その7



~イーグル(または鷹)の話し~

昔、オハイオ州のどこか、いや州などなかった時代だから
もっと別のどこかだったかもしれない。
そこに、あるネイティブアメリカンの女性が住んでいた。
彼女は長老の話に聞いた、イエロースプリングスという地に
一度行ってみたいものだと、常々考えていた。
でもそれは無理な話であった。
彼女には世話をするべき5人の幼い子供達がいた。
その子供達をおいて、遥か遠い聖地に旅するなど、
ほぼ不可能に近いことであった。
それでも彼女は、いつか聖地を訪れられるようにと祈り続けていた。

そんなある日、彼女の夢の中に、強い力を持つ
イーグルの精霊Aがあらわれた。
彼女はすかさずお願いをした。
「イエロースプリングスに、わたしを連れて行ってください」と。
精霊は少し考えてから答えた。
「今はだめだ。だが、いつの日か、必ずおまえをそこに連れて行って
あげよう」
「ありがとうございます。でもそれは、きっと遠い日のことでしょう。
その時わたしは、この約束が果たされたことに気づけるでしょうか?」
「では、何かしるしとなるものを、その時おまえに与えよう」
精霊はこう答えて消えていった。

長い年月を経て、今日わたしはイーグルの顔をかたどった小石を
イエロースプリングスで受け取った。もちろんわたしは今、
ネイティブアメリカンではない。
海を越えてこの地にやって来た旅人だ。
このことが彼女に伝わりますように。

はなしを昔に戻そう。
もちろん彼女には、すべて伝わっていた。
わたしが泉を見ているとき、わたしの眼を通して彼女も見ていた。
彼女はその気になれば、わたしの眼を通さなくとも、自分の心を
遠く飛ばしてどこにでも行ける力を持っていたはずだ。
ではなぜ待ったのか?
当時の時間にして何年かを、なぜ待ったのか?
それは彼女が自分の体をともない聖地を感じたかったからだ。
わたしは、イエロースプリングスを見たとき、
わたしそっちのけで興奮している、もうひとりのわたしを
体の中に感じた。

夢見の直後、彼女はイーグルの石を見つけたはずだ。
彼女はそれを一生大切にしていたが、死の直前、
聖地に旅する誰かに、この石をたくした。

かくしてイーグルの小石はイエロースプリングスの森のなかに
ころがることとなったのであった。


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