BONDS~絆~

BONDS~絆~

恋は盲目

ハート(白)

1


犬の散歩をしていた時、ふと右側を見ると独りの男の子がベンチで本を読んでいた。
いつもはチラ見するだけなのになぜか気になってしまった。
彼は本を指でなぞっていた。足を急に止めたので犬が吠えた。

「ぁあ、御免ね」
一瞬犬の方へ目をやり、また彼の方を見ると、彼もこちらを見ていた。・・・見てたのかな?
彼の視線は真っ直ぐ私の方を見ているようだったけど、何処かうわの空という感じがした。何故そう感じたかはわからないけど、それ以来彼が気になってしまった。
翌日また犬の散歩で昨日の公園を通った。今日はいなかった。
少ししょんぼりしながらその日の散歩を終えた。
夜に昨日の彼の視線が気になってなかなか寝付けなかった。だから、翌日も少し早い時間に散歩へ向かってみた。
犬も3日連続散歩なんて、したことがないから喜んで駆け足だった。
もう少しであの公園が見える。
・・・あ。いた。
この前と同じようにベンチに座り、指を本の上で滑らせながら視線をずらしていた。
また私の足が急に止まったので犬は吠えた。
・・・またこっち見るかな。また犬が吠えた。
彼がこちらを見て微笑んでいた。
胸がキュンとなり、私の足は自然と彼の方へ向かっていった。
彼もこちらをずっと見ていた。

「こんにちは」
彼からの挨拶だった。
「こっこんにちは」
「最近よくいますよね」
「そうだね」
「その犬は名前なんていうんですか?」
「カナタだよ」
「そうですか。僕はライです。あなたは?」
「ミナ」
「ミナさんですか」
「ミナでいいよ。後、敬語もいいよ。大して年齢変わらないでしょう?幾つ?」
「16」
「タメじゃん!」
彼は私の目を見ながら話しつづけていたけど、彼の目には何も映っていなかった。だけど、そのことに触れはしなかった。
話をする上で視覚は関係ないから。
しばらくの静寂を破ったのはカナタだった。

「カナタは歩き足りないみたいだね」
「そうだね。3日連続散歩なんてしたことないから、はしゃいでるのよ」
「そうなんだ」
「うん」
「明日も散歩するの?」
「多分」
「そっか。明日またこうして話せないかな」
「私もそうしたいって思ってた」
「良かった」
そうして私達は毎日この時間に会うことにした。
話をしているうちに彼はやはり目が見えないことがわかった。事故らしい。
そのことを知ったって私の気持ちは変わらなかった。
むしろひとつでも彼のことを知れたという喜びさえ感じた。

ある日、私は提案した。

「ねぇ、明日街に出てみない?」
「えっでも・・・」
「私がライの目になるよ」
「えっ本当?」
「うん、ずっとね」
そう少し遠回りながらも彼に云った。

2


春休みも終り、久々の学校。今日から2年になる。新しいクラスにはイケメンが結構いた。
ハーフ系統のミナは結構モテた。だけど、ミナにはライがいる。
そう振り続けても男友達は普通に出来た。その中で1番仲良かったのはイクヤだった。イクヤはイクヤで彼女いて、ミナとの間に恋愛感情は一切無かった・・・はずだった。イクヤが彼女を別れたある日、ミナに云った一言でミナの心は揺れた。
近頃、ライと一緒にいると落ち着くけど、弟という感じ。そんなことないと
否定しながらライと会っていた。
ライは目は見えないが相手の声で調子がわかるらしく、表に出やすいミナの感情はライにバレてきていた。

「ミナ」
「ん?」
「ほかに良い人いたんだったらそっちに行っても良いんだよ」
「な、何言ってるの?そんなことないよ!」
「僕は彼氏じゃなくてもミナと会えるだけで充分だから」
ライの目には何も映っていなくとも、力強い声がミナの背中を強く押した。
「ライ・・・」
「御免はいらないよ?サヨナラじゃないから」
「うん・・・有難う」
「うん」
ミナはベンチから立ち上がり走り去った。足音を聞きながらライは一筋の涙を流した。
「ミナの幸せは僕の幸せ」とでも言うように・・・。


3



ミナがイクヤと付き合うようになってから2回目の冬がやってきた。
冬でもミナはカナタとの散歩は欠かさなかった。
「遅くなって御免」
ベンチは雪で埋もれてしまったから二人は近くの喫茶店で会うようになった。
「僕、ミナに話があるんだ」
「何?」
「僕、アメリカに行く。」
「・・・どうして?」
「アメリカに行けば僕の目治るかもしれないんだ」
「え・・・本当?」
「まだ、よく検査しないと正確にはわからないけど・・・多分」
「良かったね・・・」
ミナの目には涙が浮かんで声も震えていた。
「ミナ、僕はずっとミナが好きだよ」
「私も形は違うけれどライのことダイスキだよ。でもどうして急にそんなこと言ったの?」
「・・・もしかしたら一生アメリカに住むかもしれないんだ」
「え?」
「うん・・・」
雪がチラチラ降る中暖房の入った昼下がりの喫茶店で、今流行りの曲を聴きながらライは私の前から消えると言った。
「目が見えるようになったらミナが1番みたいな」
「私より大切な両親がいるじゃない」
「親は一緒に住むからいつも見れるよ」
「そっか・・・淋しくなっちゃうな」
「イクヤがいるじゃん」
「イクヤとは別だよ」
「その言葉聞けてよかったよ。僕そろそろ行くね。準備しなきゃ」
「そっか」
同時に席を立ちコートを羽織り無言で喫茶店を出た。ライの家の前まで着くと
「ミナ、短かったけど今まで僕の目になってくれて有難う」
「私こそ有難う。色々勉強になったし、楽しかったよ」
「・・・」
「・・・」
「じゃ、またね」
「うん」
そっけないけど、未来の言葉を残して一生の別れは云わなかった。


4



高校を卒業して大学生になったミナには忘れられない思い出のためにバイトに励んだ。
イクヤとは高校卒業してから別れた。
理由は遠距離は不安だからという簡単な理由だった。
今ミナは思い出のために頑張っている。
「見えるようになったかな」
16のときライと初めて会って、17で別れた。キモチも距離も。今ミナは語学の大学に通っている。中でも福祉学科だ。
「ライ元気かな」
「誰それ」
大学の同じ学科の先輩に云われて半年。今は彼氏。
「ミナのもと彼」
「未練あんの?」
「違うよ!目の見えない子で、アメリカに行ったから見えるようになったかなーて」
「だから福祉学科なんだな」
「うん」
「まさかとは思うけど、アメリカ行くのか?」
「お金溜まったらね」
「そいつに嫉妬するぜ」
「どうして?」
「俺より思われてんじゃん」
「そうかもね」
「そこは否定しろよ」
「あはは」
でも本当。ココ最近福祉系だからか、不自由な人を見ると放って置けなくなるし、気になりやすくなってる。だからライが気になってる。恋じゃないけど、この想い懐かしい・・・・。
「ミナ」
「ん?」
「俺とすまないか?」
「もう住んでるじゃない。私の部屋だけど。」
「ちゃんとしたところでだよ」
「いいけど急にどうしたの?」
「何かミナを遠くに感じたから」
「あはは」
「笑い事じゃないよ」
「御免御免。あ、バイトの時間だ。またね。そのことは考えとくね」
「あぁ」
今ミナの頭にあるのはただ1つ。
アメリカに行きライに会うこと。
会って何をするわけじゃないけど、見てみたい。
バイト中はそんなこと考える暇もなかった。

「ミナちゃん。これ3番、あれ15番の席にお願いね」
「はい」
ミナのバイトは居酒屋。人手が足りない店はミナがいないとダメという感じ。
店長がダメなやつは切り落としていく性格だから気を抜けないのだ。

「いやぁ、それにしてもミナちゃんはよく働くなぁ」
「そんなことないですよ」
「ボーナスあげたいトコだけど、人手を頼めないくらい忙しいからなあ」
「全然良いんですよ」
「ずっと気になってたんだけど、何に向かってそんな頑張ってるの?何か目的あるから頑張ってんだよね?」
「アメリカに会いたい人がいるんです」
「そうか・・・ありきたりな言葉だけど、頑張れよ!」
「有難うございます」
そうしていくうちに貯金が100万溜まった。バイトに明け暮れてしまっていたミナは先輩と別れることになってしまった。決別は向こうからだった。
「心がココにないのは淋しい」
だった。仕方の無いことだった。以前、ライからきた手紙を眺めていた。電話番号を見てかけてみた。
トゥルルルル・・・かかった。

「カチャ・・・Hi!!」
声はライだった。
「・・・っ」
久々に聴く声につい涙してしまった。
「What・・・?」
「ライ・・・」
「・・・!?ミナ!?」
「うん」
「嘘だろ?」
「ホントだよ。住所変わってないんだね」
「うん。最近どう?」
「彼氏と別れたよ」
「イクヤ?」
「ううん。イクヤとは高校卒業してから別れたよ」
「僕の知らない間にときは流れてるね」
「うん・・・ねぇ、ライ」
「ん?・・・うん。ばっちりだよ」
「本当!?」
「うん。毎日夜景見ながら夢見てる。早くミナの顔が見れたらなぁって」
「そうなんだ。私が彼氏と別れた理由は私がバイトばかりしてたからなの」
「バイトばかりしていたのは理由があったんだろう?」
「うん。アメリカに行くこと」
「へ?そうなの?」
「うん、100万溜まった」
「僕のために?」
「うん」
「いつ来るの?」
「来週の夏休み」
「そっかぁ楽しみだ」
「彼女出来た?」
「いや、作ってない。僕はミナが好きだから」
「そっか」
「うん」
「じゃあまた行くときに連絡するね」
「うん」
小さな声だけど、ライは確かに聞き取ってくれた。電話の向こうで微かに云った。
「ライ好きだよ」
という声を。


5



待ちに待った夏休み。店長と話して夏休みいっぱいは休みを貰った。
必ず帰ってくることを条件として。
空港にいるときからミナの心臓はバクバクいっていた。
飛行機の中ではラジオや音楽を聴きながらも頭の中ではライのことでいっぱいだった。
早く会いたい・・・。
そうミナの心臓はせかしていた。
アメリカの空港に着くと外は朝だった。
空港であたりを見回すと頭ひとつ飛び出してるのが見えた。
ライ・・・。
ライは見下ろした人並みでひとつへこんだミナを見つけ手を振っていた。
待ち合わせをして人込みでは当り前の光景なのに私には嬉しくてたまらなかった。
走り寄りたくても人並みがそうはさせてくれない。
私達は苛立ちを抑えながら確実にお互いへ向かっていった。
「ライ!」
「ミナ!よく来たね」
「うん」
「泣いてるの?」
「だってうれしいんだもん」
「あはは。僕もだよ」
目が見えるようになってからライに会うのは初めてで目が見えるようになったライは別人のようだった。
2年前のライはまだ童顔で、下手すれば中学生にも見えた。
なのに今目の前にいるライはもう成人だ。

「身長どのくらい?」
「185cm」
「大きいね」
「うん。目が見えるようになってからなんだよ。周りの景色を吸収してるのかもね」
「そうかもね」
「よし、ついたよ」
私はアメリカにいる間ライの家に滞在することにした。
「一人暮らしなんだ?」
「うん。ミナはココの部屋自由に使っていいから」
都会にあるマンションはやはり大きく広い。
「昼何食べようか?外食にする?」
「うん!色々見たい」
「OK じゃあ行こうか」
飛行機の中で緊張しまくっていた私のお腹はぺこぺこだった。ライの自宅に到着してから10分もしないうちに私達は外食するために再び外へ出た。
アメリカの街は東京都はやっぱり違う。ただ無駄に人がいるんじゃない。
高層ビルの下にだって少し離れたわき道にだって幸せが溢れているように見えた。

「いい環境だね」
「まぁね。これで銃が無くなればもっと良いんだけどな」
「本当だね」
「よし、ココだよ。僕のお勧めの場所。」
外から見ると普通のファミレスだけど、中に入ると雰囲気がガランと変わっていて、和風だった。
私は自然と口から言葉を零した。

「すごい・・・」
「だろ?お気に入りなんだ。ココのマスターも日本人だから、本当に日本にいるみたいだよ」
本当にそうだった。内装は全て木で出来ていて、ランプは京都にあるようなランプ。掛け軸なんかもあり、座席は全て畳だった。
「いらっしゃい」
「あ、マスター。珍しいね、店に顔だすなんて」
「今日は妻が早起きの日だからね」
マスターはまだ若くてひとつ店を任すには早すぎるという感じだった。
「僕はいつものね」
席に着くとライはすぐにそう言い、ウェイトレスも頷いていた。
「いつものって?」
「ウドンだよ」
「折角アメリカ来たし、アメリカっぽい和風がいいなあ」
「じゃあマスターお勧めのコレどう?」
メニューにかかれていたのは、和風スパゲッティーや、和風ハンバーグといった普通のものもあれば、サンドウィッチwithコンソメスープandケーキなどといった欧州モノもあった。
「う~ん・・・」
悩んだあげく私が選んだのは「Aランチ」だった。
「Aランチには蕎麦かうどんがついてくるんだね。どっちにする?」
「蕎麦!残したらライたべてね?」
「いいよ」
そのあとも私達はまるで恋人のようだった。
「僕らの関係って何だろう?」
ずるずるとウドンをたべながらライが言った。


6



「僕らの関係って何だろう?」

そういわれてミナは何もいえなかった。
「・・・」
無言でただたべることしか出来なかった。お互いに好きという気持ちはぶつけたけど、恋人という感じではないような気がミナにはしていた。ライもそんなミナの様子を解ってかそれ以降はもう何も聞かずにウドンをすすっていた。
二人ともたべ終えてショッピングをすることにして道を歩いてると背が高く、すらりと細いアメリカ人女性に話し掛けられた。

「Hi!」
「Hi!」
ライの知り合いらしい。
語学を始めたばかりのミナには会話の流れが速すぎて付いていけなかった。
挨拶を交わした後二人の会話を飲み込めないまま周りをきょろきょろと見ていた。

「Are you Rai’s gurlfriend,are’nt you?」
急にゆっくりと話し掛けられた。
「Yes.Who are you?」
知ってる英語で話してみた。すると彼女は急に笑い出して、私は間違った英語を言ったのかと思ったらそうではなかった。
「AHAHA!! Rai,your’s gurlfriend jealuosy me. I think you are very loved her. I enviableyou.」(あはは!ライ、あなたの彼女は私に嫉妬してるのね。貴方は彼女に愛されてるわ。羨ましいわ・・・」
彼女は一通りこんなことを言っていた。そして、サヨナラをした後私はライに問い詰めた。今のは誰で何処で知り合った子なのかを。ライは笑って説明してくれた。
「彼女はスーザン。大学で同じカリキュラムを選択して友達になったんだよ」
「そうなんだ、可愛かったね」
「モデルの卵だしな」
「そうなんだ」
「あ、そうそう。さっきの店のマスターの奥さんだよ」
「そうなんだ!」
急に声のトーンが上がってしまった私をライは笑っていた。
「もういいかい?」
「うん、有難う」
私達はしばらくの間無言で通りを歩き続けた。
ふと右側を見ると小さな公園があってライと初めて会った日を思い出した。
あの頃ライはまだ目が見えていなかった。だけど、そんなこと関係なしに私は
ライに惹かれていった。
同時にイクヤや先輩にも惹かれたけど、それでも心のどこかではライを想ってたんだと思う。
今はこうして隣にいることが当り前だけど、きっとそれは貴重なこと。
「ライ」
「ん?」
「公園行こう」
「いいよ」
公園にあったベンチに腰掛けても私達は黙ったままあたりを見ていた。
「帰国しないの?」
アメリカに来てまだ初日なのに私はこんな質問をしてしまった。
「わからない。見えるようになったとはいえ、定期検診は通ってるし」
「そっか」
「ミナはこっちに来る気はないの?」
「無いかな。日本で約束してるし」
「彼氏?」
「ううん。バイト先の店長。私がいないとあの居酒屋やっていけないの」
「そうなんだ!」
また沈黙が流れ出した。
「そりゃココにいれたらって思うけど、大学も行きたいし夢も叶えたい」
「夢って?」
「うん。体の不自由な人の力になってあげたいの」
「ミナらしい職業だね」
「ライに会ったから目標が出来たの。ライに会わなかったらこんな私いないよ」
「そうなんだ。役立ててよかった」
「だからライの側だけにいるっていうのは出来ないの」
「そっか。じゃあ帰国するんだな」
「一生じゃないわ。お互い行き来したりすれば会える。現に私来てるし」
「そうだな。会ってる時間を大切にしよう」
「うん」
私達はベンチから立ち、また通りを歩き始めた。今度は気持ちも距離も離れないように手を繋ぎながら。
ねぇ、ライ。
カフェでの質問覚えてる?私達の関係・・・。
言葉に表せなくても、きちんとした形に当てはめなくても良いんじゃないかな。
私は私でライはライ。それが自然体で無理に合わせようとしたら壊れちゃうと思うの。
だから、今は今だけでも二人の時間を大切にしよう?
昼はお互いの手を取り合って
夜はシーツに包まって愛を確かめながら夢を見るの。
それだけで幸せになれるよ。
周りに迷惑かけても恋は盲目ってよく言うから仕方ないよ。
ねぇ、ライ。
いつか迎えにきてね。



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