DarkLily ~魂のページ~

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第三話



 これが自己再生時の感覚なのか。

 痛みによる辛さとは、また別種の、じっとしていられなくて、今にも走り出したいのに、縛り付けられて身動きできないでいるような、もどかしさに苛(さいな)まれる。

 地味につらかった。

 メダル化したスキルの効果は、やっぱヤバい。

 のたうち回るほどのピークを過ぎたら、嘘のように痛みが引いていた。

 まだ、ぎこちなくて、自分の体の様な気がしないけど、どうにか動けるまでに回復している。

 というか、本当に、自分の体の様な気がしないのだけれど、一体、私に何が起こったのか・・・、怖いから考えないようにしよう、うん。

 かつて、獅子は、我が子を千尋の谷に突き落として、這い上がってきた子だけを育てると聞いた、でも無理です、これを登るとか、貧弱なコボルトには出来そうにありません、お父さん。

 穴倉の底から見上げる空は、狭くて遠い。

 ただ、相変わらずどこかで見た光景の様な気がしてならないのは何故だろう。

 ともかく、どうにかして、ここから抜け出さなければ。

 多分、助かる道は、あれしかない。

 縦穴は、地上への出口を阻む障壁となっているが、その壁には、ぽっかりと開いた横穴があり、見る限り奥の方までずっと続いているみたいだった。

 この先が、どこか別の出口へとつながっていてくれると信じて進む以外に道はない。

 幸い、コボルトは、地の底に棲む妖精なので、光がささない洞窟でも困ることのない暗視能力を持っている。

 それでも・・・

 この広いとは言えない洞窟で、モンスターに遭遇したら、どこにも逃げる場所がない。

 つい今しがた襲われたばかりなのだ、何もかもを捨てざるを得ず、命からがら逃げたのだから、その記憶が頭から離れなくても仕方ない。

 準備をしよう、戦うために。

 武器が必要だ。

 といっても、何もないものなあ。

 生き延びるためとはいえ、手荷物は捨ててしまったし、あるのは、衣服とツタを編んで作ったわらじ風のサンダル、あとは、アレかぁ・・・

 溺れる者はわらをも掴むというが、クモの糸よろしく一緒に落ちてきた木の枝・・・でも、でも!、背に腹は代えられない、到底命を預けられるものではないものの、こんなものでも無いよりはずっと良い、咄嗟に手を伸ばした私、でかしたぞ、グッジョブ。

 まあ、非力なコボルトが、木の枝を振り回したとしても、何の脅威にもならないし、むしろ、振り回せるのかという疑問すら残る。

 さて、どうしたものか。

 今あるものだけで、何とかしなくてはいけない。

 まずは、この木の枝。

 とりあえず、葉を落として。

 バキッ。

 地面に置いた枝を踏みつけて固定してから、両手で力を込めて持ち上げ、へし折った。

 苦心惨憺(くしんさんたん)したものの、どうにかこうにかドラムスティックほどの長さの棒が三本出来上がる。

 本当は、リーチのある武器にするべきなのかもしれない、でも、実用に耐えられるものになる気がしなかったから、多分、これが正解だと思う。

 お次は。

 一旦、上着を脱いで、利き腕側の袖に歯を立てて縫い糸をほどいて、右肩だけノースリーブにしてから、再び羽織った。

 取り外した袖の片側を固く結んで袋状にする。

 その袋の半分くらいまで、小石を拾って詰め込み、反対の口も閉ざした。

 じゃーん、簡易版ブラックジャックの完成!

 正直、役に立つのかわからないのだけれど、素手で戦うよりかは幾分マシだと信じたいところ。

 今度は、サンダルだ。

 丁寧にほどいて、紐に作り直す。

 三本の棒を、左手の手首から肘にかけて、袖の上から添え、紐でぐるぐる巻きにして固定する。

 片手が使えないものだから、口を使って頑張りました。

 籠手というか、気持ち的には”盾”のつもり。

 枝の使い道としては、これが最良の選択だと判断した。

 サンダルが無くなって若干不安だけれど、歩くたびに、チャッ、チャッ、チャッ、とアスファルトの上を犬が散歩している様な、爪の当たる音がして、笑ってしまう。

 なんか裸足でも何とかなる気がしてきた。

 いやまあ、裸足の上に、片袖の服、小石を詰めた小袋を下げ、腕に木の棒を巻き付けているわけで、はた目には随分とみすぼらしく見えてるかもしれない、なんて、そこは考えたら負けだから!

 シクシク。

 絶対に、生還してやる!

 限られた条件の中で、精一杯抗った、それを依り代にして振り絞った勇気を。

 おはようから、おやすみまで、どうか見ていてください、ライオンのお父さん。

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