元気力UP!

元気力UP!

2025年05月31日
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カテゴリ: 吾輩は猫である





吾輩は、乱暴で傲慢な黒猫・車屋の黒がどれほど無学かを試すため、「車屋と教師ではどちらが偉いか」と尋ねる。黒は即座に「車屋」と答え、力こそが大事だと豪語する。そんな黒との会話を通して、吾輩は彼の機嫌を取る術を心得るようになり、黒の自慢話に上手く相槌を打ってやり過ごすようになる。黒は鼠退治の武勇伝を語るが、最後にイタチの強烈な臭気に撃退された過去を語り、吾輩は気の毒に思いつつも黒を持ち上げる。しかし、鼠を捕まえても人間に奪われることに対する黒の不満が噴き出し、猫の間にも人間社会の不条理さが色濃く滲み出る一幕となる。

本文:
吾輩はまず彼がどのくらい無学であるかを試《ため》してみようと思って左《さ》の問答をして見た
「一体車屋と教師とはどっちがえらいだろう」「車屋の方が強いに極《きま》っていらあな
御めえ[#「御めえ」に傍点]のうち[#「うち」に傍点]の主人を見ねえ、まるで骨と皮ばかりだぜ」「君も車屋の猫だけに大分《だいぶ》強そうだ
車屋にいると御馳走《ごちそう》が食えると見えるね」「何《なあ》におれ[#「おれ」に傍点]なんざ、どこの国へ行ったって食い物に不自由はしねえつもりだ
御めえ[#「御めえ」に傍点]なんかも茶畠《ちゃばたけ》ばかりぐるぐる廻っていねえで、ちっと己《おれ》の後《あと》へくっ付いて来て見ねえ
一と月とたたねえうちに見違えるように太れるぜ」「追ってそう願う事にしよう
しかし家《うち》は教師の方が車屋より大きいのに住んでいるように思われる」「箆棒《べらぼう》め、うちなんかいくら大きくたって腹の足《た》しになるもんか」彼は大《おおい》に肝癪《かんしゃく》に障《さわ》った様子で、寒竹《かんちく》をそいだような耳をしきりとぴく付かせてあららかに立ち去った
吾輩が車屋の黒と知己《ちき》になったのはこれからである
その後《ご》吾輩は度々《たびたび》黒と邂逅《かいこう》する
邂逅する毎《ごと》に彼は車屋相当の気焔《きえん》を吐く
先に吾輩が耳にしたという不徳事件も実は黒から聞いたのである
或る日例のごとく吾輩と黒は暖かい茶畠《ちゃばたけ》の中で寝転《ねころ》びながらいろいろ雑談をしていると、彼はいつもの自慢話《じまんばな》しをさも新しそうに繰り返したあとで、吾輩に向って下《しも》のごとく質問した
「御めえ[#「御めえ」に傍点]は今までに鼠を何匹とった事がある」智識は黒よりも余程発達しているつもりだが腕力と勇気とに至っては到底《とうてい》黒の比較にはならないと覚悟はしていたものの、この問に接したる時は、さすがに極《きま》りが善《よ》くはなかった
けれども事実は事実で詐《いつわ》る訳には行かないから、吾輩は「実はとろうとろうと思ってまだ捕《と》らない」と答えた
黒は彼の鼻の先からぴんと突張《つっぱ》っている長い髭《ひげ》をびりびりと震《ふる》わせて非常に笑った
元来黒は自慢をする丈《だけ》にどこか足りないところがあって、彼の気焔《きえん》を感心したように咽喉《のど》をころころ鳴らして謹聴していればはなはだ御《ぎょ》しやすい猫である
吾輩は彼と近付になってから直《すぐ》にこの呼吸を飲み込んだからこの場合にもなまじい己《おの》れを弁護してますます形勢をわるくするのも愚《ぐ》である、いっその事彼に自分の手柄話をしゃべらして御茶を濁すに若《し》くはないと思案を定《さだ》めた
そこでおとなしく「君などは年が年であるから大分《だいぶん》とったろう」とそそのかして見た
果然彼は墻壁《しょうへき》の欠所《けっしょ》に吶喊《とっかん》して来た
「たんとでもねえが三四十はとったろう」とは得意気なる彼の答であった
彼はなお語をつづけて「鼠の百や二百は一人でいつでも引き受けるがいたち[#「いたち」に傍点]ってえ奴は手に合わねえ
一度いたち[#「いたち」に傍点]に向って酷《ひど》い目に逢《あ》った」「へえなるほど」と相槌《あいづち》を打つ
黒は大きな眼をぱちつかせて云う
「去年の大掃除の時だ
うちの亭主が石灰《いしばい》の袋を持って椽《えん》の下へ這《は》い込んだら御めえ[#「御めえ」に傍点]大きないたち[#「いたち」に傍点]の野郎が面喰《めんくら》って飛び出したと思いねえ」「ふん」と感心して見せる
「いたち[#「いたち」に傍点]ってけども何鼠の少し大きいぐれえのものだ
こん畜生《ちきしょう》って気で追っかけてとうとう泥溝《どぶ》の中へ追い込んだと思いねえ」「うまくやったね」と喝采《かっさい》してやる
「ところが御めえ[#「御めえ」に傍点]いざってえ段になると奴め最後《さいご》っ屁《ぺ》をこきゃがった
臭《くせ》えの臭くねえのってそれからってえものはいたち[#「いたち」に傍点]を見ると胸が悪くならあ」彼はここに至ってあたかも去年の臭気を今《いま》なお感ずるごとく前足を揚げて鼻の頭を二三遍なで廻わした
吾輩も少々気の毒な感じがする
ちっと景気を付けてやろうと思って「しかし鼠なら君に睨《にら》まれては百年目だろう
君はあまり鼠を捕《と》るのが名人で鼠ばかり食うものだからそんなに肥って色つやが善いのだろう」黒の御機嫌をとるためのこの質問は不思議にも反対の結果を呈出《ていしゅつ》した
彼は喟然《きぜん》として大息《たいそく》していう
「考《かん》げえるとつまらねえ
いくら稼いで鼠をとったって――一てえ人間ほどふてえ奴は世の中にいねえぜ
人のとった鼠をみんな取り上げやがって交番へ持って行きゃあがる


解説:
本エピソードでは、「吾輩」と「車屋の黒」の関係が一層深まり、猫同士の社会的階層や知性の違いが鮮やかに描かれています。黒は典型的な“腕力自慢の無教養タイプ”で、自己中心的かつ野性的な性格が色濃く表れています。一方で、吾輩は知性で優位に立ちつつも、相手の性質を察して柔軟に振る舞う処世術を身につけていきます。
このような描写は、明治時代の「階級間の人間関係」を風刺しているといえます。力を誇示する者、教養を語る者、それぞれの立場のすれ違いと摩擦は、猫の姿を借りながらも人間社会への批評として読むことができます。
特に興味深いのは、黒が誇らしげに語る「鼠退治」のエピソード。最終的に「人間が全部横取りする」という怒りの吐露があり、猫という動物でさえ人間の身勝手さに振り回されている現実が語られます。これは自然界における弱者と強者という構図を逆転させて、「人間の不徳」を猫の目線で描いた痛烈な批評でもあるのです。






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Last updated  2025年05月31日 23時22分04秒
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