DarkLily ~魂のページ~

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ドラゴン、街へ行く・第十話



 ニコニコして希望を語ったパフッフールの顔がやにわに曇る。

 あっ。

「もしかして、移住はダメですか・・・」

 心配にさせてしまった。

 あげく、本丸に切り込まれた。

「失礼、なんでもありません、えー、この街で何かしたいことがあるのですか?」

 でも、まだ言質はあたえられない。

「えっと、友達を見つけにきました」

 ふと、誰かを思い浮かべている、そんな気がした。苦笑いしているけれど。

 その門番のカンは当たっていたが、求める友達の面差しではないとは、ましてや、角が生えているだなんてわからない。

 なのでつい。

「人探しですか?」

「えっ、まあ、そのような?」

 なんか微妙な反応に違和感を覚えつつも。

「どんな人ですか?」

 いらない質問をした。

「女の子・・・、誠実で、優しくて、思慮深い、そんな子です」

「名前や容姿の特徴などがわかれば探すのを手伝えると思いますが」

「いえ、これは自分の力だけで成し遂げたいんです!」

 立派な決意表明。

 速やかに介入を阻まれた。

「その人は、この街にいるのですか?」

「いえ、それはわかりません。けれど大きな街の方が確率は高いかな、と思って」

 特に具体的なあてがあってのことではないらしいので、この街への執着は下方修正できると考えて良いかもしれない。

 ちなみに、この時の門番の勘違いが、後々の鉄火娘との邂逅でささやかな喜劇を生むことになるのだけれど、それは別のお話。

 ここで門番は、少し方向を変えて攻めてみることにする。

「ところで、お金は持っていますか?」

 一文無しでも、大金をもっていても、どっちでもあり得そうだけれど。

「仮の通行証を作るのにも、街で暮らすのにも必要になりますよ」

「あ、今は、お金を持っていないのですけれど、高く売れそうな品物があるんです」

 そう言って、マントの下でごそごそし始めた。

 門番は、慌てて部屋の扉を閉める。

 ドラゴンの高価な品と聞いて、これまでとはまた違う、嫌な緊張を覚えた。

 やがて、テーブルの上に置かれたのは、一振りのショートソードだった。精巧な意匠が施されており、まさに宝剣と呼ぶのにふさわしい威風をまとわせている。さらに、その剣の由来の確かさを揺るぎないものとしているのは、紋章だった。現在敵国となっている隣国の王家のものに間違いない。

 ああ、そういえば、パフッフールは、隣国との国境の方から来たらしいけれど。

「この剣は、どうやって手に入れましたか?」

 そこで噂になっているという。

「この剣ですか?」

 たった一人で二万もの軍を蹂躙(じゅうりん)して・・・

「戦利品です」

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