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2021.07.08
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カテゴリ: アート
図書館で『小川洋子対話集』という本を、手にしたのです。
小川洋子対話集ってか…目次を見ると対話者が異色で、期待できそうである♪
(帰って調べてみると、この本を4年まえに借りていたことが分かったのです。で、この記事をその5としています)



小川

小川洋子著、幻冬舎、2007年刊

<「BOOK」データベース>より
日ごろ孤独に仕事をしている著者が、詩人、翻訳家、ミュージシャン、スポーツ選手と語り合った。キョロキョロして落ち着きがなかった子供時代のこと、想像力をかきたてられる言葉や文体について、愛する阪神タイガースへの熱い想い、名作『博士の愛した数式』秘話など心に残るエピソードが満載。世界の深みと、新たな発見に心震える珠玉の対話集。

<読む前の大使寸評>
小川洋子対話集ってか…目次を見ると対話者が異色で、期待できそうである♪

amazon 小川洋子対話集


田辺聖子さんとの対談(続き)を、見てみましょう。
p16~20
<大阪女は、言わない。わかっていても>
小川: 私、ちょうど三年ほど前に岡山から芦屋に引っ越してきましたけれど、岡山と兵庫は隣同士なのに、やっぱり、空気が、文化の匂いが全然ちがいますね。

田辺: そうね、特に芦屋はそうなのよ。兵庫県だって、東部と西部では違いますし。

小川: 初めて関西で暮らすようになって驚いたのは、本屋さんに行くと、本の並び方も違うこと。たとえば、岡山だと、文庫本のコーナーに内田百閒がさりげなく目立つところに置いてあったりするんですけれど、関西に来ると、やっぱり、田辺聖子さんのご本がすごく目につくところにある。でも、よそから見るとわからなかったんですけれど、阪神間というのは、またちょっと大阪とは違うんですね。

田辺: 神戸そのものとも違うの。阪神間というのは、開けたのが新しいの。戦前、谷崎潤一郎さんなんかがいられたころから、新しい芸術として注目された写真家が来て、画家が来た。画家が多いんですよ。

小川: 小池楢重のアトリエもあったそうですね。

田辺: そう。文筆家も寄ってくるから、ちょっと文化的な匂いがあるのね。でも、つくられた文化で、もともとは田舎です。

小川: 本当に何にもない、浜辺と山がある田舎に私鉄や国鉄が通ったことで開けたんですね。

田辺: 人為的につくった町だから、新しい自由があって、素敵なところじゃないかというので文化人が集まりだしたの。そういう気分が今でも西宮や芦屋にはあります。みんなで話し合ってきれいな町をつくったから、ほんとに市民文化というのがあそこで育ちました。

小川: 住みやすいように、最初からつくっていますからね。

田辺: お金を持った人たちが、大阪のガチャガチャにはかなわんと、それから京都みたいに構えていてもかなわんということでつくったのね。でも神戸へ来ると、また別の文化です。神戸は神戸で伊藤博文が兵庫県知事になってつくった、昔は福原遊廓なんかもある新開地があったんですよお。さらに、港が整備されたものだから、奄美あたりから人がどんどん船でやってきて、働き場と住むところを見つけたから、大阪とはまた別のすごく猥雑な部分がたくさんあるんです。神戸は歴史を背負っていないから、それはそれで庶民的で面白い。女の子も活発だし、とても素敵よ。食べ物が美味しくってね。

小川: ええ、そうですね。

田辺: 私が異人館のお屋敷に住んでいた頃の話なんだけど、朝起きて、窓から見てたら、下の公園で西洋人の子どもがキャッチボールをしていて、そのボールがころころ転がってきたの。そしたら「おっちゃん、ほって」なんて言うのよね。
小川: ああ、西洋人の美しい顔の子が。

田辺: 夫が放ってやると、「おおきに」。何であんな大阪弁で言うのやろ(笑)。

小川: それはご結婚なさった頃のお話ですよね。その新婚の頃に住まわれていた異人館が、『お目にかかれて満足です』の舞台の洋館になってるんですか。

田辺: そうですね。畳などを敷いたりして日本風にアレンジして暮らしてました。寝るところも、おっちゃんがベッドは嫌だと言うから、畳を敷いてもらったけど、客間なんかは全部そのままで、鎧戸もそのまま。客間は鎧戸を開けると、窓が上、下にあるのね。そこも開けると、大阪湾が一望できて、きれいだった。

小川: 私、『お目にかかれて満足です』を読んでいる間、その家の間取りがくっきり頭に浮かんでくるようでした。最初はあんまり手入れもしていないお家だったのに、ヒロインのるみ子さんが、自分の成長とともにあの家のよさに気づいていく。彼女の成長に合わせて、あの家もどんどん甦ってくるというお話ですものね。るみ子さんというのは、賢い女性ですね。

田辺: そうでしょうか。自分が思うとおりに生きているけれども。ただ、優しみがありますね。自分がどんどん倍々ゲームみたいに大きくなっていくんだけど、同じように男のほうが大きくなるとは限らないというお話。

小川: そこは私も、声を大にしてうなずきます(笑)。

田辺: それを思いやってあげる優しさがあるのね。

小川: そこが彼女の美点です。

田辺: 日本の女の優しさじゃありません? 今の若い子は考えたことも聞いたこともないと言うかもしれないけれど、日本の女の血のなかには、男を立てるように立てるようにインプットされているものがあるように思います。

小川: 遺伝子のなかにね。
(中略)

小川: るみ子さんの夫の洋は、ものすごい鈍感ですね。悪気はないんですが、るみ子さんが自分の実家に行ったりすると、途端に不機嫌になったりします。

田辺: でも、ほとんどの日本の男の人がそうじゃないですか。

小川: そうだなと思いました(笑)。

田辺: 自分のほうの実家には引き寄せるんだけどね。

小川: 妻がちょっと自分の実家に電話しただけで不機嫌になって、「おまえは大阪ばっかりや」みたいに言ったり、るみ子さんのお父さんが病気で倒れたとき、洋が「おれも肝臓が痛いんだ」とか「血圧が高いんだ」というふうにすごく甘えますでしょう。

田辺: そういうところは子どもと一緒ね。

小川: それでも、るみ子さんはガツンと言わないんですよね。
田辺: 東京の人だったら言うんじゃない? 大阪の女は言わない。わかってても。

小川: 私、代わりに「あんた、何を言っているんですか」と言ってあげようかしらと思いました(笑)。そこで、るみ子さんは夫の持っている一種の弱さに気づくんですけれども、それを自分の切り札に使わないんですね。そういう欠点もふくめた夫の全体をながめて、「ああ、自分が好きになった男はこういう男なんだな」というふうに、自分で静かに納得させる。そこが彼女の強さというより、賢さだなと思ったんです。


『小川洋子対話集』1 :翻訳家の柴田元幸さん、作家のレベッカ・ブラウンさんとの対談p69~72
『小川洋子対話集』2 :翻訳家の柴田元幸さん、作家のレベッカ・ブラウンさんとの対談の続きp133~136
『小川洋子対話集』3 :田辺聖子さんとの対談p11~14
『小川洋子対話集』4 :翻訳家の岸本佐知子さんとの対談p48~51

小川洋子ミニブーム に収めるものとします。





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Last updated  2021.07.08 00:20:15
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