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大きなバスから男性が降りてきたらドアが閉まって走り出した。もしかしたらあのバス!? と思って裕子はバスを追い掛け始めた。「片山さん どうしましたか?」 とバスから降りた男性が言った。はたと立ち止まった裕子。「あっ先生!!」21 浅野内匠頭 に登場した医師だった。 「片山さん バスに忘れ物でも?」「あぁ そうじゃないんです でも私の名前をおぼえていてくれるなんて」「カルテに名前のある方のことは毎日考えますよ 今日もお健やかかと それが医師の務めです」 ガタガタと裕子の身体が崩れ落ちて座り込んだ。 「大丈夫ですか?」「先生 見て下さい ホテルの入口に二人の女性がこちらを見ているでしょう?」「えぇ」「私 あの二人と一緒にいるのが嫌になってしまって」「それはよくあることです」「えっ」「私がお断りしてきますよ」 「先生にそんなことさせるなんて」とってと「私も船のスタッフの一人ですから 私のあとをゆっくり歩いて来て下さい」 とさっさと歩いて行く医師。裕子は立ち上がりホテルの入口を振り向くと医師の背中が見えた。この先生こんなに背が高かったかな? 何だかとっても魅力的に見えて来た。 ホテルの入口に戻ったらもうツッコミとボケはいなかった。「片山さんはお疲れなので少し休ませますと言っておきました」「ありがとうございます わたくしも助かりました」「ホテルのお買い物に行かないようでしたら お付き合いいただけませんか?」「えっ」「他のスタッフに連絡しておきますから ホテルのタクシーなら安心です」「どこに行くんですか?」 医師は何も言わない。裕子は心の中でわたくしをデートに誘うおつもり? と聞いた途端医師が言った。「まるでデートですね 片山裕子さん よろしいですか」
2024.09.21
バスがホテルの地下駐車場にぐるっと回って行った。止まると船のグループたちかゾロゾロと一緒に出て行く。裕子と聡美はよくバスの前の方の席に座っていたが一人っきりの裕子はバスから離れなければいけないのになかなか出ていけないでグズグズしていた。バスの通路を通っていった女性の一人が裕子を振り向いた。「あら 裕子さん? よね」「えぇ」 裕子は心の中でしまったと思っていた。自分の名前を知っている人の名前がわからない。どうしよう?「一緒の方は裕子さんのお嫁さんと同じ名前で嫁はイマイチだけどあの方はとてもいい方って」「私そんなこと前に言ってました?」 かなり自分が恥ずかしくなる。「後ろの方たちも待っているから急ぎましょ。裕子さんも私たちと一緒にホテルでお買い物しません?」 裕子のお尻がぐぐっと軽くなった。彼女ともう一人の彼女に付いてやっとバスを降りた。だが3人で歩いているとやはり二人連れにはみ出した人が一人。そんな感じ。そして二人で歩いているとたいていおしゃべりとそうでもない人。漫才のツッコミとボケみたい。駐車場のガラスの向こうがホテルの地下2階。向こうにある大きな花瓶にあふれるほどの真っ赤なバラが挿してあるのが見えた。ガラスのドアが開いた途端ツッコミが振り向いて言った。「彼女の噂話知ってる?」 裕子はよく話を聞かず彼女の向こうのバラに見惚れていた。「キレイ!! 印度でもやっぱりバラですね」「悪いわね 私はキレイじゃなくて」「えっ そんなこと」「裕子さんと仲いい方」「聡美さんのこと? ご主人は貿易会社の社長さんで時々港で会うそうですよ。ポンペイでデート。いいわね 夢みたい」「夢じゃなくて嘘でしょう?」 ボケが横でクスクス笑った。ボケはあくまで無口だ。「聡美さんが嘘つきなんて」 「信じていらっしゃるならそれでよろしいですけど」 ツッコミはそう言ってボケとスタスタと歩いて行った。こんな人たちと一緒にいたくないと裕子は思った。二人の後ろ姿に「ごめんなさい バスに忘れ物しちゃいました 後で行きますから」 と走り出した。 戻っていく裕子に「ここで待ってますよ」 ボケはやさしいがうっとうしい生き物だ。 裕子はバスに戻ろうとしたけど見つからない。忘れ物なんてないけどどうしよう!? 聡美の悪口をいうあの二人とじゃ嫌だけど一人では何も出来ない裕子だった。さてどうすることやら
2024.09.14
3/2に横浜を出て22日の朝8時頃にボンベイ港に着く。印度といえば広い国、男の人は頭にターバンを巻き白いタプタプの衣服をまとい、裸足で砂の上を歩いている風景を裕子は想像していた。そろそろお出かけしようかと裕子は化粧品をパタパタとつけていた頃船の船長のアナウンスが聞こえた。「ボンベイの港が見えて来ました。埋立地に高層ビルが林立しているのがポンペイの港です」 裕子は急いで窓に近づき目の前の風景にカルチャーショックを受けていた。 支度を済ませた裕子はたまたま階段の途中で聡美に会った。今日も一緒にいられる聡美が裕子は大好きだった。「聡美さん、印度のこと、色々教えて!!」「ポンペイは印度の西の玄関口で経済活動で政治の首都はニューデリーよ」 船に初めに乗った裕子と違って聡美は何でもよく知っている。「印度は都会なのね〜失礼しました」 聡美は何故か早足になっていた。慌てて裕子も早足になる。「でも公園では女性が裸の赤ちゃんを抱いて物乞いをしているのに仰天した人がいるそうよ」「え〜」「だけどよく聞いてみると赤ちゃんは1日いくらで借りるらしいの」「すごい話で日本では考えられ」 裕子の会話の途中で少し先を歩いていた聡美が少し大きな声を上げた。「あー、ごめんなさい」 と立ち止まり振り向いた。「聡美さん、どうしたの?」「今日は久しぶりに主人に会うの」「あっ」「ごめんなさい、急いでるから」 小走りで去って行く聡美。がくんと元気がなくなってしまった裕子だった。印度は寂しいところ
2024.09.07
裕子はパーティ場の片すみで一人でダンスの練習をしていた。そばにいた人たちも彼女がそんなことをしてもさして興味を持たなかった。何しろこの夜は普通の人などいない仮面舞踏会だから。 そして肩を叩かれた裕子は振り向いてホッとした顔になった。「聡美さん」だが首を振りながら「はじめましてサトシです」と答えた。仮面を付けた男装麗人だったからだ。「ご主人の?」「亡くなった父の。かなり古物」「でもすごいわ! 似合ってる」「それより何してるの」「ピエロが私とダンスをしたいらしいの」「私が右足を出したらあなたは左足を引く あなたが右足を出したら私は右足を引く 」「サトシさんも同じこと言われたの!?」「くるりと回ってオーレ!」「オーレって掛け声でしょう?」「スペインの闘牛士よ。真っ赤なファーの扇子みたいな色で牛を誘うのよ」「私が牛?」「それより写真撮ってくれるそうよ。裕子さんもステキよ」 と手を引っ張った。サトシはいつもより強引だった。 写真コーナーではそれこそ多種多様。大きなお腹のカエル、インドのサリー、ミツバチマーヤ、オテモヤン、日本髪の人、ヒョウにカンガルー。裕子は小声でこっそり「私たちが一番まともよね」 大きくうなづいてからサトシは「でも一番の大物がいるわ!?」 サトシが知っていた船の中で一番年上だった老婆が赤ちゃんの格好をしていた。その彼女を見て「わぁ、みんないつかはああなるのね」 大きくうなづく二人だった。 酔っ払って部屋に戻った裕子は夢を見た。ピエロが船の中で一人で踊っていた。くるくる回って右手を上げて「オーレ!」。そう言ってグスグス泣き出した。「ピエロどうしたの? 泣いたりして」「ボクのこと忘れたんだね」「えっ!?」「一緒に船に乗ろうと言っただろ?」 裕子はその声で目を覚ました。「忘れてた」 まだなんの整理も出来ていない段ボールの山。引っかき回している裕子。「あったー」 裕子は家から持って来たピエロの人形を裕の位牌と写真の隣りに置いた。そして裕子は自分がどんどん物忘れが酷くなることにまだ気づいていなかった。
2024.07.18
裕子はマフカレードナイトという東野圭吾の単行本があると人に聞いていたけどまだ読んでいない。マスカレードとは仮面舞踏会のこと。そしてある日そんなパーティが始まった。 裕子は先日上海で購入したチャイナドレスをさっそく着ることにした。部屋で着てみて「まんざらでもないじゃない!?」 鏡の前でクルリと回って見せた。パーティ用の小さなキラキラバッグは持ってきている。だけどもう一つあった方が華やかだ。そういえば船に乗るのが初めての裕子と違って聡美は何でもよく知っている。「船には衣装部があるのよ。パーティのときに足りないものがあったら何でも貸してくれるの」「へぇ」「でもみんな借りに来るから早く行かなくちゃね」 そうだ!! 廊下を走りだす裕子。 そして一夜の仮面舞踏会。 裕子は衣装部に行ったりして遅刻してしまった。ドアを開けて驚いた。すごい人。元々この船では知っている人は少ない。その上チラッと会ったことのある人でも仮面では全くわからない。スタッフたちも仮面を付けている。 ただ一人だけ仮面を付けていなかった。ピエロの格好をしていた。顔を真っ白にして赤い丸い鼻を付けている。仮面を付けたらこの良さはわからない。そして裕子に始めて近づいたのもピエロだった。「踊りましょう」「私踊れないんです」 ピエロは泣きそうな顔をしていて突然向き合って裕子の両手を握った。裕子は右手にバッグ、左手にファーの真っ赤な扇子を閉じたまま持っていたが無理矢理握られた。「私が右足を出したらあなたは左足を引く」「えっ」「今度はあなたが右足を出して私は左足を引く」「ちょっと待って待って待って」「右に2歩左に2歩 手を離してくるっと回って右手を上げてオーレ」「何それ?」「掛け声ですよ」「へぇ」「お酒取って来ますよ。ビールでいいですか?」「えぇ」「練習してて下さい」 仕方なく練習を始めた裕子だった。
2024.07.11
インド洋の海水を引いてプールになっている。裕子はインド洋で泳ぐなんて一生に一度出来事だとさっそく申し込んだ。ただこうやって船に乗ることは1人分300万ぐらいで済むらしいがインド洋のプールで泳ぐとなると別に必要になる。アップする。また別に申し込むとアップする。最後はアップアップの裕子だ。 そんなことより裕子が心配したのは別のことだった。ベッドの横に置いてある時計がカチッカチッとするだけで静かだ。誰もいない。裕子はバスルームにいた。息を止めたのにギチギチ音がする。裕子が持ってきた水着が縮こまっている。イヤ、縮こまったわけではなくて船に乗って美味しいものばかり食べて来たから身体がぶよぶよになっただけ。汗がどっと出てきた。要するに冷や汗😅 みんなでプールに入った。まるで女子高生がプールに入ったような賑やかな声。プールの周りにスタッフの何人かが立っている。その中の一人。「はーい、皆さん!! ゲームを始めま―す。もしかしてまさか泳げない方はいらっしゃいませんよね」 みんなでコクンとうなづいたが裕子が叫んだ。「私泳げません!」 どっと笑い声。スタッフも苦笑いで「では水の中で歩くゲームをしましょう」 舌を出した裕子は周りの人に謝った。少し離れていた聡美が人をかき分けながら近づいて来た。「よかった! すぐに見つけられると思ってたけど人が多くてビックリ!! 泳げなくてよかったわ」「なんか慌てて聡美さん探す余裕なくて」 裕子は水着のお腹あたりにスカーフを巻いている。それがプールの水に漂っている。「裕子さんおしゃれ!! 水着の白とスカーフのピンクがよく合ってるわ」「いいえ、たまたま」 水着はやっと着れたけど着てみるとお腹がまるで相撲取りに見えた。それに白い水着のあそこあたりのヒゲが少々長くて見えそうで気持ち悪い。女性用ひげ剃りは船にもあるだろうけど買いに行く時間も全くなかったからね。非常に緊張したプール遊びとなってしまいました。インド洋の海水
2024.07.03
クルーズ船の廊下を裕子は歩いていた。階段の途中で同じ階の夫婦と出会う。妻は上海のデパートで共に過ごしていた仲間。喜んで一緒に歩くことにした。 彼女の話で今日のレストランではインド料理の有名シェフがインドカレーを作っているという。レストランに入り裕子は夫婦と同じテーブルに座った。食べるの大好きな裕子はもうワクワクしていた。頼んですぐにインドカレーが3人のテーブルにやって来た。「いい香りですね!」 妻も大きくうなづく。ナンも来た。ドキドキしながら口にする裕子。 「美味しい〜」 喜んでパクパク食べる。ナンも食べながら「ナンもカレーと合いますね!」 妻を見ると困ったような顔をしている。夫は食べているが首をかしげている。キョトンとし頼んで裕子。「カレー苦手ですか?」「いいえ〜ただこの人(夫を見ながら)大好きなんですけど」 「だったら」 口元を隠して、「好きなのはグリコアーモンド。アレ甘いでしょ。これとは違うそうですよ」 クツクツ笑う裕子。他のテーブルを見ながら、「グリコアーモンドはないようですけど、ナンの代わりにごはんはもらえるかも!」 聞いた妻は立ち上がってスタッフに近づく。夫は裕子に感謝していた。 その時近づいて来る聡美。。「裕子さん、こちらにいらしたのね」「あら、聡美さん。おいしいから、私もごはんいただこうかしらと思って」 ごはんを持って戻ってきた妻に挨拶しながら聡美は「私はナンしか食べなかったわ」 夫の前にだけご飯を置いた妻も「私もごはんは食べません!」「えーっ」 と叫ぶ裕子。怪訝な顔になる。聡美と妻は二人でニヤッと笑って「忘れちゃったの?」「何だっけ?」「ナイショ」「意地悪ね」 聡美と妻は声を合わせて「今日はこれからプールよ!」「あ〜。そうだった!?」 立ち上がる裕子。
2024.06.26
裕子は自分の部屋のベッドに寝転んでいる。ノートにメモを書いている。「寄港地上海、日本は清潔、シワ取りクリーム、クマ取りクリーム」と思い出しながら書いている。「あっ! シルクのパジャマ」 と書きながら「忘れてた!」 ベッドから降りて、紙袋に入れたままのシルクのパジャマを引っ張り出す。「試着試着」 バスルームに向かう。数分経ってベッドルームに戻って来る。ピンクのシルクのパジャマを着ているが、鏡に写してゲラゲラ笑う。袖口も裾も長い。「まるで松の廊下の浅野内匠頭だ」 笑いながらバスルームに戻る途中にひっくり返ってベッドの角に頭を思い切りぶつけた。しばらくの間、頭をかかえる。またベッドに寝転ぶ。「いたた」 ベッドのテーブルにいつも置いてある小さな鏡で見るとコブが出来ている。 少々目立っている。裕の声が聞こえる。「そそっかしいから気を付けて下さいよ」 舌を出してコブによだれを付ける。 仕方なく裕子は船の診察室に出かけることにした。 診察室は静かな部屋だった。たった一人でやってるのかなとキョロキョロと眺める。 裕子の頭を見ている医師は頭を動かす裕子に少々困っている。「母はくも膜下、父は脳軟化、私も血管弱いんじゃないですか?」「大丈夫です。お薬付けましょう」 と言いながら塗り薬を付けている医師は「でもそそっかしいから気を付けて下さい」 ハッとして医師を見つめる裕子の目から涙がボロボロ落ちてきた。「どうしました?」「主人が私によく言ってたんです。先生と同じこと」 裕子にティッシュペーパーごと渡す医師。「主人は先生と同じ仕事をしていたんです」「なるほど」 また泣く裕子。 裕子は夜また部屋でベッドに寝転んでいた。ノートに「浅野内匠頭」と書いている。そして裕の位牌を横目で見ながら「パパのライバル」とも書いて位牌の隣に置く。そして 電気を消した。
2024.06.19
クルーズ船の裕子の部屋で明け方グツグツという着岸のエンジンのエンジンの音がした。位牌もガタガタと動いている。隣りの時計は四時になっていた。よく眠っている裕子だった。 上海バスで乗って並んでいる裕子と聡美。上海通りではバスの両側には箱型の家が並んでいる。家の二階の窓から長い鉄製のパイプが張られ、それには長い竿がかかってある。いい天気で竿にはにぎやかな服がパタパタと揺れている。 一番前のガイドが「浅草の仲見世みたいなところです」聡美は裕子に「デパート行きます?」 嬉しそうにうなづく裕子。 デパートの玄関に付いた裕子だが「私の用事ばかりじゃ迷惑かけるから、30分後にね」 といい出して二人は別れた。 自分が買い物したい時は他の人と別に行動すること、みんな同じものがほしいわけじゃないからね、人に押付けちゃだめだからね、と鞠子に言われたから。これじゃあ、どっちが親かわからないけど。 裕子はまずは書道店に行き高そうな硯を買う裕子。そして寝具店でシルクのパジャマを購入する。 そしてお手洗いお手洗い、すっかり忘れていたから見つけて入っていく裕子だが、ギョッとする。ドアには鍵が付いていないのだ。 バッグをぶら下げるフックも付いていない。 30分後に玄関で出会う裕子と聡美。デパートを出ていく二人が並んで歩きながら、「聡美さん初めてじゃないから知ってたんでしょ。トイレ汚いのね」聡美「びっくりでしょ」裕子「日本のトイレはとても清潔。ありがたいありがたい」 そんなことを言いながらバスに乗り込む二人。 上海バスで金融街を行く。バスから街を眺めると建物は全てヨーロッパ調。 また別のデパート到着。入ってきた裕子と聡美。クルーズ船仲間の何人かと会う。その中の二人「ここのシワ取りクリームいいそうですよ」 裕子は聡美を見る。「知らない知らない」 と首を振る聡美。「私10個、こちら30個」「とてもいいんですよ〜。私はあとはイタリアのオリーブ油、それだけ」 シワ取りクリーム、イタリアのオリーブ油とメモを書く裕子。「ママ、みんな同じもの買わなくていいのよ」 早速化粧品売り場に到着した裕子と聡美もシワ取りクリームを購入。また別のクルーズ船仲間の二人の女性が近づいて来た。一人の「クリーム買った?」 の言葉に嬉しそうに「買った買った」の裕子は10個のクリームを見せる。「じゃなくて他にもあるのよ」「他の人に聞いたんだけどクマ取りクリームもいいそうよ!」 いいながら二人はクマ取りクリーを10個見せた。顔を見つめ合う裕子と聡美。 中国服販売場ではクルーズ船の仲間たちがかけてある中国服を眺めている。裕子と聡美もいる。その中の一枚を裕子にかけてみる聡美。「えー」 といいながらまんざらでもない裕子。更衣室で着替えている。「ジャジャジャジャーン」 中国服を着て出てくる裕子。モデル風仕草に仲間たちがキャッキャッキャッキャッ喜んでいた。
2024.06.12
、廊下をてくてく歩いている裕子。そしてぺちゃぺちゃ自分の心と話をしている。A対Bみたいなもの。「今日はどんな服を着る?」「あら、勝手に船が決めるときもあるのよ」「何それ?」「何それ? よね」 裕子はたまたま出会ったスタッフに近づいた。近づいて来た裕子ににっこり笑うスタッフだが裕子はにっこりというより心配事があった。 「私、ドレスコードがイマイチわからなくて。今日はどんな服を着るか船に決められる日もあるんですよね」「そういう日もあります」「そんな〜」「特に詳しいアドバイザーがおりますからご相談いかがですか?」 裕子は大きくうなづいた。 サロンルームでは何人かの客の中央で話をしているアドバイザーがいた。 裕子を連れたスタッフがアドバイザーに近づいた。「お客さまがドレスコードのことをお聞きしたいそうです」「そうですか、どうぞどうぞ」 と言いながらアドバイザーは裕子の椅子を持って来た。 お辞儀して裕子もイスに座った。 前にあるボードに書きながら話すアドバイザー。「フォーマル、インフォーマル、カジュアルがあります」 と書いてから手を止めて座っている何人かの人たちの顔を順番に見る。「皆さまの中にはお子さまのいる方もいらっしゃいますよね」 何人かがうなづいた。裕子も隣りの女性を見つめる。彼女も同じようにうなづいた。「お子さまがご結婚なさった時はさぞや大変でしたでしょう。そのくせ黒の留め袖でジミーにしなくちゃいけない」 またまたうなづきあう女性たち。 「今のことは横に置いておきましょう。今、大事なのはフォーマルです」 「注目!!」 やっぱりアドバイザーって人を引き付ける仕事なのね。学生時代の注目と同じかもしれない。私はこうはなれないと裕子は思っていた。「フォーマルは甥御さま姪御さまお友だちの娘さんの結婚式がよろしいです」 ホォー、大きくうなづく裕子たち。 裕子は帰りの廊下でサロンルームで近くにいた女性たちもいた。みんな一緒なんだなと裕子はつくづく思った。「勉強になりますね。インフォーマルは同窓会、カジュアルは父兄会の感覚で」 一人の女性がにっこりと笑った。後ろから小走りに来た別の女性が笑顔の彼女を 「聡美さん」と呼んだ。笑顔の聡美さんが振り向いた。「あ、明日のことですか?」「よろしくお願いします」「こちらこそです」 お辞儀をしながら去っていく女性。「聡美さん、うちのお嫁ちゃんと同じ名前!」「あら、いいお嫁ちゃんですか?」「ぼちぼち」 聡美は笑いながら「それより明日のご予定は?」「まだ何も」「でしたら、ご一緒しません? 寄港デビューですよ」「わぁ、聡美さん、是非是非。私、裕子です」 握手する二人。
2024.06.05
ベッドで横になって「一人ぼっち」と書くと例によってグスグスと泣き始める裕子。そしてまたいつしか眠っていた。どれぐらい時間が経ったのだろうかドアでコトンという音がした。目覚めた裕子がは立ち上がりドアに近づいた。廊下から部屋に差し込まれたのはクルーズ船の新聞だった。手にした裕子は今度はベッドであぐらをかいて読みはじめた。パラパラと目にしていたが一つのコーナーに目が止まった。 〜ドレスコード〜 ベッドの横の小さなテーブルには裕の位牌と写真とノート。そして眼鏡、半分に折れる小さな眼鏡だが〜ドレスコード〜の下の文は少々小さかったの眼鏡は大事。こんな風に書いてあった。 ドレスコードとは「服装規定」の意味。 場所や時間、シーンに応じた服装の基準・ルールのことで、その場の雰囲気を壊さないため、周りの人の気分を害さないために定められる。 高級ホテルやレストランなどではドレスコードが決められていることがあり、スーツやドレス、ワンピースなどの服装が適切とされる。 読みながらまだハッとして段ボールに近づく。ん!? のんびりとベッドであぐらをかくどころじゃない。その前に一人ぼっちと泣いてるどころじゃないんだ。裕子は段ボールを開けて中の洋服をいくつもひっぱりだす。まだ別の段ボールに近づく。そして叫ぶ。「ない!! じゃあどこにあるの!?」 一人も部屋の中ならおしゃべりできる。そして相手は自分だけ。とてもカワイイ生き物です。ドレスコード
2024.05.29
船内のモーニングルームで窓の外を見つめる裕子。コーヒーを運んでくれた外国人は若いスタッフだった。「ありがとう」という裕子にお辞儀して戻って行くスタッフ。「あなたはどこの国の人?」「フィリピンです」「フィリピンではありがとうは?」「タガログ語でサラマッポです」 裕子にサラマッポと言ってお辞儀する。お辞儀して戻るスタッフ。ゆっくりと時間が流れていった。 裕子が海がよく見える場所に行くと賑やかな声が聞こえた。たいていご主人が奥さんを写真に撮っている。その時二人が交わす言葉。だけど一人の人は何も言わない。心で思うだけ。裕子がキョロキョロ眺めるとイスに座っている一人の女性が見えた。裕子が近づくととてもいい笑顔を見せてくれた。裕子が何か言おうかと思った途端、彼女は立ち上がって手を振った。「主人です」 裕子が振り向くと男性が近づいて来た。「主人は船中ウォーキングしてました。これから朝食、その後はジム通い」「ジムいいですよ」 近づいてそういうご主人に「マッチョですか?」と笑顔になる裕子に「いやー、毎日ジムに行きますからいらしていただいたらお見せしますよ、マッチョ」「やぁねぇ、余計なことを言わないの」と言われて引っ張られて遠ざかっていく。 去っていく二人の背中を眺める裕子。一人と二人は付き合えない。一人にはやっぱり一人がいい、そう思った裕子が飛び上がった。パパ! 忘れてた!! 裕子は家を出掛ける時に大きなバッグに花柄で包んだ裕の位牌を入れていたのにすっかり忘れていた。「パパ! ごめんなさい」 ベッドの隣りにあるテーブルに裕の位牌と小さな写真を飾った。それからノートを出して来た。そして靴を履いたままベッドに寝転んで書き始めた。1ページ目に書くのは スズキムタク 桜と梅 至福の夜 フィリピン語でサラマボ マッチョ そして最後に書いたっけ「一人ぼっち」
2024.05.22
裕子は一度自分の部屋に戻ったがまた部屋を出た。 廊下を歩いて一つの部屋の前で止まった。マを小さく叩いたら何も言わずドアが空いた。 「お邪魔します」と入ってゆく裕子。少し経ってから廊下で裕子の声が聞こえた。 「あっ、そこです。至福の夜〜たまりませんわ」 廊下の壁の時計は10時30分を指していた。 部屋にいる裕子以外の声は聞こえなかったから一人でおしゃべりに夢中になる裕子だった。「始めは片山さんだったのにいつの間にか裕子さんに変わっていて」 そう言ってはクスクス笑っていたがまた急に声が変わった。 「あっ、そこです〜ホントにシアワセ」叫ぶ裕子。
2024.05.15
裕子がクルーズダイニングルームの入口に 近づいたらもうスズキムタクは待っていた。二人でメインテーブルに入っていった。スズキムタクはキョロキョロ眺めて「今日は自由席だそうですね、どこにします」といった。「じゃあここに」と裕子はすぐそばのテーブルにした。「そうしましょう」 二人で向き合って座りかかると途端に近づいてくる二人の女性がいた。一人が「よろしいですか?」という。突然の言葉なので「ハイ」と答えてしまった裕子。言葉には出さなかったけどスズキムタクに「いい?」と目で聞いていた。スズキムタクは愛想よく「どうぞ」と答えた。空いている四人テーブルは他にもあったけどだからって断るほどもなかったからだ。 食事しながら四人の会話はこんな風だった。近づいてきた二人はどうやら姉妹だそうで上がサクラコ下がウメコ。ウメコの方がよく喋る。見た目はあまり変わらないけれど名前のせいで下の子の方がひがんでいたのか自分を主張してきたのかずっと喋っている。裕子はそんな気がした。桜と梅じゃね。梅は花というより梅干しだ。シワシワでオバァさん。裕子がそう眺めていたら当然ウメコは言い出した。「ご夫婦で世界一周羨ましいです」 裕子は「えっ!」と息を止めるようにして「違うんです。さっきお知り合いになったばかりで」「妹は余計なことを言う子なんです。すいません」 やっぱり桜が付いた名前だから余裕を持って生きてるなぁと裕子は思っていた。結局最後のウメコの話は梅干し。「身体にいいの」で終わった。 メインテーブルを裕子とスズキムタクは出ながら笑っていた。「笑いが止まりませんでした」「私は上手に話せない方なんで裕子さんにどう話したらいいか悩んでました」「私もです。桜と梅のおかげですね」 と言って別れた。 メインテーブルでサクラコとウメコはまだコーヒーを飲んでいた。ウメコは「夫婦じゃなくてよかったわ」「ウメコ好み」「それより持ってるかしら? 名前聞いとけばよかった」「真っ赤な糸がつながってたら、また会えるわよ」「ホントお姉さんは。楽天家」 呆れ顔になるウメコ。<a href="https://novel.blogmura.com/novel_novelistshibou/ranking/in?p_cid=11145204" target="_blank"><img src="https://b.blogmura.com/novel/novel_novelistshibou/88_31.gif" width="88" height="31" border="0" alt="にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ" /></a><br /><a href="https://novel.blogmura.com/novel_novelistshibou/ranking/in?p_cid=11145204" target="_blank">にほんブログ村</a>
2024.05.08
ドラが鳴る。 船がゆるやかに動き始めたから裕子はテープを握りしめる。隣の鈴木は「あなたのおかげだ。一人ぼっちで日本を離れるんだと思ってました」「私も同じです」「だったら今夜もお付き合いできますか?」「喜んでた!」「スズキタクヤです。五時半にダイニングルームでお待ちしてます」「嬉しいです」「ではお先に」と離れていく鈴木。鈴木の後ろ姿を眺めて「スズキムタクだわ」とつぶやく裕子。人々がどんどんへっていったが、裕子は最後まで横浜港を眺めていた。 やがて誰もいなくなったクルーズ船の廊下を歩いていく裕子。少々ため息交じりで自分の部屋で立ち止まる。鍵を開ける! ドアを押す!! だがなかなか開かない。部屋の中にある段ボールに引っかかっているからだ。「はぁ」 苦労してようやく中に入れたが山ごとの段ボール。ベッドに座る裕子。やがて緊張しすぎて疲れ気味。いつしか一眠り。 どれだけ眠ったのかわからず船長のアナウンスの声で目を覚ました。「只今船舶の銀座と言われている浦賀水道を通過します」 慌てて窓に近づく裕子。広い海と白い波が漂う。「銀座四丁目が懐かしい」 ベッドに戻る裕子だったがまた船長の声がした。「左舷に潜水艦が通り過ぎます。ご覧ください」 また窓に飛びつく裕子。黒い大きな塊。水しぶきが見える。塊の頭には太い望遠鏡がありチカチカと点滅していた。
2024.05.05
ホテルのランチを食べている鞠子と喜子。「タイタニック号のことで弁護士になったのです」と鞠子。「何それ」「船で沈んだら今の土地はお兄んにあげたいみたい」 「なるほどね、よくある話」「私はいらないもの」「ホントかしら?」「いざとなれば?」ニヤッと笑う鞠子。 出国ゲートを超えて鈴木さんと別れた裕子はときめき気分で自分の部屋を探す。船の小さな丸い窓から海が漂う。船旅だ!! でも広すぎてまだホテルにいるようで船に乗っている感覚がまるでない。 裕子はやったー自分の部屋を見つけたのだ。小声で叫ぶ。鍵で部屋を開ける!! そしてこっそり開ける!! が入るがすぐに出てきた。それからまた入って大きなバッグを押し込んで出てきた。大きいバッグを中に押し込んでからまた出てきて「私の部屋」 とつぶやく。振り向きながら離れていく裕子。 裕子が階段を上がって行くとメインデッキから賑やかな声が聞こえた。裕子もその声に入りたかったのにもう人が溢れていて座る場所など一つもない。 鞠子と喜子は港の方から船のメインデッキを眺めているが裕子が見つからない。 鞠子はクスクス笑いながら「船からテープを投げるなんて明治時代風ね」 「昔は船で帰れないのも当たり前。それより裕ちゃん、どこ?」 二人でキョロキョロしている。 一方裕子はメインデッキをウロウロしていたら遠くから声がした。「片山さん、片山さん」と呼ばれた。「えっ! 私?」 今度はデッキで裕子の方がキョロキョロした。「片山さん片山さん! 私鈴木です」と手を振っている。「鈴木さん!」大声で叫ぶ裕子。鈴木はちゃんと裕子の席をとっていた。大喜びで飛んでいって「鈴木さんありがとうございます。家族が見つからなくて」 船長の挨拶も途切れるほど家族を呼ぶ声が溢れていた。「あっ、いたいた」 見送り場でやはり鞠子が一番先に裕子を見つけた。裕子に手を振ってみる。喜子も背伸びした。 ほとんど同時に裕子も鞠子と喜子に気づいた。「あっ、あそこ! 娘と姉です」 メインデッキでは鏡割りが始まった。鈴木は裕子にたくさんのテープを渡した。「こんなに! 私一つでいいです」「片山さんは家族がいらっしゃるからいっぱい投げて下さい。私には家族がいないから」「じゃあ鈴木さん、娘に投げて下さい」「では、あちらですね」 鈴木は嬉しそうに鞠子にテープを投げた。テープがひらひらひらひら待っている。さすがに鞠子のところまでは来なかったけど裕子と鈴木は寄り添って見えた。「さっきいた人? もう仲良しね」「パパの位牌持たせたのにね」「位牌!?」「世界一周見せたいもの」「血のつながりって、恐ろしい」 そしてゆっくり船が離れ始めていた。
2024.04.25
いよいよの朝。パタパタと支度をしている裕子。聡美は内階段を二階に上がって行く。そして裕子のリビングルームのドアを叩いた。「ハイハイ」と裕子の声。聡美はドアを開け「お母さんお気を付けて。私は用事があるから横浜港には行けないけど」「いいのいいの」「時々は窓開けて空気の入れ替えしておきますから」「ホントにいいお嫁ちゃんで良かった良かった」 と例のセリフで笑顔たっぷりの裕子だった。 聡美は笑顔を軽く流してトントンと内階段を降りた。そして一階のリビングルームのソファに座って大あくびの聡美。しばらくしたら外階段のカツンカツンと降り音に聡美は小声で「行ってらっしゃい」 一方裕子のニ階の静けさ。少し乱れたベッドの隣のテーブルの上に花がらで包んだ位牌があった。 そして聡美はソファですやすや眠っているが近づいてくる車の音で目を覚ます。車が止まる音。ドアが開く音。裕子の声「お願いよ。待っててよ」 外階段を上がる音。カツンカツンカツンカツンカツンカツン。しばらくして降りてくる音。 「いつもお騒がせ」聡美は小声でクックッククックックと笑っていた。車が再び走り出した。 横浜港大桟橋全景。入口では自動車やタクシーが並んでいる。大きめのバッグを抱えている裕子は途中でタクシーを降りたらしい。鞠子は裕子に気づいたようで少し離れたところから飛んで来た。「ママ、遅い」「忘れ物しちゃって」「マサカ、パパ?」「そんなわけないでしょ」「なんでもいいけど、遅い遅いって叔母様ご立腹よ」 話しながら走って進む二人。当たり前だけど人があふれている。集合場所に飛び込むと遠くから手を振っている喜子。「裕ちゃん遅い遅い」「ごめんなさい、お姉ちゃん」「ママ、もう出国ゲートに行かなきゃ」「そうね」 裕子は改めて喜子の両手を握る。「お姉ちゃん、色々ありがとう。いつまでも元気でいてね」「なぁに?」 裕子は今度は鞠子に「私がいなくなったら弁護士さんに会って」「わかったわよ」 喜子は怪訝で「弁護士?」 慌てて一方的に「じゃあ」と叫びバタバタと小走りになる裕子。彼女の背中を眺めている鞠子と喜子。裕子は出国ゲートに入って行くのが見えたがもう裕子に話しかけている男性がいたのが見えた。「もう彼ができたの?」「マサカ」「それより裕子が弁護士って何!?」 「叔母様〜美味しいランチをいただければ告白しますよ」「そういうところが裕ちゃんにそっくり」と呆れ顔を、。 出国ゲートでは白髪の男性が裕子と話していた。御愛想の裕子はあまり知らない人でもニコニコするのが得意。挨拶する彼に「どこかでお会いしたことありますよね」「あそこのスポーツクラブですよ」 と港と反対側を指さした。「あぁ~そうでした」「いつもお友達と出ていらしてた」 二人は話しながら出国ゲートに進む。「彼女体調悪くして私も行かなくなっちゃいました」「そうですか、私の友人も突然死。明日は我が身! あっ、すいません。楽しい時間に」「私もよくわかります。あっ! だけどお名前!? 私は片山です」「私はつまらない名字の鈴木です。今、鈴木さんと呼べば何人もの人が振り向きますよ」 裕子はクスクス笑いながら「慌てて来たけど、いよいよ世界一周!!」 少し大きな声で叫ぶ裕子。舌を出すが回りの人たちも裕子に大きく拍手していた。鈴木もあふれた笑顔を裕子に送っていた。
2024.04.17
裕子の二階の玄関である。 若い宅急便屋が山ごとの段ボールをチェックしている。「引っ越し用ハンガーボックス3、段ボール大4、中4、キャリートランク1、計12以上」「お兄さん、オーケー」 裕子はかなり上機嫌。外階段で宅急便屋を見送ったが電話の音で慌てて室内に駆け込んだ。相手は鞠子だった。 「段ボール出したところ」「とりあえず完了ね」「フォーマルは8回あるから着物入れちゃった!」 チワワを抱いて電話している鞠子。クスクス笑いながら「ママ、タイタニック号思い出してよ」「もうイヤね! また沈む話?」 「違うわよ。映画だってラブストーリー。船で恋が生まれたでしょ」「そうだったわね」「ママだってできるかも」「ママは未亡人よ」「未亡人だって恋はできる」「無理無理。まだパパがいなくなってまだ3年」「じゃあ、パパも連れて行かなきゃ」「えっ!?」 鞠子との電話中にベランダを開けて空を見上げる裕子。「だってパパはあそこ」と空を指差す」「家の中にいるでしょ」と鞠子。 裕子絶句。家中眺めるがわからず「幽霊?」 またクスクス笑う鞠子。 夜になってベッドルームで鏡に向かっていた裕子。ネグリジェ姿でパックをしていた。肌が乾燥しているから無表情で裕の位牌を立てたり横にしたりする。それから裕の位牌を花がらのハンカチで包んでベッドの横のテーブルに置いた。
2024.04.10
裕子はリビングルームで開いた段ボールに服をたたんて入れている。テーブルに置いてある大判の封筒に目を止めた。赤字で「資料」と書いてある。 受話器を手にしながら少し首を右や左に傾いた。「ママ〜どうしたの?」 悩んでいた裕子だったが数時間後には銀座の四丁目で白ワインを一口飲んでいた。前の鞠子も一口二口三口。「鞠子ちゃん、ゆっくりゆっくり」「慌てて来たから喉がカラカラ」「急に言ったから無理かと思ってた」「銀座のみかわやよ。何があっても飛んでくる」「イヤね。私に会いたいんじゃなくて、みかわやさんに会いたいのね」「まぁネ」「しっかりした子」「正直にいかないと損よ。ママの世代の人はやけに御愛想やお世辞ばかり。だから疲れるのよ」「ハイハイ」 二人に近づいてきたのはゴージャスなオードブルだった。 ランチを済ませた二人はいつも有楽町駅で別れる。丁度真反対に帰るから。「次に会うのはお見送りの日ね」と裕子。「先生にもらった薬も飲み過ぎちゃ駄目よ」と鞠子。「ハーイ、お母さん」「またママチャラして」 不機嫌そうな鞠子に手を振る裕子。 だが階段を上がり始めた鞠子を追いかけて鞠子の肩を叩く。裕子を振り向いて「何?」「なんでもない」「何よ」「実はね、お兄ちゃんは大阪だから代わりに聡美さんが弁護士さんを紹介してくれるんだって」「弁護士?」「私はタイタニック号でも助かるつもりだけど、もしいなくなったらあの土地はお兄ちゃんにあげたくて」「なるほどね」「何笑ってるの?」「ママ、なかなか言えなかったのね」なかな「そんなことないわよ」「弁護士さんとよく相談して」大きくてうなづく裕子。
2024.04.03
鞠子はチワワと散歩しようとして自宅の玄関にいた。電話がなる。鞠子は仕方なく靴を脱いでリビングルームに戻った。電話機を取る鞠子。裕子の沈んだ声が聞こえた。「ママよ」「こんな時間なんて珍しいわね」「あぁー」 鞠子は聞きたくないけど仕方なく聞いた。「どうしたの」「聞いてくれる? お兄さんに脅かされたの」「どういうこと?」「乗った船がタイタニック号になったらどうするんだよ」「ヤーね」 玄関で音がしたから鞠子が振り向くとチワワがくるくる回っている。鞠子が「あっ!」と叫ぶとトイレをしているチワワ。「あぁー」「ママはそんなこと言われて可哀想でしょ。鞠子ちゃんならわかってくれるでしゃ」「ハイハイ。お兄さんが悪い」「そうそう」「だけどタイタニック号だって沢山の人が助かったのよ」「えっ? そうなの? だったら私は助かる方ね」「そうそう」 「よかったワ。やっぱり娘は頼れる頼れる」呆れ顔の鞠子。 その朝車の中で運転している聡美と助手席の徹。車が新横浜駅のロータリーに入って行った。スーツ姿の徹を聡美はクスクス笑う。「タイタニック号のこと言い出すし牛で大瓶で飲みすぎよ」「ヘヘヘ」と頭をかく。 新横浜駅ロータリーの朝はかなり混雑している。 徹は「ここでイイよ。ありがとう」と言いながら下りようとしていた。その背中に聡美は「ネェ」といった。徹が振り向く。「ん?」と徹。「学生時代の同級生、弁護士さんと結婚した子がいるのよ。ランチ誘って相談しようかな」「弁護士?」「だって船に乗るって何が起きるかわからないでしょ」 喉をごくんと飲む徹。「女って怖いのよ」と徹の鼻をつまむ聡美。
2024.03.21
朝裕子が二階のリビングルームでコーヒーカップを洗っていたらドアを叩く音がした。ハイと答えると徹が入ってきた。 「あっ、賛成してくれるの」 「ちょっと待ってよ。せっかちだなぁ。ホントに大丈夫? ゆっくり考えたら?」「そういうけど、お兄さんとは年が違うの。楽しそうなことに気付いたら行動しなきゃ」「でも心配は心配だよ」 裕子は 「そう言われると泣いちゃう」とグズグズ言い出した。「わかったよ。聡美も賛成してるし気を付けて行ってらっしゃい」 急に大喜びの裕子。「いい嫁いい嫁、ありがとさん」 すぐにくるっと後ろにあった段ボールを開けはじめる。「もうお金払ってあるの」 徹の質問にこくんとうなづく裕子。呆れた顔で部屋から出ていく徹の背中に向かって裕子は「今日の晩ごはんはここでね」という。徹は振り向いて「いいけど」「しゃぶしゃぶ」 徹は変な表情で「昨日だってしゃぶしゃぶじゃないか」「昨日は賛成してもらいたいから食べるとこじゃなかったわ」 「えっ」「お兄さんしゃぶしゃぶ好きでしょ。特に豚より牛」とニヤッと笑った。 徹は一階のリビングルームに戻って来た。掃除をしていた聡美。「賛成してあげた?」「いい嫁いい嫁って喜んでた。今日の晩ごはん上でいい?」 と二階を指さす。「いいけど」 徹は笑いながら「悪いけどまたしゃぶしゃぶだって。バァさん昨日は食べた気がしないって」「はぁ。徹さん豚より牛の方が好きだものね」「それほどでもないよ」「ビールもここでは缶だけど上では大瓶」」と二階を指差す。 同時に二階の外階段を降りていく裕子の足音か聞こえる。カツンカツンという音。「あれはパンプスでデパートに行く音」「ほう」「そうだわ、船ではどんな靴がいるのかしらね?早速買って来るかも」とくすうす笑う聡美。
2024.03.13
*続一千万円テレビを見ながら電話をかけている鞠子だが突然立ち上がって叫ぶ。「世界一周? 一千万円? 何も聞いてないわ」 一階の徹はリビングで電話を切りながら「鞠子は何も聞いてないってさ」 裕子は徹の向かいの席に座っている。 聡美は鍋を洗っている。裕子「私、言ったと思うけど」徹「バァちゃんは慌てものだからな」裕子「私のことバァちゃんって言わないで」徹「じゃあ僕のことお兄さんって言わないでよ」裕子「じゃあボクちゃんにする」徹「バァちゃん」 聡美は二人に近づいて来て 「ケンカしないの」 膨らむ二人に「よく似てるわ」と笑う。 鍋やお皿も片付いて三人は二階の裕子のリビングに上がって行った。たくさんの段ボールを眺めいている裕子に徹は「しかし一千万円ネェ、3ヶ月で一千万円」「そう3ヶ月で一千万円」 聡美はイヤミたっぷりでな言い方をする「お母さんは優雅ネ」「そう優雅な人はね、上を見たらキリがないけどでももっと安いのもあるのよ」 首をかしげた聡美は、「クルーズ船でしょ」「聡美ちゃんクルーズ船でもあるのよ、三分の一で」 信用していない徹。 「それに安くても一ヶ月で百万だろ」 ため息まじり。 徹と聡美は一階のベッドルームに戻った。 ベッドに座っている聡美の肩を揉んでいる徹。 徹は二階を見ながら「バァちゃんのことだけどそれでもいいの?」 聡美は「マッサージ交代」と言いながら今度は徹をベッドに座らせて肩を揉みはじめる。「私の母も世界一周させてあげたかったもん。でももちろんお母さまのお金でしょ」う「もちろんだよ」「でもいいのかな?お母さんは3ヶ月も船に乗って大丈夫かしら?」 とにやっと笑っていた。
2024.03.06
裕子は自宅の二階外階段で開いた玄関に立っていた。階段を降りて行く宅急便屋に向かって大声で「お兄さん、お兄さん、ありがとね」という。 ちょうど外から自宅に戻ってきた聡美。 宅急便屋の車が遠ざかっていくのを見た聡美だが外階段に近づいて見上げると玄関から段ボールの束を入れている裕子が見えた。 外階段の下から聡美は「お母さん」 ギョッとして下を見下ろす裕子。 聡美は見上げて「お母さんが『お兄さん』って呼ぶから徹さんがいるのかと思ったわ」「あらぁ、宅急便屋さんよ。ホントのお兄さんは大阪」「あらぁ、今日は金曜日。徹さん帰ってくるわよ」 裕子はしまったという顔をする。「お母さん晩ごはん今日一緒にしましょう」「はーい」 といいながら段ボールを玄関から押し込む裕子。 徹の自宅一階に入った聡美は買って来た物を冷蔵庫にしまう。 裕子が外階段をパンプスで降りていく音がする。 チラッと上を見た聡美。「今日もデパートね」 内階段をそっと上がっていく聡美。 裕子の自宅二階ドアを開けると山ごとの段ボールがあった。 夕方になって車を走る聡美。 新横浜駅では多くの車が並んでいる金曜日の夕方。 ロータリーで車の運転側に座っている聡美。聡美に向かって手を振りながら近づいて来る徹。 車内で運転している聡美と助手席の徹。「あのね」 と言ってから聡美は何も言わない。「えっ! 何か欲しいものあるの?」「イヤね〜お母さんのこと」「バァさんが何だって」「どこかに行きたいみたい」「どこへ」「さぁ、でも段ボールが山ごと」「何だよソレ?」「お母さんの気持ちはわかるわ」 横の聡美をじっと見つめて「転勤族やめようか?」「そういうことじゃないの。女はみんな違う街に行ってみたくなるのよ」 首をかしげる徹。
2024.02.28
*一千万円!?鞠子は自宅で座ってケイタイを右手で持ちながら、左手で洗濯物をたたんでいる。近づいてきたチワワがたたまれていた靴下を加えようとしていた。「だめよ。ダメダメ」 ケイタイの相手の裕子の声がした。 「ダメなの?」 靴下を取り上げながら鞠子は「何のこと?」「旅行のことよ。ねェ、いいでしょう?」「別に私に聞かなくたって。でも誰といくの?」「初めての一人旅」「えーっ」「それは大丈夫。はじめは一人でも向こうに行けば沢山いるの」「ああ、団体旅行ね」「あのねェ、もう少しオシャレな呼び方あるでしょ」 「はぁ?」「一千万円もかかるんだから」 鞠子はギョッとした顔になる。ケイタイの 向こうでピンポーンと鳴った。 裕子の自宅は二階。裕子は二階の玄関を開けながらケイタイを切った。 ドアを開けると宅急便屋がお辞儀をした。「お兄さん、ありがとうねェ」 何束もの段ボールを宅急便屋が持っている。「他にもあるんですけど、持ってきていいんですか?」「お願い」「お引っ越しですか?」「昔の私とお別れするの」「えっ?」「いやねぇ。離婚じゃないわよ」 裕子ははしゃいだ。まるで子どものようだった。
2024.02.21
*銀座四丁目でお亡くなり裕子は銀座を歩いていた。 文房具屋さんに寄ってから銀座四丁目を目指す。突然銀座四丁目あたりでチャイムの音がした。小学校音? でも通っていた銀座の小学校のチャイムは確か違う。昼のごはんの12時だ。犬は体内時計を持っているけど人間だって同じだわと裕子は思った。特に戌年の鞠子は12時頃になると機嫌が悪くなる。 「鞠子ちゃんは銀座一丁目駅から歩いて四丁目に向かうのよね」と裕子は思ってキョロキョロ眺めたら偶然鞠子を反対側に見つけた。犬みたいにお腹すかしている鞠子が小走りになった。「鞠子ちゃん慌てないで転ばないで」 叫びながら鞠子のところに走り出した。クラクションの音がした。叫び声。 一軒家の二階。ガバっと飛び起きる裕子。 暖かい冬の朝昼。 慌てて電話に飛びつく裕子。受話器を取る鞠子に「鞠子ちゃん、私、死んじゃったのよ」「ママ、死んだ人は電話出来ないの」「だって、銀座であなたを助けるためにひかれたの。雑誌に出るかも」「その程度の出来事は雑誌に出ないの。忙しいからまたね」 切られた受話器にため息交じりの裕子。裕の大きな写真に目を移して、「パパ、もう3年ね」 裕子が目を閉じれば走馬灯のように蘇る。写真を引っ張り出して、アルバムの中の過去に戻っていく。「お姑さんはきつかったけど亡くなって。だけどすぐにパパを迎えに来ちゃった。私に取られたからヤキモチ焼いたんだわ」 ゆっくりアルバムを眺めて行くと写真もカラーから白黒に変わる。ふと目を止める裕子。クルーズ船に乗っている若い頃の裕。「パパ、船ってステキ?」「素晴らしいよ、いつか一緒に乗ろう、世界一周」 裕の写真を抱きしめる裕子。「私、世界一周する。まだまだ死にたくないもん。しばらくはパパをお母さんに預けとくわ」 あふれる笑顔
2024.02.14
*かと先生 裕子はかと先生より先に受付の部屋に入って行った。電気が付いて裕子は少し眩しかった。そして、「いつも先生が一番最後にお帰りになるんですか?」と聞いた。「最後は私と彼女だけですからね」 ああそうだ。3年も前のことだけど裕子はよく覚えていた。裕子が名前やら住所など質問に答えて彼女に渡すと彼女は奥にいたかと先生を大声で呼んだ。「かと先生、かと先生」 呼ばれたかと先生は奥からやって来て裕子にお辞儀して質問表を手にして奥に戻った。 裕子はずいぶん偉そうな女性だなと思ったけどそれより「かと先生」が気になって聞いてみた。「かと先生のかとはどんな漢字ですか?」「ただの加藤ですよ」「ただ!?」「この階には他にもクリニックたくさんあるからみんなの先生にそれぞれ名前呼ばないとね」「なるほど」「でも加藤先生じゃ長いからかと先生。一度かと先にしたんだけど」「もっと短く」「そうなんですよ、だけど加トちゃんになっちゃって」 彼女のマスクの先でベロっと舌が出たのがわかった。 ははーん、トイレで会っては先生の悪口を言うのかもしれない。でもかと先生は嫌なところはないと思うけど、まぁ人それぞれだからねと裕子は思った。「片山さんソファにお座りください」とかと先生の声が聞こえた。かと先生は裕子のカルテを探すところだった。 裕子はソファに座らずかと先生に少し近づいて言った。「3年も前にお会いしてそれっきりなのにわたくしのことを覚えていただいてありがたいです」 裕子は大事な方と会話を交わすときは必ず「わたし」ではなく「わたくし」と言った。このことで一番嫌な思い出は天敵とのこと。裕子はパパはもちろんだけど舅も大好きだった。だけど姑さんだけは大の苦手。初めて会って裕子が「わたくし」と言ったら姑は「はぁ」と小馬鹿にしてたっけ。わかってないわね!? と思ったけどにっこり笑ってやった。 かと先生は裕子を振り向いた。「片山さん、裕子さん、ずっと裕子さんのことを考えてました」「えっ」 もしかしてわたくしのことア・イ・シ・テ・ルの? マサカね〜「ご主人は裕さん、裕という同じ漢字で亡くなって半分になってしまったようで夜眠れなくてと言ってらした」「ああ」「医者がこんなことを言ってはいけないんですがあの薬が効かなかったのかと」「いえいえ、先生が私の話をよく聞いて下さって、それで満足しちゃって飲んでいないんです」「そういうことならわかります」「ただまた眠れなくてなってしまって、息子や娘に話してもウソでしょう!って冷たいんです」「わかりますわかります」「前の薬また飲んでいいんですか?」「大丈夫ですよ、でも薬はどんどん新しくなるんです」「そういうものなんですか!?」 薬も新しくなるといいもの。裕子は薬が新しくなったキレイなケーキをもらうような楽しい気になって来た。
2024.02.07
裕子は鞠子に相談しようかと思ったけどやめておいた。鞠子は裕子が言ったことを時々否定する娘だからだ。 焼きそばのときだってそう。裕子が横浜のデパ地下に焼きそばが美味しいお店があるのって言ったら鞠子は携帯の向こうで、「焼きそば!?」とす叫んだ。「そう中華の焼きそば」「あのね、焼きそばは私の中では所詮海水浴なのよ」「何よ、それ」「夏休み海水浴に行って、スイカや氷いちご食べ過ぎないように、ホラホラ何か食べましょう。あっ! 焼きそばがいいわ。美味しいわよう」「それ、私の真似?」「うん何十年か前のママ」「なんか、嫌なこと言う子だね」「とにかく海水浴の延長にある焼きそばはいくら横浜のデパ地下でも存在しないと思うわ!」「あなたは美味しさというものを知らないのよ」「知ってるわよ」 それで電話が切れた。サスガに裕子はその後電話をかけるのをためらっている。それに内容が睡眠薬のことだからだ。 薄暗くなって来た街のビルに入って大きく息をしながらエレベーターに乗った。開いたらピンポーンと音がした。いくつかあったドアの鍵を閉めようとしていた男性が振り向いた。「先生、もう無理ですよね」 裕子は小走りに近づいたら転びそうになった。危ないからパンプスは止めようと思うんだけどいまだにやめられない。「大丈夫ですか」 神経内科クリニックのかと先生が裕子に近づいて来た。一瞬の後裕子を呼んだ。「片山さん、片山さん大丈夫ですか?」 裕子にとってはこのクリニックに3年前に来たきりで今日は二回目。それでも自分の名前を覚えてくれたのに感動した。ますますこの先生にすがりたいと思った。「先生、私、この頃眠れなくて」「そうですか、睡眠薬さしあげますよ」 裕子は「えっ」という顔をした。そんなに簡単にもらえるなんて思ってもいなかったから。 かと先生は大きくドアを開けてドアストッパーで止めた。そして「どうぞ」と裕子を誘った。まるで大奥さまを招く執事のようだった。睡眠薬
2024.01.31
横浜のデパート。裕子はデパ地下をキョロキョロ見ながら店の周りをぐるぐる回っている。 え、え、え、え。いつも何気なく買いに来ているのに見つからない。どうしてもわからないから悪いかなと思いつつ佃煮屋の前で立ち止まる?。「いらっしゃいませ」「すいません、そうじゃなくて、いつも買いに来ている焼きそばのお店が見つからなくて」 普通だったら店員は「はぁ?」って聞くんだろうけど、さすが横浜のデパート。店員は冷静に「和風ですか?洋風ですか?中華ですか?」とニッコリ笑った。「あっ中華です」「それでしたら」 店員は棚の奥からデパ地下の全店が書いてある資料を引っ張り出してきた。すごいなぁと思った途端、裕子は違うことを思い出した。あっ!! またうっかりだ! すいませんと言って私は急に佃煮屋から離れた。 佃煮屋の店員が裕子の背中に「お客さまどうなさいましたか」と叫んでいた。 ついでにデパ地下に来てるんだからエレベーターで上に上がらなきゃいけないのに降りようとしていた。やだやだ。こんな風にこの頃うっかりが多い。 横浜駅に向かったバスで横浜駅の一つ前で降りなきゃいけないのに降りるのを忘れた。「一つ前で降りる一つ前で降りる」と思ってるうちに「焼きそば焼きそば」に変わっていた。 やっと駅か出てきた。あそこに行って間に合うかな? でも取りあえず行ってみよう。大事なことだもの裕子はそう思った。
2024.01.24
ママが認知症になったのは8年ぐらい前〜老人ホームに入って最初はそれなりに友だちができたようだけどやがて何が何だか分からなくなりどれが自分の部屋かも分からなくなってしまったそしてコロナ昨年やっと老人ホームに行けるようになったけど飛んでって手をふったら首をかしげられました「どなたさまですか?」😱😱😱人間ってこうなる生き物なのね~だけどママが私のことがわからなくなったらひどくショックだと思ってたけど意外とそうでもなかった!!それはママと私の思い出がいっぱいあるから特にママの最高の思い出は世界一周ひとり旅私は世界一周なんて行ってないけどママの思い出をドラマにしたくなったんです♥行ってないから かなりいい加減ですけど😝世界一周ひとり旅
2023.03.26
私のママが認知症になったのは8年ぐらい前かな?それでも最初はなんとか通じてたけど一昨年末ぐらいからは何を言ってるわからないコロナでめったに行けなくなったからか昨年の春にやっと会ったら「どなたさま?」でした😵何だかショックでまっすぐ家に帰る気分にならなくて赤レンガ倉庫に行ってみたらそしたらなんだか「ま しょうがないか」そんな気になりました~赤レンガ倉庫
2023.03.24
姑の友だちから電話があった「お母さまだいぶ進んだのね」「ん?」姑が私のママが認知症でボケがひどくなったと友だちに言ったようだ私は自分のママがボケたと同級生には言ってる〜お互いにママのことをよく知ってるし私が私のことを言うのは自然だと思うでも姑が私のママのことを「嫁の母親がボケてる 私はまだまだ大丈夫だわ〜」と言ってるような気がした!!考えすぎ?とりあえず旦那ちゃんに言いつけしたら姑に電話してくれた「認知症だって病気だぜ病気になった人のことを家族以外の人に勝手にべらべら喋るなよ」そうよ余計なことを言うな!!ムカついたけどこういう時にいるのでダイゴとチョコたんに癒やされる♥そしてどうやって姑をいじめるか考え始めました😁ママが認知症
2023.02.27
ママが認知症になったのは8年前今も老人ホームに入ってますコロナでなかなか行けませんでしたが5月の連休明けに行ったところ私のことなどすっかり忘れていました😔でも私のことを忘れてしまうなんてどんなにショックかな?と思っていましたけど意外とショックではなかったんです♥ママと楽しく過ごした記憶が私の心の中に溢れているからです特にパパを亡くしたあとたったの3か月過ごした世界一周ひとり旅が最高に楽しかったようですそしてママから聞いたことをドラマにすることにしましたもうママに伝えることはできませんけれど覗き込んでいるピエロ
2022.07.30
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