「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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鱗羽
空間ベクトル1-2〔親睦飲み会〕
親睦飲み会
「自己紹介させていただきます!! 東寺高等学校出身!! 南陽一です、よろしくお願いしまっす!!今年の抱負はぁ!師匠の周防さんとぉっ仲良くなることです!!」
「周防!すーおーう!!ハイハイハイッ」
私は手拍子に併せて持っていたグラスのビールを一気に流し込む。新入生歓迎コンパ、俗に言う「新歓」の前の試合だったために、入部した新入生は必ず自己紹介と、抱負を言わされる。
そういうときに最も用いられる人物名ベスト3が主将・副将、そして師匠名である。機能しているのか解らない師弟制度があるので、二年生は弟子を取らなくてはならない。
今年は入部者が多く、全員で八人の二年生に対して、新入生である一年は十三人と二倍以上いた。かくゆう私も女子と男子の南の二人を弟子として取っている。とは言え南は経験者であったので、初心者の子のように一から教えることはない。
実際にはほったらかしになるかもしれないと考えたりしていた。
「南ぃっ!! 抱負が聞こえねぇー!!もう一回」
飲み会序盤で酔いが最高潮に達している先輩が南に向かって叫んだ。
「今年の抱負はぁっ師匠の周防サンと仲良くなることです!!!」
げっなんでよりによってもう一回…。コールがかかって私はグラスのビールをまた開けた。体育会のノリって素面じゃ付いていけないですね…といっていたのは誰だったか。ほんとにその通りだよ、まったく。
「男の子は際限なく飲まされる…。そして師匠も…」
「ほら、抵抗できないから。」
近くに座っていた私と同学年の籐馬悠が呟やく。
酒を飲みすぎたのかいつもは色の白い顔なのに、うっすら頬が赤くなっていた。
私は先輩のコールの嵐に頑張って耐えて飲んでいる南の方に目をやった。
「悠ちゃん…悪趣味だな」
私は吐き出すように言った。
「え?なんで?私が悪趣味だって言ったの?透子ちゃん」
「…うん。」
「ひどいよ!だってさ、最初のころって部活全然面白くないし、経験者も的前で引かせてもらえないでしょ、暫くは。…アレ(飲み会のコール)のせいで男子は無理やり飲まされるからさ、お酒嫌いになって、部活、辞めちゃうでしょ。」
自分からは比較的遠いところで繰り広げられる惨劇を眺めながら、友人は続ける。
「弓を引くことが苦痛で辞めるんじゃないって皮肉だよね。」
まだそんなに仲良くはないが、自分の弟子(南と私に関しては師弟関係が成り立っていない等しかったが。)になった子が辞めてしまうのは気分的に良くはない。
「透子ちゃん、南、ちゃんと見てたほうがいいよ。」
「言われずとも」
藤馬は自分の弟子が倒れていたら困るから、と言って去っていった。
周囲が静かになったと思ったらどこかで飲んでいた片瀬がふらっと近くに来た。
私と彼では身長差があるので(約二十センチ)立ち話をしていても、彼の目つきが悪いせいもあってか見下されているような気がして落ち着かない。
「周防さん俺、あ自分、人見知りするんですよ。」
私の隣に腰を降ろし、酒の入ったグラスを片手にけだるそうに片瀬が言う。
私の所属している弓道部の男の人は自称を「自分」と言うように強制されている。古臭い風習だと思う。当時の心意気なんてものは当に失われているのに、形だけ残っているのってなんだか虚しい。
「片瀬…それ、物凄く嘘っぽいな。私が見る限り君は誰とでも話しそうだけど。」
「…心外ですね。でも初対面の人だったら話せないでしょ。」
初対面の人なら誰だって話せないものなのではないか、と思ったけど追求しなかった。大学の体育会の部活の飲み会は何処の学校も激しいらしい。
しかしここの大学の飲み会の物凄さも馬鹿マッシグラという感じで、時々、というか飲み会のたびに物悲しさに襲われる。
「周防サン…大丈夫ですか?」
先輩のコールの嵐をかい潜り、南が覚束無い足取りで歩いてきた。
「ありがとう、私は全く飲んでないから心配してくれなくても平気。」
「南こそ大丈夫?吐き気とかはない?」
「だい…じょうぶです、よ。」
笑っているが返答する声は辛そうに聞こえる。相当飲んでいた筈だが、他の子のように潰れたりせず、意識だけはハッキリしているようだった。
「南はもう飲めませんよ。」
近づいてきた先輩に少し冗談めいた口調で言った。
「…なら、周防が南の代わりに飲んでくれるのか。」
酔ってるとさ、誰構わず話が通らないから嫌なんだよね、この部活。
昔は男女問わず急性アルコール中毒になる一歩手前まで無理やり飲ませるのが方針だったらしいが、最近女子には無理強いはない。
そして日常機能していないと思われていた師弟制度が思わぬところで効力を発揮する。
「わかりました、飲みますよ。」
「おっ周防が飲むぞ!」
「南の代わりに私が飲みます。」
「弟子の責任はぁー、師匠の責任!!」
先輩は会場に響くくらいの大声で叫んだ。南にこれ以上飲ませたくない気持ちと、先輩だからって調子に乗るな!!たかが一、二年先に生まれただけじゃないかという怒りに似た気持ちの勢いで飲みまくった。
考えてみれば私も始めの方のコールで飲んでいたからある程度酔いが回っていたのかもしれない。グラスを片手に立ち上がろうとした時。
「…周防さん、酒弱いんでしょ。自分が代わりに飲みますよ」
「…大丈夫、まだ飲める。それに片瀬系列じゃないし、」
折角の申し出ではあったが、南同様片瀬も相当飲んでいたはずなので、飲ませたくはなかったし自分が飲むと言った手前、後輩に飲ませるわけにはいかない。
片瀬に口ではそう返答したが、実際はかなり辛かった。
いくら勢いで飲んでいるとは言え、ストレートに近いウーロン茶焼酎割りの連続攻撃は私の記憶を曖昧にさせるに十分な量だった。
そしてその曖昧な記憶は途中から私の目の前に置かれていたグラスが結局片瀬の右手に移っていた。というところで途切れている。…情けない。
暫く、とはいっても15分程度意識が吹っ飛んでいた状態から回復した私は、気が抜けてしまったのか酔い潰れた南と他の子の介抱をしていた。
潰れさせたなら、責任を持って最後まで新入生を介抱してくださいよ!と怒り口調で叫びたい衝動に駆られる。結局最後の後始末をするのは頭がしっかりと動いている女子がする羽目になるのであった。
「周防さん!」
南が血相を変えて切羽詰まった声で私を呼んだ。
「どうした、南」
「藤馬サンが…」
「?」
「…熟睡してしまって、起きないんです。」
藤馬は極端に酒に弱いらしく、ある一定量を超えると熟睡してしまう。そうなってしまうと周囲がどれだけ彼女に危害(?)を加えても目を覚まさない。…おいおい二年になってそれは勘弁してくれよ、籐馬…。
「周防サン!」
今度は違う一年が叫んだ。
「今度は何!?」
「前山(籐馬の弟子)が…吐いて顔色が真っ青になってヤバイです。」
なんと数分前まで寝ていた、と思われる前山が吐いているではないか。
…こんな物凄い光景を始めに見せられたら普通はひくよなぁ。とか考えつつ状況に冷静に対応している自分を思って少し哀しくなってしまった。慣れだよ、慣れ。(自分もこの集団の一員であることに違和感を感じなくなってきた…。)
「ちょっとぉ!!籐馬ぁ!!寝るなぁこら、オキロ!!前山が吐いてるよ。なんとかしなさいよ。」
「え?本当に?うわっ前山~。」
籐馬が慌てて前山の方に駆け寄っていった。
もしかしてアイツ…狸寝入りだったりして…。って狸寝入りもしたくなってしまう気持ちもわからなくはないが。
みんな辞めなきゃいいなぁ…。新入生が入ったら毎年のように思うことだけど。
03/11/4
〕…
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