茨木 のり子




          一人は賑やか       茨木 のり子


       一人でいるのは 賑やかだ
       賑やかな賑やかな森だよ
       夢がぱちぱち はぜている
       よからぬ思いも 湧いてくる
       エーデルワイスも 毒の茸も

       一人でいるのは 賑やかだ
       賑やかな賑やかな海だよ
       水平線もかたむいて
       荒れに荒れっちまう夜もある
       なぎの日生まれる馬鹿貝もある

       一人でいるのは賑やかだ
       誓って負けおしみなんかじゃない

       一人でいるとき淋しいやつが
       二人寄ったら なお淋しい

       おおぜい寄ったなら
       だ だ だ だ だっと 堕落だな

       恋人よ
       まだどこにいるかもわからない 君
       一人でいるとき 一番賑やかなヤツで
       あってくれ






          自分の感受性くらい


        ぱさぱさに乾いてゆく心を
        ひとのせいにはするな
        みずから水やりを怠っておいて

        気難しくなってきたのを
        友人のせいにはするな
        しなやかさを失ったのはどちらなのか

        苛立つのを
        近親のせいにはするな
        なにもかも下手だったのはわたくし

        初心消えかかるのを
        暮らしのせいにはするな
        そもそもが ひよわな志にすぎなかった

        駄目なことの一切を
        時代のせいにはするな
        わずかに光る尊厳の放棄

        自分の感受性くらい
        自分で守れ
        ばかものよ  

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