ネオ・ヴェネツィア戦線

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第1話 桜





「おい、健吾・・・大丈夫か?」

「だ、だいじょう・・・おえっ!」


船酔いした・・・・。
ありったけ吐いた。
こんなに吐いたのは、成人式後の仲間との打ち上げ以来である。
何故こんな事になっているかと言うと、今年は担当範囲に含まれている離島への5年ぶりの点検に行くの年なのだ。
僕は、今年入社したため勿論初めてである。


船酔いしている僕についていてくれる三嶋さんも初めてだそうだ。
三嶋さんは、今年で28歳。
丁度、5年前の点検の後に入社したので初めてとなる。


一方、余裕綽々で甲板に寝ている北村さんは、離島に来るのは5回目というベテラン。
現在43歳。妻子持ちの親父さんである。
さすがに、5回目ともなると堂々としているものだ。
しかし、激しい揺れの中、甲板に寝ていられるのは・・・すごすぎる。



「せ、船長ぉ・・・まだですか・・・?」

「なぁ~んだ?もうへばったのか?あと、1時間あるべ。」

「い、一時間?!・・・おえっ!」

「だ、大丈夫か健吾?!」








「お父さん、この花は?」

「ん?珍しいな、今頃も彼岸花が咲いているとはな。」


離島の海岸沿いで、植生している植物を見て回る一組の親子。
父親の名前は、玉置純一。名の知れた生物学者である。
現在は、研究のため大学に長期休暇届を出してこの島に住んでいる。
娘の方は、玉置麗華。彼女もまた生物学者。
といっても、彼女の方はまだ駆け出しの素人。
現在は、父親の元で修行中である。


「へぇ。でもさ、この島に来た理由は『永久桜』を見つけて研究するためでしょ?」


「う~ん・・・そうだが、島の人に聞いても教えてくれないし、どこを探しても見つからないんじゃ・・・そろそろ調査も終わりにするか。」


どうやら、親子がこの島に来た理由は桜を調査するためらしい。
しかし、永久桜とは・・・・?







離島の駐在所。警察官は、1人。
だるそうな顔で、煙草を吹かしていた。
彼の名前は、鈴木幸助。
本州の警察署にいたのだが、逮捕の際に行き過ぎた行為があったため
クビ・・・とはならず、左遷されてしまったわけである。

「あぁ・・・・平和すぎるぞ・・・つまんねぇ」

椅子の背もたれに限界まで寄りかかり、空を見上げている。

「おやおや、今日も精が出るね。」

通りがかった老婆が言った。

「だってさ~やることないんだもんさ~」

「だったら、私の畑の手伝いして頂戴よ」

鈴木幸助、他人のためなら身を犠牲に男。
モットーは、子供・お年寄りには優しく。


「OK!じゃ、おばあちゃん背中に乗って!」

幸助はしゃがむと、お婆さんをおんぶして走り去った。
なんと言うか・・・左遷された理由がなんとなく分る気がする。









「どうも、今年もよろしくお願いします。」


港に、村長さんと数名の島民が迎えにきていてくれた。
離島ということもあり、電気は水と同じくらい貴重なもの。
5年に一度の点検を待ちに待っていたようだ。
村長さんの挨拶の後、北村は村長と村長の自宅へと向かった。
これから一杯やるようだ。気楽なもんだ。


そして、僕と三嶋さんはお世話になる方の自宅へと向かった。
インターホンを鳴らしたが、応答はなく鍵もかかっていた。
どうやら、留守らしい。
帰ってくるまで、その辺を散歩でもしようと思ったが遠くから歩いてくる人に呼び止められた。


「すいませ~ん!遅れました~。」



白髪の初老の男性と、娘らしき女性の2人が歩いてきた。


「えっと、このの人ですか?」

「はい、すみませんね。ちょっと出かけていたもので。」

「農作業でもしてらしたのですか?」


「いえ、ちょっと生物の研究をしてまして。」


そういうと、男性は家の鍵を開け僕達を招きいれた。
家の中に入ると、生物の研究をしている割には以外と殺風景で
普通の家と、どこも変わらない。


「コーヒーにでいいですよね?」

「あ、お気遣いなく」

名前を聞いてビックリした。
玉置純一、玉置麗華、親子で生物研究に携わる第一人者である。
玉置教授、純一名誉教授は特に有名である。

東都大を首席で卒業し、そのまま東都大の研究員になり、34歳で助教授、42歳で教授、50歳の時に研究内容が認められ50歳という若さで、名誉教授に就任し、その研究内容は、ノーベル賞候補にまでなった一大人物である。
ここ数年、目立った活動をしていなかったが、こんな離島に居るとは思わなかった。
聞いてみれば、この島には永久桜という、年中咲き誇る桜があるそうでそれを調査に来たそうだ。


「ところで、点検はどの辺りに行くのですか?」


「えっと・・・どこでしたっけ?」

ミスった。来る時の船で、調べておこうと思ったのだが・・・あの始末・・・。

「馬鹿、新人なら覚えとけ!えっと、島の中心のやや北ですね。」


「なるほど・・・・。そうだ、私たちも連れて行ってくれませんか?」


「え、どうしてですか?」


生物学者が、何故電力会社社員に同行するのか意味が分らなかった。
しかし、話を聞いてみると点検箇所付近にはまだ行ったことがなかったそうだ。
正確には、施錠されていて立ち入れないようになったいるらしい。
その施錠が、点検の時に解除されるので同行を願い出たらしい。
勿論、玉置教授のお願いといえば問題無しである。







鈴木は、駐在所に戻ってきていた。
おばあさんの手伝いに行ったのは、昼過ぎ。
今は、もう日が落ちかけている。
時間にして5時間。
休みもせずに、せっせと働き続けていた。
ほんとに、熱い男だ。暑っ苦しいほどだが・・・・。
警官とどっちが本業か分らないくらいすごかった。

仕事後の、一服をしていると村長がやってきた。
顔を見るからに酔っている。


「おーい若造~!日が暮れたってのに、まだだるいのか?」

「うわっ!酒臭っ!酔ってますでしょ?!」

「うるせぇ!ところで、明日点検あるから頼んだぞ」

「電力会社の人たちが来てるんですよね。あ!もしかして、それで一杯やったんですか?」

「ご名答~。だから、明日施錠を解除してくれたまえ!」

「はいはい。分りました。」

会話が終わると、村長はフラフラと駐在所を出て行った。

「大丈夫ですか~?!」

それを見て、心配になった鈴木が声をかけるが村長は右手を上げて振り返ることもなく歩いていった。




翌日-



施錠のあるフェンスの前に、俺と三嶋さん、玉置親子、警察官が揃った。
北村さんは、二日酔いで寝込んでいる・・・・。いい迷惑である。

そんな、異色のメンバーが揃った訳だが・・・・
誰もが、これから待ち受けるサバイバルを知り得る者はいなかった・・・。




「じゃ、開けますね~」

鈴木は、赴任してきた時に渡された大量の鍵から1つ選び鍵を開ける。
鍵のかかっていたフェンスは、5年の間使われていなかったので錆付いて少し重かったが、それを押しのけ先へと進んだ。

ここまでは、特には問題がなかった。
ただ、警察官の鈴木が同行するということが急遽決まったが。


しかし、次第に奥に進むに連れて手入れがされていないせいか、人の背丈まで伸びた木々が生い茂り、ジャングルの様な風景が広がっていた。
そこを掻き分けて、しばらく進むと驚くものを目にすることになった。


「あ、あった・・・ここにあったのか!」


「ほ、ほんとうに咲いてる・・・・!」



『永久桜』



季節は晩秋、なのに満開に咲き誇る桜。


誰が見ようと、奇妙な光景がそこにはあった。


その場にいた、全ての人間がそれに見とれて動けなくなっていた。


そして、桜は沢山の花びらを舞踊らせ、それでいながら決して枯れる事はなく咲き誇っていた。



その光景を疑いながらも、見とれていた。



だが、それを気がつかせるように巨大な地震が起きる。
ふと我に返る面々。

急な地震で、心配になった鈴木は急いで入ってきたフェンスに向かう。
玉置親子は、桜に近づいていく。
そして、僕達は辺りを探し発電機に異常がないかを調べたが、異常もなく。ついでに、点検までも済ませてしまった。


玉置親子は、桜の樹液や樹皮、葉を採取している。

「それにしても・・・・この花びら・・・真っ赤だね」

麗華は、花びらを手にポツリと言った。

「何か、作用しているんだろう。永久桜と言われるくらいだからな。・・・しかし本当に、咲いているとは思わなかったよ。」

玉置教授は苦笑いを浮かべた。
嬉しさ反面、ただの噂が本当だという確信を得て戸惑っているようにも見える。
ただ、やはり嬉しそうである。
これが、学会で発表されれば、今度こそノーベル賞の1つもらえるだろう。



僕達が、それぞれ働いていると鈴木が戻ってきた。


「み、皆さん!!早く、村に戻ってください!!」

明らかに、声色と、表情から異常な事態が起こっているのを告げていた。
そして、僕たちはすぐさま村へと戻った。

村長の家には、島民全部といっていいくらいの人が山のように集まっており
状況を察するのに、時間がかかった。


村長の惨殺死体を確認するまでに・・・・・

ひび割れた土壁に飛び散った血が、まるで・・・・・


『永久桜を思わせるかのように・・・・』

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