもどっちゃこない!」

「オレの息子を返せ!」

「人殺し!」

殺気だった人々がカラドックたちに詰め寄ろうとした時、
「みゆぅ~~ん」みゅんが診療所に飛び込んできた。

エレナとシオンが後に続いていた。

「エレナ、こいつらあのキャスガットの女とガキだよ」

エレナは驚いたように辺りを見回し、ギボディスを認めると深々と頭を下げた。

「ご無沙汰しております、エレナ様」
ギボディスは娘を治療する手を止めて丁寧に礼をした。

「お久しぶりです、ギボディス様」

人々の間にどよめきがおこった。




場の空気など全く気にしていないみゅんが、
カムロを見つけ嬉しそうに懐きに行く。

(=^‥^=)σ みゅんはにらめっこ強くてエライから
σ(=^‥^=)ノ 手伝うじょ♪

「みゅん♪」

σ(=^‥^=)お外に行くじょ♪

診療所の外に出たカムロは、
みゅんに向かい柔らかな火を吹きはじめた。

炎は優しくみゅんを包む。
と、その姿はみるみるうちに数メートルはある
コウモリのような翼を広げる赤い生物へ変化した。

大きな目がギョロリと動き
カッと開いた口からは真っ赤な舌が垂れ下がり
鋭い牙が見え隠れしている。

「何だあれは!?」「化け物だぁ~~」
「に、逃げろ!」
外にいた者の間から悲鳴が起こった。

この騒ぎに、建物の中にいた人々が外へ飛び出してきた。

みゅんは大きな翼を広げると空高く飛翔し、
太陽を背に受け大きな影を地上に落すと
上を向き、口から天球を吐き出す。

その天球が映し出した光景は---

あの日、
崩壊する砦の中でエレナとキャスガット、ギボディスが出会い、
キャスガットが己の命と引換えにエレナとお腹の子供を助けたこと。
彼の想いは赤い光となって、周囲の想いと共鳴し融合し膨れ上がって
ギボディスの元へと向かったこと。
その想いに込められた力は、本来の居場所であった緑の袋には入りきらず
ギボディスの中の命と融合、袋からはみゅんが生まれ、
プリムローズには卓越した治癒能力を与えたことを
里の民に知らしめた。




それは天空邸のふうにとっては
かつて見たことのある光景の1つに過ぎない。

この世の調和を司る一族の長であるふうは
当事者にとっては一大事であっても
宇宙レベルで考えれば所詮は誤差の範囲内である
個人の生死や里の存亡に拘ることは許されていない。

が・・・

ともすれば見たくもないものを見続けてきたふうにとって
この天球が見せてくれた光景は余りに優しく美しい。

「御子のご意志に力をお貸ししたいのじゃが・・・」
ふうは振り返り、自分の後ろに控えていた侍女頭とルンに訴えた。

2人からの応(いら)えは微笑みと丁重な礼。

「すぐに人を集めてたもれ!」ふうは瞳を輝かせ、叫んだ。

祈りの間は数十人もの人で溢れかえった。

「御子を知る者に助力を願ってたもれ、どんなに小さな力でもかまわぬ、
我のペンダントのピジョン・ブラッド(鳩の血)ルビーが力を貸してくれようぞ」

祈りの間から無数の思念が飛んだ。”カムロ様にお力を分けて下さい”と。

”ふうよ・・・”

懐かしい声がふうの頭の中で響いた。

”同じようなことを考えてな、無駄になるならそれもよしと
思念を飛ばしてみたのじゃが・・・”

ふうの前に金と銀に輝く石を手にしたブロヌが現れた。

「アウィン殿とミルティクのものですな」

今にも石からはじけ出しそうな力を必死で抑えているブロヌが頷く。

「ありがたく存じます!」ふうはペンダントを掲げ、なにやら呟いた。
ピジョン・ブラッド(鳩の血)ルビーが中空に浮かび煌く。
その光を浴びた2つの石は真紅の輝きを纏い
ふうの目の前の光柱に吸い込まれていった。

ふうの脳裏に玉座に座るアウィンと傍らに控えるミルティクの笑顔が浮かんだ。

"と、これはおまけじゃ♪”
ブロヌが今は宝玉が失われている胸のペンダントに触れる。

ポワンと現れたのはいびつな形の思念体。
タピオカのような小さく透明な粒になにやら四角いものがくっついている。

笑顔の赤ん坊とその子に尻尾を引っ張られ、顔をしかめるワンコの姿が目に浮かぶ。
”マートンお兄ちゃんの尻尾ボサボサ~”
”おい、そんなに引っ張るなぁぁ~~あ(涙)
ババアどもぉぉ~~お、この分の借金減らしとけよぉぉ~~~お!”
この思念体も光柱に吸い込まれていった。

”では、わらわは休ませてもらおうか”笑顔で消えてゆくブロヌに
ふうは丁寧にお辞儀をした。




「姫様、ご公務の時間でございます」オロオロとする侍女たちの声に耳を貸さず
正装のまま俯き大きく息を吐いたディオは両の手を天へかざし星々に祈りを捧げる。
「古来からの盟約に基づき我、星々に願う。我が想いよ、力となれ!アイドルスター!」
朗々と歌うその声は煌く星の形となり、ふうの元に届いた。

天空邸にいる者たちの祈りが
”ふさふさ”ふわふわのボールのような思念が
ダイヤモンドのように硬い氷が矢の様に研ぎ澄まされた力が
次々にふうの元へ集まってきた。

ピジョン・ブラッド(鳩の血)ルビーに照らされたそれらは
始めはペンのように細く短かった光柱をみるみるうちに
WIZたちが使う氷柱のような巨大なものへと変化させてゆく。

「きゃ~!」
祈りの間にいたほとんどの者たちは目の前の有り得ない光景に
立ち尽くした。
強固な結界に護られた祈りの間の一角で
巨大な鎌が周囲を切り裂き、凄まじい炎が上がっていた。

「サンクチュアリ!」ルンが翼を広げその場に飛び込む。

中空に浮かんでいたピジョン・ブラッド(鳩の血)ルビーが
光の盾を作り、ルンが抑えていた力をゆっくりと吸収した。
念のため控えていたエゥリンたち救護班が駆け寄る。

「ふう様にご報告いたします」治療を終えたエゥリンが進み出た。
「鎌を振り回して思念を送ってまいりました者 1名。
煙草の火を使ったとんでもなく破壊力のある炎で送ってまいりました者 1名。
計2名の・・・」

そこまで聞いたふうはため息をつき、続きはもうよいと手を振った。

「傷ついた者たちの容態はどうじゃ?」

「はい、幸い皆、軽症でございます。少し休めばこちらに戻れますかと」

「いや、その者たちはそのまま休ませておくように・・・
あの者、槍子から霊術になったようじゃな。
もう1人の寝癖はこのご時世にまだ禁煙しとらんのか」

とりあえず、そのままにしておくと危険な2つの思念を光柱に封じる。

「エゥリン、傷ついた者たちの治療代と慰謝料を
クルネス宛てとアーデル神父宛てで送っておいてたもれ」

「かしこまりました」エゥリンは深々とお辞儀をすると祈りの間を後にした。




天球が消えるとみゅんは首を高く掲げ
「みゅぅぅ~~~うん」と鳴いてから
大きな翼を祈るように合わせては広げはじめた。

無数の赤い粒子が里中に降り注ぐ。

その中の1粒が、ひたすらに診療所へ向かい
ギボディスの緑の袋に飛び込んだ。

”遅くなってすまない”
ギボディスには忘れられない懐かしい声が響いた。

思いもよらむ出来事に立ち尽くすギボディスが手にしていた緑の袋は
まるで風船が膨らむかのように膨張し、はじけた。
袋からあふれ出した緑と赤と白の光がプリムローズを包み込み
彼女を元の可憐な少女の姿に戻して消えた。

もはやすべての力を使い果たし朦朧としていたプリムローズを
がっしりとした腕が軽々と抱き起こす。
愛情に満ちた豊かな生命力が体中に流れ込んできた。

ふわりと宙に浮いた自分に、
はっと意識が戻った彼女を見つめていたのは若い剣士。

”なんと愛らしい・・・プリムローズ、私の娘”

「おとう・・・さま?!」

問いかけの答えはこの上なく愛情のこもった
優しく暖かい抱擁であった。

”これで思い残すことはない。さて、行くか”

懐かしい気配が消えた。
が、プリムローズの周囲にはギボディスには見分けることができる
キャスガットのシマーがまわっていた。




プリムローズが回復したことで、祈りの間にほっとした空気が流れた途端
ふうの厳しい声が飛んだ。

「気を抜いてはならぬ!」

地上の様子を映し出す水晶に黒いシミが浮き出し始めていた。

流行り病で生じるはずであった苦しみや悲しみを
癒しの力で軽減し続けたプリムローズを恨めしげに見つつ、
ようやく息の根が止まると舌なめずりをして待っていた魔の者たち。

が、予期せぬ力で彼女が全快したのを知り、逆上。
本来であれば魔界なりの秩序で直接人を攻撃してはならぬ
闇の力が集まり暴走しようとしていた。

”こやつら生きておる者の目には見えないのが厄介じゃな・・・”

アンデット系の輩ならCymruがいればなんとかなる。
が、デーモン系の輩がどうにもならない。

ふうが直接関与できる事柄ではないため、ルンたちを送ることも出来ない。
最悪Cymruがカムロを連れてエバキュで逃げ出すことは出来るであろうが
おそらく里は全滅。
皆、魔の者の餌食となろう。

ふうはあの日のカムロのように周囲を見回し、
祈りの間の片隅にひっそりと漂っている水晶球を探した。

ふうの脳裏に蘇る記憶---

「何をお探しかな?」

ヾ(^‥^=)~ 見っけだじょ♪
カムロは巨大な光の柱の周囲を巡る赤い光を指差した。

「それは・・・」ふうは目を細めてその光を凝視する。
「思い出しましたぞ・・・それはもう十何年も前に
御子の光が空に放たれ、行き場なく彷徨っておりました者たちの想いと融合し、
大きく膨れ上がった光。
魔の物ではございませんでしたので、そのままにしてございますが?」

水晶球はその後
ふうにキャスガットの最後を見せ、輝きを失った。
今は祈りの間に溢れる様々な光の中に埋没。
ふう以外の者には見つけることも難しい。

だが、そこには残っていた。

その想いの根源が余りに大きな力を持つがために
具現するためにはとてつもない思念を必要とする
彷徨う者たちの願いが。

これを目覚めさせることができれば!

先祖代々伝わるピジョン・ブラッド(鳩の血)ルビーは
ア・ドライグ・ゴッホに加勢する為の力を無尽蔵にふうに与えてくれる。
あらゆる力を赤い光に替える事など造作もない。

しかし・・・

御子が助かる方法がある状況で、一度赤い光に変化させた力を更に変化させ
ここに残る想いを具現する力にしてはくれない。
里がひとつ滅びようがこの世の調和は崩れることはないのだから。

ふうは助けたかった。
本当に久しぶりに彼女の心を温めてくれた
あの天球の光景を見せてくれた人々を。

アウィンとミルティク、ルンと精鋭部隊のメンバー、
ふもふ、ちぇる、イスティス、ダックス。

一度は赤い光にしてしまったこの者たちの火力だけでも
光柱から取り出しこの水晶球に注ぎ込むことができれば・・・

ありとあらゆる印を結び、思いつく限りの呪文を唱える。
が、何も起こらなかった。

”なんと無力な我・・・なにが調和を司る者じゃ!”

ふうの目から涙があふれ出す。

”これが調和を司る者としてあるまじき行為でなるならば
どんな咎めも甘んじて受けましょうぞ。
我が名は「ふう」調和を司る者ではなくただの「ふう」でございます”

胸のペンダントを握り締め、そう念じると
肌身離さずつけているペンダントを床に叩き付けた。

ふうはプリムローズがそうしたように、
彼女自身の魔力、体力、生命力を放出しはじめた。

が、まるで何かが防御壁でもあるかのように
ふうの力は光の柱には届かず霧散する。

その姿を呆然と眺める人々。

「お館さま、お止め下さい!」
我知らず四つんばいになり倒れこむふうを助け起こそうとする侍女頭。
差し伸べられた手を払いのけ、ふうは床に突っ伏し肩を震わせた。




「こんな時に申し訳ございませんが、こんなものが・・・」
数人のビショが恐る恐る何かを差し出した。

宝玉でも思念でも力でもない。
特別なところなど何もない砂粒のようなもの。

けれど、その数が尋常ではなかった。
数百、いや数千もの小さな想い・・・

顔を上げたふうは大きく目を見開いた。

カムロと一緒に
漁に行った。
市場で屋台を出した。
猟をしてたら猟犬より先に獲物をくわえて来た。
畑で収穫をした。
一緒に遊んだ。
村の運動会でパン喰い競争をした。
お祭りで踊った。

”あんときはありがとな”
”ほら、これやるから喰え”
”また来いよ。待ってるぞ”
”一緒に遊ぼうね”
”待ってるよ。カムロ、大好きだよ!”

微笑みと愛情に満ちた
市井の人々のカムロへの想いが次から次へと流れてくる。

潮騒が聞こえた。網の中でキラキラとはねる魚の姿が見えた。
焼きとうもろこしや炙ったスルメの香りが漂ってきた。
新鮮な野菜や果物を売る人々の活気が、
猟をする人々の高揚感が、畑にたわわに実る収穫物を眺める人々の喜びが、
運動会を包む歓声が、綿アメを手にした子供たちが浴衣姿ではしゃぎまわり
笑顔を向ける様子が、ふうを包んだ。

調和を司る力を保つため、ふうの本体は
この祈りの間から発せられる結界の中から外に出ることは出来ない。

豪華な館に住み、ご馳走を食べ、人が羨む力を持っていても
もう2度と
本物の海を見ることも山へ登ることも市場へ行くことも
ましてやお祭りの屋台をひやかしながら踊りの輪に加わることも
彼女には出来ない。

諦めていた・・・が、
今、彼女は確かに体感していた。
潮の香りを胸いっぱいに吸い込み、山の緑のきらめき感じ
市場や祭りの雑踏に身をゆだね、祭囃子にはしゃぐ子供たちを眺めていた。

体中の力がゆっくりと抜けてゆく。
忘れていたほのぼのとした感覚がふうを癒してくれていた。

”これあげる”
ふうの目の前には右手に団扇、左手にヨーヨーを持った浴衣を着た少女。
”ふうね、金魚すくいしたいから、これあげる”
幼いふうは満面の笑みで手にしていた金色のヨーヨーを差し出した。
”ありがとう”
”私、応援してるからね♪”団扇を何度も振り、にっこり笑ったその子は
”頑張ってね!”手を振りながら走り出し、消えた。

カムロに寄せられた砂粒のような想いたちが
ふうの手を引き、背を押してくれていた。

”御子よ、感謝いたしますぞ”

ふうは深呼吸をするとすくっと立ち上がり、
侍女頭が拾い捧げ持っていたペンダントを首にかけた。

「お館さま!」

「もう大丈夫じゃ。その者たち、その力をここに!」

ふうの手のヨーヨーは金色の宝玉へと変化した。
ビショたちが一斉に祈りを捧げる。

宝玉がフワリと中空へ浮いた。

砂時計がひっくり返されたかのようにさらさらと流れ始める砂粒のような想い。
がそれは下ではなく上に流れ、赤い柱と宝玉との間に天の川のような道を作った。

赤い柱が揺らぎ、強い気を放つ光が凄まじい勢いで宝玉へ流れ込む。

「我が元に参れ!」
小柄なふうの体から七色のオーラが立ち上り、祈りの間を満たした。

虹色の輝きの消滅とともに
ふうの掌の上に赤と金の勾玉が現れた。

ふうはひっそりと佇む水晶球へ向き直り、金の勾玉を差し込んだ。
「お目覚め下さいませ!」

祈りの間が揺れた。




何度も何度も翼を広げ、みゅんは赤い粒子を撒き続けていた。

「おい・・・これって・・・」

ベットで苦しんでいた者たちが
きょとんとした顔で起き上がりはじめた。

「治ってる・・・のか?!」

「なんともないぞ!」

診療所からも家々からもたくさんの人が外へ飛び出してきた。

「みゅ・・・ぅ」みゅんが苦しげに息を吐き、落下し始める。

σ(=^‥^=)ノ 応援するじょ!
カムロはみゅんに向かって盛大な炎を吐き続けた。

「紅涙の女神官の名において、偉大なるドラゴンの力を
正しく示してくださる聖なるお方に感謝いたします!」
Cymruも傍らでひざまづき賛美する。

彼女の周囲に湧き上がった光はカムロの炎と一つになり
みゅんへ向かう。

「ブレッシング、フルヒール」

「みゅ~~~ぅ~~う~~ん♪」己を包み込む力に歓喜の声を上げ
みゅんはまた空高く飛翔した。

「生死の境目にいた者たちもよくなりかけている。
もう少し頑張ってくれ、みゅん!」
カラドックが必死で叫ぶ姿に里の者たちが互いに顔を見合わせる。

Cymruの支援魔法が効力を発揮するのを見た里のビショたちが、
集まり賛美しはじめた。
幾筋もの輝きが何度も何度も湧き上がり空へと向かう。

が・・・

「おい、みゅんのやつ、小さくなってないか?」
恐る恐る問いかけた者に言われるまでもなく、
ゆらゆらとよろめくように飛ぶみゅんは、
巨大化した時の半分の大きさにも満たなくなっている。

「あっ!」

空中でバランスを崩したみゅんが、まっさかさまに落下した。




カラドックと取り巻きたち、エレナとシオンと数名が素早く移動し、
半分になったとはいえ、2メートルはあるであろうみゅんの体を
真下で待ち構え受け止めると、そっと地面へ寝かせた。

診療所の方からも2つの人影がみゅんの元へ向かっていた。

「赤鱗の癒し手の名において、この地を統べる大いなる力に願います。
この者の心と体に癒しを!」
白く細い指を揃え、ひざまづき合掌するプリムローズの全身から立ち上る
鱗のような赤い輝きは、吸い込まれるようにみゅんの元へと向かう。

「みゅぅ・・・」ゆっくりと目を開けたみゅんは必死に羽を動かそうとする。

カムロがよろよろと歩き始めた。
ずっと火を吹き続けていたカムロの口から洩れるのはもはや
荒い息だけ。

「カムロ、お願い、もう止めて、あなたの体がもたないわ」
Cymruがポロポロと涙を流しながらカムロを抱きしめ、必死で訴えるのだが、
カムロは頑なに首を横に振り、もがき、Cymruの手を振り切ると
なんとか火を吹こうと体を震わせ続けた。

「大いなる力よ、どうかご加護を!」Cymruは両の手を天に掲げ心から祈った。

その姿に里のビショたちが唱和する。
祈りのスキルなど持たぬ里の人々が
子供たちまでもがその姿を真似、祈り始めた。

その祈りに応えるように
何か大きな力が、天に向かった。




「ねぇ、あの人だぁれ?」小さな子供が空を指差した。

下を向き一心に祈っていた人々が顔を上げた。

”我が名はスリウェリン”
そこには存在するだけで周りを従えるであろう風格で
凛と佇む戦士の姿があった。

「ス、スリウェリン様だ・・・」

「おお、あのお姿は・・・」

「スリウェリン様!!!」

大人たちが歓喜する姿を不思議そうに眺める子供たち。
年寄りの中にはその姿を拝むものまでいた。

「あ、兄者・・・」
茫然自失で立ち尽くすカラドックの姿を見つけたスリウェリンが
ゆっくりと地上へ降りて来た。

「すまない、ほ、本当に・・・」

言葉に詰まり、両手で顔を覆い、地面に崩れ落ちた弟の肩を抱き寄せ、
首を振ると、スリウェリンは周囲の者たちを見渡し、口を開いた。

”人は、それがどれほど罪深いことかを知りながら、人を殺めてしまうことがある。
それが嫉妬や憎しみからの行いであれば、後に残るのは虚しさと更なる憎しみの連鎖。
だが、それが愛する人たちを愛するものを護るための行為である時、
人はその愚かさを伝えることができる。
罪を犯し、その重荷を背負うのは自分が最後となるよう、
愛する者たちには自分と同じ想いをさせてなるものかという尊い決意を持って・・・”

スリウェリンはうなだれ、肩を震わせている弟に手を添えそっと立ち上がらせる。

”私が望んでいたよりもはるかに美しく豊かな里になった。
心から感謝している。ありがとう、カラドック。”

「兄者・・・」

顔を上げたカラドックに微笑み、頷いてから、スリウェリンは天へ戻る。

”偉大なるドラゴンの王に、かの方からの賜り物をお届けいたします”
スリウェリンはドラゴンツイスターを構えた。

剣の柄にはめ込まれていた真紅の勾玉がフワリと宙に浮き
一直線にカムロの元へと飛ぶ。

大きな口を開けてそれを飲み込んだカムロの大きな瞳がギョロリと動き

σ(=^‥^=)v元気はつらつ~だじょ♪
(=^‥^=)ノ ありりだじょ♪

すぐにあの柔らかい火を吐き、みゅんを包む。
見る間に生気を取り戻すみゅん。

「みぃゆぅ~~~ん♪」
みゅんは嬉しそうに鳴くとしなやかに翼をはためかせ
スリウェリンの横に並んだ。

”もうしばらく我らが里にご尽力下さいますか?”

「みゅん♪」元気一杯に左羽を上げ、スリウェリンを背に乗せる。

里の上空を飛翔するみゅんの背でスリウェリンは剣を構えた。
ドラゴンツイスターは陽光を反射し、金色の光を里中に振り撒いてゆく。

と、
里のあちらこちらから淡い光が湧き上がり、四方に散った。




『い、今更謝られたって、あの人はもどっちゃこない!』
そう泣き叫んだ女性は懐かしいぬくもりに抱きしめられていた。

『オレの息子を返せ!』そう叫んだ男性に
”オレ、ずっと父さんと一緒だせ”そう囁く息子の声が聞こえた。

『人殺し!』そう叫んだ老人に
”相変わらず元気だな・・・まだしばらくは迎えは要らないなw”親友の笑顔が見えた。

それぞれの者が今は失った愛する者の声聞き、姿を見ていた。

”この子が私の息子・・・”
エレナとシオンの足元に青く輝くブレスがかけられた。
頭上には七色に輝くアーチ。
「ああ、あんたと同じ支援ビショにしようと育てたんだか、この馬鹿、
剣士になるって言いやがってさ」
言葉の荒さとは裏腹に、優しく息子の肩を抱き、微笑みながら告げるエレナ。
”剣士とは心強いじゃないか、エレナ。
シオン、私の大切なエレナを頼むぞ”
「はい、父さま」シオンは上ずった声で大きく頷いた。

”ギボディス、ごめんな。辛い思いばかりだったろう・・・”
「いいえ、あなた、プリムローズがいてくれましたもの、
何も辛いことなどありませんでしたわ」
頬を伝う涙を拭うこともせず微笑むギボディスの隣には
親子というより姉妹のようにそっくりな可憐な笑顔があった。
”もう黒い服は脱いでおくれ。君の笑顔に黒は似合わない”
キャスガットは妻の涙を拭うと優しく口づけ、娘と妻を抱きしめた。

大人たちが涙と笑顔でぐしゃぐしゃになっている様子を
きょとんとした顔で見つめる子供たち。
ほんの少し前までベットで苦しんでいた子供までもが
この騒ぎによろよろと外へ出てきていた。

それに気がついた数名が微笑みながら何やら目配せをした。

「えっ?」

「これ何???」

子供たちに実戦レベルのブレがかけられた。
すかさず飛ぶアスヒ、ヘイスト。

自分たちを包む夢のような力に、子供たちは思わず走り出した。
こぼれる笑顔に先ほどまでの苦しみの影はない。

里中に子供たちの歓声が響いた。





スリウェリンは、皆を見回し口を開いた。

”愛するものを残しこの世を去らねばならなかった者たちを覚えていてくれたこと、
心から感謝する。
我々は誰も恨んではおらぬ。
この里がこれからも豊かで美しい里であることが我らの願い。
我とともに戦うものはこれへ!”スリウェリンは剣を掲げ叫んだ。

「みゅん♪」みゅんは胸を張り、元気一杯に左羽を上げた。

”行ってくる”その声に女性は頷き、微笑んだ。
「いってらっしゃい、あなた」

”オレの分も長生きしろよ、親父”
「とっとと行け、馬鹿息子!」

”じゃ、またな”「ああ、いつかまた一緒に飲もうな」

無数の光が天を目指した。

ふうからの耳で何が起ころうとしているかを知ったCymruが
カラドックに仔細を報告。
カラドックは戦闘能力を持つ人々に戦いの準備を命じた。

戦う術を持つ者たちが装備を整えに走り出す。
非戦闘員たちは診療所へ集められ、霊術師たちが周りを囲む。

「戦闘がはじまったら、順番に真空斬りだ。互いのクールタイムを補完しろ。
クールタイム中の者は斬って斬って斬りまくれ!敵に何もさせるな!!!」
雄たけびがあがり、霊術師たちは鎌を構えた。

天空にはスリウェリンを中心にずらりと並ぶ勇姿。

地上の人々はそれが誰であるのかを若者に
子に孫に誇らしげに伝える。

PT編成が終わったのであろう、チャージが始まった。

ゆっくりと立ち上がるビショたち。杖を振る手を止めたWIZたち。

エンヘイ、エビブレミラーがかけられパッシブが確認されていた。
MMMが、シマーが回る。

”我らが力、思い知らせてやろうぞ!”
支援が行き届いたのを確認したスリウェリンが叫んだ。

天を揺るがすような応(いら)えが上がり
彼らの姿はゆっくりとシルエットとなっていった。

その姿が見えなくなるのと同時に、里の上空が真っ暗になった。

σ(=^‥^=)カムロも行くじょ♪
「みゅん♪」
みゅんは背中にカムロを乗せて飛翔した。

カラドックは仁王立ちになり、あらん限りの声で叫んだ。
「敵は我らの目には見えぬ。
が、天におわす我らが同胞(はらから)たちと力を合わせれば恐るるに足りず!!!」

地上でも雄たけびが上がった。

「迅雷瀑布のカラドックの名において我命ずる、出でよ氷力のドラゴン!
ドラゴンツイスターぁぁ~~~!」

天と地で蒼い輝きがドラゴンの姿となって舞う。

「なんと見事な・・・」
まるで打ち合わせたかのように同じタイミングで繰出された
スリウェリン、カラドック兄弟の攻撃が、
見えない敵を殲滅してゆくのが里人たちにもわかった。
突然の出来事に震え上がっていた子供たちが泣くことを止め、
怯えることを止め、この様子を眺めている。

「この命果てようとも、この里に危害を及ぼさせぬ!!!」
鬼気迫る形相で剣を振るうカラドック。

「あたしらもいくよ!」エレナが弓を構え天空をにらむ。
「古来からの盟約により我、ここに願う。出でよ氷矢」

魚の鱗がボロボロと剥がれ落ちるように、いくつもの黒い塊が凍ったまま降って来た。
「パラレルスティング!」「マルチプルツイスター!」「ダブルスローイング!」

知識と物理の隙のない連携攻撃に霊術師のドームに護られた人々が
身を乗り出すようにして声援をおくった。

「TUのスキルをお持ちの方はこちらへ!」
Cymru、プリムローズ、ギボディスが口々に叫び、里の各所に散った。

「紅涙の女神官の名において命じます・・・
「赤鱗の癒し手の名において願います・・・

二つ名を持つ2人の詠唱にあわせ、TUのスキルを持つものたちが両手を掲げる。

己がいるべき場所にお戻りなさい。その魂よ、安らかに。ターンアンデット!!!」

暗闇を照らすTUの光は絶え間なく輝き、呻きに似た振動を残しアンデットたちは
里の周囲から消えていった。

雷光のように輝く光と音が、天空でも戦いが続いていることを知らせていた。




空と大地との間を飛び回りながら炎を吐き続けるみゅん。
背中のカムロはみゅんへの攻撃を己の火で相殺していた。

みゅんの吐き出す炎は見えぬはずの敵の姿を影の形であらわにした。
その瞬間を逃さず、ドラツイが氷雨がメテオが襲い掛かり、
物理職が止めをさす。

「ギボディス様、こちらはお願いいたします!」

TUの有効範囲が里中すべてに行き届いているのを確認したCymruが、
自身にエビブレをかけなおし、カラドックたちが戦っているポイントへ
駆け出した。

「あなたも行きなさい」ギボディスの支援がプリムローズを包む。
母の眼差しに促され、プリムローズはCymruの後を追った。

戦えない者たちが集められた診療所周辺は、魔物たちにとっては恰好の標的。
四方八方から襲い掛かる攻撃から皆を護るため、
戦う者たちは総て被弾するしかない。
WIZやTUスキルが低いためこの場に残った本来は天使であるビショからの
回復魔法を信じ、傷つき倒れても、また立ち上がり戦う。

「お待たせいたしました、カラドック様、PTを」
Cymruのアーチとエレメがドラツイと雨の威力を激増させた。
倒れていた味方を蘇生しながら、間髪いれずに回復支援を続ける。

目の前には痛みに顔を歪ませてながらも、その場を一歩も動かず攻撃し続ける人々。
瘴気と殺気で覆いつくされ、血のにおい、髪の毛が燃えるような臭気が満ちている戦場。
運ばれてきた病人や怪我人の治療が専門のプリムローズは
この壮絶な状況に金縛りにあったように立ち尽くす。

周囲の状況に動ずることなく淡々と支援をするCymruを
呆然と見つめることしか出来ないプリムローズ。
「きゃ~!」突然どこからか襲ってきた攻撃に両手で頭を抱え、
自分にヒールをかけることもベルトのPOTを飲むことも忘れ、
しゃがみ込む。

”私、もうダメ”と思った瞬間・・・
”えっ!?”
プリムローズを庇い被弾したのは、この里で最もレベルの高い魔道士。
朦朧とした意識の中で聞いた”その2人、あのキャスガットの女とガキだ”という
憎悪を込めた声の主。
自身にアスヒをかけながらプリムローズにPTを要請する。
「よろ!物理PTなんでアーチとレスト頼むぜ」笑顔とヘイストが彼女を包んだ。
挨拶をする余裕はないシオンが一瞬振り向き、シマーをくれた。

Cymruから耳。
”お返事は不要です。
WIZ様、低下さま、範囲さま、タゲが集中する火力様計4名までにミラを。
エビブレを切らさずひたすらPTH。倒れた方にはリザと支援を。
PTの方々を信じて、皆様の真ん中で癒し続けてくださいませ。
プリムローズ様なら出来ます!”

プリムローズは深呼吸してから頷いた。
実戦への恐怖はもうなかった。




闇が薄れ始めていた。
シルエットであったスリウェリンたちがゆっくりと姿を現し始めた。

さすがに息が上がり、ドラツイを杖がわりにしたカラドックが
診療所に向かう。
「皆、無事か?もう出てきてよいぞ」

「カラドック様!」
「里長!」

駆け寄る里人たち。

「わしには里長と呼ばれる資格など・・・」

カラドックの言葉は里の人々の「我らが里長、カラドック様、万歳!!!」
の絶叫にかき消された。

その様子を笑顔で見下ろす天空のスリウェリンたち。

時は夕刻へと移っていた。

夕焼け雲が流れ天空に浮かぶ者達の姿を見え隠れさせる。
陽光が薄れるにつれ、彼らの姿がゆっくりと消えてゆく。

「ありがとう、兄者!」
「ありがとうございました」
「さようなら~」
「ありがとう!」

子供も大人も皆が天に向かい口々に叫びながら
一心に手を振り見送った。

「母さん、みゅんは?」シオンがキョロキョロと辺りを見回した。

「みゅん!どこだ?」エレナも周囲を探す。
「とっとと出てこないとメシ抜きにするぞ!」

プリムローズとギボディスもキョロキョロと辺りを探す。

カムロがトテトテと走ってきた。
Cymruが後から続いていた。「みゅんはここですわ」
促されたカムロが固く握っていた拳を開くと
そこには茜色の小さな勾玉。

勾玉が動いた。

(=^‥^=)σみゅんおつつだじょ♪

「みゅん♪」
微かな・・・聞こえたか聞こえないかわからないくらいの鳴き声、
でも嬉しくて嬉しくてたまらない想いが溢れている声。

その勾玉は夕焼け色の霧となりカムロを包むと
静かに吸い込まれていった。




ギボディス親子は里で暮らすこととなった。

(..=) (=^‥^=)(= ¨ )くんくん
(..=) (=^‥^=)(= ¨ )くんくん

春まだ浅い日、
Cymru宛てに届いた封筒からは甘い香りが漂っていた。

(=^‥^=)σいい匂いがするじょ♪

封筒の中身は、プリムローズの砂糖漬けと
この砂糖漬けを前に
エプロン姿のエレナ、シオン、ギボディス、プリムローズが
笑顔で並ぶ写真と手紙。


Cymru様、カムロ君

先日は誠にありがとうございました。

ほんの少し前まで冷たい風が吹いておりました里も
ここ数日はめっきり春らしくなってまいりました。

来週か再来週のご都合のよろしい日に
お弁当とお菓子を山ほど抱えてハイキングいたしませんか?

里からすぐの所にプリムローズが群生する
とても美しい場所がございますの。

そこでなら
Cymru様とカムロ君、ハリス様、エレナ様、シオン君と
キャスガット、私とプリムローズとみゅんで
楽しく過ごせることと存じます。

お目にかかれる日を心待ちにしております。

ギボディス拝


カムロに手紙を読み聞かせたCymruは、
微笑みながら右手を上げて言った。

「ハイキングに行きたい人、挙手」

σ(=^‥^=)ノ

みゅんを吸収してから少し力持ちになったカムロが
元気一杯左手を上げる肩越しに
「みゅん♪」
胸を張り、カムロに負けず劣らず元気一杯に左羽を上げるみゅんの姿が
Cymruには見えた。


-外伝 完-

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