それでもあたしは生きていく

それでもあたしは生きていく

2009.08.31
XML
カテゴリ: 本・ほん・ホン

 くそ忌々しい選挙はあったけれど・・・
 先週からずっと、あたしはときめいている。
 あたしをときめかせ続けているのは、こうの史代『この世界の片隅に』のすずと周作だ。

 時は昭和9年の広島。今から75年も前のお話しから始まる。
 すずという海苔漁師の娘は、周作という少年に出会う。人さらいの背負い籠の中で・・・
 周作との出会いは、すずにとって現実のものかどうかすらわからない、記憶の彼方に埋もれていく。

 9年後
 1人の青年が彼の父と一緒にすずの家を訪れる。

 「困ったねえ・・・嫌なら断りゃええ言われても、嫌かどうかもわからん人じゃったねえ・・・」

 17歳のすずにとって、周作は遙か記憶の彼方だった。

 2か月後、すずの一家が呉へ訪れる。向かうは北條家。新郎である周作が待つ家だ。
 物資が乏しくなりつつある中にも関わらず、家中の食物がご馳走として出され、つつがなく結婚式が行われる。

 その夜・・・つまり初夜
 緊張しすぎて何も食べていなかった周作が干し柿を取ってくれ、2人で食べる。

 「あのー 周作さん うちらどっかで会いましたか?」
 「・・・うん、会うた(おうた)で えらい小まい(こまい)頃に あんたは憶えとらんじゃろうが」
 「すみません・・・ただでさえ うちゃぼーっとしとるもんで」

 ・・・・・・・

 いやーーーーーーんっ!
 もう、おばちゃんはこれだけで胸がきゅーんとしてしまう。
 8歳と12歳、たった数分のやりとりだけ。それを9年も想い続けるってどうよ!!!
 最近ケータイ恋愛小説なんかがよくあるけど、12歳からずっと想い続けて「お嫁さんに下さい」って来るほどきゅーんってくる話がある???しかも、そのお土産がそのとき周作くんが人さらいにあげたキャラメル・・・もう、もう、おばちゃんはやられっぱなしだw


 あたしも周作くんの存在を忘れてすず少女の活躍に夢中になっている中、突然縁談話が飛び込んでくる。
 こうの史代さんの構成の巧さ、複線のひき方がものすごく活きている。深みがあって繊細で暖かい・・・巧い、ものすごく巧い!

 周作や家族に愛され、大事にされ、元モガで未亡人の小姑の嫌みには全く気付かず、元気に呉で暮らしていくすず。
 真面目で照れ屋で、とっても優しい周作くんとのほんわかしたエピソードも心を暖かくする。照れ屋なくせに、職場にどうでもいいノートを届けさせて帰りにデートしたり、雨宿り中にチューしてたらお姑さんとお舅さんに見られちゃってたり・・・昭和18年という暗い時代背景を忘れさせるくらい、どのシーンも暖かくてほんわかしていて素敵だ。

 新妻として呉で元気に暮らすすずに、ふとしたきっかけで友達ができる。
 それは、流れ流れて呉にきた、遊郭の女郎、白木リンさんだった。

 「過ぎた事、選ばんかった道、みな、覚めた夢と変わりゃせんな。すずさん、あんたを選んだんはわしにとって多分、最良の現実じゃ」

 「好き嫌いと合う合わんは別じゃけえね。一時の気の迷いで変な子に決めんでほんま良かった」

 「伯母さんの言うとおりじゃ すずさんだって気付いとんじゃろ」

 「・・・・そりゃあ元々知らん人じゃし 4つも上じゃし 色々あってもおかしうない。  ほいでもなんで 知らんでええことかどうかは 知ってしまうまで判らんのかね」

 「周作さん  うちは何ひとつ、リンさんにかなわん気がするよ・・・」

 周作が選ばんかった道と、最良の現実・・・心の綾が、複雑に絡んでいく・・・

 周作の突然の求婚は、母親のケガによるものだった。
 しかし、本当は軍の文官が女郎と結婚することを防ぐため、父母はすずと結婚させたのではないだろうか。また、周作は9年前に数分だけ出会った女の子を見つけ出すことなんてできないだろうという思いから、すずを指名したのではないだろうか・・・読めば読むほど、すずと周作、そして取り巻く人たちの人物像や背景が膨らんでいく。もう、おばちゃんの妄想は止まらないw

 すずもまた、淡い思いを心に秘める人がいた。
 幼なじみの水原哲は、兄の意志をついで水平になっていた。
 第二次世界大戦下の兵隊にとって、出撃した者が生き残って帰ってくることはこの上ない恥であった。

 「同期もだいぶ靖国へ行ってしもうて集会所へも寄りにくうなった ほいでここへきてしもうた。 のう周作さん、死に後れるいうんは焦れるもんですのう」

 ふらりとすずを訪ねて泊まりに来た水原の寝室へ、周作はすずを行かせる。

 「・・・水原さん、うちはずっとこういう日を待ちよった気がする・・・でもこうしてあんたが来てくれて こんなにそばに居ってのに うちは今 あの人にハラが立って仕方がない・・・・・!ごめん ほんまにごめん!」

 「あの人が好きなんじゃの」

 「・・・・・・・・・うん」

 「当たり前のことで怒って、当たり前のことで謝りよる すず お前はほんまに普通の人じゃ」

 夜明けまで語り合う2人・・・

 軍隊という尋常でない環境に身を置き、いつ会えなくなるともわからなくなるすずに会いにきた水原と、文官とはいえ、軍の人間であり、水原の気持ちが痛いほどわかる周作・・・現代ではあり得ない、あの時代を生きる男にしかわからない行動の数々・・・またまた胸がきゅんとなった。

 昭和20年
 戦局は次第に厳しくなり、すずは右手と姪っ子を空襲で失う。
 家事ができないことの気兼ねや、大好きな絵が描けないこと、可愛がっていた姪っ子の死・・・おおらかなすずも次第に壊れていく。

 周作の愛情を受け入れられず、姪っ子を助けられなかった負い目から、広島へ帰ることを決意するすずだが、何かにつけいびられた小姑に「すずさんがイヤんならん限りすずさんの居場所はここじゃ くだらん気兼ねなんぞせず自分で決め」と言われ、呉に残ることを決意する。
 そして、ふるさと広島に・・・

 1話1話、ページ数は多くないものの、登場する人たちの思いや動きが手に取るように伝わってくる上に、あれこれ自分の中で世界が広がっていく。
 緻密な構成と、モデルでもいるのかと思うくらい個性豊かで活き活きしているキャラクター、ふるさと広島に対する愛着、ほんわかした作者の人柄・・・「夕凪の街 さくらの国」も禅のようにじんわりと心に響く漫画だったが、「この世界の片隅に」はより一層深く、精密に作られている。
 そして、すずちゃんと周作くんを巡る男と女の心の動きがものすごくリアルで濃厚だ。小説やレディコミの漫画家が描いたらものすごくエロいものになるのではないだろうかと思うが、優しく、丁寧に描かれたタッチがいやらしさを感じさせず、純文学のような美しさを醸し出している。

 ただ、終わりの方の展開が甘いので、もしかしたら途中で打ち切りにされたのかもしれない。終わりの世界のすぼまり方だけが悔やまれてならない。つか、もっともっとこの一家の将来が見たくてたまらないのだ。

 この漫画は若い世代が読んでも面白くないかもしれない。
 恋愛、仕事、何となくできあがってしまった感じの毎日を過ごしている人がいたら、是非1度目を通してみて欲しいと思う。
 すずと周作のひたむきさが、あなたの心を10代に若返らせてくれるはずだ。

 ああ、興奮しすぎて支離滅裂だ・・・ごめんちゃい><


この表紙が一番好きです.jpg





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう



■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:ドキドキが止まらない(08/31)  
pinky5656  さん
最近ドキドキしてないなぁ・・・
仕事に疲れてヨロヨロ、してる(笑)
ブログ読んでるだけではついサンのドキドキが伝わってくるもんw
読んでみたい~~
こうゆう素朴な感じもたまにはいいかも~~ (2009.08.31 22:14:32)

(* ゜O゜)ホォホォ♪  
pipキム  さん
マンガ世代ですなあ^^
でもマンガ第一世代は私らやかんねー( ̄― ̄)ゞ フフッ
日本のマンガは世界共通語ですもんねえ
そりゃこんなステキなお話あの大雑把な感性しかない国の人らが見たら
胸きゅんどころとちゃいますやろね(´▽`d)ネッ♪

アメリカの映画産業ではええ脚本を探して日本に来てるって
この前テレビで見ましたけど そりゃむりないわね^^
昔の日本人の誰もが持っていた細やかな感性 
若い人たちにも受け継いで欲しい(vωv*)アーン (2009.08.31 22:30:06)

ありがとうございます  
はつい1945  さん
pinky5656さん

お仕事忙しそうですねぇ。
子育てもあるし、すり減っていっちゃいますよね・・・。
そんなときこそ、こういうほんわかしたお話しがオススメです!
ちょっとだけ、心に潤滑油を注いであげてください☆ (2009.09.01 23:59:34)

ありがとうございます  
はつい1945  さん
pipキムさん

マンガ世代・・・なんですかねぇw
でも、キムさんにはかなわないなぁ・・・姉御と呼ばせて下さいっw

最近、日本もアメリカも日本の漫画の実写化が多すぎると思います。確かに漫画の実写化をアイドル主演で作れば売れますよね。でも、何だかチープすぎて見る気になれません。
もっと奥深さのある作品を作って欲しいなぁと思います。

・・・とは言え、この人の作品「夕凪の街 桜の国」も映画化されましたけどねw
あれは監督の思い入れも強く、メッセージ性の高い映画だからよしとします☆ (2009.09.02 00:06:22)

Re:ドキドキが止まらない(08/31)  
こんなマンガがあったんですか?
知らなかったなぁ~。是非わたしもときめいてみたい♪
明日仕事の帰りに買ってかえろーーっと。
しかしはついさんは文章力があってすごいなぁ。
見習いたいわ~~。 (2009.09.04 23:43:02)

ありがとうございます  
はつい1945  さん
ももりん11さん

あるんですよぉ!
連載していたのは知っていたのですが、コミックになったら読もうと思って楽しみにしていました。

あたしの文章でもときめきが伝わります???
よかったぁ~!
すっごいいいので、是非是非読んでみてくださいまし☆ (2009.09.05 14:56:18)

Re:ドキドキが止まらない(08/31)  
余計なお節介 さん
ドラマ「地味にすごい」の影響で校閲にはまっています。
複線→伏線、水平→水兵 (2016.11.27 13:03:12)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

プロフィール

はつい1945

はつい1945

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

お気に入りブログ

「太平記」(五)を… 七詩さん

まちづくりを、心づ… zero0923さん
保育の悩み・なんで… ベテラン保母さんさん
Happy Life ☆★ミユ★☆さん
私の初めてブログ pinky5656さん

コメント新着

通りすがりですが。@ Re:命が 溶けていく・・・(09/05) 大内さんが知ろうとしなかったことを 大内…
http://buycialisonla.com/@ Re:昼休みなのだっ!(02/27) cialis vs viagra vs levitracheap cialis…
余計なお節介@ Re:ドキドキが止まらない(08/31) ドラマ「地味にすごい」の影響で校閲には…
猫好きの人@ またたびが人に効くなんて・・・・・・・ないよね? 最近 またたび が自分にも効くらしくま…
ペット総合サイト @ アクセス記録ソフト 無料 楽天 アクセス記録ソフト! http:/…

フリーページ

サイド自由欄

設定されていません。

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: