「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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家族・焼酎・ゴルフそれから・・・
小説【旅立ち】
「ああ。いいことだやりなさい。」
「いいの。」
「いいよ。」
と私はあっさりと答えた。
長女もいくらか拍子抜けしたような表情であった。
「で、どこに住むの。」
「それはこれから探すのよ。」
「あ。そう。」
やっぱりそうだ。具体的な話ではない。きっとまたいつものとおり「やっぱ、私には無理だわ。」となるに決まってるのである。
それから数日後のことであった。
「ねえねえ。広島市内にいい部屋見つけてきたんだけど。」
「家賃は4万円なの。けっこう安いでしょ。」
「職場までスクーターで20分。とっても便利がいいの。」
「不動産屋さんの話だとさ、駐車場も月1万五千円のところがあるらしいから。」
「今日ユウ君と見てきたの。」
「保証人が要るんだって。お父さんなってくれるでしょ。」
「・・・・。」
「ちょっと待ちなさい!」と妻がたまらず口を出してきた。
「もっと話し合ってから決めなさい!」
「だって、お父さんこの前いいって言ったモン。そうでしょ。言ったよね。」
「・・・・。」
「そうなの?」
「・・・ 言ったよ。」
「無責任ね!」
「そうでもないさ。自立。おおいにケッコウさ。」
「お前とも前にいつかさ、『サチも一人暮らしさせて苦労させなきゃダメね。』ってはなしてたじゃないか。」
「そりゃ、私も言ったわよ。でも、こんなこと簡単に子供たちだけで決めてくる話じゃないでしょ。」
「そりゃそうさ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「それって何。一人暮らししちゃあダメっていう事。」
「それってひどいよ。」長女は泣き出してしまった。
「ダメとは言ってないだろう。ダメとは。」
「もういい!」
長女は腹を立てて自分の部屋へ行ってしまった。
「もう。お父さんたら。いつもいい加減な返事ばっかしてるから。」
「いい加減じゃないよ。俺は自立はおおいに結構だと本気で思ってるよ。」
「そりゃ、私だって自立してくれれば楽だわよ。でも、あの子にできるわけないじゃない。」
「この前だってさ、私が体調くずして寝てたときあるじゃない。こっちはえらくて寝てるのにさ、後かたづけ全然やらなかったのよ。」
「そりゃ、やっぱりお前がいるからさ。」
「何よ。それ。」
「えっ!」
「あなただってそうよ。」
(マズイ。このパタ~ン。)
「私が寝込んでるってのに。毎晩毎晩飲んで帰ってきてさ・・・・」
(やっぱり。)
その日は夜遅くまで妻の小言を・・・・。
次の朝、朝食中の長女に妻が言った。
「今夜さあ、昨日の一人暮らしについて話し合おっ。」
「わかった。」
「お父さんもいいわね。今日は飲みに誘われても断ってよ。」
「よっしゃ。!」
「何がよっしゃよ。」
「絶対早く帰ってよ。」
「わかったよ。」
夜、私が帰宅すると、他の家族は既に夕飯を終え、全員がリビングでテレビを見ていた。
いつものように長女の彼氏も来ていた。
「じゃあお父さん帰ってきたから始めるわよ。」
食事を運ぶなり妻が言った。「食事が済んでから・・・・」とは言えなかった。
「早速だけど、お前給料どの位もらってんだ。」
「手取りが16万。」
「それから色々引いてみろ。ほらこれに書き出してみろ。」
「えーっと、家賃が4万、駐車場代が1万五千円、それから・・・」
「車のローンも忘れるなよ。それと自動車保険も。」
「わかってるよ。」と長女が怒って言った。
「サチ!冷静に!冷静に!」彼氏が長女をなだめる。
(ん。やるじゃん。)
「今は、とにかく書き出してみようよ。冷静に。冷静に。」
(そうそう。冷静に。冷静に。)
すると妻も、
「お父さん、今やってるじゃない。全部書き出してからにしなさいよ。」
(長女の味方?)
「俺は、親切で言ってやってるんだぜ。」
「どこが親切なのよ。まるで『お前にはできるわけないだろう』って聞こえるわよ。それじゃあかわいそうよ。」
「そんなつもりは全然ないよ。俺は、客観的立場で・・・」
「できた!」
「こんなもんかな。全部で15万8千円。これが毎月の出費。」
「えっ!15万8千円?残りは2千円か?」
「そうだね。」
「そうだねってお前、一月2千円でどうやって暮らすんだ。」
「お祖母ちゃん家からお米もらえるし・・・。」
「昼は食べないときもあるし。」
「この中に車のガソリン代がないけどいるよな。」
「あっそうか。えーっと、ガソリン代が3千円。・・・マイナス千円か。・・・・。」
「それでどうやって生活できるんだ?」
「・・・・・わかった。それじゃあ、貯金やめるよ。これで1万円浮くよ。」
「職場の懇親会だってあるぞ。それ全部ことわるのか?」
「・・・・・。」
「車の点検や車検もある。」
「・・・・・。」
長女は泣き出しそうになっていた。
「わかったか?一人暮らしって大変なんだぞ。」
「だって一人暮らししたいもん。わあぁ~。」
とうとう長女は泣き出した。
「お父さん!少し言い過ぎ!」
妻が間に入ったが、その妻も「私もこれじゃあ一人暮らしは無理だと思うわ。もう少しお金貯めてからにしたらどう?」
「わああああ~。」長女は余計に泣き出した。
「サチ、出費を減らそう。よく考えてみよう。」
(おっ!いい事言うじゃない。じゃあ、助け舟出してやろうかな。)
「車は今のところでいいんじゃないか。」
「だって、車ないと不便だし。」
「でもウィークデイはほとんど使わないんだろ。」
「でも木曜日はこっちのバレーの練習に出るし。」
「じゃあ、木曜日はお父さんが迎えに行ってやる。」
「そんな~。」
「でも、それで1万円浮くぞ。」
「それは・・・。」
「私も市内に駐車場借りるのはもったいないと思うわ。」
と妻も私の意見に賛成のようである。
「サチ、しょうがないよ。」
「車はあきらめよう。」と彼氏も言った。
「わかった。」
「それと、マンションもっと安いとこあるんじゃないの?」
「3万5千円も在ったけど。」
「もう一回不動産屋に聞いてみよう。だめだったら別の不動産屋を探してみよう。」
「お父さんは、一人暮らしを反対しているんじゃないぞ。」
「逆にお前は一人暮らしをして、少し苦労した方がいいとさえ思ってる。」
「ただ、サヤの大学の授業料もかかるし、今はお金に余裕がないから協力はできない。」
「一人暮らしするなら自分で何とかしろ。」
「彼が言うように、もう一度不動産屋を回って、安い物件見つけてきたらどうだ。」
「わかった。ユウ君、明日土曜日だからまた不動産屋へ探しに付き合ってくれる?」
「あったりまえジャン。付き合うさ。サチのピンチだもん。」
「やっぱね。そういってくれると思ってたよ。さっすがユウ君。ちょ~暇人。」
「暇人じゃないけど。一緒に付き合うさ。」
「それじゃあこの続きは今度にしよ。」
この妻の言葉で本会議は閉幕した。
長女が新しい部屋を探してきた。
一月3万5千円だそうだ。
私たち夫婦も一緒に部屋を見に行くことになった。
広島市の中心部、家賃月3万5千円。えらく安いような気がするが、一体どのような部屋なんだろうと私自身も興味があった。
3万5千円の部屋の入り口は、玄関がオートロックになっており、ガラスのドアを入ると一畳ほどのスペースの入ってすぐの正面にエレベータがあった。
そのエレベータに乗り2階へ。
エレベータのドアが開くと、やはり一畳ほどのスペースがあり目的の部屋のドアがあった。
不動産屋の女性が鍵を開け、私、妻、長女、彼氏の順に部屋に入った。
ワンルームで、一応ベランダもあった。
他にもう一つ窓があったが、すぐ横のビルがあり光は全く入らない。
暮らすには問題ないだろう。
バスルームはあったが、極めて小さく、浴槽で足を伸ばすことは無理のようである。
何故か有線放送のスピーカーが部屋にあった。
ベランダに出てみた。外に非常階段があった。
ふと、「下着ドロボーの心配はないな。」と思った。
この外にもう一部屋このすぐ近くにいい物件があるらしいので、そこも見てみることにした。
先程の部屋から徒歩で5分のところにもう一件のマンションがあった。
中庭がありなかなかおしゃれなマンションで、その庭を眺めながら鉄骨階段を上がっていくとお目当ての部屋があった。
部屋に入ると真っ先に目に飛び込んできたのが、正面の大きな窓ガラス。であった。
窓は通りに面しバルコニーもあり、光がいっぱい差し込んでいた。
私は思わず「こりゃ~いい。」と言ってしまった。
長女もとっても気に入った様子である。
部屋はほぼ正方形になっており、使い勝手もよさそうだ。
何でも、つい先日空いたばかりだそうである。
10月ということもあったのだろうか、会社員が急に転勤にでもなったのだろう。
マンションを借りるには、時期的にいいタイミングだったようである。
家賃は先程の物件より千円多い月3万6千円であった。
長女も、妻も、彼氏も、そして私も「ここがいい。」とその時思っていた。
不動産屋からの帰り、妻と二人きりの車内で長女の一人暮らしについて話した。
「これからも、彼氏は毎晩のようにあのマンションへ来るよな。きっと。」
「絶対来るわよ。」
「一応我が家では宿泊は禁止にしていたんだけど、これからは歯止めがないよな。」
「そうよね。」
「泊まっちゃダメ。って言うのも可哀そうだし。」
「そうね。」
「かといってもな~。」
「そうね。そういえばあなたも一人暮らしの私のところへ入り浸ってたわよね。」
「おい、おい、入り浸ってたはないだろ~。」
「だってそうだったじゃない。」
「ま、その通りだけどさッ。」
「なんか懐かしいわね。」
「そうだね。今ふと思ったんだけど、今のサチの歳にはオレはもうパパだったよな。」
「そうね。」
「ただ、彼氏がまだ学生だからな。俺たちのときとは違うよ。」
「うん。」
「今子供出来ちゃったら彼、大学辞めなきゃならなくなるよな。」
「そうなったら二人の幸せは難しくなっちゃうかもね。」
「それはどうなるかはわからないけどね。」
「でも国立大学よ。もったいない。」
「そりゃもったいないけど。」
引越しの日はあっという間にやってきた。
今日は朝から私も妻もそわそわしていた。
起床した時刻は朝5時だった。。
朝食もそこそこに、昨夜遅くまでかかり荷造りした段ボール箱を、自家用車に積み込んだ。
荷物は思ったより少なく、私の車に全て収まってしまった。
出発時間は9時にしようと昨夜皆で決めていたが、8時には全ての荷物を積み終え私は少々時間を持て余していた。
妻は長女に何度も何度も「忘れ物無い?」と尋ねていた。
今日は彼は来ないのかな?
いくら待ってもサチの彼氏がやってこないので、そうつぶやいてみた。
私は彼氏が来るものだとしっかり当てにしていたのだが、
「今日は来ないよ。今日から新しいバイトなの。」という長女の言葉にがっくりした。
「この肝心な時に。」
まあしょうがない。「がんばろ~!」と自分に言い聞かせた。
我が家としては珍しく、今日は予定時間よりも早く自宅を出ることが出来た。
マンションに到着し、早々に荷物を運び終えてみると、6畳のワンルームマンションは荷物で一杯になった。
妻と長女はカーテンや生活必需品を買いに出て行き、私は一人マンションで留守番することになった。
私はくたびれてしまい、総板張りの床に、無造作に置いてある荷物を隅によけ、一畳ほどのスペースを作り、そこで寝転び、一度ガ~っと伸びをしボーっと天井を眺めていた。
静寂な時間が流れていた。
しばらくすると、だんだん瞼が重くなり気づかないうちにうとうとと寝てしまったらしい。
「ビィ~!」 玄関の呼び鈴の音で目が覚めた。
「は~い。」
玄関のドアを開けると年のころは30代半ばぐらいだろうか、ショートヘアーの女性が立っていた。
「こんにちは。お父さんですか?大家の○○です。」
「あ、これはどうも。今日からお世話になります。」
「こちらこそ。あの、敷金の領収書をお持ちしましたので。」
「はい、お世話になります。」
「それでは。」と丁寧なお辞儀をして大家さんは向かいのドアの中に消えていった。
「なんか感じのいい人だな~。」と思った。
また、しばらくたつと妻と娘が大きな荷物の袋をいっぱい下げて帰ってきた。一気に静寂が飛んでいった。
自宅に帰り、三人で夕食を食べた。私の右側にぽっかり穴が開いているような、これまでしっくりしていたところがやけに空気が薄く、何かの支えが無くなった様な感覚を覚えた。
これまでにも長女のいない夕食は何度もあったのに、こんな感覚は初めてだった。
「出て行っちまったんだな。」と改めて思った。
一足先に食事を終えた次女は、長女の居なくなった部屋で歌を歌っている。
「『GREY』の曲でなんていったっけあの曲。」と妻に尋ねると、
「ごめん。涙が出ちゃって。」妻はこらえながらも目にはいっぱいの涙をためていた。
私の瞳も思わず潤んできた。
「なんだかとっても寂しくて。」
妻も、私と同じように、ぽっかりと空いてしまったいつも居るのがあたりまえだった長女の居た空間へ、吸い込まれていくような感覚を感じていたのだろう。
そうか、次女が生まれてからはこの20年間ずっと4人だった。最近はマッチも毎日のようにやって来て、まるで5人家族のような生活だった。
家族が欠けるのは初めての経験だった。
「いっぺんに二人も居なくなってしまって・・・。」妻が我慢しきれず泣き出した。
続いて、私の涙の量も急に多くなった。
しばらくの間、私は呆然とすすり泣く妻を眺めていた。
「サヤも寂しがっているのよ。ああやって大きな声で歌を歌うときはいつも何か寂しいこととか辛いこととかあったときなのよ。お父さん知ってた?」
「そうか。」私は鼻水を啜り上げながら答えた。なんだか声が裏返っていた。
一人暮らしは、長女にとっても私たち残った家族にとってもとっても辛いことだけど、きっといつかはやってくるのだ。
それがやってきただけのこと。と言い聞かせようとするのだが、涙を止める効果は全く無いようである。
”思ったより応えたな。”
長女が僅か20kmほど先に暮らしの場所を替えただけなのに。それも昼間私の通う会社のすぐ近くだと言うのに。
今度帰ってくるのはいつだったっけ。
また、一緒に5人で焼肉食べに行きたいな。
うん。決めた。そうしよう。 と早速ケータイでメールを打ったのであった。
ん。親バカ? バカな親?
【旅立ち】 完 2004.10.19
http://plaza.rakuten.co.jp/happyland2004/
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