「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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山さんの刑事部屋
めり栗
宗像(三〇)浪人。元くりの者。
綾乃(一六)くりの者。
与作 江戸の商人。
お鞠 与作の妻。
平戸 江戸の町方同心。
茨丸 盗賊の首魁。
稀音 京の遊女。
仁六郎 猟師。
●猟師小屋・中・夕
吠え猛る雪風が閂を揺らす。
夜を待たずに仄暗い小屋の内。
囲炉裏の心細い火に浮かび上がる人々。
商人・与作と身重の妻・お鞠。
同心・平戸と護送中の盗賊・茨丸。
遊女・稀音と小屋の主・仁六郎。
突然、風とは別のものが扉を叩く。
一斉に向けられる不安と不審の眼。
扉の向うから呼ばわる宗像の声。
宗像「中のお方、お開け下され」
必死の叫びと扉への連打。
与作の目配せに首を横に振る平戸。
宗像の懇願に加わる綾乃の声。
綾乃「怪しい者ではございません。峠越えの
さなか、吹雪に巻かれたのです。後生です
からお助け下さいませ」
宗像「このまま戸口で凍りつかれたら目覚め
も悪かろう。きっと化けて出るぞ。雪入道
やら雪女郎やらに・・・」
婀娜っぽく笑う稀音。
稀音「フフ、えろう横柄な迷子はんやなあ。
お役人さま、開けてやったらどないどす」
平戸「ならん。こやつを取り返しに来た手下
とも限らんからな」
柱に縛りつけられた茨丸を顧みて。
茨丸「旦那、その心配は御無用だぜ。親分が
目の前でふん縛られてるってえのに手出し
もしねえで蜘蛛の子散らした不忠者どもだ。
こんな雪山まで尻を冷やしに来るものか。
芝居の種にもなりゃしねえや」
不自由な姿勢で精一杯の威勢。
仁六郎「・・・入れてやんなせえ。人の数が
多い方がよう温まるで」
隅で黙々と鉄砲の掃除をしながら。
稀音「ここの主の許しが出ましたえ」
稀音、平戸に向けてしなを作る。
黒焼きを飲んだような面の平戸。
鍔に指を掛けながら片手で閂を外す。
扉の隙間から転がり込む二つの雪玉。
蓑一面に雪を纏った宗像と綾乃。
●同・承前
薪の山に凭れかかる宗像と綾乃。
二人で一枚の蓆を分け合って暖を取る。
宗像「俺とおぬしはとことん悪天とぼろ小屋
に縁が有るようだ」
綾乃「それと、熊にも」
壁に掛かった熊の毛皮を横目に。
綾乃、蓆の下から自分の手を出す。
べったりと付いた血。
綾乃「貴様、また傷を・・・」
宗像「前ほどではない。避けたつもりが脇腹
を掠っておった」
綾乃「・・・強いのか弱いのかよく分からん
男だ」
宗像「十二羽の雪兎は流石の俺でも手に余る。
おぬしを庇いながらでは尚更」
綾乃「・・・・・・」
宗像「身に沁みたであろう。最早おぬしも狙
われる身だとな」
綾乃「・・・誰のせいだと」
宗像「だからこうして傷を負ってでも守って
おるではないか」
綾乃「守ってくれと頼んだか。己の身くらい
己で何とでも・・・」
綾乃、ぷいとそっぽを向く。
己の身を固く抱きしめて。
綾乃「・・・せぬぞ」
綾乃の顔を覗き込む宗像。
寒の火照りにしては紅すぎる綾乃の頬。
綾乃「せぬからな、ここでは」
宗像「ハハハ、承知した。俺も見られて悦ぶ
趣味は無いからの」
むっつり黙り込む綾乃。
囲炉裏端から稀音の呼び声。
稀音「お侍はん、お連れはんも。そないな隅
で縮こまってんと火に当たらはったらどう
どす。濡れ鼠が二匹震えてるみたいどすえ」
●同・承前
囲炉裏の火にかじりつく面々。
宗像、人懐っこい笑顔を与作に向ける。
与作、お鞠を膝枕したまま会釈。
宗像「随分大きいな。産み月は近いのか」
与作「いえ、あくる月でございます。その前
に夫婦揃って念願のお伊勢参りをと江戸を
出て参りましたが、見通しが甘かったよう
で。雪で街道から外れた挙句に女房がいつ
産気づいてもおかしくない有り様でござい
まして・・・」
お鞠「斯様にはしたない姿をお見せして、お
恥ずかしい限りでございます」
横になったまま弱々しく微笑む。
宗像「なに奥方、楽になさるとよい。人一人
この世に産み落とすは天下の大仕事だ」
綾乃、手をお鞠の腹に伸ばしかけて。
綾乃「あ、ご無礼を」
お鞠「どうぞ、ご遠慮なく。お手を蹴るやも
知れませぬが」
腹に掌を当てた綾乃の表情が緩む。
綾乃「活発なお子」
お鞠「まことに。これでおなごが産まれよう
ものならどうしようかと気掛かりで」
蒼白いお鞠の頬にも僅かに朱が戻る。
二人の様子を茫洋と見つめる稀音。
宗像「そこもとはどちらまで」
稀音「・・・うちどすか。上州どす」
宗像「ほう、上州のいずこ」
稀音「言うても知りやしはりまへん。なあん
にも無いところやさかい」
宗像「さては里帰りだな。明けか請けか」
稀音「ようお分かりで。運のよろしいことに
東国のお大尽にお請けいただきましてなあ。
輿入れの前に一時の帰郷を許してもろたん
どす」
袖を目に当てて感激の仕草。
宗像「錦を飾るにしては随分と質素な旅支度
に見えるが」
稀音「それがどすえ、聞いとくれやす」
一転、憤慨の身振り。
稀音「旦那はんが寄越してくれはった御付の
若衆が中途の宿場で雲隠れしてしもうて。
おまけに路銀やら支度金まで影も形もあら
へん。身一つで放り出されたんどす」
宗像「そりゃ大厄だ」
稀音「道中の御縁におすがりして、どないか
こないかここまでは来たんどすけど。お足
も運もとうとう尽きてしもた・・・」
胸を押さえて芝居がかった嘆き。
宗像「文無しはお互いに辛いな」
稀音「・・・・・・」
そのまま軀を折る稀音。
脂汗を流し苦悶の表情。
宗像「如何した」
稀音「・・・胸が・・・苦しゅうて」
お鞠「お前さん、癪の薬を」
半身を起こして与作を促す。
与作「へ、へえ・・・」
慌てて懐を探る与作。
宗像、稀音を支えながら窺い見る。
取り出された印籠、〇に鶴の紋。
綾乃「おじさん、お借りしますよ」
無言の手振りで承諾する仁六郎。
欠け湯呑に桶の水を汲む綾乃。
与作「飲めるかい」
黒い丸薬を稀音の口元に。
綾乃が湯呑を添えて。
宗像「横山町の鶴屋のお身内かね」
与作「へえ、遠縁で。簪を卸しておりやす」
介抱に気を取られてか野卑な口調。
●同・承前
柱に縛られた茨丸もじもじ。
その前で端然と胡坐をかく平戸。
囲炉裏端では二人の女が横に。
茨丸「ああ腹が減った」
これ見よがしの大音声。
平戸の閉じた眦がぴくり。
姿勢を崩さず茨丸の脛を鞘で打つ。
平戸「神妙にしておれ」
茨丸「ひでえなあ。こちとら昨夜から重湯の
一滴も腹に入れてねえんだ。ねえさん方を
見てみろよ。食うもの食わねえと人間ああ
なっちまうんだ。俺たちもこのままじゃあ
この小屋で餓鬼道堕ちだぜ」
平戸「屁理屈抜かすな。おなごたちは別の病
じゃ。おぬしの舌の病、牛頭馬頭に替って
治してやろうか」
二人の前にいつの間にか宗像。
宗像「奇遇だな。俺も内心ひもじくて難儀を
しておった」
開眼して宗像を睨む平戸。
平戸「この男に構うな」
宗像「幾ら科人であっても、一役人の独断で
干乾しにしてよいという道理も無かろう。
幸い、懐にこんなものが紛れておった」
小さな布袋を取り出して。
宗像「干飯だ。皆で分けよう」
茨丸「そんなちっぽけな包みで行き渡るもの
かね」
宗像「懸念無用、粥にすれば増えるわ。だが
米だけというのも虚しいの。おやじ、この
小屋に獲物の肉を貯えておらんか」
鉄砲を磨き続ける仁六郎、首を横に。
宗像「山菜は。無ければ塩か味噌でも」
仁六郎「・・・ここは飯屋じゃねえ」
宗像「・・・背に腹は代えられん。味気ない
のは辛抱してくれ。道具、勝手に使うぞ」
承諾を待たずに古鍋を掘り出す。
宗像「鍋は有るのに入れるものが無いとは」
ぶつぶつ言いながら調理の準備。
●同・夜
囲炉裏を囲んで碗の粥を啜る面々。
女性陣も起き直ってご相伴に。
縛られたままの茨丸には宗像が匙を。
茨丸「あちち、もうちぃと冷ましておくんな」
宗像「注文の多い悪党め。名を聞いておこう」
ふうふうと甲斐甲斐しく吹きながら。
茨丸「東海道に名を馳せた、霞の茨丸たぁ俺
のことよ。あちち・・・」
宗像「おう、耳に挟んだことが有るぞ。江戸
市中に飽き足らず街道沿いを存分に荒らし
回った盗賊だな。身を霞に変えて茨の藪も
無傷ですり抜けるという。能うならばその
仙術、御伝授願いたいものだ」
茨丸「博学なお侍だぜ。剣の腕ばかり磨いて
おつむを何処ぞに忘れて来たような奴とは
一味違う」
粥の碗に手を付けず瞑目する平戸。
平戸「そやつの口八丁には耳を貸さんことだ。
それよりもおぬし・・・」
振り返り、屹っと宗像を睨む。
平戸「国抜けの不貞浪士ではあるまいな」
宗像、匙を手に唖然のち失笑。
宗像「フフフ、左様な大義を抱いておるよう
に見えるか。俺もまだまだ捨てたものでは
ないな」
平戸「お上に盾つく忘恩を大義と申すか」
宗像「まあそう噛みつかれるな。俺もおぬし
もお上の脛を齧らねば生きてゆけぬご同類
であろう」
平戸「愚弄も大概に・・・」
鯉口に手が伸びる。
宗像「これは口が過ぎた。いやなに、とある
御屋敷からお声がかかってな。仕官の口に
ありつこうと兄妹でみやこを目指しておる
ところ。不貞は心外だが、召し抱えられる
までは浪士に相違ない。失敬失敬」
匙を掲げて恭順の姿勢。
平戸、囲炉裏端の綾乃を一瞥。
平戸「妹か、似ておらんな」
その時、表からドサリと重い音。
一斉に怯えた視線を向ける人々。
綾乃は警戒の色。
宗像、平戸、仁六郎は平然。
仁六郎「・・・ただの雪しずれじゃ」
●同・承前
囲炉裏を囲んで眠る人々。
茨丸は柱を背に立ち寝。
平戸は変わらず胡坐で瞑目。
宗像、綾乃と並んで薪に凭れる。
蓆を胸まで引き上げて。
猛烈な風にミシリミシリと軋む小屋。
それに混じって微かな異音。
宗像「・・・おぬしにも聞こえるだろう」
綾乃「・・・囲みか」
宗像「それだけではないな。何か埒外のこと
が起きておるぞ」
微風のような秘密の会話。
囲炉裏の火の揺らめき。
眠るお鞠の蓆を掛け直す仁六郎。
宗像と視線が合う。
宗像「どうした、おやじ」
仁六郎「息が荒え。産まれそうじゃ」
宗像「そうか、弱ったな・・・」
綾乃「私が」
立ち上がる綾乃。
宗像「お産に立ち会うたことがあるのか」
綾乃「有るわけないだろう。私が里で最後に
産まれた子どもだ」
宗像「・・・そうであったな」
綾乃「とりあえず湯を沸かす。亭主どのにも
手伝ってもらう」
仁六郎、入れ違いに宗像の傍に。
仁六郎「お前さんも具合が悪そうじゃ」
宗像「近ごろ寝不足気味でな。ここで一眠り
させてもらおうと思うたが、どうもいかん」
居心地悪そうに蓆をずらす。
仁六郎「山暮らしに馴れりゃ絹の布団と変わ
らんがの」
宗像「いや、吹雪避けには感謝しておるが、
この小屋の臭いが鼻について仕方ないのだ。
妙に血腥い」
仁六郎の無表情が揺れる。
仁六郎「・・・猟師小屋じゃでな」
宗像「それを差っ引いてもよ。どうも後ろの
薪山から・・・」
閃く仁六郎の腕。
同時に、両者の間に跳ね上がる蓆。
真っ二つに切れて落ちると。
唐竹割りになった仁六郎が斃れる。
その右腕に着脱式の熊爪手甲。
錆刀を鞘に戻す宗像。
切れた蓆を素早く仁六郎に被せる。
宗像「鉄砲の扱いを学んでおくべきだったな」
●同・承前
目覚めた面々が囲炉裏端で右往左往。
鍋一杯の水を火にかける綾乃。
綾乃「子を取り上げたことのある方は」
稀音「廓で幾度か見たことが・・・そやけど
見ただけどすし・・・」
綾乃「ご亭主、落ち着いて」
あたふたする与作を一喝。
茨丸「縄を解いてくれたら助けてやるぜ」
柱からの大音声に一同注目。
慌てて茨丸の口を押さえる平戸。
平戸「馬鹿なことを。逃げるつもりか」
茨丸「旦那、後生だ。黙って見過ごせねえ」
平戸の肩に手を置く宗像。
宗像「こやつの話を聞こう」
平戸「手を除けよ。叩っ斬るぞ」
茨丸、平戸の掌の隙間から。
茨丸「謀る気はねえ。俺ならその女を救える
んだ。人のお産にゃ無縁だが、馬なら何頭
も取り上げてきた。乳を飲む生き物ならば
産む仕組みも同じだろう。頼むから解いて
おくんなせえ」
平戸「うぬ・・・血迷うたか」
宗像「血迷うとるのはおぬしだ」
平戸を突き飛ばす宗像。
宗像「その節穴をかっぴらいてよく見てみろ。
ここからどうやって逃げられる」
ズカズカと戸口に歩を進め閂を抜く。
平戸「や、やめい。逃げ道を作るな・・・」
宗像を止めんと駆け寄るも遅し。
大きく開いた戸口の外は星空。
●同・外・夜
吹雪が治まってしんと静まった夜。
すっかり白い衣に覆われた斜面。
その縁に引っかかったような猟師小屋。
開いた戸口の足下は遥かな断崖。
●同・中・夜
そっと扉と閂を戻す宗像。
宗像「ご覧の通り。この小屋は中におる者に
勘づかれぬ程の速さで坂を下っておった。
無論、天地の業ではない。痴れ者の罠だ」
言葉も無い一同を見回す。
宗像「この先、足の運びは慎重にな」
●同・承前
囲炉裏周りで粛々と支度する人々。
沸いた湯を盥に空ける綾乃。
ありったけの布を集める稀音。
荒縄と帯で梁に産綱を掛ける茨丸。
お鞠の手を握り励まし続ける与作。
宗像「綾乃、来い」
産場から離れて傍に寄る綾乃。
宗像「押し入って来た連中はおぬしに任せる。
決して産場に近づかせるな」
唇を引き結び頷く綾乃。
宗像「お役人」
蚊帳の外で苛立たしげな平戸。
呼びつけられて傲然と詰め寄る。
平戸「おぬしの指図は受けぬぞ」
宗像「ならば頼みと思うて聞いてくだされ」
平戸の両肩を握りしめて。
宗像「妹には一通りの武芸を仕込んである。
数で勝る敵にも数刻は持ち堪えるだろう。
だが所詮は小娘、青く危なっかしい」
鉄槍を組み立てる綾乃をちらり見て。
宗像「どうか俺が戻るまでの間、貴公の剣で
助けてやってくれぬか」
視線を切り結んだ後、目を伏せる平戸。
平戸「科人を無事届けるためであれば」
綾乃「貴様はどうするのだ」
組み上がった槍を手に佇む綾乃。
二人の協定は聞こえていない。
宗像、天井の梁を見上げて。
宗像「少し外の風に当たってくる」
●同・屋根・夜
茅葺に積もった雪に内側から穴。
屋根の上に飛び上がる宗像。
雲の切れ間に輝く明星を仰ぎ見て。
宗像「吹雪の最中におぬしが見えたばかりに
このざまよ」
断崖を背にして前方の斜面を窺う。
一見、足跡一つない無垢の野。
宗像「ひい、ふう、みい・・・両手に余る程
も獲りこぼしておったか」
雪原と同化した敵を見切って。
宗像「雪兎狩りの続きと参ろう」
宗像が飛び降りると同時に。
白装束の忍びどもが跳躍。
空中で交錯する両者。
錆刀の一薙ぎで雪原に血肉の花が咲く。
●同・中・夜
お鞠、産綱にすがりつき苦悶。
与作、妻の汗を拭いながらオロオロ。
汚れた布をこまめに取り換える稀音。
足下に屈んで産道を確認する茨丸。
茨丸「ご新造さん、踏ん張りなよ。もう頭が
見えておるぞ」
産場を背に得物を構える綾乃。
その隣で鯉口を切る平戸。
綾乃「居合でございますね。腕前は」
平戸「・・・そこそこだ」
綾乃「くれぐれもご無理はなさらぬよう」
天井から音もなく降り立つ白装束たち。
ひりつくような冷気と殺気が満ちる。
初めて笑みを漏らす平戸。
平戸「承知いたした」
●同・外・夜
雪を蹴立てて駆ける宗像。
その足首に虎挟みが噛みつく。
すかさず左右から襲い掛かる投斧。
宗像の姿が雪煙の中に消える。
二挺の斧、白い幕を通り抜けて。
それぞれ味方の脳天に食い込む。
崩れ落ちる二人の斧使い。
後方の追っ手、つんのめって急停止。
晴れた煙幕の向うに人の姿は無く。
戸惑う追っ手の足下で乱れる雪。
下方から生えた刃が胸を貫く。
血雨を浴びて起き上がる宗像。
総身から雪を零しながら更に突き上げ。
●同・中・夜
前景のお産と後景の殺陣。
いずれも血と汗に塗れ、命懸け。
産場に響くお鞠の呻きと人々の鼓舞。
戦場に響くは鉄と肉の交わる音。
茨丸「あと一息だ、いきむんだよ」
両手を血と羊水で濡らした茨丸。
その背後にまで戦闘が迫る。
敵の軀から槍を抜くのに手間取る綾乃。
他方から振り下ろされる刀。
辛うじて抜けた槍で受け止める。
力任せに押し込まれ姿勢を崩して。
続く二の太刀が中途で凍りつく。
胴斬りにされずり落ちる忍びの上半身。
棒立ちの下半身の向う。
納刀する平戸の不敵な笑み。
膝をついたまま笑みを返す綾乃。
立ち上がりざま平戸へクナイを放つ。
抜刀するより先に顔の横を通過。
平戸の背後でよろめく新手の忍び。
眉間に突き立ち震えるクナイ。
脇差で止めを刺し、向き直る平戸。
二人の間に交わされる達人の眼差し。
●同・外・夜明け
斜面の向うの空が白々と明らむ。
小鳥の囀りを破って響く産声。
宗像、晴々とした顔で小屋を顧みる。
死角より忍び寄る瀕死の敵。
血振りした刃が運悪く直撃。
地に崩れる最後の敵。
宗像「俺が戻るまでもなかったか」
朱に彩られた銀世界に立ち尽くす宗像。
●同・中・夜明け
煤けた天井を背景に人々の顔。
赤ん坊を覗き込むそれぞれの表情。
お鞠の母性、与作の安堵。
稀音の慈愛、茨丸の達成感。
●同・外・朝
雲の多い冬空に鈍く滲む朝陽。
清純な雪溜りに屈み込む宗像。
両手一杯に雪を掬って顔を擦る。
返り血で桃色に染まる雪。
一帯には無数の雪塚。
宗像、さっぱりした顔で立ち上がる。
崖っぷちの小屋を眺めやった刹那。
小雪崩と共に崖下へ崩れ落ちる小屋。
稀音「危のうおしたな。はよ行きまひょ」
斜面を上りかけている稀音。
その腕に大切に抱かれた赤ん坊。
綾乃を先頭に雪原を歩む人々。
安全を確認しながら先導する綾乃。
お鞠をおぶって雪を踏みしめる与作。
再び縛られた茨丸を連行する平戸。
赤ん坊をあやしつつ宗像を待つ稀音。
まるで聖者の行進。
●旅籠・二階客間・午後
湯上りの浴衣に半纏を羽織った綾乃。
火鉢を抱いて蜜柑片手に窓際に横座る。
窓から見下ろす街路。
唐丸籠の周りで出立準備の人馬。
その中に平戸の姿。
平戸、二階からの綾乃の視線に気づく。
笠にそっと手をやって挨拶。
微笑んで会釈を返す綾乃。
旅支度を整えた稀音が通りかかる。
街路の誰かに向けられた笑顔。
深く頭を下げて街道の先へ消える。
階段を上る音。
客間の襖が開いて宗像入室。
むさくるしい服装で大の字に寝転がる。
非難の視線を向ける綾乃。
綾乃「どこへ消えておった」
宗像「なに、ちぃと物見遊山にな」
宗像、新品の簪を矯めつ眇めつ。
綾乃「あの女郎と連れ立って」
宗像「見ておったか。ならば無駄な言い逃れ
はよそう」
綾乃「忘れ形見まで交わして」
宗像「ああこれか。与作殿から買うたのだ」
綾乃「・・・貴様をどこまで信じてよいのか
私には分からぬ。いつも噓ばかりだからな」
宗像「可笑しなことを申す」
綾乃「何がだ。私は真剣だぞ」
宗像「左程に嘘に鋭いのなら、あの嘘まみれ
の小屋で何も気付かなかった筈はあるまい」
綾乃「・・・誰が嘘を」
宗像「誰も彼もだ。例えば与作殿とお鞠殿、
あれをまことの夫婦と思うか」
綾乃「違うのか」
宗像「どう贔屓目に見ても板に付いておらぬ。
奥方に対する与作殿のあしらいは見るから
に使用人のそれだぞ」
綾乃「・・・・・・」
宗像「江戸表で近頃しきりに囁かれておる噂
によれば、とある大店の御息女が出入りの
錺職人と出奔したという。むすめは誰の種
とも知らぬ子を胎に宿して、奥座敷に閉じ
こめられておったそうな」
綾乃「・・・・・・」
宗像「おぬしが気にしておる女郎もだ。あれ
だけ心の臓を病んでは最早客も取れまい。
大方、行燈部屋から逃げ出したのであろう。
『請け』でも『明け』でもなく、『抜け』
というわけだ」
綾乃「・・・流石に平戸様までは」
宗像「あのお役人が唯一人の正直者さ。だが、
盗賊は真っ赤な偽物だぞ」
綾乃「ええっ」
宗像「考えてもみろ。茨の藪さえ物ともせん
仙術の使い手が、他人に縄を解くよう懇願
するものか。恐らくあやつは下廻りの厩番
がいいところ」
綾乃「馬鹿な。待っておるのは死罪だぞ。何
を好きこのんで・・・」
宗像「金か、それとも義理か。此方には計り
知れぬ深い条理が有るのであろう」
綾乃、畳に身を横たえて嘆息。
綾乃「ああ・・・頭がくらくらする」
宗像「おぬし、己で思うほど擦れてはおらん
のよ。それにしても・・・」
宗像、起き上がって立て膝。
宗像「平戸殿も薄々勘づいておるのではない
かな。果たして道中で誤りを正すか、はた
また・・・」
綾乃、横目で宗像をじろじろ観察。
綾乃「貴様、傷はどうした」
宗像「うむ・・・治っておるようだな」
わざとらしく五体を確認。
綾乃「やはり女郎と・・・」
宗像「・・・あやつの路銀のため」
綾乃「よくもぬけぬけと」
宗像「それに、心の臓も故郷に着くまでは耐
えられることだろう」
ガバリと起き直る綾乃。
綾乃「貴様どこまで・・・」
宗像「おっと、野暮を申すなよ。簪が宿代に
化けたのと同じこと。誰も損はしておらぬ」
綾乃の表情が複雑に揺らめく。
綾乃「貴様はやはり嘘つきだ」
宗像「憂き世に生きる者は総じて嘘つきさ。
ただ、他人を踏みにじらぬ嘘は許されても
よかろう。あの赤子に免じて、一年に一日
くらいは寛大になる日があってもよいでは
ないか」
立ち上がる宗像、綾乃の傍へ。
綾乃の髪に簪を差してやる。
宗像「これで機嫌を直せ」
綾乃「待て、何処へ行く」
部屋を出かかる宗像の背に向けて。
宗像「ひとっ風呂浴びてくるのさ」
綾乃「・・・今宵は」
宗像「あの親子と同宿のあいだは、あくまで
兄妹だぞ。次の宿まで我慢しろ」
綾乃「こ、このばかたれ」
蜜柑を宗像に投げつける綾乃。
間一髪、閉じた襖で撥ね返る。
綾乃、むくれ顔で窓際に寄りかかる。
外を眺めるうち次第に溶けてゆく表情。
乙女らしい微笑みがゆっくり広がる。
灰色の空から、優しい雪がちらちら。
了
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【ショートムービー】THE LITTEL STAR
(2026-05-06 21:00:05)
DVD映画鑑賞
邦画002
(2026-05-07 07:35:58)
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