幻竜の羅刹

幻竜の羅刹

桜の姫君ファイナル



八分咲きの桜の花の色にも似た淡い桃色の髪が舞いと共にふわっと揺れる

幽々子さん綺麗…すっごく綺麗!と心の中で言っていた

両手にある扇子を優しく扇ぐと春風が共鳴する

暖かい春風は優しく頂上に吹き、木々を揺らす

しだいに桜の花達も共鳴し始め、花びらがゆっくりと開いていく

「わぁ…桜がだんだん開いていくよ!」と声を上げると「綺麗だなぁ」と男は感嘆した

空の上から見ている紫と魅魔も「綺麗ね」と声を漏らした

春風を受け、桃色の髪が靡く。そして桜の花びらは風に揺られ、次第に二人の元へと舞い降りてくる

「わぁ…綺麗ね」 「本当に綺麗だ…。ピークじゃなくても十分綺麗だね」と呟いた

幽々子は両手を広げ、扇子を扇ぐと数匹の幻想的な色をした蝶が宙を漂い始めた

蝶の出現と共に幽々子の姿が次第に消えていく

「え?」と驚きの声を上げた恵美 「どうしたの?」と男が聞く 「あ、なんでもない」とごまかした。幽々子がどこへいったか辺りを見まわし始めた

そして同時に幽々子は呟く

「仏には 桜の花を 奉れ 幽雅に咲かせ 墨染の桜…」そして扇子をぱちんと閉じた

すると、恵美はなんの為に辺りを見まわしていたのか忘れてしまった

あ…れ?私何かを探してた気がするんだけど…気のせいかな?と心の中で考え続けた

「うわぁ…すげぇ。こんなに見たときねぇよ」と隣から声が聞こえたので見てみるとそこには一面墨で染められたかのような黒い桜が咲き誇っていた

「え?何これ!すごい!!」と何を考えていたのかも恵美は忘れてしまった

ただそこにあるのは墨で染められた桜の花びらと宙を舞う蝶だけだった…

次第に桜の花びらは元の桜色へと戻った。そして二人は興奮が冷めない中手を繋いで帰っていった

「これで…よかったのよね」と扇子をしまうと天を仰いだ

「すばらしかったわよ、幽々子」と紫が声をかけた

「本当に…これでよかったのよね」と幽々子は天を仰いだまま紫達を見ようとしない

「あなたの決めたことでしょ?これでよかったのよ」と魅魔は言った

「そうよね…よかったのよね…。でもなんで涙が止まらないんだろうね」と涙が頬を伝った

「これでいいって、これでいいんだって自分に言い聞かせたのに…なんで悲しい気持ちになるのかな」次第に泣き声から嗚咽交じりの泣き声に変わり始めた

「これっ…で、あっ…のふたり…はっ、しあっ…わせっに…なれっ…るんだ…よっ…ね?」という嗚咽交じりの言葉はもはや残酷な悲しみしか残っていなかった

「幸せになれるわよ…だから…泣かない…で?」と紫は幽々子を抱きしめながら泣いた

「そうよ…あの二人は一生幸せになれるわ。だから泣かないで」と魅魔は涙をこらえ、幽々子の頭を撫でた

「わたっ…し、がん…ばったっ、よ…ねっ?いいことっ…したっ、のに…なんっ…で、なみっ…だが、とまらっ…ない、の?」と胸の中で泣いた

「あなたは…優しい子ね…あの二人のことを思ってるから…涙が止まらないのよ?」と紫は強く抱きしめた

「ううっ…ううぅ…」もう幽々子の泣き声しか聞こえなかった…

そして時は流れた

それは春と呼ぶにはまだ少し早いある日のことだった

「うぅ…ううぅ…」と涙を流す少女が丘にある大きな桜の木の下で泣いていた

「あらあら、泣かないで?いったいどうしたの?」という声がいきなりかかりびくっとした

そしてゆっくりと顔を上げる

「お姉ちゃんの名前は?」と顔が涙で濡れた少女は小さな声で聞いた

「私?私は幽々子って言うの。あなたは?」と優しい笑顔で尋ねた

「私は衣里(えり)っていうの」と小さな声で言った

「恐がらなくて良いのよ?一体何があったの?」と柔らかい声で聞いた。その声は母を感じさせる声だった

「私何も悪い事してないのにお母さんに怒られたの。だから家出をしてきたの」

「お母さんきっと悪いことしたわ!って思って必死になって探してると思うわよ?」

「本当にそう思ってるかな?」 「ええ、きっと思ってるわよ。お姉ちゃんも一緒に探してあげるから行こう?」と笑顔で言った

「うん!!」と少女の顔がぱっと明るくなった

幽々子は銀色のペンダントを片手で優しく包んだ

まだ春とは言えぬ季節 されど何処か春の気配を感じ取ることができた

こうしてまた、春がやってくる…


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