西新オレンジ通り日記

西新オレンジ通り日記

叔母と乳がん


平気で出かけて、生活指導をする
叔母はいわゆる熱血教師だったらしい。
校内暴力で荒れていた20数年前
素手で窓ガラスを叩き割って、手首の静脈を切った生徒が、
叔母でなければ、話をしないと言うので
駆けつけてみると、いつも面倒を起こす男子生徒が
血だらけになってすわりこんでいた。

「こんな傷ぐらいなんてことない!」と言い張る生徒に
「ふ~ん、死にたいならそのままにしてなさい。
死にたくないなら救急車を呼んでやろう。
どうする?死にたいか?死にたくないか?!」と迫ると
死にたくなかったんやろうね~。
救急車呼んでくれって言ったよ。と叔母は笑っていた。

父親に大きなコンプレックスを抱えていたその子は
男の教師がダメで、何度も叔母の手を煩わせたらしい。
最後の最後まで!
卒業式にも特攻服で現れた。
「相変わらず、ダッセーかっこうしとるな~!」と叔母が言うと
「どこがダッセ―んだよ~!」と突っかかってきたので
「全部!そんなダッセ―かっこうしとるやつに、おめでとうなんて言えんな~」
と言うと、「じゃあ、着替えてやるよ~!」と言って着替えたらしい。
お母さんが、風呂敷につつんで制服を持って来ていたんだとか。
「これでもうダサくねーか?」と聞くので
「うん!そのほうがええ男や!」と言うと嬉しそうにしていたらしい。
いきがってる奴も、中学生ぐらいはかわいいもんだよ。と叔母は笑っていた。

そんなことがあってから、3年後に
叔母は乳がんになり、手術をした。
そしてそれを機に30年以上勤めた教師を辞めた。
ちょうど20年ほど前のことだ。

乳がんは乳房の中にできる、小さな痛みのないしこり
叔母の場合は、自分でおっぱいを調べていて
指先に当たる小さなしこりを見つけ、
病院に行ったことで、早期発見につながった。
手術は成功して、その後は転移もなく20年が過ぎている。

乳がんは自分で調べられる、数少ないがんのひとつ。
叔母は自分で調べていて、見つけたが
ご主人が見つけたケースや、甘えん坊の子供さんが
おっぱいをさわっていて、見つけたケースもあるらしい。

しこりの大部分は、乳腺症などの良性の腫瘍なので
しこりを見つけたからといって慌てることはないが
気になるしこりを見つけたら
あれこれ一人で悩むより、病院で調べてもらうほうが間違いない。
婦人科での検査は、触診か超音波ぐらいまでなので
近ごろ注目されている<マンモグラフィー>での検査は
外科設備がある病院に出かける必要がある。

もともと欧米の女性に多かった乳がんだが
食生活の欧米化で、日本でも女性のがん死のトップになった。
40代から60代の女性に多く、最近では30代も増えてきた。
しかし、早期発見が出来れば100%近く治るガンでもあるので
早期発見のためにも
ぜひ、愛情をもって時々おっぱいをさわって欲しい。
月経終了後の一週間ぐらいがちょうどいい時期です。


乳がんの手術も無事に終わり
あとは体力の回復を待つばかりというある日
叔母の入院している病院に、爆音を響かせて数台のバイクがやってきた。
しばらくすると、婦長さんが困惑した面持ちで病室にやってきて
「暴走族みたいなんですけどね、どうしても先生に合わせろって聞かないんですけど、どうします?」と言う。
数年前、手首を切った例の少年だった。

病室では他の患者さんの迷惑になるので
待合室に待たせて、降りていってみると
びっくりするほど大きな、赤いバラの花束を抱えた例の少年が、
子分を従えて立っていた。

「なんや!オバンが死にそうやって聞いたんで、見舞いに来てやったのに、ピンピンしとるやないか~!」と言うので
「ふん!そう簡単に死ねるかい!」と言い返すと
「なんや~!俺、オバンがもう死ぬんかと思った。ガンでも死なんのやな。ちぇっ!心配してソンした!」と言って笑った。
正直ね~、嬉しかったよ。と叔母は少し涙ぐみながら、嬉しそうに言った。

その少年、その後もしばらくは、粋がってバイクを乗り回し
(どうやら、叔母の車のナンバーを覚えていたらしく)
バイパスなんかで出くわすと、追いかけてきては
「コーヒー奢ってくれー!」とねだったりするので
閉口することもあったが(子分まで入れると結構な金額になる!)
土木作業員として真面目に働くようになり
今では結婚して、3人も子供がいるらしい。

「中学時代、一番成績の良かった生徒が、ビリだった奴の会社で使われとるよ!」
叔母は近ごろ、何度も同じ話をおかしそうにする。
学生時代は勉強が出来なくて落ちこぼれで、けっこう悪くて
手を焼いた子のうちの何人かは、自分で事業を始めたり
大人になってから勉強をして、結構いい稼ぎをしているのだという。

「男の子はギュウギュウ絞ってやらんといかん!もっと尻を叩いて勉強させなさい!」
と私には言っておきながら
「社会に出たら、学校の成績なんかあてにならん!」
というのが、最近の叔母の口癖である。



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