天の道を往き、総てを司る

天の道を往き、総てを司る

第10話  歌姫


キラが拾ってきた救命ポットの前に銃を構えた整備員達が並んでいる。
中にいるのが誰なのか……人じゃない可能性だってあるのだ。警戒するのも当然と言える。

「開けますぜ」

ポットの扉の前でロック解除作業を行っていたマードックが言う。
マリューが頷いたのを確認し、マードックはポットのハッチを開く。
ハッチが開く……しかし、中からは誰も出てこない。

「……ありゃ? 無人?」

思わずライトが呟く。
直後、中から一つの球体が飛び出してくる。

「ハロハロ~」

『……はい?』

その場にいた全員が脱力したかのような声をあげる。
緊張していた雰囲気の中でいきなり「ハロハロ~」と気楽な声を出す変なピンク色の球体が出てきたのだ。
これで脱力するなと言うのは少々酷であろう。

「ありがとう、ご苦労様です」

それに続き、ポットの奥から透き通った少女の声が聞こえてくる。
そして、中から腰まで伸びたピンク色の髪を持つ白いドレスの少女が現れた。
皆が唖然とする中、少女はゆっくりと周囲を見渡し軍服と袖についたエンブレムを見て驚きの声をあげる。

「……あら?」

驚きというには少々間の抜けた声だったが表情からして驚いている事は間違いない。
少女は床に降り、ピンク色の球体を両手で掴み……呟いた。

「あらあら……此処はザフトの船ではありませんの?」

『……はいぃ!?』

地球連合軍の戦艦の中、オマケにクルーの大半が集まっているこの場所で言うにはあまりにも不釣り合いな言葉。
その一言により、この場にいたクルー全員は大混乱に陥った。



格納庫でクルー達が大混乱に陥っている時、医務室では眠り続けているクレアの側にフレイがいた。
重傷を負って運び込まれてから丸一日……まだ目覚める気配はない。

「……クレアさん」

彼女が運び込まれてからフレイは何度も医務室へと足を運んでいる。
他のみんなのように艦の仕事を手伝っておらず、それ以前に何も専門知識が無い自分が出来ることと言えばクレアについてる事ぐらいしか思いつかなかった。
へリオポリスで道に迷っていた所を助けられたと言う事や歳も近い事、自分には無い格好良さもありフレイはクレアを頼りにしていたし、一種の憧れも抱いていた。

「……う……ん」

「クレアさん……? 目が覚めたんですか!?」

「フレイ……?」

目が覚めたばかりで意識が少し朦朧としている。
とりあえず周囲を見渡して此処は医務室で自分はベットに寝かされていると言う事はわかった。

「よかったぁ……フロンティアサイドで大怪我して運び込まれてからずっと寝てましたから……」

「フロンティアサイド……そっか、脱出出来たんだ」

クレアは左腕で右肩を抱き寄せるように手を置く。
その表情はいつもの彼女からは想像が出来ない暗い物だ。

「……クレアさん? どうかしたんですか?」

「え……ああ、何でもないわ」

クレアは心配そうに顔を覗き込んでくるフレイに笑顔で答える。
しかし、その笑顔は明らかに無理矢理浮かべた物だ。

「そう……ですか……そうだ。私、みんなを呼んできますね」

フレイはそう言って椅子から立ち上がり出入り口に向かう。
ドラを開けたフレイは一度立ち止まり背中越しにクレアへと顔を向ける。

「あの……クレアさん。何があったのか知りませんけど……元気、出してくださいね」

そう言ってフレイは医務室を後にする。
クレアはベットに倒れるように寝転びうつ伏せになって自嘲気味に呟く。

「……元気出せか……暫くは無理か……な」

脳裏に思い出されるのはフロンティアサイドであの男に受けた拷問と屈辱の数々。
最初の内はなんとかなるだろうし、自力で逃げられると思ったが結果はあれだ。

「…………」

肉体的、精神的苦痛を負ったクレアの目から一筋の涙が零れた。



格納庫での爆弾発言の後、とりあえず空き部屋になっている士官室へと連れてこられたピンク髪の少女。
マリュー、ナタル、フラガ、ダグラスの4人による尋問が行われている。

「えっと……ラクス・クラインでしたね? お名前は」

「はい」

その名前を聞いたフラガが思い出したかのように呟く。

「クライン……? そういや、プラントの最高責任者の名前も同じだったような……」

「ええ、シーゲル・クラインは私の父ですわ」

フラガの疑問にラクスと名乗った少女はあっさりと肯定の返答をする。
地球連合艦のど真ん中で自分はプラント最高責任者の娘ですとあっさりと言い放つ……この少女に4人は頭痛を覚える。

「……自分がどういう立場なのか……理解してるんでしょうか……?」

「してないだろ……多分」

「ですね」

特に真面目なダグラスとナタルは本気で頭が痛くなってきているのか力無くベットに座り込んでいる。
普段の覇気がその姿からは全く感じられない。
それはマリューとフラガも同じでありこの予期せぬ客人に対しどうすれば良いのか解らないといった様子で困惑の表情を浮かべていた。



「足つきはフロンティアサイドを出た後、月に向けて進路を取っているようです」

ザフト軍戦艦ヴェザリウスのブリッジ。
机上のモニターに映しだされた宙域図に友軍を示す青い光点と敵軍を示す赤い光点が映しだされている。
最も敵軍の位置はあくまで予想であるが。

「ふむ……現在の我々の位置から直進すれば横腹をつけるな」

モニターを見ていたクルーゼが呟く。
へリオポリスで受けたダメージを本国で癒し、クルーゼ隊はアークエンジェル追撃の為に出撃していた。

「ええ……予想が正しければ後数時間で遭遇するかと」

アデスも頷きながら呟く。

「この予想に掛けてみるか……」

クルーゼはそう呟いてアークエンジェル追撃のプランを脳内で描く。
それに対しアデスが難しい表情を浮かべる。

「ですが隊長。本国からは別件の任務も受けていますが……」

「わかっているさ……しかし、その為に足つきを逃すわけにもいくまい」

僅かに笑みを浮かべ言い切るクルーゼ。
アデスはそれに対し僅かに嫌悪感を覚え険しい表情を浮かべた。
一方、ヴェザリウスの格納庫を一望できるパイロット待機室でアスランはソファーに腰掛け複雑な表情を浮かべていた。
本国から出撃する際に父から聞かされた報告、ユニウスセブン追悼式典の為に出ていたラクスを乗せた艦が行方知れずとなった。

「……へリオポリス以来、ろくな事が無いな」

自嘲気味に呟く。
親友だったキラとは敵同士になり、更には婚約者でもあるラクス・クラインが行方不明。
不謹慎な言い方だがここまで不幸が続くと厄年とさえ思えてくる。

「ん……なんだ、アスランいたのか」

待機室のドアが開きイザークが入ってくる。
その後ろには何時も通りディアッカと見知らぬ長い黒髪の少女が続いていた。
自分と同じ赤服を着ているという事はパイロットであろうがクルーゼ隊に女性パイロットはいなかった筈だ。

「どうしたんだ、アスラン? ぼけっとしてさ?」

「いや……其処の女の子は誰かな……って」

それを聞いたディアッカは「あちゃーっ」と呟いて額に手を当て、イザークはあからさまに大げさなため息をつき、少女は落ち込んだ様子で「ハハハ」と乾いた笑みを浮かべている。
三人の反応の意味がわからないアスランはますます困惑する他なかった。

「いや……どうしたんだ?」

「お前……ボケ始まったか?」

ディアッカの言葉はスルーし、イザークが言う。

「本国を発つ前に隊長が紹介していた新人だろうが……聞いていなかったのか?」

「えっ……ああ、そういえば」

そう言えばクルーゼ隊長が新人の紹介をしていたと思い出す。
最も、自分はラクスの事が気がかりで右から左へと抜けていたのだが。

「全く……」

「イザークさん、もういいですよ。私、シホ・ハーネンフースと言います。今後ともよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ」

お互いに挨拶を済ませた所でイザークが口を開く。

「ところで……ラクス嬢の事でも考えていたのか?」

アスランの表情が僅かに曇る。
それを気にもせずイザークは言葉を続ける。

「まぁ、婚約者が行方不明になれば心配するのも当然だな……余り気負うなよ。俺でよければ協力してやらん事も無い」

その言葉に、場が凍り付いた。
ディアッカはこの世の終わりを見たかのような表情を浮かべ、シホは何が何だかわからず呆然とし、アスランに至っては腰を抜かしている。

「……なんだ? その反応は?」

「イザーク……豆腐の角に頭ぶつけたのか!?」

「アスランにそんな事言うなんて俺の知ってるイザークじゃねぇっ! お前、偽物だな!? 宇宙から来た虫の怪物が擬態してるに違いない!」

イザークのこめかみに青筋が走る。
だが、それを理性でぐっと押さえる。

「ハッ……俺とて人を気遣うことぐらい出来る。というか……お前らは俺の事をどう思ってたんだ?」

「言い回しがいちいち嫌みな典型的マザコンおぼっちゃま」

とディアッカ。

「え~……初対面の印象だと……厳しそうな人だなぁ……って」

とシホ。

「馬鹿」

とアスラン。
流石に理性で押さえられるレベルを超え始めてきた。
両目が怒りの余り真っ赤になりそうである。

「……理解した。次の戦闘では誤射に気をつけろ」

それを何とか押さえつつも、この一言を言い放ってイザークは待機室を大股で歩き去っていった。
その後をぽかーんと眺めていたアスラン達は暫くの間、固まったままだった。
この後、暫くの間イザークの機嫌が悪かったことは言うまでもない。




「おや……? 大尉、尋問は終わったんで?」

格納庫、フラガの姿を見つけたマードックが言う。

「まぁ、とりあえずな……ったく調子狂うぜ」

頭を掻きながら言う。
ラクスの天然丸出しの受け答えと緊張感の無い態度に精神的疲労が貯まっているようだ。

「ところで、機体の修理はどんぐらい進んでるんだ?」

「ストライクとドラグナー、ゼロは修理完了しました。ですが、アークラインはちょいと時間掛かりますねぇ……」

そう言いながらマードックは背後に固定されているアークラインを見上げる。
フロンティアサイドで回収された際に負っていた損傷は激しく、修理に時間がかかる為手付かずの状態だ。
恐らく予備パーツのストックの大半を使う事になるとマードックが苦い表情を浮かべる。

「なるほどな……まぁ、嬢ちゃんがあの怪我だしどっちみち出撃は出来ないんだろうが」

フラガの言うとおり、アークラインと同じくクレアも重傷を負っている。
それに彼女の義手の事もある。用意があれば艦内でも新しく義手を取り付ける事は出来るが今の設備ではそれもかなわない。

「そういや、レナード少尉の意識戻ったんですかい?」

「ああ、俺等がお姫様とご対面した時に目を覚ましたらしいぜ。俺もちょっと見舞いにいったけどな……今は部屋で休んでるぜ」

正確には休んでいると言うよりも引きこもっているが正しいが……とフラガは表情には出さず心の中で呟く。
自分達がどうこう言える問題では無い、彼女が自力で立ち直るのを待つしかないだろう。

「まぁ、ナデシコやスペースアークの連中もいるし嬢ちゃん一人分の穴は埋められるだろ」

「そうですね……とりあえず、アークラインの修理も早めに済ませますよ」

「ああ、頼んだぜ」

そう言ってフラガは自分の愛機の調整の為、メビウス・ゼロへと足を向けた。



「では、月本部からの先遣隊がすぐ近くに?」

『ええ、そのようです。さっき通信を拾いましたから』

ブリッジではマリューがナデシコからの通信を受けていた。
どうやら月本部から先遣隊が自分達を出迎えに出てきているらしい……今のアークエンジェルは長距離通信が不可能であり、ナデシコが偶然それを拾ったのだ。

『とりあえずそちらにいる民間人の名簿をこっちに渡してください。スペースアークの避難民の名簿と一緒に纏めて送ります』

「あ、はい。わかりました」

すぐに指示を出しアークエンジェルに乗る民間人の子供達の名簿をナデシコへと送信する。

「それで、合流はいつ頃になるのですか?」

『えっと……若干前後するでしょうけど大体5時間後ですね』

後5時間前後で先遣隊と合流出来ると知ったクルー達に安堵の表情が浮かぶ。
今まで補給を受けようとすれば必ず何か起きたのだが今後こそ大丈夫だろう。

「わかりました。皆にもそう伝えておきます」

『はい……後、一つ。そちらにフレイ・アルスターって方はいらっしゃいますか?』

「えっ……ああ、はい。乗艦していますが……それが何か?」

『彼女の父親、ジョージ・アルスター事務次官も先遣隊と共に来るそうですのでそう伝えておいてくれと……では』

ルリはそう言って通信を切る。
一方、マリュー達は目を丸くしていた。
まさかあのフレイが事務次官の娘だとは思いもしなかったからだ。

「……とりあえず、バジルール少尉。伝言お願いできるかしら?」

「は……はい」

ナタルは頷いてブリッジを出る。
それを見送ってからマリューとダグラス、他ブリッジクルー全員がため息をついた。
娘が心配なのは解るがわざわざ先遣隊と一緒に来るか普通……と皆の心がシンクロした。

「……ところで、艦長。ラクス・クラインの事はどうされるので?」

ダグラスが真剣な表情で問う。
先遣隊と合流できるのは喜ばしい所だが、同時にラクスの事が問題となる。
彼女は敵対国であるプラント最高責任者の娘だ。このまま引き渡せばどうなるかは目に見えている。

「そうね……私も悩んでる所よ。軍人としては、このまま引き渡すべきなんでしょうけど……」

「彼女は有効な取引材料……引き渡せばプラントとの交渉に利用されるでしょうね」

ダグラスの言葉にマリューは難しい表情を浮かべる。
一個人としてはあの少女を引き渡すことに抵抗があるのだろう。
ダグラスもそれは同じだが自分は軍人なのだから個人的感情は二の次だと割り切っている。

(まぁ……利用されるだけで済めば良いんだが……)

ダグラスは心の中で呟く。
噂でしか無いが軍の上層部は反コーディネイター主義のブルーコスモス……それも過激派が大半を占め始めているという。
其処にラクス・クラインを引き渡せばどうなるかなど考えるまでもない。
軍人とは嫌な職業だなとダグラスは自嘲気味に呟いた。



同じ頃、食堂でも一騒動起きていた。
カウンターにはトレーに乗った二人分の食事が置かれ、その前でトールとミリアリアがフレイが何やら言い争っている。

「ん? オイオイ、何の騒ぎだ?」

遅めの昼食を取ろうと食堂を訪れたケーンと、ライト、キラも丁度それを目撃していた。
ライトの問いにトールが答える。

「ああ……フレイがクレアさんに食事持っていくっていうからついでにラクス……だっけ? あの子にも食事届けてくれって頼んだらフレイが嫌がってさぁ」

それを聞いたライトは成る程と頷き、ケーンは呆れたような表情を浮かべ、キラはフレイが断るような理由が見つからず妙な顔をする。
二人分の食事なら台車を使えば簡単に運べる。ラクスがいる空き部屋はクレアの部屋へ行く際に前を通るので頼まれるのは道理なのだが。

「だから、嫌だって! なんで私が……」

「んで、フレイは何であのお姫様に食事届けるのが嫌なわけ?」

ミリアリアが口を開こうとする前にライトが口を挟む。
このまま二人に言い争わせても水平線のままなのは間違いないからだ。

「だって……あの子ってコーディネイターでしょ? もし飛びかかられでもしたらどうするのよ」

「……あっそ」

ようするにフレイはコーディネイターが怖いというか嫌いなのだろう。
ライトは大げさにため息をつきながら横目でキラを見る。
案の定、表情が僅かに曇っている。ケーンも僅かに眉をつり上げフレイに対し苛つきをぶつけているのは明らかだ。

「コーディネイター全員がそんな事出来るわけじゃないって……勉強は出来ても運動が駄目な奴とか知ってるぜ?」

「そんなの見た目じゃわからないじゃない」

「そりゃ、ごもっともだが……それじゃ、こうしよう。フレイは食事を運ぶだけで渡すのは別の奴がやるって事で」

フレイは折れないなと判断したライトは妥協案を提示する。
ようはラクスと二人きりになるのが嫌なのだろうし、誰か別の奴が渡すのならば構わないだろうと踏んだのだ。

「それなら……別に良いけど」

「よし決まりだ。それじゃ……ケーン、お前行ってやれ」

「俺がかよ」

「フレイだって男が一緒のが安心できるだろ。ホラ、さっさと行けっての!」

半ば追い出される形で台車に二人分の食事を乗せ、フレイとケーンが食堂を出る。
二人が出ていくのを見届けた後、残りのメンバーは一斉に力が抜けぐったりと椅子に腰を下ろす。

「はぁ……フレイってコーディネイター嫌いだったんだな」

トールが言う。

「ブルーコスモスって訳じゃなさそうだけどね……それよりキラ……フレイだって悪気があるわけじゃないの」

ミリアリアが心配そうに言う。
コーディネイターであるキラにフレイの言葉は相当効いた筈だ。

「ああ……うん、大丈夫だよ」

そう言うキラの顔はどこなく暗い。

「ところで、ライト……ケーン行かせて良かったのか?」

「ん? 何がだ?」

「アイツ、フレイを睨んでたし……」

トールの言いたいことは解る。
ケーンがフレイに何か言わないかどうか心配なのだろう。

「まぁ、ケーンはあれで分別ある……と思うから手上げる事は無いだろうけど……なぁ」

ライトも人選ミスったかと少しばかり不安になった。
短気なケーンの事だ。キラがコーディネイターだと言うことをフレイに言う可能性は高い。
最も、いずれは解る事だし隠すような事でも無いのだが。



居住区へと続く廊下を台車を押すフレイとケーンが歩いていた。
食堂を出てから全く会話が無い。元より余り交流もないので仕方がないといえばそうなのだが。

「おい……お前、ブルーコスモスなのか?」

ケーンが口を開く。

「違うわよ。でも、言ってる事は間違って無いじゃない。病気でも無いのに遺伝子操作するなんて変よ」

フレイの反論にケーンはため息をつく。
典型的なコーディネイター嫌いなだけであろうフレイに対してはもはや怒りすら沸かない。

「そういう貴方はどうなの? コーディネイターの事どう思ってるのよ」

「別に何とも思ってねぇよ。遺伝子弄くってようが関係ねぇな、ダチにも何人かいるし……むしろ、勉強とか教えて貰って助かってらぁ」

苦笑しつつケーンが言う。

「何よそれ……」

フレイは理解できないといった様子で呟く。
それに対しケーンが呟く。

「お前さ、もしクレア姉さんがコーディネイターだったら食事届けるなんて言い出したか?」

「えっ……?」

ケーンの一言にフレイは固まる。

「別に深い意味はねぇけどな……なんとなく言ってみただけだ」

そう言うとケーンは台車から一人分の食事が乗ったトレーを手に取り、少し先にある部屋へと足を向ける。

「そんじゃ、俺はこれ届けておくからフレイはクレア姉さんの分よろしくな」

言うが早いかケーンはラクスのいる部屋の前まで早足で向かっていく。
フレイはクレアの部屋へと続く曲がり角を曲がる。

「……」

ケーンに言われた言葉が脳裏に響く。
クレアは地球連合の軍人だし、医務室の先生がナチュラルだと言っていたのを聞いていたのでコーディネイターでは無い事は知っている。
しかし、もしも彼女がコーディネイターだったら自分はどういう反応していたのか。
今まで考えた事の無い疑問にフレイの表情は曇る。

「……あ」

気がつくとクレアの部屋の前に来ていた。
食事を手に取り、ドアをノックしようとして手が止まる。

「なんで、あんな事気にしなきゃいけないのよ……」

不愉快、非情に不愉快だ。
ケーンに言われた事でなんで自分がこんなにも悩まなければ行けないのか。

「……ふん」

考えるのは止めだと鼻を鳴らす。
気にすることはない。クレアはナチュラルなのだからそれでいいじゃないかと言い聞かせる。
そして、ドアをノックしようとした時……艦内に警報が鳴り響いた。



「連合の艦隊か……航路からして足つきと合流するつもりのようだな」

ヴェザリウスのブリッジでクルーゼがほくそ笑む。
正面モニターには連合の戦艦数隻が移し出されている。

「足つきに補給を運んでいるという事でしょうか?」

「恐らくな……これを見逃す手は無いか。総員第一戦闘配備、MS出撃させろ!」

「仕掛けるのですか!?」

「ああ、連合の艦隊が目の前にいるのだぞ? それが足つきへの補給を運んでいるとなれば見逃せんさ」

そう言ってクルーゼは床を蹴り、ブリッジの出入り口へと向かう。

「シグーで出撃する。準備させておけ!」

ブリッジを後にするクルーゼ。
その後、ヴェザリウスとガモフのカタパルトが開きMSが次々に出撃していく。
出撃したMSの中にはアスランが駆るイージスの姿もあった。

「連合の艦隊か……」

『アスラン』

イージスの横にブリッツが突き、接触回線で通信を入れてくる。

『あまり無茶はしないでくださいね。ただでさえ、ラクス嬢の事で……』

「ああ、わかってる。心配するな」

ラクスの事は気がかりだが今は戦闘に集中しなければならない。
アスランは意識を目の前に展開する連合のMSとモビルアーマー部隊に集中させる。
その後方ではデュエルとバスターに続いて、シホの駆るジンが出撃していた。

「ハーネンフース、お前は初陣だ。無茶するなよ」

「俺等のフォロー頼むぜ」

「はい、わかりました」

イザークとディアッカの言葉にシホは頷く。
先遣隊の戦艦が放ったビーム砲をゴングに戦闘が開始された。

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