We love コミック日記

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第六話

【前へ】

【雪とともに 6】

 俺にはもう 迷いはなかった

 話すのが怖いとか そうは思わなくなっていた


「また…ここにいましたね」

 俺は緊張しつつも 頑張って声を出した

「ここが 一番落ち着くから」

 佐絵さんは 悲しいような嬉しいような 不思議な笑顔を浮かべた


 その顔を見て なんとなく嫌な予感がした

 雪がまた ゆっくり ゆっくりと降り始めた

 それがまた俺を 不安にさせた


「前は何で ここに来なかったの? 用事でもあった?」

 佐絵さんは さりげなく話題を出した

「実は…」



 ………俺は言うべきなのか 

 もし そのことを言って彼女の心を傷つけたらどうする………

 雪が俺をせかした 言わなきゃいけない気がした

 たとえ傷つけても

 俺はそういう未練をずっと引きずってるやつなんだと

 俺はそういう 暗い人間なんだと

 変な勘違いをされたくはない 本当の事を言いたかった


 俺は 佐絵さんの姿 存在感 声 ほとんどが母に似ているのだと話した

 だから俺は思いだして 佐絵さんから逃げてしまった…と

 素直に 素直に 嘘は言わず 本当のことを……


「そうだったんだ だから私に近づいてたんだ」

 佐絵さんは少し残念そうに見えた

「そういうんじゃないんですけど… なんていうか… その

 ちょっと似てて… だから逃げたってことだけです

 佐絵さんに声をかけたのは 本当にこ…」

「こ??」

 俺ははっとした 言ってしまうところだった

 出会ってから少ししかたってないのに 今言ってしまうのはいけない言葉だ

 こ…い 恋 本当に恋をしているから

 そんなセリフ 言ってしまったら本当のナンパ野郎だ


「……私 またどこかに引っ越すの」

 佐絵さんがいきなり そう告げた

≪雪の日 ……雪の日は人と出会って人と別れる日………≫

 いつかそう思ってた時があった気がする

 まさか… 本当に

「仕事のせいでね… 今日こうやって話せるのが最後」

 俺は全身の力が抜けた

 そんなの はやすぎる 何で 何で……


 この恋のおかげで 妹との距離が近づいたのに

 この恋のおかげで 俺は強くなれたのに


「どこに… いくんですか」

 俺は 上の空で尋ねた


「どこか遠い所に あなたの知らないどこかに…」

 佐絵さんは一語一語丁寧に言った



 どんな仕事をしているんですか?

 どうしていつも この公園に来るんですか?

 なんでこんなにあっという間に いなくなってしまうんですか…?

 聞きたいことがいっぱいあった 今度は聞くのを忘れちゃだめだ

 でも 絶対聞こうとは 思わなかった


「いってらっしゃい」

 俺は顔が真っ赤になるのを感じながら 絞り出したような声で言った

「行ってきます 短い間だったけど ありがとう」

 佐絵さんは 無理に笑顔を作って言った


「佐絵さん…俺 佐絵さんに声をかけたのは 本当に」

 俺は言うと 決心した 涙が出てきても構わなかった



「恋を していたから です」



 それから俺は 佐絵さんに背を向けて走り出した

 さようなら さようなら もう二度と会えないけれど…


「待って!!」

 佐絵さんが後ろから声をかけた

「また 仕事かどこかで会えるかもしれないし…

 返事はその時でもいいですか?」


 俺は 軽くうなずいた


「私 あなたに会えて良かったです

 またいつか会えた時は また まんじゅう食べさせてくださいね」


 俺は 軽くうなずいた


 そして その場を去った


 あぁ… これは妹に怒られるな…と俺は覚悟した

 俺は公園から少し離れた所から パッと後ろを振り向いた


 ……佐絵さんはもういなかった


 佐絵さんと話していた時 本当に母が 俺に会いに来たような不思議な感じだった


 雪が綺麗に降っていた この感じだと今日はやみそうもない


 どちらにしろ 雪は俺に出会いを運んでくれたわけだ


 もう春は近い 雪とは当分さよならだ

 雪は悲しさと喜びをのせて 今日の夜までずっと降り続いていた



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