BONDS~絆~

BONDS~絆~

生と死

ハート(白)



私がまだ幼くて「生」とか「死」とか考えたことなかったとき、母の姉の旦那さんが亡くなった。
昼寝から目覚めた私は母と母の姉の話を偶然聞いて、今も記憶に残っている言葉がある。
「彼は私の中で今も、これからもずっと生き続けるから淋しくなんてないわ」

今、私は高校を卒業する年齢にまで至っているが、両親は勿論、かけおち同然だったので両親の親御さんの死に目にも会ったことがない。
私が考える「生」というのは、性教育で習った赤ちゃんが産まれるという話のみで、「死」というのはテレビの中の芸能人だけの話なのだ。よく、クラス内に「忌引き」で休む人がいるが、私には全く現実味がない。

私には彼氏が出来た。初めてという訳ではないが、今までの誰よりも私を大事にしてくれていて、今までにないくらい私は彼のことが好きだ。
彼の名前は“櫻井 爽(さくらい あきら)”
爽と私は卒業後の進路が違う。
私は、進学。彼は就職の道を選んだ。
私は彼と同じ進路を歩みたかったが、彼は私は私の行きたい所に行けと言い、俺は将来のために就職するんだ。と少し照れながら、遠回しのプロポーズの言葉をくれた。この上ない幸せはなかった。
そして、受験をし、合格発表の日私の番号を見つけるのにさほど時間はかからなかった。自分の番号を見つけた私は即座に彼の携帯にかけた。
「爽、私合格したよ!」
それだけを言うために私は彼に、彼がでることのない携帯をずっと鳴らしていた。数分もしたのに彼が電話にでることはなく、留守電にすらなっていなかった。私は少し膨れた気分で自宅へ帰ろうとした。
その帰る途中1台の救急車とすれ違った。
「まさかね・・・」
不安な気持ちをよそに私は早足になりながら手をポケットに入れて携帯をとって震える指で彼の番号を押した。
・ ・・・でない。
私は足を止めて、そのまま帰ろうか、自分の勘だけを信じてさっきの救急車の後を追い病院へ向かうか・・・。
私は歩を進めた。
確かじゃない情報では彼に笑われてしまう。
電話に出れなかったのも多分、忙しかったんだろう。
そう自分に言い聞かせ帰る足を速めた。

家に着くと何事も無い雰囲気だった。私は動揺していたせいか、いつもより静かに感じた。
夏を表す風鈴がベランダでチリンチリンと涼しそうな音を鳴らし、リビングには誰もいなくテーブルの上に1枚の白い紙切れがあった。
私は少し落ち着いてきたので母が仕事で遅くなるよという内容の手紙だと思った。が、紙切れの内容は普段母が書かない乱雑な字で走り書きしてあった。
-爽くんがさっき交通事故で病院に運ばれたから、急いで来なさい。病室の番号は看護婦さんに聞きなさい-と書いてあった。
私はとっさにさっきの救急車のことを思い出した。落としそうになった腰をテーブルを支えにして何とか立ち上がった。そして、そのまま無心で玄関へ向かい走った。
さっききた道を反対にもう1度走る。
夏の爽やかな風が吹き抜ける空と、コンクリートから発せられる灼熱の陽炎の間に立ち、彼のもとへと走る。走る。信号で止められても私の足は足踏みをして青になった瞬間、車の有無に関わらず走り出した。
そして、息をつくことを思い出し、切り、市内の病院についた。頭の中に混乱が蘇った。
病院に入った瞬間、私は視界に入ったすべての看護婦、医者に彼の病室を聞き回った。当てもなく、12階ある病院の7階まで階段で登って目に入った看護婦さんに聞いた所
「!!ようやく来てくれましたね!!こちらです!!急いでついてきてください!あなたの名前を一生懸命呼んでいます!」
私は看護婦の言われるまま後に付いていった。

病室につくと、彼は生きてるのか死んでいるのかハッキリ判断出来ない状態だった。病室は一人部屋で複数の人がいたのに誰も何も話さずに、ピッピッって表すヤツが響いていていた。私が病室に入るや、否や、母が私に言った。
「藍!よかった!間に合ったのね!爽くんあなたの名前を呼んでるわ。ほら、おいで、側に来て顔を見せてあげなさい」
母の声は震えていた。
私は足を1歩1歩確実に動かし、包帯だらけの彼のベッドへと向かった。
そして、私は言いたいことを思い出した。
「・・・・爽・・・私、合格したよ」
「・・・・・・ぁ・・い・・・?」
「うん、藍だよ。爽、一緒に暮らすって、そのために働くって言ってくれたよねぇ」
「藍・・・藍・・・」
「なぁに?爽・・・」
「・・・あ・・い、その約束・・・守りたい・・・・」
「うん・・・守って・・・。早く怪我治して・・・ね?」
「藍・・・・俺・・・生きたいよ・・・生きたい・・・藍と・・・生きたい」
「うん・・・うん・・・」
私はそのあと、ずっと爽の側にいて、ずっと手を握り締めていた。
握り締めている手がまだ暖かく私はほっとしつつも、心の中は不安の塊でいっぱいで涙が頬を伝ってばかりだった。
爽は、その2時間後、静かに息を引き取った。
このとき、私は初めて「生」と「死」の二つ、両方の意味がわかった気がした。

私の最も愛する爽が亡くなって、早くて、もう3年が経とうとしてる。
毎年墓参りにはいくものの、毎年涙が止まらない。
あのとき、私はもっと言いたかったことがあった。
だけど何も言えなかった。
爽の言いたいことを聞いてあげるのが私の最後の役割だと思ったからだ。
今、私には新しい彼氏が出来た。
もう誰も失いたくない、離れたくない。
彼の名前は“櫻井 爽”

爽は今も昔も私の中に生き続けている。

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