DarkLily ~魂のページ~

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ドラゴン、街へ行く・第十二話



 魔力結晶についてのレクチャーをうけて、困惑気味なパフッフールが言う。

「物騒なおやつもあったものです」

 それ人間じゃないでしょ。

 とは言えず。

「一応、薬として服用することもありますけど、口にしたいとは思えないですね」

 と、よくわからないフォローをしてしまう門番だったが、表情を改めると、今度は殊更に難しい顔を作って言葉を続ける。

「多分、売ることはできますが、問題は、それをくれた方に迷惑がかかるということです」

 目を丸くするパフッフール。

「どういうことですか?」

「希少性の高い軍事物資ですから、入手経路を知りたがるものが必ず現れます」

 それこそ、魔力結晶を巡って戦争が起きても不思議ではないくらいに。

 もしかしたらと、あまり楽しくない想像が働く。

「群がってくるハイエナどもは、利に敏(さと)い分、総じて行儀が良いとはいえませんから」

 パフッフールは、しょんぼりしている。

 だがしかし、パフッフールに関心をもつ者が現れるのは、是が非でも避けなくてはならない。

 本人が一番ヤバいのは間違いないが、抱えている品物に加えて、外交、戦争、さらに、埋蔵しているかもしれなお宝の秘密は、大量虐殺兵器にも関わっている、とんだ歩く火薬庫もあったものだ。

 というか、このいかにも侮られやすそうな見た目は、もうほとんどブービートラップとしか思えない。

 パフッフールには悪いが、魔力結晶を売るのは諦める方向に誘導させてもらう。

 それに、今、とりあえずの懸案事項は、パフッフールが一文無しということであって、必ずしも危険物の売却ではない。

「そこで、こうしませんか?」

 門番は、部下をどう誤魔化したものかと言い訳に頭を悩ませながら提案した。

「その魔力結晶をほんの少しだけ私に預けてください。それでも街に入る際の税金と仮の通行書の発行手数料を払っても、十分何日かは過ごせるくらいの価値があるはずですから、その分を私が立替ます。預かった魔力結晶は、そうしたことの心当たりがあるので、きちんと鑑定して、お渡しする金額より多かった分は差額をお返しします、それでどうですか?」

 鑑定球を使えば、品質やら価値やらは調べられよう。

 すると、パフッフールは、理解したとばかりに。

「心当たり・・・、ハッ!、横流し品の転売ルート」

 カンの良いドラゴンは嫌いだよ、って。

「そんなわけないでしょ、人聞きの悪いことを言わないで!」

 この門番に、そんな真似ができるくらいなら、元上司の不自然な命令に逆らって左遷され、こんなところで寂しくなる懐具合に追い打ちをかける部下のたかりをいかにいなすか、なんてことに苦慮したりしていないだろう。

 数粒の魔力結晶をハンカチにくるんで懐にしまいながら、パフッフールがコインをためつすがめつして目を輝かせているのを見て、またしても不安にかられる。

 お金の概念は理解しているようだが、実物を見るのは初めてみたいだ。

 反応が素直で正直なのは良いのだけれど、門番のアイデンティティは失われて久しい。

 絶対に入れちゃダメなレベルで不審者を、すすんで街に入れるべくフォローをしている事実に、内心で涙しながら、貨幣価値について優しく教えていった。

「無駄遣いをしてはいけませんよ」

「もしかして、ママなの・・・」

「せめて、そこは、お父さんにして!」

 ときどき、パフッフールのノリがよくわからない門番である。

 まあ、なんだ、慣れてきた証拠だろう。

 クスクスと笑うパフッフールに、門番は、そう思うことにした。

「それでは、仮の通行証をお渡ししますが、この街での滞在先のあてはあるのですか?」

 門番の問いかけに、首をふるふるするパフッフール。

 門番は、ここぞとばかりに畳み掛ける。

「でしたら、良い下宿屋があるので案内します、一緒に行きましょう」

 顔の効く下宿屋に、それとなく動向を見張りながら、やんわりとパフッフールの足止めをするよう、お願いするつもりだった。

 部下に届けさせた封書の件の確認のためもあって、直接の報告にゆかねばならないが、その間、パフッフールを野放しにするのは心臓に悪い。

 今の上司はできた人なので、なるべく速やかに手を打ってくれるとは思うが、現状は門番の独断で動いている状態である。

 そういう意味でもスリリングではあるが、それよりも秘匿性が重視される性質上、足りない人手は如何ともし難い。

 ただ、門番の申し出は、パフッフールにとっても渡りに船だった。

 右も左も分からない街で宿を探し、あまつさえ宿泊の交渉をせねばならない。

 そんなこと、想像しただけで嫌な汗をかいてしまう。

 門番は、部屋を出る前に、仮の通行証ではない、正式な身分証についても話をする。

「申請をしておくので、明日か明後日には届くと思いますから、詰め所に取りに来てくださいね」

 これは封書に書いておいたことの一つで、すでに申請はしてある。

 それも特別な身分証を用意するように願い出ておいた。それは、有力貴族である上司の庇護下にあることを示すものだった。

 なんらかの方法で独自に身分証を作ろうとすれば、そこで正体がバレる危険があるためと、幼い少女の見てくれをしているパフッフールでは、この先、なにかと思うようにはいかないだろうことを危惧して、先手を打っておいたのだ。

 また、パフッフールの方から連絡をとってくる機会を作っておくのは、ひとつの保険をかける意味もある。

 やむをえないとは言え、門番一人では、目を離さなければならないタイミングが必ずあることを見越して、万が一の時にリカバリーするための布石というわけだ。

 そんな思惑などついぞ知らないパフッフールは、ことがトントン拍子に進んで浮足立っていた。

 門番にくっついて街の門をくぐると、往来をゆく人々や、通りに立ち並ぶ異国情緒にあふれたクラシカルな建築物に、次々と目を奪われてしまう。

 そんな心ここにあらずといった様子でキョロキョロしているパフッフールに、手を繋いでおくべきだろうかという考えが頭をよぎった門番だったが、存外精神年齢の高いパフッフールは、絶対に躊躇(ちゅうちょ)するだろうし、その後の気まずい空気には、お互いに耐えられそうにない。

 それに、門番が小さな女の子と手を繋いで歩いていたりした日には、一部界隈で大事件にされてしまう。

 ただでさえ、外交やら軍事やら利権やら、あらゆる方面からの興味を引きかねないパフッフールに、面白半分にからんでくる輩まで増やしてなるものか!

 いかなる注目も集めるわけにはいかないのだ。

 それでも・・・

 意を決して、羞恥心に堪え忍んで声をかけようとした時には、パフッフールは影も形もなかった。

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