RICOH GR Digital
勝手にインプレッション
かつて銀塩で高級コンパクトブームが起こったとき、あのT2や35Ti、TC-1など、高級志向のチタンボディが席巻する中で、地味なデザインのGR1は、明らかに異彩を放っていた。虚飾を排し、それでいて使い勝手の良いパッケージングのGRシリーズはプロをはじめとする玄人筋に好評を博し、改良を繰り返しながら長く売れ続けた。
最終形態であるGR1Vや、21mmレンズを搭載する唯一無二のコンパクトカメラとなったGR21などは、今ではすっかりプレミアが付いてしまい、高値で取引されている。
そのGRシリーズの血統を受け継ぎ、デジタルカメラとして生まれ変わったのが、GR Digitalである。このカメラが発表された当初、エンゾーはそのコンセプトにいささか懐疑的であった。GR1のデジカメ版という触れ込みに対し、「そういうものはそのうち出来るかもしれないが、今はまだ無理だろう」と思っていたからである。
そう考えた理由は、銀塩GRシリーズの位置付けにある。GR1が発売された当時、銀塩は爛熟期を迎え、既に技術的限界が顕著であった。そのような中で、一切の無駄を排して生み出されたGR1は、いわば銀塩の研ぎ澄まされた到達点と言え、そのこと自身がGRシリーズを名機たらしめていた。
この「これ以上進化しようがない」というコンセプトが、まだ黎明期でいくらでも進化の余地があるデジタル技術で引き継げるものなのか?というところに、引っ掛かりを感じたのだ。GRという名前は、もう少しデジタルが進化を深めてから使っても遅くはないのではないか…。
はっきり言えば、そのような取り越し苦労はリコーにとって余計なお世話であり、銀塩に過剰なシンパシーを抱く者の妄言に過ぎない。GRの名は、「究極の銀塩コンパクトカメラ」から「現時点で考え得る、最もシンプルな高性能デジタルコンパクトカメラ」へと微妙に趣を変えながら、GRDに受け継がれることとなった。
さて、GRDである。
現在販売されているデジカメの中でも、GRDほど操作性が洗練されているカメラはなかなか見当たらない。銀塩換算で28mmのレンズは端正な写りで、高性能な画像処理エンジンの実力と相まって、上手に使いこなせば十分に作品作りに耐えうるだけのポテンシャルを秘めている。もちろん、あのGRの血統であるから、形・色・手触りなど、細部に至るまで手抜きがなく、極めて満足感の高いものになっている。
(ただし、撮れた画像のクオリティを「作品」にまで高めるには、画像処理ソフトでの加工が必須だと言うことも明記しておく。上手に使いこなせばと前置きしたのは、そういう理由がある。ポン出しの絵は、なかなか綺麗であるにしても、コンパクトカメラの範疇を出るものではない。デジイチ並みと思ったら間違うことになる。)
また、あまり語られないが、凡百のコンパクトデジカメと違う美点のひとつに、「台の上で縦置きでも横置きでも自立する」というところがある。これは、このサイズのメモカメラとしてはかなり役に立つ仕様で、夜景撮影やセルフタイマー撮影、インターバル撮影など、カメラを何かに固定して撮る必要がある様々なシチュエーションで重宝する。こんな単純なことが、エルゴノミクスデザインを採用している他社のデジカメでは出来そうで出来ない。
さらに、「GRブログ」と呼ばれるHPを展開し、ユーザーからの意見をいち早くキャッチしてファームアップを繰り返したことも、GRDオーナーの満足度を高めるのに一役買った。これほどメーカーとユーザーの距離が近いカメラもなかなかあるまい。
当然市場の反応は良く、デジタルコンパクトカメラとしては異例の2年間に渡って、コンスタントに売れ続けた。誤解を恐れないならば、コンパクトデジカメのジャンルで、GRDは「GRDとそれ以外」と言ってもいいくらい他のモデルとコンセプトが違った(もちろん良い意味で)。
そのGRDを取り巻く環境に、二つの動きがあった。
まずひとつは、GX100の発売である。銀塩換算で24mm~72mmにあたるズームレンズと手ブレ補正機能を搭載したGX100は、リコー内ではGRシリーズよりワンランク落ちるカプリオシリーズの一員ではあるが、その外観は明らかにGRDのコピーである。意図的にGRD並みの高級感は与えられていないが、仮に「GRズーム」という名前で売り出されても、それほど違和感はなかったと思われるくらい良く出来た弟分だ。
エンゾーは、GX100を購入してすぐにGRDを手放してしまった。そこそこの質感と性能を備えたGX100は、極めて実用的なボディであったため、GRDは完全に出番を奪われてしまったのである。
その直後、今度はGRD2が発表になった。2年ものロングランを経て、ついにGRDが生まれ変わる!ユーザーは隙のない名機が果たしてどんな進化を遂げるのか、固唾を呑んで見守った。
正直、肩透かしを食らった感は否めないと思う。少なくとも見た目にはほとんど変化がなかった。操作性が初代にして非常に高度に洗練されていたことは大きいが、ユーザーが期待していたような画角の変更や撮像素子の大型化などはことごとく見送られた。
この発表を待って、GRDからクラスを落としてGX100に買い換えたユーザーは少なくなかった。リコーは、図らずも身内にGRDキラーを生み出してしまったのである。初代と変わらないあの姿かたちとスペックで、さらに2年間、リコーがどう戦っていくのか。注意深く見守っていきたい。
【作 例】
長所
○角ばったシルエット、堅牢なマグネシウムボディに暗灰色の塗装。これぞGR。
○デジタルで単焦点、しかも高画質という趣味性の高さ。
○極めて高い操作性。今後改良する余地があるのかすら疑問。
○2年間を売り抜くリコーの手厚いサポートは、ロングランに相応しい。
短所
●作画主義を標榜するなら、撮像素子をより大型化して欲しい。
●ボディサイズを、あの大きさにする必然性があまり感じられない。
●傷みやすいグリップのラバー。シリコンに素材を変えたほうが良い。
●他に不満なところはあまりない。良く出来たカメラである。
超個人的オススメ度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
偏愛度
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆
Yahooオークション出現率
(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
*GRD2が出てからやや価格が下がった。試してみたいなら今が買い?