「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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勿忘草~戯曲集~
プロローグ~
本を手に男が立っている
男 スペインのラ・マンチャに住むおじさんは、騎士物語を読んですっかりその気になってしまいました。おじさんは自分のことをドン・キホーテと名乗り、近所の農夫をお供につれて、驢馬に乗って、あこがれのドルネシア姫を探しに旅へと出発しました。
場所はバルセロナ、旅館の娘キトリは、女友達や恋人バジルと遊んでいました。ちなみにこのキトリの父親は、キトリと金持ちのガマーシュと結婚させたがっています。だから当然バジルが大嫌い!顔を見れば別れ話ばかり・・・。そんなところへ人気の闘牛士達がやってきて,マントさばきもみごとに踊りだします。が、そこへ突然、ドン・キホーテがやって来て広場は一転騒然と……。旅館を城だと思い込み、キトリの父親に家来にしてくれと頼み込み、あげくにはキトリをドルネシア姫と思い込んでプロポーズ!!広場の踊りは舞踏会と勘違いして踊りだす始末。ごった返す広場を後に,キトリとバジルは手に手をとって逃げ出しました。
逃げに逃げて居酒屋にたどり着いたキトリとバジル。それを追ってガマーシュとキトリの父親、更にはドルネシア姫がさらわれたと思い込んだドン・キホーテもやってくる。そこでバジルが狂言自殺はするは、テーブルの上での闘牛士が踊りだすはで、もう大騒ぎ!!
更に更に逃げてきたキトリとバジルはジプシーの野営地をみつけ潜りこみました。そこで行われていたジプシー演じる人形劇で、姫が悪漢に襲われるのを見て現実だと思い、芝居小屋に突進してゆき、風車を見て悪漢だと思い、槍をかかげて突っ込んで,羽に巻き込まれて気絶するドン・キホーテ。……もう、おバカ……。
さて、気絶しているこのドン・キホーテ、森の中でお供に怪我の介抱をされながら、ドルネシア姫がキューピットや妖精たちと踊っている夢を見ました。夢から覚めると、ちょうど森を通りかかった公爵に助けられ、館へ招かれました。
館ではドルネシア姫と銀月の騎士の芝居が演じられていました。扮しているのはキトリとバジル。公爵は面白がってどん・キホーテに、銀月の騎士と対決させようとします。キホーテは喜んで挑戦しますが、自分の足に自分で絡めつまづいて、あえなく降参……。こうしてキトリとバジルはめでたく結ばれました。
ということは、当然ドン・キホーテは夢破れ、人々の笑いを背に、次の冒険へと旅立ってゆくのでした。
男 本を閉じる
第1場 おっさんとぼうず
工事現場 10時の休憩時間
数人の現場作業員がコーヒーを片手に休憩し始める
雰囲気からリーダー風の男A
男A ちょっと予想外だったな・・・。
男B ですね・・・。
男A あんなに砂利が出てきちゃ、スコップで掘ってたらいつまでかかるか・・・。
男B ですね。全く入っていかなっすモンね。
男A ああ・・・そっちはどうだ?
男C いやーこっちも同じですね。
男A そっちも砂利か?
男C こっちは砂利なんて可愛いもんじゃないっすよ。ありゃ、岩ですね。
男A でかいの?
男C ええ・・・。
男A 1人で行けるか?
男C キツイっすねぇ。
男A そっか、いよいよやばいなぁ・・・。今日中に片付けねえといけねえって言うのに・・・。
男B こうなったら、ユンボこっちに回してもらいませんか?
男A いやー多分、今日いっぱいは空かないんじゃないかな?
男B だったら、リースしましょうよ。
男A 社長に怒られるぞ・・・。
男B でも・・・。
男A だってよー、赤が出ちまうよ。ただでさえギリギリなんだから。
男C ・・・じゃあ、今日は残業ですかねえ・・・。
男A まあ・・・ほぼ、そうだろうな。
男C えー!?どうにかなりませんか?俺、今日デートなんですよ!
男A え?そうなの?いやーどうにかしてやりたいけど・・・ま、今日は運がなかったってことで・・・よろしく!
男C よろしく・・・って言われても。大体ですねえ、分かってるとは思いますけど、この仕事、ろくな出会い無いんですよ!今回だって苦労してようやく手にしたチャンスだって言うのに!
男B あのー残業代払うのとリース代払うのとじゃあんまり変わらなくないっすか?
男A 馬鹿だなあ。社長だよ?あの。残業代なんて出るわけ無いじゃん。
男B えー俺も早く帰りたかったのになあ・・・。
男A おまえまでそんなこと言い出すなよ。大体な、悪いのは、あのおっさんのせいなんだから。おっさんさえいてくれれば、ちょちょいと片付けてくれるのになあ・・・。
男B 今日、おっさんどうしたんすか?
男A さあ?俺のところには連絡来てねえけど。
男B なんだよ、ズル休みかよ!
男C 俺も休めば良かった・・・。
男A おまえが休んだら、徹夜になっちまうだろ!大体、おまえはおっさんから何も聞いてないのか?
男C 知らないっすよ。保護者じゃないんですから。
男A でも、いつも一緒にいるじゃねえかよ。
男C いつも、一緒にいるからって、別にずっと見張ってる訳ではないんですから・・・。
男A 全く、こんな時にあいつは何処に行ってるんだ?
男B 寝坊じゃないっすか?
男A んー・・・違うとは言い切れないところが、おっさんの辛いトコだな。どうせ、昨日飲み過ぎたんだろ?
男C だから、俺が知るわけないじゃないっすか!!
男A 昨日は飲みに行ってないのか?
男C いや・・・行きましたけど・・・。
男A やっぱり、行ったんじゃないかよ。
男C でも、別に飲みすぎるって程は飲んでませんよ。家に帰ってから、更に飲んだっていうなら知りませんけど。
男A 残ったコーヒーを一気に飲み干し
男A じゃあ、さっさとやっちまうか!来ない奴、いくら待ってもしょうがないしな。
男B ですね。
男C はい・・・。
そこへ、スーツを着たガタイのいい男がやってくる
高橋健之助(38):以降 おっさん
おっさん おい!ぼうず!
ぼうずと呼ばれて振り返った男C
岸田亮(23):以降 ぼうず
ぼうず おっさん!今頃来て何やって・・・何すか?その格好?
おっさん 格好?・・・ああ。これか?俺の一丁裏!
ぼうず はあ・・・で?何処行くんすか?
おっさん 聞いて驚け!俺は旅に出る!
ぼうず は?旅?
男A おっさんに気付き近づいてくる
男A おっさん!遅ぇーよ!もう、こっちは大変でたいへ・・・何だ?その格好?
おっさん おお、いい所に来た!これ、社長に渡しといて。
おっさん 封筒を取り出し男Aに渡す
男A 何だコレ?
おっさん ん?ソレ?辞表。
男A 辞表!?何で?
おっさん 俺とこのぼうずは今から旅に出る!
おっさん そう言いながらぼうずの肩を抱き寄せる
ぼうず ちょっちょっと待って。何、旅って?
おっさん なんだよ、忘れちまったのかよ。昨日のことだぞ。
ぼうず は?
おっさん おまえ、言ったろ?俺に彼女が出来る為ならなんでもするって。
ぼうず ちょっと違う。協力するって言ったの。俺が今日デートだって言ったら泣きながら悔しがるから仕方なく…
男A 言い合いしている二人に割って入る
男A それは無理だ。大体、今日だって、おっさんがいなきゃ今日中に終わるかどうかも分からないんだぞ!
おっさん それは無理だ!
男A は?
おっさん 人は何故生きていると思う?
男A 何だよ、気持ち悪い・・・。
おっさん 人はパンのみに生きるにあらず・・・だ。
男A ん?
おっさん 意味は・・・おい!ぼうず、教えて差し上げなさい。
ぼうず え、俺?
おっさん どうぞ。
ぼうず えっと・・・人はパンだけ食べてれば生きては行けるが、パンを食べる為に生きているわけではないと・・・確かそんな意味だったと記憶していますが・・・。
おっさん はい、ありがとう。私、感動しました。それというのも、昨日ですね、このぼうずと一緒にキャバクラに行った訳なんですが、そこで私の隣に座ったヒカルちゃんが言っておりました。「私、大好きなケンちゃんに車買ってあげる為に頑張るの!」・・・え~私、健之助という名前ではありますが、このケンちゃんとは無関係です。念の為。まあ、その時、この無粋なぼうずが言ったわけですな。「そんなの間違ってるよ!」でもヒカルちゃんは目をキラキラさせながら言うんですよ。「あのね、人はパンのみに生きるにあらず・・・よ。私は恋に生きてるの」はい私、この言葉に泣きました。で、決めました!旅に出ようと!!
ぼうず それが何で、旅に出ることになるんだよ。
おっさん 俺、昨日夢をみたんだよ・・・。あれこそ、あこがれの女性・・・!
ぼうず で?
おっさん 旅に出よう!と。
ぼうず どうしてそうなるの?
おっさん この頭に浮かぶ、あの人の顔が消えないうちに探さないと・・・やばい!忘れる!早くしないと!!
おっさん こぞうの腕を引き、連れて行こうとする
ぼうず 俺は、今日はデートなんだって!!
おっさん 自分の彼女と俺の彼女、どっちが大切なんだ!?
ぼうず それは、俺のだよ!
おっさん なんだと!
男A 今日は残業だからデートは無理だぞ。
おっさん だ、そうだ。さ、行くぞ!
こぞう 話をややこしくするな!今はこの意味不明な旅を止めさせるのが先決じゃないの!?
男A あーそうか・・・。
おっさん もう、おまえ等うるさい!
おっさん こぞうを抱えて肩に担ぐ
こぞう 降ろせー!!
おっさん ま、そういう訳なので、高橋健之助、岸田亮の両名は本日付をもって退職いたします!お世話になりました!
こぞう おい、勝手に決めるな!!
男A え?おい、本当に行くのか!?本気なのか!?おまえ等2人ともいなくなったら、絶対に徹夜じゃねえかよ!!おーい!!
おっさん こぞうを抱え立ち去る
男A 俺も辞めたい・・・。
第2場 キリコとカズト
おっさんとぼうず 居酒屋の前にやってくる 夜
ぼうず おっさん!こっからどうするの?
おっさん はて・・・?
ぼうず はて?・・・って、とりあえず東京に出てきただけかよ!
おっさん 人が多ければ、それだけ出会える可能性が高いってことじゃないのか?
ぼうず 人が多いんだから、出会うのも大変なんじゃないの?
おっさん 何!?
ぼうず 10人のなかから1人探すのと100人の中から1人探すのじゃさあ・・・。
おっさん なんてこった・・・。
ぼうず まあ、そもそも東京にいるかどうかも
おっさん うわーっ!!!
おっさん 頭を抱える
おっさん ま、とりあえず飲みながら考えよう。
おっさん そう言って居酒屋に入っていく
ぼうず え?あ、ああ・・・。
ぼうず おっさんを追って居酒屋へ
居酒屋はカウンター席が6席くらいとテーブルが4つに座敷が1部屋
奥の座敷では合コンをやっているらしく騒がしい
店員 いらっしゃいませ。2名サマですか?
おっさん ああ。
店員 カウンターでもいいですか?
おっさん いい?
ぼうず ええ、別にいいですよ。
おっさん じゃあ、カウンターで。
店員 では、こちらにどうぞー。
おっさんとぼうず 誘導されるままカウンターに座り、メニューを見始める
視点は奥へ・・・
奥の座敷では何人かのグループが飲んでいたが、その中に一際仲の良さそうな男女
男:木下和人(26)以降:和人
女:三宮桐子(25)以降:桐子
和人 なんだよ、全然飲んで無いじゃん。
桐子 そんなコトないよ。飲んでる、飲んでる。
和人 何かあった?
桐子 何もないよ、別に。
和人 そう?
桐子 うん・・・。
そこへ乱入してくる女
女A
女A 和人!何、2人でいちゃいちゃしてんの!?
和人 いちゃいちゃなんかしてねぇよ!
女A じゃあ、こっちで飲もうよ!
和人 え?
女A 早く!
女A 和人の腕を引っ張り奥へと連れて行く
桐子 ひとりで飲み始めると男がやってくる
男D 隣、座っていい?
桐子 えっと・・・別に荷物も置いてないみたいだし、飲み物もないし・・・いいんじゃない?
男D じゃあ、失礼しまーす!
桐子 まだココの住人が引っ越してから10秒も経ってないわよ。
男D 狙ってたからね。
桐子 そうなんだ・・・。
男D ああ。仕事何してるの?
桐子 仕事?実家を手伝ってる。
男D へーじゃあ、実家なんだ。
桐子 ええ、そう。
男D 1人暮らしとかに憧れないの?
桐子 そりゃあ、人並みにはね。
男D じゃあ、実家を出て誰かと暮らすとかは考えないの?
桐子 んーでも家業を継がなきゃいけないからね。
男D 兄弟は?
桐子 いない。
男D そうなんだ・・・。実家って何やってるの?
桐子 え?旅館。
男D 旅館?
桐子 そう。ちなみに私、婚約者いるわよ。それとすっごく怖い父親も。
男D あ、そ、そうなんだ・・・。でも、別に俺は気にしないよ。怖い父親とか婚約者とか・・・婚約者!?
桐子 そう。
男D へー・・・。え!?何!?あーちょっと待って。すぐ行く!あーごめん、何か向こうで誰かが呼んでるような気がするから、ちょっと行ってくる。でも、すぐ戻ってくるから。あ、でもココに誰かが座りたいって言ったら気にせず座らせちゃっていいから。
桐子 うん、分かった。
男D 移動する
桐子 ・・・誰も呼んでなんか無いじゃん。
桐子 ため息をつく
女B 桐子の隣にやってくる
女B ちょっとどうしたの?ため息なんてついちゃって。
桐子 そりゃため息も出るわよ。あのクソ親父の話をしたら男は逃げていくし、唯一ビビらなかった男はアレだし。
桐子 あごで和人を指す
女B 仕方ないんじゃない?和人はもてるし、誰もあなた達が付き合ってるとは思ってないもん。
桐子 え?誰も?誰も思ってないの?
女B ・・・だと思うけど。
桐子 どうして?いつも一緒にいるじゃない!
女B でも・・・ほら、桐子には婚約者がいるでしょ?
桐子 ええ・・ええまあ、そうね。
女B でしょ?だから女共は、みんなノーマーク。
桐子 何?じゃあ、みんな私があんなマザコン野郎と結婚すると本気で思ってるの!?
女B え?しないの?
桐子 しないよ。なんで、しなくちゃならないの!?
女B だってさ、あのお父さんの猛攻をしのげるとはとても・・・。
桐子 押し切られるって言うの?
女B まあ・・・ね。 でもいいじゃん。マザコンでもお金は一杯持ってるんでしょ?
桐子 それが奴の唯一の取り柄で、唯一和人にないトコで、更にソレが親父が気に入ってる唯一の理由だからね。
女B 探せば良いトコあるかもよー?
桐子 ない。全く無い。てか、探したくないし、探す気力もない。
女B 随分と本格的に嫌われたものね。何?デートにお母さんがついてくるとか?
桐子 ・・・
女B そうなの!?
桐子 しかもねえ・・・
女B 何?
桐子 偶然を装う芝居が入るのよ。
女B え?
桐子 「アレ?ママ。こんなトコで何してるの?」「アラ?まさちゃん。偶然ねえ。私はタダお買い物しようと思ってネ」「え?本当に偶然だねえ。じゃあさ、一緒にご飯でも食べようよ。ね?いいだろ?キリコ」・・・あんたら毎日一緒にメシ食ってんだろーがぁっ!ああん!?
女B キリコ、本性でまくってるよ!隠して!
桐子 ごめん・・・熱くなりすぎた・・・。
女B それ、お父さんに言っても変わらないの?
桐子 駄目よ、あのクソ親父ったら金に目が眩んで、私の言うことなんか全く信用してないんだから。
女B それは難しいわねえ・・・。
桐子 ・・・ちょっと待って!なんで、みんな私の婚約者の存在を知ってるのよ!
女B え・・・そうねえ・・・なんでだろ?
桐子 女性陣に情報をリークした奴がいるわね。
女B 誰よ、そんな女の風上にも置けないような奴は!
桐子 本当誰だろうねぇ・・・。
桐子 女Bを冷ややかに見る
女B はいはい、そうですよ。うっかり口を滑らせましたよ。すいませんでした。でも、さすが女ね。噂の広がるスピードは木造家屋の火事に匹敵するわ。でも、大丈夫よ。男性陣にはばれてないから・・・多分。
桐子 もう・・・いっそのこと駆け落ちでもしたい気分よ。
女B だったらさ・・・
桐子 ん?
女B しちゃえば?
桐子 何を?
女B か・け・お・ち。
桐子 誰と?
女B そりゃ・・・アレと。
女B あごで和人を指す
桐子 和人を見て
桐子 えーそりゃ好きだけどさ・・・アレだよ?・・・なんで、デレデレしてんの?あの人。ちょっと待って。何しようとしてんの?アレ。
女B ポッキーゲームかな?
桐子 やっぱり?そう見える?
女B うん・・・今時?って感は否めないけどね・・・。
桐子 あの女、誰よ!
女B あれは・・・秘書課の・・・誰か?
桐子 何で、名前も知らない人が参加してるのよ!
女B いやー・・・とりあえず独身で結婚したがってる面子を社内公募しただけの飲み会だから。
桐子 だから、婚約者がいるって言ったらさっきの男は逃げた訳か・・・。
女B だから、さっきの男は私にクレーム言って来た訳か・・・。
桐子 何でも良いから、ちょっと言って来てよ!
女B なんで、私が?
桐子 それを聞く?私に?本当に聞くの?
女B いいじゃん別に。ただの遊びなんだから。
桐子 ほー・・・じゃあ、あんたは、あんたの彼氏が誰かとキスしても遊びなら良いんだ?
女B ・・・分かったわよ。・・・自分で言ったらいいじゃん・・・。
桐子 何か言った?何でもいいから、あの二人を引き離すのよ!!
女B 分かりました・・・。
女B 和人の方に向かう
視点は手前
おっさんとぼうず
二人 ビールジョッキを片手に話している
ぼうず なあ、おっさん。で?どうやって探すつもりなの?
おっさん んー大問題だな。
ぼうず そうだよ。だから聞いてるの。
おっさん 何か良い手はないか?
ぼうず ・・・あのね。俺は、おっさんの言ってるその運命の人とやらの顔も知らないの。
おっさん じゃあ、この頭の中にある、あの運命の人の顔を、こう・・・おまえにも分からせる方法はないのか?
ぼうず まあ、それはいくつか方法はあるだろうけど、手っ取り早いのは似顔絵だろうね。
おっさん 似顔絵?
ぼうず おっさんの頭の中の人を絵にして、俺に見せてくれれば良いんだよ。
おっさん なるほど。・・・で?誰がその絵を描くんだ?
ぼうず それは、その顔を知ってる当の本人が書くのが一番良いんじゃないの?
おっさん それは、その通りだな。じゃあ早速描いてもらおう!
ぼうず ん?
おっさん 何処にいるんだ?その描いてくれる人は!
ぼうず ん?
おっさん 何だよ?そんな変な顔して。
ぼうず その頭の中の人ってのは有名人だったりする?
おっさん ちょっと考えて
おっさん ・・・いや?見たことない。
ぼうず で、おっさん以外に、おっさんの頭の中を覗ける人は?
おっさん そんなのいるわけねえじゃんよ。
ぼうず だよね。
おっさん 当たり前だろ?気持ち悪い。人の頭を覗けるなんて。おまえの頭頂部なら覗ける奴は一杯いるだろうけど。
ぼうず 俺はハゲてない!
おっさん いや、俺もそう思うよ。でもあの店員がさ、さっきからココ通るたびにおまえの頭頂部を覗いてるから・・・。
ぼうず はぁ!?
ぼうず 店員をつかまえて
ぼうず 俺はハゲてない!!
店員 ええ・・・そうですね。
ぼうず だろ?分かれば良いんだよ、分かれば。もう行っていいよ。
おっさん 全く失礼な奴だな。
ぼうず ホントだよ。人のデリケートな部分を覗き込むなんて失礼にも程がある!
視点は奥
桐子と和人
桐子 で?なにやってた訳?
和人 ただのゲームだって!
桐子 ただのゲームでキスまでするって言うの?しかも私の目の前で。
和人 しないよ。するフリだって。俺が、そんなコトすると思ってるの?
桐子 やってたでしょ!?
和人 なんだよ。おまえだってみんなに俺たちのことバラシたくないって言ってたじゃないかよ・・・だから断って妙に勘ぐられるのも嫌だと思ったっだけだろ?
桐子 みんな、言わなくても気付いてると思ったの!
和人 そりゃ無理だろ。
桐子 なんで?
和人 だって「付き合ってるの?」って聞かれたって毎回ちゃんと否定してるもん。
桐子 誰が?
和人 俺が。
桐子 あんたもか・・・。
和人 は?
桐子 みんなして、私たちが付き合ってないってのを強調してるって言うのよ!
和人 だから、それはおまえがバラサれたくないって言ってたからだろ?
桐子 それは、変なトコからウチの馬鹿親父にあなたのコトを知られないようにするためでしょ?わざわざ否定することまでないじゃないの!
和人 そうか・・・でも、だったら、どうすればいいんだよ・・・。
桐子 私のことどう思ってるの?
和人 どうって・・・?
桐子 好きなの?嫌いなの?
和人 え?そりゃ好きだよ。
桐子 じゃあ、結婚する気はあるの?
和人 結婚!?・・・あ、あるよ。
桐子 本当に?
和人 あ、ああ・・・。
桐子 それじゃあ、ちゃんとお父さんに言える?結婚させてくれって。
和人 あの!?
桐子 そうよ。他にどのお父さんがいるって言うの?
和人 まあ、そうだな・・・。
桐子 で、どうなの?
和人 ・・・言えるよ。
桐子 本当?
和人 ああ。ばしっと言ってやるよ!娘さんと結婚させてくれって!
桐子 2、3発殴られるわよ。
和人 そのくらい殴らせてやるよ!
桐子 じゃあ、家も継ぐってことね。
和人 え!?
桐子 何よ。
和人 それじゃあ、親父さんとずっと顔を合わせてないとならないじゃないか!?
桐子 当然でしょ。
和人 考えてなかった・・・。
桐子 私は一人娘なの。当然でしょ?
和人 そっか・・・そうだよな。
桐子 で?
和人 ん?
桐子 だから、どうなの?家を継いでくれるの?
和人 それはなあ・・・俺んトコの両親にも相談してみないと・・・。
桐子 なんで?
和人 ほら、おれは実家の家業を継がなくても平気か?って。
桐子 お父さんは何してるんだっけ?
和人 公務員。
桐子 だよね。お母さんは?
和人 専業主婦。
桐子 そうよね。あれ?お祖父さんとかって何かやってるんだっけ?
和人 もう死んだ。
桐子 で?家業って何?
和人 ほら、あれだよ・・・地区会長?
桐子 そんなコトやってたの?
和人 いや、親父の夢。
桐子 じゃあ、大丈夫よ。ああいうのって世襲制じゃないから。
和人 まあ・・・そうだね。じゃあ大丈夫かな?
桐子 うん、大丈夫。で?
和人 何が?
桐子 あなたは、私の家を継ぐ気はあるの?
和人 大丈夫だよ。
桐子 何が?
和人 その時になったらちゃんと心を決めるよ。
桐子 その時っていつよ。
和人 結婚することになったらさ。
桐子 あのね、順番が違うの。結婚したから家を継ぐんじゃなくて、家を継いでくれる人としか、私は結婚できないの!
和人 だから、大丈夫だって!継ぐよ、継ぎます!!
桐子 本当?
和人 ああ。
桐子 本当に本当?
和人 くどい!継ぐって言ったら継ぐ!任せとけ!
桐子 良かった。これで、いつでも紹介できるわ。
和人 ・・・でも、まだ先だよな?
桐子 まあ、偶然顔を合わせるようなコトが無ければね。
騒がしく入ってくる一人の客
三宮廉治(52)桐子の父親 以降:廉治
廉治 桐子!!桐子いるんだろ!?
桐子 それを見つけて
桐子 ええー!!何でこんなトコに来てるの!?
廉治 やっぱり、いたか・・・。おまえ、今日は何の日か覚えてるか?
桐子 今日?今日って何かあった?
廉治 今日は雅史君のお母さんと一緒に晩御飯を食べる約束になってただろ!?
桐子 あ・・・。
廉治 忘れてたのか!?
桐子 ・・・
廉治 もう、なんでもいいから、帰るぞ!まだ待ってらっしゃるんだ!
桐子 嫌よ!
廉治 ふざけるな!何時間も待たせておいて、更に行かないって言うのか、おまえは!!
桐子 だって私結婚する気なんてないもん!
廉治 何だと!まだ、そんなコト言ってやがるのか!
桐子 廉治ともみ合いになる
おっさん それを見ていて
おっさん いた・・・。
ぼうず は?
おっさん いたぞ!あれこそ運命の人だ!
ぼうず ・・・まさか、そこで親子喧嘩を繰り広げているアレ?
おっさん そうだ!間違いない!!
ぼうず それはそれは、運命的な出会いだね・・・これは。
おっさん とにかく、あの二人を引き離さないと!
ぼうず ただの喧嘩でしょ?その内、おさまるよ。
おっさん 馬鹿!おさまっちゃったら、誰だか知らない奴と結婚させられちまうんだぞ!
ぼうず あーそっか・・・でも、どうするの?
おっさん ・・・そうだな・・・
おっさん 考え込む
おっさん 更に考え込む
ぼうず あの~できるだけ急いでもらえるかな・・・。喧嘩終わったら時間切れだから。
桐子 廉治と一旦離れて
桐子 あんな奴と結婚なんてしないって言ってるでしょ!?
廉治 何言ってるんだ!ここまで来てそんなこと出来る訳無いだろ!!
桐子 ここまで来てって、私は一度も結婚するなんて言ってない!それに・・・。
廉治 何だ?
桐子 私、好きな人いるし・・・。
廉治 好きな人だと!誰だそいつは!?
桐子 それは・・・。
桐子 振り返って和人を見ようとするが、いつのまにかいない
桐子 あれ?何処に行ったの?
廉治 何処にいるんだ!?
桐子 えっと・・・
桐子 和人を探すと人ごみに紛れている
桐子 あんた・・・。
おっさん ぼうずを廉治と桐子の間に押し飛ばす
おっさん そいつだ!
ぼうず え!?
桐子 は!?
おっさん そいつがお嬢さんと結婚するって、さっき話してたぞ!!
廉治 何だと!?おまえか!?
ぼうず はあ?
おっさん ぼうずに近づいて耳打ちをする
おっさん いいから話を合わせろ!
ぼうず 何で!?
おっさん その間に彼女を逃がす!
ぼうず おお、そういうコトか・・・。
ぼうず 廉治に向き直り
ぼうず 初めまして。お義父さん。
廉治 はあ!?おまえにお義父さんなんて言われる筋合いはない!
ぼうず ええ。確かに今はそうです。が、近い将来そうなります!
廉治 ふざけるな!
おっさん 廉治とぼうずが言い合いをしている間に桐子に近づき
おっさん 今の内に早く!
桐子 え?
おっさん ココは俺たちに任せて逃げろ!
桐子 どういうコト?
おっさん いいから早く!!
桐子 は、はい・・・。
桐子 廉治に見られないように店を出る
和人 それを見て桐子を追いかける
おっさん 桐子が店を出たのを確認して廉治に話しかける
おっさん 愛する二人を引き離すなんて、格好悪いぞ。
廉治 はあ!?おまえは何だ!
おっさん 俺は・・・通りがかりの変な奴だ!
廉治 じゃあ、変な奴!関係ない奴はすっこんでろ!
おっさん 変な奴って言うな!
廉治 自分で言ったんだろ!?
おっさん 自分で言う分には良いんだ!他人に言われると腹が立つ!
廉治 なんだ、それ。
おっさん こいつだってな、最近頭頂部ヤバいなって思い始めてても、それを他人に指摘されるとムカつくんだ!
こぞう だから、俺はハゲてないっつうの!!
こぞう 周りを見て
こぞう 頭を見るな!!
廉治 そんなコトはどうでも良いんだよ!
こぞう どうでも良くない!
廉治 問題はうちの娘とこのハゲが本当に結婚するつもりでいるのかって聞いてるんだ!!
こぞう 俺はハゲじゃなければ結婚するつもりもない!!
廉治 は?
こぞう ・・・あ。
廉治 結婚するつもりが無い?
こぞう いや、あの・・・。
廉治 どういうことだ?おまえが自分で言ったんだろ?結婚するって!
こぞう あ、えっと・・・言うには言ったんだけど・・・言葉のあやって言うか・・・。
廉治 何言ってるんだ?おまえ。一体どういう関係なんだ?うちの娘と!
こぞう 関係っていうか・・・それは・・・
廉治 何だよ。
こぞう ・・・無関係?
廉治 じゃあ、なんで割って入ってきてるんだよ!
こぞう それは・・・ほら?結構な人前じゃない?
廉治 で!?
こぞう 落ち着こうよっていう・・・隠語?
廉治 は?
こぞう だって、こうでもしなけりゃ店のモノ壊しかねない勢いだったじゃないかよ!
廉治 じゃあ、おまえは店員なのか?
こぞう ん?・・・いや。
廉治 違うのに何で、店の心配なんかしてるんだよ!
こぞう だから、それは・・・良識的な行動っていうか・・・
廉治 お前らには関係ないだろ!?
こぞう 俺たちだって楽しく飲みたいんだ!ごちゃごちゃ騒いでぶち壊されたくないんだよ!!
店中から拍手が巻き起こる
廉治 何だと!
おっさん 廉治の肩をたたく
廉治 なんだよ!?
おっさん いや、お嬢さんの姿がね・・・
廉治 あ!いねえ!逃げたがったな!?
おっさん みたいですね。
廉治 なんなんだ?おまえ等は?
おっさん 通りがかりの変な奴らです。
ぼうず まぜるな!俺を!
おっさん なんでだよ!1人じゃ寂しいだろ?
ぼうず だったら、もっとポジティブな名前にしてくれ!
おっさん 通りがかりの変な奴と、そのお付の者だ!
廉治 あきれたように二人を見て
廉治 あーそうだな・・・。くそっ!どこに行きやがったんだ?あいつは!、全く。
廉治 そう言い残し店を出る
ぼうず あきれられてたぞ?
おっさん まあ、しょうがないだろ。初対面だし、おまえの良さは分からんよ。
ぼうず 俺だけじゃないよ。おっさんもだよ。むしろおっさん中心だよ。
おっさん なんだと!第一印象に自信があったのに・・・。
ぼうず で?あの子は何処行ったの?
おっさん さあ?
ぼうず さあ?って、じゃあ又探さなきゃならないじゃないかよ!
おっさん そうだな。
ぼうず 全く、何の考えもなく動きすぎだよ・・・。
おっさん 安心しろ。
ぼうず 何に?
おっさん まだ遠くには逃げてないはずだ。
ぼうず まあ、そうだけどさあ・・・そんなコトより本当にあの子なの?あの子で間違いないの?
おっさん 間違いない!!運命の人だ!証拠に電気が走った!!
ぼうず ・・・おっさん、キャバクラのヒカルちゃんを見た時もそんなコト言ってなかった?
おっさん あの時は、まだ運命の人を探してなかったから、大丈夫だ!
ぼうず 大丈夫って何が?
おっさん 探す前ってことは、その電気は有効じゃない!
ぼうず そういうもん?
おっさん だろ?だって、10日から募集開始って言ってるのに8日とかに応募したって駄目だろ?
ぼうず まあ・・・そうだけど。
おっさん とにかく、俺たちも探しに行くぞ!
ぼうず ああ・・・分かったよ。
おっさん じゃあ、お会計!
店員が伝票を持ってくる
店員 すいませんでした。
ぼうず その謝罪は、今の一連の騒ぎを受けて?それとも俺の頭頂部を見たことに対して?
店員 あ、いや・・・その両方で・・・。
ぼうず やっぱり、見てやがったのか!?
店員 申し訳ありません!
おっさん まあ、いいじゃねえか。人間、好奇心を失ったら終わりだよ。
ぼうず 悟ったようなこと言うな!
2場終わり
第3場 確保
桐子、和人 公園に走りこんでくる
二人 肩で息をしている
桐子 追っかけてくる?
和人 後ろを振り返って
和人 いや、来てないみたい。
桐子 そう・・・。
和人 ああ・・・しかし、あのタイミングでお父さんが来るとは思ってなかったよな。
桐子 ・・・
和人 だって、ちょうど、その話をしていたところにだもん。まさに、まさに!って感じ?
桐子 そうね・・・。
和人 なんだよ、怒ってるのか?
桐子 ・・・
和人 そんなに怒るようなことじゃないじゃん。
桐子 あの時、直前までどんな話をしてるか覚えてる?
和人 何か話してたっけ?
桐子 結婚して、家を継ぐって宣言してたの!あなたが、それこそまさに!!
和人 そうだっけ?
桐子 軽くため息をつく
桐子 百歩譲って、あのタイミングで家を継ぐって宣言をしないのは、まだ許せるわよ。でもさ・・・
和人 何だよ。
桐子 隠れるコトはないんじゃないの?
和人 隠れてないよ。
桐子 隠れてたじゃないの!
和人 違うよ。あの時は・・・喉の渇きを潤そうと思ったら自分のビールも前いたテーブルに忘れてたコトに気付いたから、ちょっと取りに戻ってただけだよ。
桐子 あのタイミングで?
和人 あのタイミングだからだよ。だって、ほら、結婚させて下さい!って言うんだよ?そりゃ喉だって渇くさ。
桐子 だったら、私が振り返った時、すぐに出てきてくれれば良かったじゃない!
和人 え?振り返った?
桐子 目が合ったでしょ?
和人 目、合った?
桐子 あなた、明らかにみんなの中に紛れ込もうとしてたじゃない!
和人 誤解だって!そんなコトしてないよ。
桐子 ・・・いい加減に認めないと、完全に私、あなとのこと見損なってるわよ。
和人 ・・・だってしょうがないじゃん・・・
桐子 何が?
和人 心の準備も何も出来てないところに、お父さん乱入だよ?そりゃとりあえず避難しちゃうだろ?それは動物として実に普通の防衛本能だよ。
桐子 知らなかったわ。あなたにそんな防衛本能が備わってたなんて!
和人 俺だって、そのくらいは出来るよ。
桐子 いい?あなたの戦闘能力を100とすると、ウチのお父さんの戦闘能力は8000から10000よ?逃げる?ふつう。逃げたところで殺されるわよ。それに逃げ切れる訳もないし。
和人 逃げなきゃ、確実に死ぬだろ!だったら。
桐子 逃げても死ぬんだから、逃げずに死になさい。
和人 結局、死ぬのは動かないのかよ。
桐子 まあ、避けられないわね。
和人 じゃあ、結婚とか絶対に無理じゃないかよ!
桐子 私は、それでも結婚したいのかって聞いたつもりだったんだけど・・・。
和人 ・・・俺は、それでも結婚したいって答えたつもりだったんだけど・・・。
桐子 じゃあ、逃げないでよ。
和人 だから、しょうがないだろ?体が勝手に動いちゃったんだから。
桐子 もう・・・どうするのよ・・・。
和人 どうしよっか・・・。やっぱり、まだ探してるのかな・・・。
桐子 まあ、探してるわね。
和人 そっか・・・。
桐子 ええ・・・。
和人 でも、良かったな。とりあえずでも逃げられて。
桐子 そうね。でも、あの人達なんだったんだろ?
和人 え?知り合いじゃないの?
桐子 全然。
和人 でも、なんか、結婚するとかしないとか言ってたじゃないかよ。
桐子 それでも、知らないんだもん。
和人 なんだ?それ。
桐子 さあ・・・?
和人 まあ、とりあえずさあ・・・
桐子 何?
和人 このまま、ここにいてもいつか見つかっちゃうんじゃないの?
桐子 そうよね・・・。
和人 じゃあ、とりあえず隠れない?
桐子 何処に?
和人 何処だっていいよ。夜だし、隠れてりゃそうそう見つからないだろ。
桐子 まあ・・・そうかもね。
和人 じゃあ、植え込みの後ろにでもいようよ。
桐子 ここに隠れるの?
和人 だって、ここに立ってたら見つかっちゃうし、今、何処にいるかも分からなけりゃ、動き回るのも危険じゃない?
桐子 そっか・・・そうね。
和人 じゃあ、隠れよう。
桐子 ええ。
和人、桐子 植え込みの後ろに身を潜める
そこへおっさんとぼうずがやってくる
ぼうず あのさ・・・
おっさん 何だ?
ぼうず 俺たち土地勘ないじゃない?
おっさん そうだな。
ぼうず 俺たち、迷ってるような気がするんだけど・・・。
おっさん おい、ちょっと待てよ。
ぼうず 何?
おっさん おまえ、分かってて歩いてたんじゃないのか?
ぼうず ここまで、一度たりともおっさんの前を歩いた記憶は俺にはないんだけど。これって記憶違い?
おっさん おい、マジかよ。じゃあ、俺たち今何処にいるんだよ!
ぼうず だから、それが分からないって話をしてるんだろ!?
おっさん そんなに怒るなよ。
ぼうず 怒りたくもなるよ。無計画に突っ走って!
おっさん じゃあ聞くけどな。計画なんて立てる暇があったか?普通に飲んでたら、いざこざが始まって、それに巻き込まれてるのが、あの人だって分かって、とりあえず助けて、追いかけてきて・・・ほら、そんな暇何処にもなかったじゃないかよ!
ぼうず この旅に出る前には充分に時間はあったと思うけど?
おっさん 旅に出てもいないのに、ここでこんな事態に遭遇するなんて分からないだろ!?未来が見える訳じゃないんだから!
ぼうず その前に、旅に出るかどうかを、考える時間は充分にあったんじゃないの!?
おっさん 出ちゃってから、そんなコト言ったってしょうがないだろ!
ぼうず 出る前には、俺に発言する隙間を与えてくれなかったじゃないかよ!
おっさん あー・・・俺は、おまえがそんなに友達甲斐のない奴だとは思わなかったよ。
ぼうず あのさ・・・ここまで付き合ってるってだけでも相当、友達甲斐はあると思うんだけど・・・。
おっさん 友達なら最後まで付き合えよな!
ぼうず だから、無計画に突っ走っても駄目なんじゃないの?って俺は言いたいの。
おっさん 計画立てるって言ったってさ・・・どうすりゃいいんだよ。
ぼうず まあね・・・。
そこへ廉治が男と一緒にやってくる
一緒にやってきた男 小泉雅史(28) 以降:雅史
廉治 あ!おまえ等ぁ!!
おっさんとぼうず 驚いて振り向く
ぼうず 来やっがたあ!!
おっさん ・・・誰?
ぼうず ・・・?さっき店で女の子を連れて行こうとしてた・・・
おっさん ああ!あいつか!
ぼうず もう忘れたのかよ!
おっさん 俺は人の顔を覚えるのが苦手なの!特に日本人は見分けがつかない!
ぼうず おっさんだって日本人だろ?そんなんで、よく運命の人だって分かったな。
おっさん 女は別だ。
ぼうず ああ・・・そう・・・。
廉治 ふたりに詰め寄ってきて
廉治 おまえら、こんなトコでなにやってるんだ!?
ぼうず 別に・・・ただ酔いを醒ましてるだけだよ・・・なあ?
おっさん ぼうず、あんなんで酔ったのか?どっか具合でも悪いのか?
ぼうず ちょっと、黙っててくれるかな。
廉治 おまえ等、やっぱりウチの娘となんか関係があるんだな!?娘は何処行った!!
ぼうず 知らないって、話したこともないんだから!
おっさん 俺はちょっと喋ったもんね。
ぼうず 黙れ。口を開くな。
廉治 まあ、いいさ。関係ないなら邪魔するなよ!
廉治 雅史の方を見て
廉治 じゃあ、向こうを探そう。
雅史 ええ。
ぼうず なんだよ、味方を増やしたのかよ!
廉治 味方ってなんだ?雅史君は娘の婚約者だ!
ぼうず 婚約者!?
廉治 何だよ!
ぼうず いや、別に・・・。
おっさん 意味ありげな口調で
おっさん そこの・・・婚約者さん?
雅史 は?
おっさん その・・・縁談は・・・即刻やめなされ・・・・。さもないと・・・・
おっさん 震えだす
ぼうず どうした!
おっさん 怖い・・・あぁ!怖いコトが・・・・悪魔の・・・悪魔の子が・・・・!
おっさん 気絶する
雅史 何ですか!この人達!今言ったことは本当なんですか!?
廉治 あー気にしなくていいよ。こいつ等、変だから。
ぼうず 変って言うな!こいつ等ってまとめるな!!
廉治 おまえも十分変だぞ!さ、行こう!
雅史 でも、でも・・・お母様に相談しないと・・・。
廉治 大丈夫、大丈夫。お母様もきっと許してくれるから。さ、行こう!
雅史 でも・・・。
廉治 つべこべ言わずに、な?あんまり駄々こねると、おじさん本気で怒るよー。
雅史 は、はい・・・。
廉治 雅史を連れて立ち去る
おっさん 起き上がり
おっさん やっぱり、おまえも変な奴の一員だったじゃねえか。
ぼうず 誰のせいだよ!今日まで真面目に生きてきたって言うのに!!
おっさん はいはい。
ぼうず なんだよ、はいはいって!真面目だろ?
おっさん はいはい。さて、俺たちも探しに行くぞ!
ぼうず 何処へ。
おっさん あいつらがあっちに行ったから俺たちは向こうだ!
ぼうず そんな、安易で良いの?
おっさん だって、あっちに行ったら、また変な奴扱いを受けるけど・・・いいのか?
ぼうず だから、誰のせいだよ!
おっさん さ!行くぞ!お付の者!!
おっさん 走り去る
ぼうず なんか、おっさん楽しそう・・・。
ぼうず 追いかけて走り去る
桐子と和人 全員がいなくなったのを見計らって出てくる
和人 本当にあいつ等のこと知らないの?
桐子 さあ・・・?
和人 本当に?
桐子 ええ。
和人 だって、偶然助けちゃったって感じじゃないよ、あれは。絶対に。
桐子 そうよねえ・・・。どこかで会ったのかしら。
和人 まあ、でも・・・。
桐子 何?
和人 あの、婚約者なんだ?
桐子 私に聞かないでよ!
和人 本当に、桐子のお父さんはあんな奴と結婚させようとしてるのか?
桐子 ええ、かなり本気でね。
和人 何で?
桐子 なんか、お金持ってるらしくてさ。結婚したらウチの旅館を改装してくれるらしいんだ。
和人 で?
桐子 で?って何?
和人 後は?
桐子 それだけよ。
和人 何、それだけの為に婚約とかさせられてるの?
桐子 それだけって言うけど、だったら和人はウチを改装できるの?
和人 無理。
桐子 即答で無理か・・・知ってたけど、ちょっとショックね。
和人 自分で改装するって考え方はないの?お父さんには。
桐子 ないだろうねえ・・・誰かが出してくれる可能性があるのに自分でだすなんて・・・。
和人 そういう人?
桐子 そういう人。だから旅館なんて時代遅れのモノを維持できるの。
和人 なるほど・・・勉強になるなあ・・・。
桐子 感心しないでよ!和人がお金持ってれば、全てが丸く収まってる話なんだから。
和人 桐子・・・君は何も分かってないよ。
桐子 何が?
和人 いいか?俺が金を持ってしまったら、その時点で今の俺とは違う。そうなったら、君は俺の事をすきにならないよ、きっと。
桐子 そんなの分からないじゃん。
和人 いや、分かるね。仮に俺が金を持ってるとしたら、ご飯食べに行く時も「割り勘」とか「奢って」とか言わずに「俺が出すよ」ってなるだろ?
桐子 すばらしいコトじゃない!
和人 ところがさ、それが普通になってくると、人間は欲深いからより上を目指してしまうんだよ。次は「高級フレンチ」ねとか「お寿司はカウンターで食べたいわ」とかさ。
桐子 最高じゃん!
和人 それは所詮自分の金じゃないからだ。自分の金だったとして、1回の食事に2万も3万もいつもかけるか?自分以外にもう1人分払ってまで!
桐子 難しいなあ・・・コレステロール高そうだし・・・
和人 そういう問題じゃない!!でも今はどうだ?俺が奢るって言うだけで・・・
桐子 驚く!あり得ない!何にもない時に奢ってくれるなんて!
和人 そう、俺は誕生日とクリスマス以外は奢らないって決めてるからね。
桐子 決めてたのかよ!
和人 でも、こういうささやかな感動はなくなるんだよ。つまり心が鈍感になってくんだ。
桐子 ん~何か腑に落ちないコトはあれども、まあ納得。
和人 だろ?だから俺は金がなくて良いの。
桐子 少し笑う
桐子 大丈夫よ、そんなに必死にならなくても。
和人 必死になんかなってないよ!
桐子 そう?
和人 ああ。
桐子 ならいいけど。私、和人がこの先いつまでたっても、お金持ちになるなんてこれっぽっちも思ってないから。
和人 これっぽっちも?
桐子 そう、これっぽちも。
和人 そっか、なら安心だ。安心して今後のことを話そう。
桐子 そうよ、私、嫌よ。あんな男と結婚するなんて!
和人 同感だ。あんな奴に渡してたまるか!
桐子 あ!
和人 何だ?
桐子 今、初めて男らしく見えた!
和人 それは、どうも。・・・俺っていつもは男らしくないの?
桐子 んー・・・女っぽくはないけど、決して男らしくはない。
和人 そうだったんだ・・・じゃあ、これ持ってて正解だったな。
和人 ポケットからナイフを取り出す
つづく
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