ワインバーで田舎くさい大男と出会った。
シャツは半袖で太くて毛深い腕をしている。大きなワイングラスに赤ワインをなみなみ入れている。
世間話の後、大男は「あんたいい人だな。気に入った。金曜に俺の家でワイン・パーティーをやるんだが、あんた、来ねえか」と言ってきた。
景気が悪くなってから、こうしたお誘(さそ)いも珍しくなった。
「ああ、いいね。家はどこにあるんだい?」
「あの、街外れから山道に入って森を抜けたトコだ。車は持ってるか?」
「ええ、でも飲酒運転になっちゃうな」
大男はノドを鳴らしてワインを流し込んだ。
「山道は人っ子一人通らねえ。ウチは広いから、心配だったら泊まっていっても全然かまわねえぞ」
少し遠い土地だとは思ったが、断る理由もなかった。
大男は、タオルで汗を拭きながら、
「家にはワイン庫があるんだ。だから、最初はシャンペンで、次はムルソー、それからポムロールといこうか?」
「そりゃあいい。じゃあやっぱり泊めてもらったほうが良さそうだな」
「料理はオレがつくるから、レストランには負けるけど、山で取れた野鳥とかウサギとかを合わせるが、あんた、どうだい?」
「それは、願ったり叶ったりだ。素晴らしいパーティーになりそうだな。招待してくれてありがとう」
「でも、あとは、いつも、ちょっと飲みすぎることがあって、でも問題にはならねえと思うけど…、あんた、良い人に見えるから」
「まあ、パーティーとはそういうもんだ。私はこう見えても酒は強い方だから心配しなくていいよ。あとは、私は初参加になるんだし控えめにしておくから、もめることはないと思うよ」
「ちょっと騒ぐこともあるけど、大丈夫かい?大声で歌ったりダンス踊ったり、なんたって、自然の中だし、ほかに誰も見てねえからよ。街と違ってよ、おおらかになるんだ」
「それは、楽しそうじゃないか。ワインだって堅苦しく飲むばっかりじゃ面白くない。うまく付き合うようにするよ」
「あとはよ、場合によっては色っぺえことになったりよ。その、なんたって、自然の中だし、ほかに誰も見てねえからよ」
「ははは、いいじゃないか。必ずパーティーに行くからね。ところで、何を着ていけばいい?」
大男はワインを飲み干した。
「何でもいいぜ。パーティーは二人っきりだからよ」