We love コミック日記

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第二話



【前へ】

【雪とともに 2】

「あの… まんじゅう好きですか?」

 最初に自分の口から出たのが その言葉だった

 ブランコにいたその人は ぽかんとこっちを見た

 俺は絶対 バカだと思われたと思った 失敗だと思った 

 恥ずかしくなって 赤くなってしまった

「まんじゅう そういえば最近食べてないな…」

 意外な言葉を 彼女は言った

 俺は少し 安心した だが ホッとしていたところで

「何それ? ナンパのつもり?」

 と 言われてしまった 俺はまた赤くなってしまった


「俺… 話し相手を探していて…どう話しかければいいか分からなくて

 それで 口から思わず出ちゃった言葉が…」

「まんじゅう ってことなのね… 好きなんだ?」

「え…… 好きというのは………」

 俺はちょっと とまどった

「だから まんじゅうがそんなに好きなんだねって」

「あぁ… そうそう…… 好きなんだ おまんじゅう」

 勘違いしていた自分が また恥ずかしくなってしまった


「そこの店で買ったんだ 一緒に食べないか?」

 また 思っているよりも先に言葉が口から出てしまった

「うん ありがとう 一緒に食べようか」

 彼女が 少し笑って言った

「私もちょうど 誰かと話したかった気分だった」

 おんなじだ とは 恥ずかしくなって言えなかった


 俺は黙って 袋からまんじゅうをふたつ とりだした

 雪がまだ しんしんと 降っていた


「甘いものが好きなんだ?」

 彼女はこちらをちらりと見て言った

「うん 特に あんが好き 好きだから……えっと」

 彼女が真剣にこっちをみているので 言葉に迷った

「毎日朝食はあんトーストで スパゲッティーにもぶっかけて

 そりゃあもう 美味しいの何ので……」


 場がしらけた


「…………変わった物を 食すんだ」

「ご……… ごめんなさっ……」

「ううん 面白いよ なんかね……」


 話し下手な自分に腹が立った


「あ 聞くの忘れてた 名前は?」

 彼女の方から聞いてきた

「さ……才助……です」

 声が裏返った なぜだろう 普段はここまであがらないはずなのに


「才助さん…… またお話しよう?こんどはゆっくり」

 彼女はそう言って 立ちあがった

「用事があるから じゃあね……今度また公園で」

「あ………さ…さようなら……」

 彼女はすごいスピードで走って行った

 結局 俺は彼女に迷惑をかけてしまったのではないか?

 そして 彼女がいなくなってから気がついた


 名前を聞くのを 忘れていた……


 そしてもうひとつ 気づいた


 雪と同じようにふわふわとしている不思議な気持ち

 赤くなっている自分の顔

 彼女の顔が 忘れられない


 俺は あの人に 恋をした



 まんじゅうの味がじわりじわりと 口の中から消えていった


【次へ】

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