れいんぼータウン

れいんぼータウン

痕跡



痕跡(あざ)














大丈夫、大丈夫―――――私は強いから。
こんなの、へっちゃら。
ほら、ね?私笑えてるでしょ?

だから、お願い―――――誰も私に気がつかないで…。









*









「…あれま、こんなところにもできちゃってるよ…。」




一人、今日の部活の準備に取り掛かっていた私は、おもむろに腕まくりして出てきた素肌に、青紫色で腫れ上がった、あるものがあるのに気づいた。
…そう、それは、痕跡。
テニス部のマネージャーをやっているってだけで、これだ。
三年の先輩に呼び出されるのは日常茶飯事。
そしていつも、腫れ物のオマケ付き。
…いい加減にして欲しいよ、まったく…。
こんなんじゃ、レギュラーの誰かと付き合うとかってことになったら、どうなってしまうことやら…。
命がいくつあっても足りないよ…。
私は腕まくりしたばかりのジャージの袖を下まで下ろした。

…と、その時。




「お、美亜ちゃん早いなぁ。毎日ごくろーさん。」

「あ、侑士先輩、おつかれさまでーす。」




部室に一人現れたのは、忍足侑士先輩。
この、氷帝学園テニス部の天才と言われるほどの実力の持ち主で、
岳人先輩とダブルスを組んでいる。
関西弁で話す彼は、とにかく明るくて面白くて。
この、テニス部のムードメーカー的存在だ。




「俺も手伝うで♪」

「大丈夫ですよ、もうすぐで終わりますし…。」




よいしょ、とボールの入った籠を持ち上げる。
けれど、思いのほか重くて…。




「うっわぁ!!」

「あかん!!」




ドッサ―――――




籠の中のボールは勢い良く、床一面に散らばった。
あっちゃー…やっちゃったよ…。
早く片さないと…景吾先輩にどやされる!!




「大丈夫かいな?」

「スミマセン…今すぐ片付けますから!!」

「いや、ボールのことやなくて、美亜ちゃんは?どこか打ったりしぃひんかった?」

「あ、私はだいじょぶですよ!打たれ強いことだけが私の取り柄ですから!!」




侑士先輩の腕の中から抜け出して、いそいそとボールを片付け始める。
なんだか暑くなってきた部室に影響され、私は無意識のうちに腕まくりをしてしまっていた…。

―――気づいた時は、時既に遅く。




「美亜ちゃん!この腕どないしたん!?」

「あ…これは…。」




…やばい、かも。
どうにかしてごまかさなきゃ…。
私は必死に思考回路をフル回転させて、言い訳を考える。

…こんな至近距離に侑士先輩の顔がある状況で、うまい言い訳なんか考えられないよ!




「あ、この前転んじゃって…多分、その時のだと思います。」

「転んだだけでこないな痕跡、できるわけあらへんやろ?
…!!ここにもあるやないか!!」




…万事休す。

とにかく私はこの状況から脱しようと、急いでボールを籠の中にいれ、部室から出ようと試みた。
けれど、侑士先輩は、そんな私の腕をしっかりと掴んでいて。




「…誰にやられたん?」




―――今まで、見たことも無いくらい怖い表情だった。




「や、本当に私が転んじゃって…誰かとかそんなんじゃないですから!」

「嘘言ぃな!!美亜ちゃんの嘘、すぐわかるで。」

「……………。」

「誰かに、やられた…そうやろ?」

「……………。」




私は、耐え切れなくなって、とうとう首を縦に振ってしまった。




「…いつからなん?今始まったことやないやろ?」

「あ…マネージャーの仕事やり始めて、一週間くらいたったころから…です。」

「!!せやったら二ヶ月ずっとこの状態やったん?」

「…はい。」

「何で言ってくれへんかったの!?俺たち美亜ちゃんの仲間や無いの!?」

「…みんなに…迷惑掛かるかと、思って…。」

「………ずっと、一人で耐えてたん?」

「………。」

「…偉かったな、けど、もう泣いていいんやで?」

「………!!」




私の中の、何かがプツリと切れて。
私は、侑士先輩の胸にしがみついて、声を上げて泣いてしまった。




「うっ…わぁぁぁ!!」

「…美亜ちゃん、俺と付き合お?」

「ひぃっ…うう…!!」

「俺が、美亜ちゃん守ってやるから。もう、こないになるまで、我慢せんでもいいようにしたるから…。」

「うう、あぁぁん!!」

「…この痕跡も全部、俺が消したるわ。」









泣いて泣いて、泣き止んだら。

痛々しい痕跡が、薄くなったような…そんな気がした。














fin.






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