「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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「博士と私」②(後編)
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
そうして、しばらくが過ぎ
おだやかな寝顔でクラリスはいつしか眠りについた。
「ふう…、やっと眠ってくれたか。
まだいきなりは夢は見ぬじゃろう。」
ピコピコピコッピッ
「ぬな?クーとか言ったな。」
「ニャア~ゴ!」
「おぬしも主人が心配か?」
「たしかに夢の中におまえがいれば、
ブータンのピンチも救われるかもしれぬな」
しかし…
「しまったのう。猫用のヘッドドリーマーはまだ完成しておらんのじゃ。
まてよ、猫語解析プログラムと、ワンコ用ヘッドドリーマーがあったな
そうか、外部入力端子がもうひとつあるからなあ、
何とかなるかも知れんぞ!!」
「にゃゴにゃがあああ!!」
「あばれるんじゃない!ほんとに丸焼きにして食っちまうぞ!」
「フギャアアアアア!」
「おまえはとりあえず、こいつでも飲んどけ!」
「きゅ、グ…」
「まったく、こやつらときたら、とんでもないあばれんぼうどもじゃ。」
引っかき傷だらけの博士は汗をぬぐいながら
「ふう。あと、15時間33分で、純銀は底をつくな、
なんとかせんとならん」
なにやら怪しげな機械の操作をはじめます。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
気が付くとそこは、まるで一面の麦畑だった。
風がなびき、麦穂が揺れる穏やかな風景。
あたしは、その麦畑でただひとり、空を見上げていた。
とんびがくるりと飛んでいた。
この世には多分あたしだけなんだろうと、思った。
私の服装は、まるで乞食のような格好で
あちこちにつぎはぎだらけ
ぼろぞうきんを縫い合わせたようなひどい格好だった。
しかし、なんで私はこんなところにいるんだろう。
だれも、見ていないなら。かっこなんかどうでもいいと思った。
どこまでいっても、麦畑だった。
ポケットには、ビスケットが何個か入ってた。
古くなって乾パンみたいに硬くなったビスケット。
でもおなかの足しにはなった。
そうわたしはおなかがペコペコだった。
のども渇いた。
でも、麦畑はどこまでも続き
どんなに歩いても歩いても出られなかった。
古くなったビスケットもあと少ししかない。
これが無くなったら、ボクは死ぬんだろうと思った。
あたしでなくて、僕だった。
いつしかあたしの手は肥爪になってた。
二本足で歩く。乞食のブタになっていたんだ。
あたしは、ぼくで、ぼくはブータンだった。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
ぼくは、いじめられっこだった。
村中の子供たちは、僕を嫌った。
汚くて、くさいからだ。
ほんとにそうなのかな?
自分で臭いをかいでもじぶんの臭いはわからないらしいし
顔なんかほんとのブタみたいだし
というよりか、ぼくは生まれながらにブタらしいけど
ほんとにブタなのかな
いやなことがあったら、かなしくなるから
落ち込んだら、元気にならないといけないから
ママが昔、死んじゃうまえに
「たくさん食べれば元気になる」といったから
ぼくは、とにかくたくさん食べた。
そしたら、ブータンになっただけなのに
でも、どうしてこんな手をしてるんだろう?
これじゃあ、お茶碗だって、ちゃんともてない。
でも、肥爪はけっこうかわいいなと思った。
それにしてもおなかがすいた。
いったいなんで、ぼくはこんなところにいるんだろ?
ああ、そういえば、僕は旅をしてたんだ。
みんなにいじめられるのがいやになって、
旅をいてればとにかく知ってる人には遭わなくてすむから
いちいち怖がらなくてすむし
そうだ。ぼくは臆病者だ。
臆病者の旅人のブータンだ。
それにしても、この背中の竪琴はいったいなんだろう?
天使が持ってるハープみたいだ。
思い出せない。
そういえば、ぼくのパパはこの竪琴を自在に操る吟遊詩人だったと
多くの人に歌を聞かせ、心を和ませ…
哀しい顏を笑顔に変えさせたという天才詩人だったらしい。
そう、ママに教わったことがある。
純銀製なのか。妙に立派だ。
羽飾りの模様まで彫られてる。
だから、僕は詩人になりたかった。
そうか、ぼくは吟遊詩人になりたかったから、こんなとこにいるのか。
旅の途中だったんだ。
旅をして、その街、町の路上で歌をつくり歌い
みんなからお金をもらう。
それが吟遊詩人の仕事だ。
でもどうして、ぼくはそんな厳しい道を選んだんだろう。
下手したら、乞食となんら変わらないじゃないか
いや、乞食じゃないんだ吟遊詩人は!
人に何かを大切なことを伝えるために歌を歌う。
でもいったい。なにを伝えればいいんだろうか?
それさえもまだぼくにはわからない。
もう、日も暮れ始めている。
風も吹いて寒くなってきた。
ふときがつくと。町の明かりが見えた。
麦畑が終わったんだ。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
町には、いくつかの灯火がつき
人々は皆、忙しそうにクリスマスの準備をしている。
もう今年もそんな季節だったのか、旅を続けていた僕にはわからない。
ジングルベルの音楽が町じゅうに鳴り響いてる。
家族連れがプレゼントをたくさん抱えて笑顔で歩いてる。
お酒を飲んで陽気にはしゃいでる若者たちもいる。
体を寄せ合って歩く恋人たちもいる。
みんな幸せそうだ。
吟遊詩人なんか必要そうに無い。
町の片隅には、1匹の黒猫がゴミ箱を漁ってる。
おなかをすかしてるようだ。
なんかどっかで見かけた猫みたいだけど、思い出せない。
その猫は振り向いた途端にぼくにむかって歩いてきた。
ニャーッゴ!『さがしてたんだよ、どこいってたんだ!』
ふと、ぼくは驚いた。その猫が言ってる意味がわかるからだ。
「クーというのか、でもなんでおまえは人の言葉がわかるんだ?」
「にゃご、にゃご?」ひざの上であまえてるクーの言ってる意味は
時たまわからなくなるが、とにかくこの猫は僕を知ってるらしい。
かなり賢く。良い猫だ。
しかしそれにしても、おなかがすいた。クーもろくに食べてないらしい。
町の路肩に座り込むと、僕はポケットの中を探った。
しかし、ビスケットのかけらくらいで、コイン一枚も無い。
これじゃあ、麦畑から脱出できて、町までたどり着いた意味も無い。
こんな寒空の下で、のたれ死ぬんだ。
『ウタ、ウタエバ、イイニャゴ』
クーが僕を励ます。
『・・・。そうだそんなことはわかってる。』
でも、なにも伝える大事なことなんか知らずに
いったい、僕は何を歌えば良いのだろうか?
そんな僕の前に、いつしかちいさな子供がたっていた。
「パパあ!こんなところに乞食のブタがいるよ」
「ちかづかないで!ブタは不潔だから変な病気になったらどうするの?」
母親らしい女のひとが困った顔して叫んでる。
失礼な話だが怒る気力も無い。
「でもあの竪琴、かっこいいよう、欲しいよ~!」
駄々をこねてる子供はかわいいというけど、正直、小憎らしかった。
その子供の父親らしいのが近づいてきた。
「君、その竪琴は君のものなのかね?」
「ええ、ただひとつの大切な宝物です。」
「そうか、それでは売ってはくれないか」
「もちろん、売れません。」
「パパ~!なんとかしてよう、欲しいよう!」
そのときクーが言った。
なにはともあれ、お客さんがきたんじゃんかニャゴ!」
だから、ボクは言ったんだ。
とにかく、こんな寒空の下、死ぬくらいだったら、
ひとつぐらい嘘言ったって良いと。
「ええ、確かにこの竪琴は売れません。
ですが、この音色でその子を笑顔に
幸せにすることは出来ます。
それが、吟遊詩人である私の父から授かった
ただひとつのとりえ」
マントのようなつぎはぎだらけのコートをひらりと舞わせて
ボクはかっこつけてお辞儀をした。
たったひとつ、知ってる曲の一番大好きなフレーズを
奏でて見せた。
その曲は、運が良かった。
ぴったりだった。
『まっかなお鼻のトナカイさんは、いつもみんなの笑いもの~♪』
子供はうれしそうに、踊りだします。
母親も父親もしかたにないなといった感じで目を見合わせました。
「そうかしかたないな、
今夜のパーティーで歌ってもらうとするか
しかし、とにかくその汚い格好をなんとかしてもらわんとな」
クーは喜んだ。僕も喜ばなかったと言ったら嘘になる。
しかし、正直言うと不安のほうが多かった。
ぼくはこの歌しか知らないし、あれを歌い終わったら
いったい何をして、間を持たせたらいいのだろうと。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
その家はけっしてそれほど裕福な家ではなかったらしかったが
父親のたくさんの友人たちを呼んだパーティーは
それはかなりにぎやかだった。
僕はといえば、あったかいシャワーをあびさせてもらって
ぼろ雑巾の変わりにサンタクロースの衣装をまとわされ
クーの首には真っ赤なリボンまでつけてくれた。
軽い食事も出してもらったから、もういつでも、安心して声は出せる。
さっきまでは、おなかがすき過ぎて、力が入らなかったんだから
しかし、それにしてもどうしよう。
でもそんなことは、心配は要らなかったのだ。
パーティーには、立派な楽団も来ていて、
僕なんかが歌わなくても素敵な音楽が会場に流れていたし
美しい声の歌姫が、素敵な声でクリスマスにちなんだ曲を
何曲も歌い上げていたからだ。
さきほどの子供はといえば、プレゼントの山に囲まれてすっかり
僕の竪琴を欲しがっていた事なんか忘れてるようでした。
ほかの子供たちと一緒に、おもちゃで遊んでます。
大人たちはおとなたちで高級なシャンパンを開けたり
大きなケーキやたくさんの料理を楽しんでいます。
しかし、パーティーは順調に進んでいたかのように見えましたが
実は突然、とんでもない問題が立ち上がりました。
あの子供が急にいなくなったのです。
そればかりか、数人の子供たちも見当たりません。
屋敷の窓が空いていて、何者かが侵入してきた形跡があります。
気を失ってたけど起きたメイドの証言で
どうやら、この近辺で徒党を組んでるモンスターたちが
窓から進入してきて、子供たちを誘拐したらしいということが
わかりました。
さあ、たいへんです。
このままでは子供たちはモンスターたちに食べられてしまいます。
モンスターたちが隠れている洞窟は、大方予想が出来ますが、
そんなところにいく勇気を持つものはおりません。
このままではだれも少年を救うことは出来ません。
駆けつけた警察の銃も効かないモンスターたちです。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
僕は勇気なんか無かった。ただひとつ出来ることは
僕の約束を果たすことだけだった。
洞窟の前に立ち、僕はたくさんの人が見守る前で
モンスターたちに呼びかけました。
こんな、子豚が一匹、何を出来るのかとモンスターたちは
呆れた顔して洞窟の中から出てきました。
棍棒を持ってる大男から、かぎつめを持った狼みたいなのやら、
全身包帯で巻いたミイラ男、
氷の魔女のような恐ろしい女のモンスターもいます。
モンスターたちは、僕を取り囲むようにしてにらみつけます。
僕は正直、足が震えてたつこともできないありさまでした。
でもそんな僕の足元に寄り添う一匹の猫
クーが今はいました。
クーの声が聞こえます。
「ブータンが出来ることやるしかないにゃご」
でも僕は、サンタクロースの服をマントみたいにたなびかせ
お辞儀をすると、約束どおりに、竪琴を奏で、そして歌いだしました。
僕が大好きなただひとつの曲を、丁寧に心をこめて…
「真っ赤なお鼻のトナカイさんは
いつもみんなのわらいもの
でもことしのクリスマスの日
サンタのおじさんは言いました。
暗い夜道もピカピカの
おまえの鼻が役に立つのさ♪
いつも泣いてるトナカイさんも
今夜こそはと、喜びびました~♪」
すると、モンスターたちは呆れたかのようにたちすくみました。
あまりにも、有名な曲に馬鹿にされたからだったのでしょうか。
いえ、そうではありません。
モンスターたちも、いじめられっこだったのでした。
醜いから、みんなから嫌われ、
嫌われたから、乱暴になって
乱暴者ばかりだからみんなから余計みんなに嫌われたから
モンスターになるしかなかったのです。
こんなクリスマスの夜。
ただ自分たちが何をしていいのかわからなかった。
だから、町で、暴れるしかなかった。
しかし、こんなブタのぼくでさえ、歌を歌えた。
じぶんたちに何が出来るだろうかと、考え始めてしまったのです。
それに、「まっかなお鼻のトナカイさん」の歌は
ママが生きてた最後のクリスマスの夜に
ぼくにおしえてくれた曲だけに
実はすごく深い意味があったのでした。
どんなにみんなに笑われても
トナカイさんが素敵なのは
プレゼントを配ることを喜べたからだったんだ。
サンタさんの手伝いをして
みんなにプレゼントを配るだけの仕事。
ただ、みんなを喜ばせるだけの仕事。
自分には何も返ってこないかもしれないけど
ただ、自分のまっかなお鼻が役に立つなら
どんなに素敵だろうと、元気に走れたからなんだ。
僕はちびだし、力なんかないし
ブータンだし、かっこよくは無いけど
だからこそ、恥をかくことは怖くない。
だから、歌を歌えるんだ。
モンスターたちは子供を解放しました。
町の人々は泣きながら喜びました。
モンスターたちをどうしようかと相談をはじめました。
こんなことがまたあったらたまったものではありません。
でも子供たちは、モンスターを許しました。
いっしょにパーティーやろうよと、モンスターたちの手をひいてきます。
実は、洞窟の中で子供たちはいじめられていたわけではなかったらしく
モンスターたちと遊んでいただけだったようでした。
今日は素敵な夜です。
奇跡が起きました。
僕は、はじめて、
ひとに大切なことを何か伝えられたんだ。
足もとにはクーがよりそってくれてました。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「気づいたようじゃな。」
「博士…。」
「ブータンは素敵だったね。」
「でも…あれは、ほんとは誰なの?
さあな、それはわからんが
おそらく、おぬしの前世の姿なんじゃろう。」
「じゃあ、あたしも吟遊詩人になれるの?」
「まあ、なれるじゃろうな。人はみなそれぞれの使命を持って
この世に生まれるものじゃしな。
それに姿形は変わっても
“魂”はなんど生まれ変わっても変わらぬものじゃ」
「そうかあ、私の死んじゃったママも、あの歌教えてくれたよ。
あんな深い意味があったなんて知らなかったけど。」
「しかし、クーとかいう猫、こいつが
ブータンを、おぬしを勇気付けたんじゃ、
礼を言うといい。」
「えっ?そうだったの、そういえば」
「にゃあご」私の足元に寄り添うクーがそこにいた。
「クー!」私はそっと抱きしめた。
「人は無私の気持ちで誰かを救った時に初めてその者に救われるものじゃ」
「それは決して恩返しとか言うものじゃなく。
トナカイが、幸せになるときのようなもんじゃ。」
「うん」
「今日は、素敵なクリスマスじゃ」
「プレゼントをあげんといかんな」
「えっ?」
「はははははっ、もっともこれは
おぬしが自分の力で手に入れた物だがな」
そして、博士は私にひとつのペンダントを手渡してくれた。
それは、トナカイの引く橇に乗るサンタクロース姿のブータンだった。
窓の外は、いつしか雨が雪に変わっていた。
今夜は素敵なクリスマスだ。
私の心の中に、素敵でかわいらしい神様がほんとに生まれた。
(おしまい)
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