DarkLily ~魂のページ~

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ドラゴン、街へ行く・第二十話



 お姉さんが褒め称える。

「ぷにぷにしてて柔らかい!」

 あちこち、もみもみしていた。

「きゃー」

 なんか、悲鳴を上げているけれど、楽しそうだからいいか。

 八百屋の主人は、ふたりのやり取りについて、放置することにした。

 それにしても、この子・・・

 パフを見る。

 確かに気になる。

 まあ、するなという方が無理な話だ。

 なにせ、パフは、"今度、悪いやつが来たら"と言っていたのだ。

 今度、ということは、つまり。

「マユちゃん、もしかして、何かあったの?」

「ほえ?、ああ、ここへ来る前にも、ちょっとからまれたりしてね」

 マユは、経緯(いきさつ)についてかいつまんで説明すると。

「おじさん?」

 何事か難しい顔をして考え込んでしまった店主に、訝(いぶか)しんで声をかけた。

「あっ、いや、おじさん、ちょっとマユちゃんが心配になっちゃって」

「大丈夫、私が追い払ってあげゆか、ひゃあ」

「わあ、ありがとう。パフちゃんは、随分と強いんだね」

「ていうかマユちゃん、いい加減、全開の欲望を抑えて、その子を開放してやれ、そろそろ通報するぞ」

「えっ、イヤ」

「きゃー」

 ふにふに。

「でも、不思議よね、この柔らかボディのどこから、あれ程のパワーが生まれるのかしら」

「多分、魔法の一種じゃないかな」

 店主が言うには。

「生まれつき魔力が高くて、才能に恵まれていると、あふれる魔力を無意識のうちに使って、不思議な事象をひき起こす子供がいるっていう話だよ」

「ふわあ、それじゃあパフちゃんは、未来の大魔法使いだね」

「えっ、えへへ」

 後ろ髪をなでながらパフはテレているが、むろん、ドラゴン由来の馬鹿力である。

「魔法を習うには、どうすればいいのかな?」

 マユがたずねる。

「そりゃあ、どっかの魔法使いを捕まえて弟子入り志願をするとか、ああ、そう言えば、魔法を教えてくれる学校なんてのもあるって聞いたなあ」

「学校!」

 瞳をキラキラさせて、パフ。

 お姉さんも相槌を打つ。

「いいよね、学校、憧れるよね」

「うん、一度は通ってみたいなって」

「そっか、そっか」

 八百屋の店主がパフの頭に手を置く。

「魔法の学校はわからないが、読み書きや算術を教える普通の学校なら、もう少し大きくなれば通えるかもしれないな」

「あぁ、んー」

「どうした、微妙な顔をして」

 パフが答える。

「文字は、女神様のところで覚えちゃってるから。あと計算も簡単なのならわかるので」

「おいおい、お前さん、見かけによらずハイスペックだな」

 ますます頭を撫でられるパフ。

 店主は、どこかの教会で勉強を教わったものと理解したが、事実はもっとファンタジー。

 読み書き、算術を修めていて、あのパワーを秘めているとなれば、それなりの人物が保護者として名乗りをあげるかもしれない。

「この子の場合、まだ幼いけれど将来有望そうだし、世話をしてくれる魔法使いを探して、弟子入りするのも良いかもしれないね」

 負けじとパフを撫でくりまわしていたお姉さんも、思案顔になる。

「そんなに都合よくいくかなあ、魔法使いって生活力なさそうなイメージだし、パフちゃんを安心して任せられる人でないとダメだよ」

「そうだね、まあ、とりあえずマユちゃんの勤め先で相談してご覧よ、力になってくれると思うよ」

「うちの店長、謎の人脈があるものね。どこにでも居そうな道具屋のおじさんなのに、どうなってるのか本当に不思議なのだけれど」

「あの人も苦労人だからねえ、その分、色々な人に頼られても来たんだよ」

「ふーん、まあ、そうかも」

 ニマニマとちょっと嬉しそうなマユに、ほのぼのする八百屋の店主。

 東八番街の道具屋の主人は、マユにとって父親も同然の存在なのだ。

「あっ、おじさんも相談したいことがあるから、明日の晩に顔を出すって伝えといて」

 了承のむねを返すマユ。

「じゃあ行くね」

 残りの買い物へと向かう二人を、ほがらかに見送った八百屋の主人は、彼女たちの姿が見えなくなると深刻そうな顔になり、しばし黙考した。

 その後、市場を巡り買い物を済ませて、家に帰ったお姉さんとパフ。

「うにゃああ」

 むにゅむにゅ。

 形容しがたい声をあげるパフ。

「パフちゃんは、お料理をしたことはあるの?」

 との問いかけに、頭(かぶり)を振ったパフのために、一緒に料理をしようと誘った。

 懸命にハンバーグのタネをコネコネする。

 この夜、パフは色々な初めてを体験した。

「わぁ、ベットで寝るのって初めて!」

 この一言がお姉さんの涙腺に追い打ちかけたが、想像したようなことは全く無い。

 ちなみに、パフは水棲のドラゴンだったりするのだが、あれをウォーターベッドとは呼ばないよね、なんて埒(らち)もないことを考えながら、シーツの感触を堪能した。

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