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陰謀論のラベルを引剥がす
ベンジャミン・フルフォード「世界と日本の絶対支配者ルシフェリアン」(講談社)、読了。同じ事実も前提が違うと編まれ方が変わり、非常に興味深い位置づけが与えられる。ただし、論証という仕事は別のひとびとが長い年月をかけて行うことになる。
というか、基本的にネットで流通している「陰謀論」を踏襲し、論証を精緻化したに過ぎないが、フルフォード氏はある種のスター性を持っているので、ネットからリアルへの嚆矢として意味がある。
前からそうなのだが、やはり、読んでいて、バックグランドの違いを強く感じた。欧米人の歴史認識といえばいいのか、日本のメディア等でなじみの歴史認識と違うし、説得力をもたせるその持たせ方が通り一遍のものではなく、深いところで理解し、納得した上で提示していることを感じさせる。だから、平易、かつシステマチックであり、日本人なら着目するわけもないような事実になぜ着目するのか、その理由が腑に落ちる形でわかるように説得的に展開される。
思うに、陰謀論のレッテルを貼るのは簡単だが、提示された仮説に対する反論をしておかないと、やがて従来の歴史解釈は居場所がなくなるだろう。
注目すべき点は、欧米エスタブリッシュメント(ルシフェリアン)が「日本を近代化した狙い」が具体的に書いてある点。要するに、中国支配に手を焼いて、日本を支配のための道具としようとしたということで、しかもそれは現在まで続いている。日本核武装論なんかもその延長線上にあるに違いない。
孝明天皇暗殺の話もとりらげられており、それはすでにネットで流布しているとおり。ただし、アーネスト・サトウ「一外交官の見た明治維新」を傍証として引用していたり、鹿島昇「裏切られた三人の天皇」によって根拠を提示している。特に、後者は、伊藤博文を暗殺した安重根の裁判証言の様子を示していて、非常に勉強になった。安重根は、透徹した歴史認識をもっていたことがわかる。ネットの議論ではこういう丁寧な論証が抜けているので、この部分だけでも読む値打ちがある。
鹿島昇「裏切られた三人の天皇」からの引用部分(一部)は以下のとおり。
(引用はじめ)
…日本は東洋の攪乱者なり、…伊藤公は韓国に対し逆賊なると共に、日本皇帝に対しても大逆賊なり。彼は先帝孝明天皇(を誅殺して)…
そこで、裁判長はあわてて安の発言を差止め、裁判の公開を禁止してしまったので、安が何をいおうとしたのかは誰にもわからない。しかし、孝明天皇時代の伊藤博文の地位(長州奇兵隊の力士隊隊長)を考えると、暗殺問題以外には伊藤の出る幕はあるまい。安は伊藤を天皇暗殺の下手人として指摘したのであろう。この安の証言によって、孝明天皇は暗殺されたのだという噂がすでに外国人にまで広がっていたことがわかるが、…
孝明天皇の暗殺はいわゆる明治維新、実は革命のはじまりだから、日本の歴史家としても安の主張を見逃すことができないものであったが、明治以降終戦に至るまで、伊藤憲法によって研究の自由を奪われていた日本の史学アカデミーは、全員がこの安の主張を顧みようとしない…
(引用おわり)
また、中国の紅幇・青幇に関しても記載があり、勉強になった。特に、宮崎学「「幇」という生き方」(徳間書店)から引用があって、非常に興味深く感じた。竹村英雄というキーワード(戦後アジア主義)と邂逅した。
ヒトラーに関する記述もあって、ネットに流通してる事実の根拠として、フリッツ・ティッセンの自伝「I Paid Hitler」(邦訳なし)を引用している。つまり、ヒトラーの母親がロスチャイルド家で働いており、妊娠をきっかけにロスチャイルド家を出た。その子供がヒトラーであったと。同様のことは、ウァルター・ランガー「The Mind Of Adolf Hitler」にも書かれているということだ。
で、ヒトラーが果たした役割を書くのだが、そこはちょっと目的論的すぎるような気がする。陰謀というよりは、機会主義にすぎないのではないかと。確かに、国際主義とか、世界政府とかを「理想」のように無邪気に語る傾向は、改めなければならない。けれども計画があって、失敗しても次の機会を捉えて、執拗に「理想」を実現しようとしているという具合に、目的論的にとらまえるべきではないということだ。
思想、哲学、信仰、信条といった人間の思いと歴史的事実との関係を見るときに常に警戒しなければならない注意点だと思う。イベントとファクトの間には深い淵がある。
このように書くのは、ことヒトラーに関しては、主張の根拠をより丁寧に示すべきだからだ。それほど通説の力は強いのであって、それを撃破するには、実証的に論証しないと説得力が弱い。準備がないままに網羅的に論述すべきではないし、必要もない。
しかし、そこんところを差し引いたって、本書はフルフォード氏の力作であって、さすが講談社のフィルターをくぐっているだけのことはあるし、主張する根拠を丁寧に押さえようとする姿勢を見せているので、ネットでのフルフォード氏とはひとあじ違う。非常に面白い一冊であった。
2008年12月6日 根賀源三
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