DarkLily ~魂のページ~

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ドラゴン、街へ行く・第十五話



「こりゃあ、まずいかもしれん」

 おもての騒ぎに気づいて、何事かと様子を見に来た雑貨店の店主は、からまれている女性と子供を危ぶみ、一緒について来た下働きの少年に言付ける。

「お前は、詰め所に走れ、役人をつれてくるんだ」

 うなづいた少年を、だが駆け出すその前に、背後から肩に手をかけて制止する者がある。

「いや、その必要はない」

 役人なんぞを呼ばれては、困る人間がここにはいた。

 嫌な予感がしたんだよなあ。

 内心でぼやきつつも、驚き、振り向いた店主と少年に告げる。

「もう、いるから」

 消えたパフッフールを探していた門番が、騒ぎを聞きつけた時には、もうほとんど確信めいていた。

 ただ、いくらなんでも、そんなのってないだろう。

 それはもちろんのこと。

 人だかりの真ん中で、しゃっちょこ張って頑張っているパフッフールを見つけた。

 なんで、ほんの少し目を離しただけで、もう騒動を起こしてるんだよ!

 三人の男性に包囲された女性と、その女性をかばうパフッフールの図。

 なんてわかりやすい。

 男たちは、若いが身なりが良く、武器も携帯している。

 どこぞの貴族の子弟といった風情だが、徒(かち)で一般庶民が生活する場所にいるあたり、そこまで高い身分の者ではないのだろう。

 遠巻きの人だかりの意味がわかった。心配だが、うかつに口を挟めず、助けるに助けられない、そんな感じか。

 パフッフールが人目を集めたって言うのも大きいのだろうけれど。

 たはは。

 パフッフールのその姿に、半分、苦笑が交じった声がこぼれる。

 すぐにでも事態の収束に乗り出すべき場面ではあるが、しかし、門番は、割って入ることをしなかった。

 代わりに、周りに集まっている人たちに質問をして回る。

「あの女性をご存じの方はいますか?」

 すると。

「あの娘さんは、東8番街の道具屋で働いている子だよ」

 ほしかった答えが複数返ってきた。

 OK。

 あとは、余計な人物を舞台に上げないようにしないと。

 少年の肩に手をかけた。

 結論として、お姉さんは、賭に勝った。

 人垣をかき分けて進み出る役人とおぼしき人物。

 きっと誰かが呼んでくれる、それを待っていた。

 だが、どんな人物が来るのか、わからない。

 彼女の言い分など聞き入れてもらえず、男たちの肩を持つという可能性は相当に高かった。

 そうなれば、彼女の立場は劇的に悪化してしまう。

 果たして、きちんと耳を傾けてくれる人か。

 彼女が危惧する、そこが賭けだった。

 しかるに、現れたのは門番だ。

「はい、そこまでです」

 男たちの中で、主に声を上げていたのは一人だけだったが、黙っている二人も女性の行く手を遮る形で陣取っている。

 確かに、こいつら良くない感じだ。

「もっと、離れてください」

 黙っている二人をお姉さんから遠ざけ、一番うるさい男の視線からパフッフールたちをかばうように、門番は立つ。

 身分を明かし、男たちに対しては、有力貴族である上司の威光をかざしつつ、お姉さんには、なるべく安心できるように笑顔をむけると、いかにも子供をいたわっているような演技をしながら、パフッフールのそばにかがんで、小声で耳打ちをする。

「迎えに行くまで、その女性のそばにいてください」

 びっくりしながらも、パフッフールがこくりとうなづくのを確認したところで、お姉さんに声をかける。

「すみませんが、この子を連れてこの場を離れてください」

 問答無用だ。

 何か、がなり立てている人もいるみたいだけれど、門番の中では、一度は言ってみたいセリフランキングがぐんぐん塗り変わっていた。

 現在、ダントツの一位は。

『俺は、むしろ、お前の身を案じているんだぜ』

 まあ、絶対に言えないわけだけれども。

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