分かってる。
そうすることは、結局彼を傷つけるギリギリに、不安定な心にさせることを。
守ると誓った。
しかし、どんなに努力しようと彼を守ることなどできない。
彼の恋人が俺である限り。
彼を一番不幸にしているのは俺だ。






在処






『先帰ってエエよ』
そう言っても彼は待つと聞かなかった。
人を待つことが嫌いだろうに。
何か予感していたのだろうか?








進路指導室に呼ばれた。
大体のことは想像できる。
親は子供を信じない。
教師と親がダブる。
まだ教師の方が幾分かマシか。
それでも手を握っていた。
殴りたい気分。
教師の声は耳から耳へすり抜ける。
あの日の電話と同じ内容。
もう聞き飽きた。
何度言われたって答えは同じ。
「変える気はありません」
誰も本当の意味を分かっていない。
誰も本当の気持ちなど考えていない。
新しい場所を求めないのなら、今ここにこうしていない。
「失礼します」
丁寧に頭を下げて。
心の中では焦りながら。
扉を閉めるとすぐに部室へ走った。




扉を開けるとソファーで寛ぐ彼の姿があった。
「退屈せぇへんかった?」
そう聞くと即答で。
「した」
本に夢中の様子だったのに、と文句を言いそうになる口を塞ぐ。
「すまんかったな」
分かってる。
待つのが嫌いな彼がこうやって待っていてくれたのは。
「愛しとるで景ちゃん」
口付けしようと思ったら逃げられた。
何とか無理矢理額にキス。
「ふざけてねぇで早く帰るぞ」
頬を染めてそう言う彼に笑顔で答えた。
手早く鞄に本を仕舞い、鍵を取り出す。
「なあ、何で待っててくれたんや?」
分かっているつもりだが、本人の口から聞きたかった。
「さあな」
彼は真意を教えてはくれなかった。
1人でいても寂しいなんて思わない彼が。
口にはしないだろうが、今日はどうしたのか、寂しかったのだろうか?
こんな俺でも求められていると思うと嬉しくなる。
「ほな帰ろうか」
「ああ」
扉を閉めて鍵をポケットに入れた。
すかさず彼の手を握る。
気づいたはずなのに。
珍しくその手を振り払わない。
文句を言わない。
嬉しかったが同時に不安になる。
でも、そのことを指摘すれば彼は必ず手を握ってくれなくなるだろう。
「どうかしたのか?」
心配していたはずなのに心配されてしまった。
「なんでもない」
ニッコリ微笑み返すとまた彼の頬は赤く染まった。








「聞いてもいいか?」
跡部様にしては一歩引いた言い方に驚いた。
帰り道。
いつものように話し始めは俺からだったのに、珍しく話題を振られた。
分かる。
その質問の内容が。
「珍しいな。いつもの命令口調はどないしたんや?」
せっかく気を使ってやったのに。
跡部の顔はそう言っていた。
「何を話してたのか隠さずに答えろ」
そのことで悩んでた?
どおりでいつも以上に会話が途切れてしまうわけだ。
「そんなに気になるんか?」
睨まれる。
らしくないことをさせたと一瞬心配したが、その目はいつもの跡部でホッとした。
「俺はそんなこと聞いてねぇだろ。早く答えろ」
誤魔化されてはくれない。
いや、あの跡部様が誤魔化されてくれないか。
「進路のことや」
仰せのままに、正直に答える。
跡部にはただ教師に呼ばれただけと言ってあった。
驚くかと思ったら反応はなかった。
何か返ってくるまで少し待つ。
「で?」
「でって?」
「何を話したかって聞いてんだ。それじゃ答えになってねぇだろ」
今日はいつになく興味をお持ちのようで。
苦笑して見せたが、彼は引く気はないようだ。
じっと見つめられる。
その目は何でも見通せる。
だったら聞かずに読み取ってほしい。
「そないに俺をイジメんといて」
「ちゃんと始めに配慮してやっただろ?」
確かにそのとおり。
それを無視したこっちが悪い。
「親に帰ってこいって言われとるんよ」
真顔でそう言った。
跡部の瞳が揺れる。
俺は彼のように完璧じゃない。
心配をかけまいとすればするほど。
傷つけまいとすればするほど。
その結果は?
「心配せんでエエよ」
そんな言葉で彼を安心させることができるなんて思っていない。
バカで愚かだ。
優しくすることさえ、ちゃんとできているか自信がない。
「どうしたいんだよお前は」
どうする。
その答えは決まっている。
当たり前だ。
「ここにおるに決まっとるやろ」
彼を置いて行くなんてことができるわけがない。
離れたくない。
そもそも帰る気なんてさらさらない。
俺は貪欲だ。
身勝手だ。
傷つけても傷つけても。
守れなくても。
それでも彼の傍にいたい。
それでも彼を愛していると言い続ける。
「そうか」
安心して微笑んでくれる彼を裏切る結果にならないことをそっと祈る。
「景ちゃんと離れとうない」
抱きしめても彼は逃げることはない。
彼は今も俺を愛してくれている。
俺は愛されている。
「俺様の傍にずっといろ」
俺は優しい言葉に付け上がる。
特に愛しい人の言葉。
それも、彼の性格上優しい言葉はとっても貴重だから。
「当たり前やろ?」
微笑んで答えた。
「だったらいい」
自分のしたことをどんなに後悔しても、やっぱり跡部が大好きだ。
それはきっとこれからもずっと変わらない。
もっと強く跡部を抱きしめる。
離れてしまわないように。
何かあった時に、跡部のこの感触を忘れないように。
「愛しとるで景ちゃん」








*あとがき*

忍跡をアップするのが久しぶりなのでちょっとドキドキします。
できるだけオッシーがヘタレにならないようにと思ったのですが挫折(笑)。
忍跡はいいなぁ~。私のはダメダメだけど、本当に素敵なCPだなと千影のおかげ(?)で侵食されつつあります。
この題名はその千影に付けてもらいました。本当にサンクスっ!!
ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。
                                         BYノエ





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