DarkLily ~魂のページ~

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ドラゴン、街へ行く・第十六話



 振り向いても、誰も追ってはこない。

「ここまでくれば、もう大丈夫よ」

 至極、ご満悦そうなお姉さん。

「あー、それ、私が言いたかったのにー」

 ふくれるパフッフール。

 クスクス。

「よもや、本当にこんなセリフを口にする日が来るなんて、思わないよね」

 いたずらっぽく、笑い合い合う二人。

「私の名前は、マユっていうの、あなたは?」

「パフッフール」

「うん、パフちゃんね」

 ひとつうなずく間に、せっかくの名前から、幸運の白い竜が、まるっと消えてしまった。

「助けに来てくれてありがとう」

「どういたしまして、えへへ」

 めっぽう照れている。

「でも、危ないから、もうこんなことしちゃダメだよ」

「大丈夫、いざとなったらドラゴン式護身術が火を吹いちゃうから」

 何が大丈夫なのか、火なんて吹いた日には、普通に滅亡まである。

 アチョーと怪鳥音とともに怪しげな構えを披露するパフ。

 ちなみに、その気になれば、息をするように毒も吐けるが、それはまた別のお話。

 そんなパフの様子につい和んでしまって、流されそうになったところを、イケナイ、イケナイと思い直すものの、たしなめるとか性格的に向いておらず、いかに言い含めるか頭を悩ませているうちに、さきほどの出来事が思い返されて、はたと問題が他にもあることに思い至る。

 言われるがまま、子供を連れてきてしまったけれど、それって、もはや事件なんじゃ・・・

 きゃー!

 まって、まって、助けてくれたお役人さんは、きっとパフちゃんのことは、私の同伴者だと思ったはず、となると、あれ、どうなるの、あれれ。

 振り返ってみても、誰も追いかけて来てはくれない。

 これって、もしかして、マズイことになってない?

 いや、だって、あの場にパフちゃんを残すって選択肢はありえなかったから、これは、これで正解だった、うん。ようは、パフちゃんを無事に送り届ければいいのだ、万事めでたし。

「パフちゃんは、どこの家の子かな?、お姉さんが送っていくよ」

 すると、すこぶる困った様子で、もじもじしている。

 すわ迷子だったかな、と思っていると。

「さっき、門番さんは、迎えに行くまでお姉さんのそばにいてくださいって言ってたから、あの、一緒にいても良い?」

 上目遣いとか、あざとい!

「もちろんいいに決まってるよ、一緒にいようね」

 即答、子供を不安にさせてなるものか。

 パッと笑顔になるパフに、またも和んで、流されそうになるも――

「あれっ、えっ、あの門番さんは、パフちゃんの知っている人だったの?」

 コクリとうなずいて、パフは門番との経緯(いきさつ)を説明していった。

「ほへー」

 マユは、関心しきりに聞いている。

「親切な門番さんで良かったね」

 二人、微笑み、うなずきあう。

「そっか、門番さんが来てくれたのも、パフちゃんのおかげだったんだね」

 と、ひとつ納得したところで、マユはもうひとつの疑問にぶつかる。

 私のことも知ってるってことになるのだけれど、うーん、そこは、ご近所でも評判の佳人ってことでいいのかな?

 うふふ、こまっちゃうな。

 ご近所でもと範囲が狭いところがご愛嬌。

「そうと決まったら、お姉さん、パフちゃんのお世話いっぱいしちゃうよ!」

「えっ、あの、えっ」

「それー、おもちかえりだー」

「ひゃー」

 通報案件発生。

 お役人さんのお仕事です。

 まだまだ、門番の戦いは終わりそうになかった。

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