Responsibility   7




今日も部活には出なかった。
大石先輩にも気持ちの整理がついてから来いと言われた。
何処にも行き場所がなくて。
でも帰りたくはなくて。
ふと、あの高架下に行きたくなって行ってみた。
もう太陽は傾き始めていた。
「夕焼け・・・。」
綺麗と言う言葉が出なかった。
なぜか切ない。
きっと。
あの日の夕日ほど綺麗な夕日は無いから。
風が・・・あの日の記憶を運んでくるようで・・・。
『越前。青学の柱になれ。』
耳に心地よいあの声が聞こえて。
振り返る。
居ないはずの大切な人がそこに居る。
きっと幻だと思う。
錯覚。
それでも・・・例え幻でも会えて嬉しかった。
「部長。」
『越前。青学の柱になれ。』
あの日から俺は変わった。
「部長。」
『二ヶ月前の高架下でのこと・・・覚えているか?』
俺の限界は広がった。
「手塚先輩。」
『俺は負けない。』
その限界が何処まで広がっているのか。
俺の可能性は何処まで広がっているのか。
俺と・・・国光は・・・何処まで繋がっているのかな?
「手塚・・・国光・・・。」
『さぁ油断せずに行こう。』
居ないはずのこの場所で。
あの人の声が響いて。
何処までも。
何処までも・・・。




夕焼けが沈んで家に帰った。
夕食を食べて、お風呂に入って、部屋に戻る。
何をする気にもなれなくて、ベッドに横になる。
宿題はもう終わって。
だからあとは寝るだけ。
だけど、瞼を閉じたくなかった。
ここ数日、夢を見てばかりだった。
それも嫌な夢ばかり。
だから寝たくなくて。
だけど寝なきゃいけない。
「ほあら~。」
「カルピン・・・。」
カルピンはあの日から俺に遊ぶのを強請らない。
「ごめんな、カルピン。」
猫じゃらしを取って遊んでやった。
カルピンは楽しそうに猫じゃらしを追う。
本当は遊んでもらいたいくせに。
猫のくせに変な気を使わせたなと思う。
「ありがとうカルピン。」
「ほあら~。」
しばらく遊んで。
満足したのかカルピンは自分からベッドに入った。
「今度は一緒に寝ようって催促なの?カルピン。」
「ほあら~。」
どうやらそうらしい。
俺は小さく溜息をついた。
だけどずっとカルピンには気を使ってもらったから。
もうそろそろやめさせてあげないとね。
「じゃあ寝ようか。」
「ほあら~。」
瞳を閉じる。
記憶がリバースして。
出てくるのは部長との思い出で。
一筋こぼれた涙。
カルピンはもう寝息をたててるから。
気づかれなくて良かったと思った。
そう言えば、夢は意味のあるものだというけど。
それじゃあ今までのは何なんだろう。
きっとそれは今までの俺の不安。
アンタに置いていかれたことと、不二先輩とアンタの関係。
それが心に残ってて。
俺を締め付けて、苦しめて。
悪夢を見させる。
今日はどんな不安が夢で浮き彫りになるか。
それがすごく恐い。
そうは思っても、人の体は不思議で。
俺は知らぬ間に瞳を閉じて。
眠りについた・・・。




目の前には緑の絨毯。
そこに白いラインが入って・・・。
そうだ。
俺はこの場所を知っている。
忘れるわけが無い。
だって、そこは今日行った高架下のテニスコートだから。
部長と試合をした、俺が変わった所だったから。
目の前に後ろ姿の・・・俺が居た。
もう一人の俺はラケットとボールを握っていた。
封印したはずなのに。
使いたくないはずなのに。
『来い、越前。』
その声に驚いて、コートの向こう側を見る。
そこには・・・部長が居た。
「部長。」
部長は、左手にラケットを持っていた。
「治ったの・・・?」
『治ったからって手加減無しっスよ。』
もう一人の俺が言う。
『当たり前だ。』
平然と言う部長。
『そうこなくっちゃ!』
楽しそうな俺。
『お前こそ、ちゃんと毎日練習してたんだろうな。』
『当たり前っスよ。部長と再戦出来る日を待ってたんスから。』
『待たせたな・・・。』
『別に。遅くなかったっスよ。』
『そうか。』
これはあの時とは違う。
これは過去じゃない。
俺の記憶には無い。
じゃあ・・・これは・・・。
『始めるぞ。』
『俺からサーブでいいんスか?』
『ああ。』
『甘くみると後悔するっスよ。あの時からまた成長したんスから。』
『そうでなければ面白くない。』
もしかして。
期待してもいいのかな?
希望を持ってもいいのかな?
これが未来に起こることだって。
もう一人の俺が・・・。
角に立って。
ボールを落としてバウンドさせて。
『来い、越前。』
『負かしてもいいんスよね。』
『俺はそう簡単には負けないぞ。』
『治療で腕鈍ってないっスよね。』
『当たり前だ。』
左手にラケットを持って。
右手でトスを上げて。
あの構えは・・・ツイストサーブ・・・。






「ほあら~。」
「う~ん・・・。」
「ほあら~!」
カルピンが俺のお腹の上で暴れて。
俺は目が覚めた。
「カルピン。」
せっかく良い夢だったのに。
目覚まし時計に手を伸ばして。
顔まで持ってくると、時計の針は六時を指していた。
机の上にある携帯電話を持って、ベッドに戻って。
短縮ダイヤルのボタンを押す。
ダイヤルをいちいち押すから決心が揺らぐんだ。
『プルル・・・プルル・・・。』
耳元でコールの音が響く。
まだ寝てるかな・・・。
切ろうかと思ったその時。
『はい、手塚です。』
懐かしい声を聞いた。
「・・・。」
心臓がドキドキして声が出ない。
『もしもし。』
「・・・。」
『・・・越前か?』
「・・・はい。」
やっとの思いで出した一言。
『どうしたんだ?』
いつもの緊張感のある声から、少しだけ柔らかくなった気がする。
「久しぶり・・・寝てた?」
『いや。今起きたところだ。』
「電話・・・しちゃった・・・。」
『構わない。むしろ嬉しい。』
その言葉に安堵した。
「ホントに?」
『ああ。本当は電話しようか迷っていた。しかし、部活で疲れたお前に電話は迷惑かと思ってなかなかかけられなかった。』
「俺も。なんか勇気でなかった・・・同じだね。」
『そうだな。』
今も心臓がドキドキしてるけど。
でも幸せだった。
久しぶりの部長の声。
忘れるわけは無いけど。
聞かなくなると、その記憶の声が本当に部長の声か分からなくなって。
美化してるかもしれないと思って。
だけど、全然そんなこと無かった。
『で、どうかしたのか?こんな朝早くに。』
「今日、部長の夢を見たんだ。」
『本当か?』
部長の声が驚いているようだった。
「どうかしたの?」
『いや・・・俺も今日の夢に越前が出てきたんだ。』
俺も驚いた。
「偶然・・・だね。」
『ああ。』
「どんな夢?」
夢の内容がすごく気になった。
『コートで・・・お前と試合をする夢だ。』
驚いたけどなぜか不思議と納得した。
「俺も。部長が帰ってきて再戦する夢。あの高架下のコートで。」
『同じ・・・だな。』
「うん。」
こんなことってあるのかな?
素敵な偶然。
まるで何かのお話のような。
「俺、きっといつも部長のこと考えてるから見たんだって思ったけど・・・違うみたいだね。」
『どういうことだ?』
「部長と俺・・・繋がってるんだね。」
そう信じたいと心から思った。
『俺は・・・そうだと信じていたぞ。』
「ホント?」
部長からの意外な言葉。
『ああ。今、目を瞑るとお前が側にいる気がする。お前を側に感じる気がするんだ。』
「嬉しいな。」
『お前は・・・どうなんだ?』
「俺?俺は・・・。」
恥ずかしくなった。
ここ数日の俺のことが。
部長はこんなに俺を信頼してくれて・・・愛していてくれるのに・・・俺は・・・。
「俺は・・・部長のことばっかり考えて・・・。」
『それで?』
「部長に負けないように頑張らなきゃって・・・思ってる。」
『そうか。』
本当に思ったよ。
それは今だけど。
だけど、それは今だけじゃなくて・・・これから・・・。
『もうそろそろ仕度を始めた方がいいな。』
「えっ?」
急にキリッとした声になった。
部長としての声に。
『何をとぼけた声を出してるんだ。朝練に出るには、もうそろそろ仕度を始めた方がいいんじゃないかと言っているんだ。』
「あっ・・・そうだね・・・。」
受話器の向こうから溜息が聞こえた。
『俺がいないから弛んでるな。もしも、朝練を遅刻したらグラウンド三十周だぞ!』
「そんなの分かるわけないくせに。」
『越前・・・今何か言ったか?』
「何も言ってません!」
部長が・・・笑った。
「何で笑うんスか!」
『いや、すまない。ただ・・・。』
「ただ?」
『お前は相変わらずだな。』
「それは・・・どういう意味っスか?」
『良い意味でだ。正直に言うと、あの日、あの後のお前が心配だった。告白して・・・まさかお前も俺を思っていてくれていたとは思わなくて・・・。だから別れが惜しかった。お前も同じ気持ちだったら、悪いことをしたなと思っていたんだ。』
「部長・・・。」
『だが、それは要らぬ心配だったようだな。』
「部長。早く治して帰ってきて下さいね。」
なんとか声を出した。
泣いているなんて気づかれたくない。
『ああ。』
「それと・・・きっとあの夢・・・俺たちの未来だよね。」
『ああ。必ずそうしてみせる。』
部長は力強くそう言ってくれた。
涙がこぼれた。
泣いてはいけないと思えば思うほど、涙が溢れ出た。
俺の心が解き放たれた気がした。
手塚国光によって。
この言葉を俺は今までずっと待ち望んでいたのかもしれない。
この日のために、俺は悩んできたのかもしれない。
「でも、出来るだけ早くね。俺だって待つのに限界があるんだから。」
『ああ。待たせてすまない。』
「それは、今度会った時に言う言葉でしょ。」
『そうだな。』
部長は笑った。
俺も笑った。
何日ぶりかの・・・笑顔だった。
『必ず・・・必ずお前の元に戻る。』
「うん。」
『伝えてないことがたくさんたくさんあるんだ。』
「俺も。国光に言いたいことたくさんたくさんあるよ。」
『お前と会える日を楽しみにしている。』
「それはこっちのセリフ。」
聞けなくても、もうちゃんと分かったよ。
国光は俺を愛してくれてるって。
そして俺も・・・。
やっぱり国光が好き。
大好き。



バック ネクスト




ほぼ話が終わってますね(笑)。
手塚も電話でですが出すことができてよかったなと思っています。
しかし、改めてこんな話ってどうよ?とか自分に突っ込んでます。なんだかな・・・。
次で最後でございます。是非、最後の最後まで読んでやって下さい。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
                                         BYノエ





© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: