FLOWER GARDEN 2

FLOWER GARDEN 2

VOL.026~030

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★ 第26話 禁断の果実


ヒューバートの待つテントに戻ると、僕達は何事も無かったかのように普段どおりに振舞った。
時折、アリシアと目が合うと、僕は慌てて目を逸らし、アリシアは小さな失望をその瞳に表した。
アリシアは、サリーの用意してくれた食事に殆ど手をつけず、それでも笑顔を絶やさずにヒューと僕の皿に料理を盛るなどして、努めて明るく振舞おうとしていた。


僕はアリシアを拒絶した。
彼女の体を抱き締めながら、その心までは抱き締めてあげる事が出来なかった。

「ごめん……。僕は、お前の気持ちに応えてあげられない……」


そして、僕は、自分の気持ちをも拒絶した。
この切ない狂おしい気持ちの正体を、僕は突き詰めてはいけないのだと自分に言い聞かせた。

「僕は、お前に普通に幸せになって欲しいんだ。普通に恋をして、普通に家庭を持って、普通に子供を産んで……」
そう、こんなに近くにいても僕ではお前に何もあげることが出来ない……。

「……分かったわ」

アリシアは肩を落とし、僕はその肩を抱いた。

やはり、この世に神などいないのだと思った。
僕達兄妹から両親を奪い、その上、決して実を結ぶ事の無い愛の芽を僕達兄妹に芽生えさせてしまうとは……

考えに沈む僕の目の前に、不意に真っ赤なりんごがぬっと現れた。
「喰うか?」
ヒューが差し出すりんごを「サンキュ!」と笑いながら、僕は手にした。

アダムとイヴが楽園を追われる原因となった禁断の果実……

僕は、かじる勇気のないりんごを掌で弄びながら、アリシアを独り失望の淵に落としてしまった苦しみに胸が張り裂けそうになっていた。



★ 第27話 更け行く森の夜

僕達はあれから森を散策したり、街に買い出しに出掛けたりして、このひとときを楽しんだ。
木々の梢を揺らす風に、少し身震いしたアリシアにジャケットを掛けると、ようやくアリシアは微笑んだ。

ムクドリの群れが赤い夕焼けを横切り、夜の帳を引いてくる。

アリシアは時折僕に微笑み掛けながら、夕食を作っていた。
昼間とは違い、アリシアも少し元気が出たようで笑顔が増えていた。
料理が上手だった母さんの味を、アリシアはその記憶を辿りながら、再現していた。

僕はスープに口を運び、「これは!」と目を輝かせた。
これは、母さんが最後に作ってくれたスープの味と全く一緒だった。
アリシアも嬉しそうに微笑む。
ヒューは「すっげー!んまい!!」と絶賛する。

静かに更け行く森の夜。
ひとつしかないシェラフを隅に敷くと、アリシアに勧め、ヒューはちゃっかりとその横に寝ようとした。
僕は慌てて、シェラフごとアリシアを抱き上げると、僕の隣りのテントの隅に置いた。

(健闘を祈るって言ってくれたじゃねーかよ!)
ヒューは口をパクパク動かし、抗議の声を上げた。
(それと、これとは別だ)
僕はアッカンベーで応戦した。
「灯り、消すぞ」
ヒューは不機嫌な顔で乱暴にランプの灯りを消した。

暫くすると、ヒューは大イビキをかいて眠ってしまった。
暗闇に慣れた目を凝らすと、アリシアの目と合った。
「……早く、寝ろよ」
「……うん」
僕はアリシアの頭を小突いた。
「……ジョージ」
「ん?」
「好きなままでいていい?」
アリシアの言葉に、息が止った。
「……ダメだ。早く、他の男を見つけろよ」
アリシアは、「トコトン、ひどいよ。ジョージ……」そう言うと薄っすらと涙を浮かべてそのまま目を閉じた。

暫くすると、アリシアからスースーと言う寝息が聞こえてきた。
僕は、なかなか寝付けなかった。
胸がざわめき、彼女を抱き締めたい衝動を、両腕を抱き締め、指を食い込ませながら堪えていた。
「僕だってお前を愛してる……。アリシア……。チクショー……」
目を強く瞑り、嗚咽を堪えていた時、そっと僕の頬を優しく撫でる手にぎくっとして目を開けた。
アリシアは嬉しそ~うに、ニコーーーーーーーーォっと満面に笑みをたたえて微笑んでいた。


………………………き、きったねぇ!タヌキ寝入りだったのかよ!




★ 第28話 神に背いて

キャンプから帰った僕達を、バトラーは仁王立ちで歓待した。
たっぷりと(僕は)叱られ、たっぷりと(僕は)反省文を書かされた。

アリシアは側で笑いながら(ちっともそんなこと思ってもいないくせに)、「可哀相にジョージ……」と気の毒がって見せた。

100ページにも及ぶ反省文を書き終えた頃には、とっぷりと日が暮れ、僕は真剣に小説家にだけにはなるまいと、将来の進路から永久にその道を抹殺した。

疲れ果て、机の上に置いていた腕時計の隣りにペンを投げ出すと、ベッドの枕とブランケットを引き摺って、コンサバトリーへと向かった。

昔から何もかも忘れて寛ぎたい時は、観葉植物や花に囲まれたガラス張りのコンサバトリーにある長椅子に横たわりながら、星空を眺めているのが好きだった。

しかし、この日はなぜか先客がいた。
「アリシア……」
僕は彼女と目が合うと、慌てて回れ右をし、針路変更を図ろうとした。
「見て!ジョージ!!キレイ!!」
アリシアは駆け寄ってきて、僕の服の裾をひっ捕まえると、天を指差した。

ごちゃごちゃと星の光が瞬く空を、幾筋もの流れ星が降ってきた。
「……すごい!」
僕も呆けて空を見上げた。

気付くとアリシアが側に寄り添って、嬉しそうに空を見上げて微笑んでいた。
「……何しに、来たんだよ」
「花の開く音を聞きに……」
そろそろ咲きそうな花の側まで僕の手を引いて、「明け方には『ポン!』って音を立てて開くはずよ」
アリシアはそう呟くと、微笑を返した。
「本当に鳴るのか?」
僕は怪しげな彼女の言葉に斜に構えて質問を投げた。
「本当よ!そろそろのはずよ」
アリシアと僕は、花をじっと見つめていた。
「開かないみたいだな……」
アリシアは、それでも真剣な目で、「開くはずよ」と花を見つめていた。

長い沈黙の後、アリシアは言った。

「ジョージ……。あのね。キスして?」
「え?!」
僕は固まった。

「……冗談だろう」
「愛してるって言ったわ」
「空耳だよ」
「じゃ、この花が本当に『ポン!』って開いたら、キスしよ?」
「……開かないさ」

僕が笑ったその瞬間、花は『ポン!』と音を立てて、その花を開いた。

「約束よ」
アリシアは嬉しそうに、勝ち誇った顔をすると「愛している……」と呟き、目を瞑った。

「これが、2回目で最後だからな……」

僕は震える唇を、アリシアの唇に重ねた。

神に背き、エデンを追われたアダムは幸せだったのだろうか……

そんなことを考えながら、甘く疼く背信のキスに心を奪われてしまっていた。




★ 第29話 3度目のキス


あれからアリシアは、毎日、夜になると僕の部屋を訪ねてきた。

僕が彼女に勉強を教える日もあれば、トランプをして遊んだり、ボードゲームに興じたりするなど、僕達は世間一般の恋人達のすることからはおよそ程遠い時間を楽しく過ごしていた。
ただひとつ違うのは、彼女が部屋を去る時、いつも僕にキスをねだる位だった。

触れることも、抱く事も叶わない可愛い恋人……
僕は今でも戸惑いを隠せず、やんわりと距離を保っていた。

アリシアは、部屋に帰る時間が近づくと、蝋燭のほの灯りの灯る燭台を手にし、キスを待つ。
僕は、「早く寝ろよ」と彼女の鼻を指で弾いて、笑いながら部屋の扉を開ける。
「ジョージ……」
切なそうにアリシアは僕を見上げるが、無視。
「僕とのゲームに10連勝したらな」
ゲームプロ養成学校のオニ教官のような僕のセリフに、アリシアの頬は破裂寸前の風船のように膨らんだ。

僕はこうして無視し続けた。
そして、毎夜やってくる背信への誘惑と闘い、そして必ず勝利していた。

「こんなの、ひどいわ!」
モノポリーで破産寸前に追い込まれたアリシアは、サイコロを転がし愚痴を零した。
「じゃ、止める?」
「イヤよ!」
アリシアは、僕からキスをもぎ取ろうと、ムキになってコマを勧め、僕が建てた高額なボードウォークのマンションをスルーすると、ほっとしながら、カードを捲り、「え?!そんなぁ~」と呟きながら、カードの指示通り刑務所へと飛んだ。
「……悪い事をしようとするからさ」
アリシアは、「刑務所に行くのはsin(宗教上の罪)からじゃないわ!crime(法律上の罪)よ!」と主張しつつも、やがて破産した。

連夜に亘りキスをゲットし損ねたアリシアは、がっくりと肩を落とした。

もういい加減諦めてくれ……
僕の理性もいい加減限界だった。

それでもアリシアはめげずに毎夜僕と闘った。
そして、遂に彼女は本当に10連勝を果たした……。

「プロのゲーマーになれるよ」
僕が笑いながら茶化すと、アリシアは真剣な目で首を振り、
「私、ちゃんとジョージの恋人になりたい……」
そう呟き、涙目を瞑った。

もう本当に後戻りが出来なくなる……
そんな予感に震えながら、僕はアリシアの肩を抱き寄せると、甘くクラクラ眩暈のするような3度目のキスを交わしていた。




★ 第30話 愛の交換


キスを重ねるほど、良心の呵責だとか、背信への畏怖とかを僕は忘れていき、残ったのは純粋にアリシアへの愛だけだった。

日一日と長くなるキスは、僕とアリシアの間を急速に近づけていった。
3回目までのキスは覚えている……
だけど、もう僕達はあれから数え切れない位、キスを重ね、罪を重ねていた。

そんな僕の思いを知ってか知らずか、アリシアは蝋燭に火を灯し、ひょっこりと僕の部屋に顔を出す。
もう僕達にゲームは必要なかった。

ただ、微笑み、お互い今日あったことを話し、キスをした。

その日もアリシアは僕の部屋に来て、ベッドに転がった。
いつもと違い、目をもっとキラキラさせながら、僕の手を掴むといきなり、
「ジョージ!『男女の愛の営み』をしましょう!」
と、言った。

僕は突然の彼女の言葉に、何を言っているのか最初はさっぱり理解できないでいた。
「ジョージ、……知らないの?」
アリシアは不安そうに言った。
「今日、私も学校で教わってきたんだけど、愛し合う男女は、お互いに愛を深め合うために、儀式をするんですって。でね、男の人が夜に愛をこっそりと運んで下さるって先生はおっしゃるの……」
僕は思わずクラクラクラ~と眩暈を感じ、頭を押さえた。

最近、望まぬ妊娠をするティーンエイジャーが増え、それを憂えた各州政府が独自の性教育プログラムなんぞを取り入れたと聞いたが、現場の先生の羞恥意識は変わらず、内容はお粗末だと聞いた事があったが、アリシアの発言からするに、その内容は僕が聞いた通りだった。

……まじかよ。

これだったら、オトコドモの間で口頭伝承で受け継がれている性教育の方がよっぽど的を射ている。
「どうしたの?ジョージ??」
肩を落とし、考え込む僕の顔をアリシアは心配そうに覗き込んでいた。

アリシアの無垢な瞳を見るにつけ、彼女を大切に守り通したいという兄としての気持ちと、それとは反対に、全てを壊し、手に入れたいと望む男としての気持ちが交錯し、僕を根底から揺す振った。

僕は、頭を押さえた手の隙間から、アリシアの様子を窺うと、「どうしても、知りたいか?」と尋ねた。
アリシアは無邪気に「うん!」とベッドから飛び起きた。

僕はドクドクなる胸の音を聞きながら、息を呑み、そしてパジャマの上を脱ぐと、中のTシャツを脱ぎ捨てた。
それから、ベッドに横たわるアリシアを跨ぎ、抱き締め、キスをした。
抱き締めたアリシアの顔が真っ赤になり、体中が熱く熱を帯びていた。

「これから僕達がすることを、後悔しない?」
僕はアリシアの首筋から鎖骨に掛けて愛撫をしながら、もうきっと彼女が途中で「イヤ!」と言っても止められないと内心思っていた。
「……しないわ」
アリシアの覚悟は揺るがなかった。
僕は、再び目を瞑り、アリシアにキスをしながら、気付かれないように手を彼女の胸へと移動し始めていた。

と、その時、彼女は言った。
「ところで、ジョージ……。どうして上半身、裸なの?風邪引くわ」

僕は失望の淵に突き落とされた。
………………………性教育で何を教えているんだよ!センセー!





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