トラップのファンタジー


 それは、冬場の練習試合のことでした。ユニフォームは長袖、殆どの選手が手袋も着用していました。観戦する親達は、ドラム缶に炊かれた火に当たりながら試合を見守っていたそうです(私はビデオで見ました)。サッカーパンツとストッキングの間に露出している太腿も寒そうでした。寒い日というのは、平手で叩かれるような衝撃が痛いものです。こんな日にボールが太腿を直撃したら痛いだろう、というのはプレイから十数年離れた私にも容易に想像できます。
 さて、試合は時間が経つにつれて、体が温まってきたせいか、選手達の動きも速く大きくなり、競り合いにも熱が入ってきました。ファンタジスタは、敵DFとゴールキックを競り合いました。ここで見せたのがファンタジックなトラップでした。彼は左手で敵DFを押しながら、自分に有利なポジションを確保することに成功しました。後は、(ボールの高さから考えれば)胸でトラップして、自分で運ぶか味方にパスすれば、此れ即ち速攻です。しかし、そこで彼が見せたのは、胸でも腹でも股間でも足でもなく…、

『顎』 でのトラップだったのです。

 画面上のファンタジスタは、相手DFを押しやり、有利なポジションで悠々と『顎トラップ』をして見せたのです。彼のトラップしている姿は、まるでカウンターパンチを喰らうボクサーの様でした。ファンタジスタは、どんな時でもファンタジーを忘れず、私達に夢を与えてくれます。彼のトラップしたボールが見事に寄せてきた敵ボランチの足元にぴったり収まったことも付け加えておきます。そして、彼のファンタジーはまだまだ続くのであります。

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