常緑樹20 クンタキンテか…


(平成14年6月号 2003/5/20)

先日ある会でホテルの担当者が宴席にきた。
「真鍋さんにお電話です」
「全員真鍋だが、どの真鍋だ」
「あっ?スミマセン。真鍋カズオさんです」
「二人いるぞ、一か和か、どっちだ」。
目を白黒させていた。
この会は「北海道まなべ会」という。
出席者は全員真鍋、最年長九三歳、私が最も若造。
同姓というだけの不思議な会だ。

昭和五二年、ルーツという米国のテレビドラマがあった。
何か小気味いい響きの主人公のクンタキンテという名前とともに話題を呼んだ。
アフリカから連れてこられた黒人奴隷の若者から四代に渡る物語である。
ルーツは根っこすなわち祖先を表わし「我がルーツを訪ねる」などと流行語になった。

数年後「まなべ会設立発起人代表真鍋某」から封書が届いた。
「まなべの姓を持つもの先祖は一つ。
ルーツを探し、先祖を敬い、親睦を計ろう。
まなべ会に参加を」という内容。
発起人に様々な真鍋さんが名を連ねいかにも怪しい。
ひょっとしたら、新手の選挙運動か新興宗教の勧誘かなどいろいろ想像した。
姓が同じでそれがどうした、とも思い、入会は見送った。

このことはほとんど忘れていたが、昨年名刺交換した相手が真鍋さん。
彼の第一声は
「おお、こんなところに隠れていたか。
来週北海道まなべ会の総会に付き合え」。
隠れていたわけではなく、今更とも思ったが行ってみた。
出席者は胸に幼稚園のように清、秀夫、達雄など大きな名前だけの名札をつけ、
先祖への黙祷から総会が始まる。

初対面の挨拶もそこそこにすぐ故郷の雰囲気。
法事の席、見慣れない遠縁のオヤジが目の前で胡座
「おまえは誰の倅じゃったかの」といったノリで声がかかる。
苗字だけでこんなにも親しくなれるのはすごい。
これは珍しくて、懐かしくて、嬉しい。
すぐにはまってしまい、今年も出かけていった。

会はいたって真面目。
本部は瀬戸内海の真鍋島で、二十の地方会がある。
会則に「相互の親睦と融和交流を図り、先祖を崇拝し、子孫の繁栄を願い、
資料収集、その史跡、古文書等の調査研究を行い、
その成果を子孫に伝承することを目的とする」とある。

我が国の姓の数は約三十万。
多国籍国家米国の百万についで第2位。
3位が約六万ということだから相当多い。
佐藤、鈴木、高橋の順で、真鍋は544番目。
それほど多くなく、それほど珍しくもない、という位置。
四国発祥、古い姓で、一の谷で敗れた平家の中にもいた。
真鍋水軍というのがあったらしく、私が船の勉強をしたこともその血ゆえかと感慨深い。

来年北海道会設立二十周年の記念誌を作ることになった。
多士済済の先輩方の中で最年少の私もその編集を手伝わせてもらうつもりだ。
あのルーツの流行をここまで長く真面目に実践していることに敬意を覚え、かつ誇りに思う。

貴方のルーツはどうですか?

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