Moyashi

Moyashi

有無

有無1



 彼はその作ったラーメン入りの鍋をどこに置こうかとずっと考えていた。この小さすぎるキッチンで余計な物を置くスペースなんてものはどこにもなかった。小さすぎる電気コンロと小さすぎるシンクでこじんまりとしたサンゴ礁のような空間が成立していたし、向かいに設置したパイプ製の棚の上には整然とした都会のビル群を思わせるほど密集して区画されている日用雑貨がいろいろと自己主張していた。本来置く場所ではないはずの冷蔵庫が、かろうじて保たれているインテリア感を無視してはみ出して置いてあって、時折それを思い出した彼のことを心底うんざりさせていた。機械的なまできっちりとした風景を彼は良しとしていた。だが場所的にも金銭的にも-後者が彼にとって主な理由として影響していた-そのような派生としての日常を作り出す余裕はなかったし、なにより彼は諦めと呼ばれるものを覚えてしまったばかりなのだ。ひび割れた自らの裂け目に手をいれ、脱ぎ捨てた残骸を過去の延長線へ置き去りにしてしまえば良いだけだ。実は簡単なことなんだと気づいてしまったことへの不安は彼を一時的に後悔に浸せた。体の中心から硬いものが押し上げてきて肺いっぱいに広がる。首から腰にかけてだるさを感じたので壁にもたれかかる。
 彼は慎重に後悔の出所を探っていた。結局、後悔というものは探れば探るほど好調な潮干狩り以上にずるずるずるでてくるものだ。日々の忙しさというものは人間が作り出す無駄な行為を埋もれさせてしまう。前を見ず振り向くことがいけないのではなく、単に後悔を真剣に見つめ直すのが怖いからではないか。そして諦めと隣り合わせになってそれは過去の思い出の渦の中に点在して、常にこちら側を窺っている。それらをいみじくもいとおしいと感じる自分とは表象に取り憑かれた病人なのか。
鍋の中の麺はもう伸びていた。彼はゴミ箱にそれを捨てると、壁に寄りかかって伸びた麺であったものをずっと見つめていた。日は高く昇りきった。暖かい空気が足元に流れ込んで、午後のとてもよい時間を彼に知らせる。彼は二日後に死体で発見される想像をしてみた。あまり気分の良いものではなかった。



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