プライド





彼のことは全部わかっているつもりだった。
僕は彼が好きで、彼も僕が好き。
僕も彼もテニスが心底好き。
彼の思っていること、考えていること、悩んでる訳、全部全部わかっていたつもりだった。
だから狂ってしまうなんて思わなかった。
それだけの自信があった。
自信を持ってしまったことが、もしかしたらその原因だったのかもしれない。
過剰な思い込み。
そして、過剰な独占欲。
彼が次期部長になることは、僕自身初めから予感していたことだった。
でも、そうなった時。
彼と僕との間に大きな溝ができたと、僕自身勝手に思い込んだ。
隠しきれない独占欲を彼に当り散らして。
そして僕たちは別れた。






「ふ~じっ!!」
「うわっ!!」
英二がいきなり乗っかってきてバランスを崩して倒れた。
「ごっごめん!!」
「ううん。大丈夫だよ。」
心配そうな顔が覗きこんでくる。
平常心を保って、その顔に笑みを返した。
「気になる?」
「何が?」
英二はじっと僕の顔を見て、何でもないと答えて大石のところへ行ってしまった。
触らぬ神に祟り無し。
英二の行動は正しかった。
気にしてないなどとは絶対に言えない。
別れたのはついこの前で。
『手塚は僕と部長の座とどっちが大切なの!!』
大人気ない言葉を吐いて彼を困らせた。
その答えは、とっくのとうにわかっていたのに。
万が一の可能性を祈ってしまった。
叶うわけがない願いを。
手塚はその問いに答えてくれることはなかった。
逃げた。
手塚だって本当はどっちを優先したいか決まっているのに、僕の前でそれを言うことはなかった。
『・・・別れようか。』
別れたいなんてもちろんこれっぽっちも思っていなかった。
でもこのままの状態では、お互い前へは進めないから。
『ああ。』
小さく答えたその一言は、今もいつでも耳の中でこだましている。
お互い嫌いになって別れたわけじゃないから、だからまだお互い好きなままだと思ってた。
僕は今も手塚が好き。
けど、当の彼は、彼の興味は別の者に注がれている。
一年生の越前リョーマ。
確かに、彼のプレーは僕をもゾクゾクさせてくれる。
いつか試合をしたいと思う。
手塚は今その彼に夢中らしい。
見ていてわかる。
だって僕は今でも彼が好きで、今でも彼の思っていることがわかるつもりだ。
彼も僕と同じく、越前と試合をしたいと思っているんだと思う。
越前は強いから、彼のテニスプレーヤーとしての血をかき立てるんだと思う。
でも本当にそれだけ?
なぜかそう最近疑ってしまっていた。
揺らいだことのなかった自信が、初めて大きく揺らいだ。
その揺らぎが止まることはなかった。






ある日の部活後。
僕は部室に、明日テストだというのに教科書を忘れてしまって取りに戻った。
そこで見てしまった。
手塚と越前がキスしているのを。
『俺のこと・・・本当に好き?』
『ああ。』
越前が背伸びして。
『りょ・・・ま・・・。』
口付けして。
抱き締めて。
僕はすぐに走ってその場から立ち去った。
走れるだけ全力疾走した。
嘘だと自分の中で連呼して。
でも何処かで、気づいてたでしょ?と別の自分が答える。
真実だと思いたくない。
でもそれは現実だった。
夢でも幻でもない。
彼は越前が好きで、越前も彼が好き。
でも・・・なんで部室で?
君は自ら規律を乱してるじゃない。
だけどあとから知る。
まさか、その日は手塚が旅立つ前日だったなんて。






そして彼は旅立った。
僕には何も、一言も言葉をかけてくれなかった。
越前にはあんな言葉をかけておいて。
あとで聞いた話によれば、彼は大石以外には、越前にだけ自分の口らか九州に行くと言ったらしい。
やっぱり君は越前が好きなんだね。
でもね、僕は今でも君が好きなんだ。
そう思って、その思いをずっと封じ込めていたら膨らんでしまった。
今の冷静になれない僕に、それを止める手立ては思いつかなかった。
「越前君居るかな?」
気がつけば、一年五組の教室の前にいた。
いつもの通りの、心の中に邪念を抱いた笑顔で。
「不二先輩・・・。」
「暇そうだね。ちょっといいかな?」
僕は意地悪だ。
手塚、君はそれに気づいてた?
「・・・桃先輩の次は不二先輩っスか?」
「自惚れないでよね。僕は、君に部活に出てきてほしいなんて言いに来たんじゃないよ。」
優しくするつもりなんて全然ない。
恐いよね嫉妬って。
こんな言葉を言ったなんて手塚が知ったらどう思うんだろう?
「・・・どこに行くんスか?」
「う~ん・・・図書室がいいな。」
越前の腕を掴んだ。
手塚が触ったであろうその腕。
無意識に掴む手に力が入る。
「図書室好きなんスか?」
その言葉に僕は意地悪く笑った。
そんなこと聞かれちゃうと意地悪なことを言いたくなっちゃうよね。
「うん。手塚がよく居たからね。」
衝撃を受けたような顔。
そうだよ。
僕は君よりもたくさん手塚のことを知ってるんだよ。
本当はそう言ってやりたかった。
「不二先輩・・・付き合ってたってホントっスか?」
ついにそのことを聞かれて。
心の中で笑っていた。
「そんなに気になる?」
すぐに肯定したくなるけどちょっと焦らす。
越前は顔を背けた。
声に出して笑ってしまった。
こんなのに僕は負けたのかと思うと、余計におかしかった。
「うん、そうだよ。」
はっきり言ってやった。
まだ僕は手塚にはっきり聞いてない。
越前が好きだと。
だからそれまで、それまでの間だけ。
まだ君の恋人候補でいたかったんだ。
全部知ってたって、まだ知らないフリをしたかったんだ。
ねぇ手塚。
君はいつか言ってくれるのかな。
『越前が好きだ』と。
そしたら僕は・・・その時どうするんだろう?
何て答えるんだろう?
それは僕にもわからない。
きっと少しずつ近づいている、その時がくるまでは。
僕たちは無言のまま図書室へと向かった。








*あとがき*
不二番外編でした。
不二と手塚について書きたいなと思っていましたが、そこに書くにはあまりに脱線しすぎたことを書いて元に戻れそうになかったので別に書きました。
でも結局はあんまり書けなかったんですけどね(苦笑)。
もっと手塚との話を書こうと思っていたのですが、ただ本編の方の流れに沿って書いた形になったのが残念です。
まあ、文才がないので自分の考えていたものは書けないと思いますが。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。
                                         BYノエ





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