「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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山さんの刑事部屋
黄桃問答
黄瀬 宗像(一七)高校生。
桃枝 綾乃(一七)高校生。
黄瀬 隼人(二一)大学生。
桃枝 風花(二〇)大学生。
●遊園地・ステージ下(奈落)
重苦しい闇にとざされた狭苦しい空間。
何処からか漏れ聞こえる悲鳴と破壊音。
頭上の迫の隙間から微かな光。
濛々たる粉塵を白く浮き上がらせる。
朧げに見えてくる内部機構の輪郭。
その狭間に蹲る人間のシルエット。
綾乃「・・・生きてる?」
宗像「今はね。君がどいてくれなきゃいずれ
死ぬかもだけど」
綾乃「あっ」
シルエット、慌てて立ち上がる。
足下に仰向けのシルエットがもう一人。
大儀そうに起き上がる二人目。
宗像「くそっ、腹にパイルバンカー食らった
かと思った・・・」
綾乃「しょうがないでしょ。急だったし」
宗像「・・・瘦せっぽちのくせして攻撃力が
ヘヴィー級なんだよ」
綾乃「ああん?」
小柄な影の脚が滑らかに始動。
綾乃「アンタに体型のこと言われたくない」
宗像「ぬっ!」
鮮やかな軌道を描く回し蹴り。
尻を蹴られて飛び上がる大柄な影。
思わず小柄な影に手を伸ばしかける。
綾乃「なに、やる気?」
ファイティングポーズを取る小柄な影。
宗像「おっと、相手を間違えんな。今は外の
問題が先決だろ」
慌てて示される反撃意思の不在。
それを見て解かれる戦闘態勢。
その間も伝わりくる騒乱の気配。
綾乃「・・・赤穂さん達、大丈夫かな」
上方を気にかける様子の綾乃。
宗像「あの人が咄嗟に逃してくれなかったら
僕らもどうなってたか。でも、ここだって
いつまでも安全ってわけじゃない」
綾乃「こんな時、隼人さんだったら・・・」
嘆きが苛立ちへとギアチェンジ。
綾乃「何で、よりにもよってアンタなのよ」
宗像「兄貴が脚折って入院してんの知ってる
だろ。文句ならこっちにだって。せっかく
風花さんに会えると思って代役引き受けた
のに。僕のトキメキを返してくれよ」
綾乃「好き好んでこんな恰好してるとでも?
姉さんが食中毒で動けないから代わったの。
アンタの勝手な期待なんか知ったこっちゃ
ないわ」
宗像「好き好んでじゃなくて良かった」
綾乃「は?」
宗像「だって似合わな過ぎだし。嬉々として
着てたなら痛々しいどころじゃないぞ」
綾乃「・・・言ったな」
綾乃の低音に無意識で後退る宗像。
宗像「普通に事実だろ。スタイルの差で生地
余りまくりじゃん」
綾乃「・・・アンタはどうなのよ」
宗像「残念ながらジャストフィットでした。
兄貴に負けないよう日々鍛えてるんだよ」
綾乃「はあ?」
一歩進み出て宗像の腹部を指で突く。
綾乃「このポヨポヨは何。ぱっと見の図体は
似てても成分が段違いだから。隼人さんが
シックスパックならアンタは脂身パックね」
宗像「なっ・・・」
綾乃「そもそも、強豪大のナンバーエイトに
帰宅部が張り合おうってのが愚かなのよ」
宗像「内面まで風花さんとは真逆なんだな、
君は」
綾乃「また姉さんを持ち出す・・・」
宗像「だってそうじゃないか。君に風花さん
の母性の一欠片でも有るって言うの?」
綾乃「キモ。母性母性ってマザコンかよ」
宗像「君こそ、隼人さん隼人さんって脳味噌
ピンクだな」
綾乃「うるさい。アンタなんか皮肉言うしか
能がないくせして誰かに告ったこともない
チキンでイエローな・・・」
宗像の腹をポコポコ殴りながら。
その時、諍いを裂く男児の泣き声。
揃って見上げる二人のシルエット。
綾乃「・・・ここを出なきゃ」
宗像「・・・明かりが欲しいな」
綾乃「どこかに非常用電源が・・・」
頭上の白熱電球が唐突に灯る。
入り組んだ舞台装置の只中に二人。
宗像はイエロー、綾乃はピンク。
首から下は安い生地のヒーロースーツ。
足元に転がった二つのヘルメット。
お互いの素顔を見つめ合って。
宗像「・・・やっぱり似合ってない」
綾乃「・・・そっちこそ」
一瞬和らいだ表情、再び締まって。
二人、無言で行動を始める。
箱馬を足場にして頭上の迫を探る綾乃。
壁際の扉をこじ開けようとする宗像。
宗像「僕はマシな方だろ。て言うかイエロー
って僕みたいなムッチリ癒しキャラ枠じゃ
なかったっけ」
綾乃「アンタに癒されたことなんかないわ、
このムッツリいやらし系。それにイメージ
古い。昭和のイエロー像だよ、それ」
宗像「そうなの?」
綾乃「今は癖つよ系イケメンか活発な女の子
がメインストリームね。これだからアップ
デートできないオタクってイヤだ」
脱出手段を探る手は止めず続く問答。
宗像「特オタってわけじゃないし。どっちか
といえば二次元専門なんだよ。てか、君は
妙に詳しいんだな」
綾乃「うっ・・・べ、別に。こんなの教養の
範囲内でしょ」
宗像「そうかなあ。じゃあ、カレーが好物と
いうのも?」
綾乃「初代に引っ張られすぎ。今そんな属性
付与したらパロディにすらならないって。
・・・さっきから何やってるの」
宗像、バールのような物を扉の隙間に。
宗像「何って。ここから楽屋に戻るんだよ」
綾乃「戻ってどうするつもり?」
宗像「警察を呼ぶに決まってるだろ。君こそ
一体何を・・・」
問いかけを無視して詰め寄る綾乃。
綾乃「それ貸して」
綾乃、バールのような物を引っ張る。
宗像「いやいや、もう少しで開きそうだから」
綾乃「そんな悠長なこと。それよりも迫から
ステージに戻った方が早いでしょ」
宗像「ステージに? 冗談だろ」
綾乃「さっきの泣き声、アンタも聞いたよね。
きっと最前列にいた男の子だよ、青い風船
持ってた。一人だけ逃げ遅れて・・・警察
なんて待ってられない。早く保護しなきゃ」
宗像「ハア? 頭レッドかよ。外にいるのは
着ぐるみじゃないんだぞ。僕らなんかじゃ
雑魚戦闘員にだって秒殺だ。ここは警察が
来るまでおとなしく・・・」
綾乃「隠れていたいならそうしたら? 私は
ゴメンだわ。これ以上あの悲鳴を聞き流す
ことなんてできない!」
綱引き状態のバールのような物。
綾乃「警察なら倒せると思ってるの」
宗像「警察がダメなら自衛隊でも米軍でも何
だっていいよ。でも、僕らはお門違いだ」
綾乃「いいから貸して!」
バール(略)が宗像の手から抜ける。
勢いよく後方にすっ転ぶ宗像。
一瞬心配そうな表情になる綾乃。
すぐに思い直して箱馬に登る。
起き上がった宗像の目に映る綾乃。
玩具の武器を掲げたガキ大将のよう。
綾乃、バール(略)を迫の隙間に。
宗像「・・・アヤノ」
綾乃「まだ何か?」
振り向きもせず道具を梃子のように。
綾乃を見上げている宗像。
宗像「いつだって君はそうなんだ。僕の忠告
なんて聞こうともしないで。周りも見ずに
突っ走っていつも膝を擦りむいてたな」
綾乃「昔話なんてしてる場合じゃ・・・」
宗像「そうやって公園のコンクリ山の頂上で
威張り散らして。下で心配してる僕なんか
まるで目に入らないみたいに。君が無謀な
ジャンプをするたびに心臓が止まりそうに
なってたの知らないだろ」
淡々と語る宗像に手を止める綾乃。
綾乃「・・・今さら何よ。変なとこ打ったん
じゃない?」
宗像「ピンクってさ、もっとお淑やかで繊細
なキャラじゃないのか」
綾乃「またそんな時代錯誤・・・」
宗像「君みたいなハチャメチャピンク、どこ
の世界にいるんだよ!」
宗像を見下ろす綾乃の瞳が燃える。
綾乃「ここに、アンタの目の前にいるわ!」
見得を切るような綾乃の姿。
その時、背後の迫に異変。
隙間から激しい白熱光が射し込む。
宗像「やばい! 跳べ!」
綾乃が宗像に向かって跳んだ瞬間。
閃光と轟音が空間を満たす。
●同・承前
次第に収まる土煙。
迫の有った場所に大きく開いた穴。
午後の陽光が再び停電した奈落に注ぐ。
綾乃「・・・ごめん、シューゾー」
仰向けで綾乃を受け止めた宗像。
宗像の腹の上に跨る形の綾乃。
宗像「へへ、脂身も捨てたもんじゃないだろ」
綾乃「え?」
宗像「二度もクッションになった」
綾乃「・・・バカ」
宗像の上から降りて振り向く綾乃。
瓦礫に圧し潰された箱馬。
自分の二の腕を抱いて微かに震える。
綾乃「・・・サンキュ」
今にも消え入りそうな声で。
宗像「っ痛・・・」
尻をさすりながら身を起こす宗像。
綾乃、慌てて手を差し伸べる。
綾乃「立てる? どこか折れてない?」
宗像「奇跡的にノーダメ。壊れにくさだけは
兄貴に勝ったみたい」
一瞬躊躇った後、手を借りて立つ。
宗像の手首の変身ブレスが綾乃の目に。
自分の手首のブレスに視線を映す。
宗像「おー、お誂え向き」
宗像の言葉に我に返る綾乃。
綾乃「何が?」
宗像「こじ開ける必要無くなったじゃん」
天井の大穴を指し示して。
綾乃「じゃあ・・・」
宗像「止めても行くんだろ?」
綾乃、暫く迷った末に頷く。
宗像「怖くなったなら正直に言いなよ」
黙ってバール(略)を拾う綾乃。
宗像「なるほど。了解」
綾乃「私たち、ヒーローのニセモノのさらに
ピンチヒッターだけどさ・・・」
顔を上げると不敵な笑顔。
綾乃「肝腎なのは燃える心じゃない?」
バール(略)を胸に抱きしめて。
宗像「それレッドの台詞・・・って、これも
ステレオタイプか。まあ何だっていいや。
腐ってても縁は縁だし、お供しますよ」
瓦礫の中から鋼材を拾い上げる。
綾乃、もう一度ブレスに目を落として。
綾乃「ねえシューゾー。一つ引っかかってる
ことが有るんだけど・・・」
宗像、鋼材の試し振りを止める。
宗像「フラグ建設は勘弁な」
綾乃「そんなんじゃないってば。アンタ何か
聞いてない? この仕事のことで隼人さん
から」
宗像「バク宙とか出来ないよって言ったら、
演出を変えてごまかしてくれるから大丈夫
って」
綾乃「そうじゃないの。注意点とか絶対守る
べき約束とか・・・」
宗像「ああ、そういう。んーと、絶対無茶を
するなよとか、万が一の時は先輩に任せて
避難しろとか。ただのバイトなのに大袈裟
だなぁとは思ったけど」
綾乃、自分のブレスを突きつける。
綾乃「コレのこと!」
宗像「あ・・・。何があってもブレスだけは
いじくるなって、怖い顔で・・・」
綾乃「私も姉さんから言われた」
それぞれのブレスを改めて見つめる。
綾乃「スーツはペラペラなのにさ、これだけ
変に凝った造りじゃない? ずっしり重い
しさ」
宗像「そう言われたら気になってきた。ここ
とか回したら動くんじゃない?」
ブレスの機構に指をかけて綾乃を見る。
綾乃も同じ姿勢で宗像を見ている。
綾乃「わかる? 私が何を考えてるか」
宗像「すっごい馬鹿馬鹿しいこと。たぶん僕
が考えてるのと同じこと」
綾乃「試してみても害はないよね」
宗像「見て笑う奴もいないしな」
その時、救いを求める女性の声が。
二人、見つめ合ったまま指先を動かす。
奈落に走るプリズムの虹光。
●市民病院・病室・午後
ベッドで右足を吊られている隼人。
逃れ出ようとして複数の看護師に制止。
ベッドサイドに点けっぱなしのテレビ。
映し出された遊園地の惨状。
破壊された回転木馬や観覧車。
あちこちに横たわる犠牲者たち。
泣き叫ぶ子供を運ぶ異形の戦闘員たち。
隠し撮りのカメラに訴えるレポーター。
レポーター「これが現実の光景でしょうか。
ご覧ください、平和だった日曜日の遊園地
が今はまるで戦場です」
急に激しくぶれるカメラ。
金属製の獣人がカメラに迫ってくる。
錯乱してマイクを向けるレポーター。
次の瞬間、獣人の動きが止まる。
その腹部を背後から貫いた光の矢。
振り向いた獣人の向うにコースター。
レールの上に凛と立つピンクの姿。
●同・デイルーム・午後
壁掛けテレビに群がる入院患者たち。
その中に、点滴スタンドに縋る風花。
蒼白な頬で画面に食い入るように。
今にも膝から崩れそうになりながら。
映し出される遊園地の戦い。
獣人にゆっくりと歩み寄る綾乃。
全身メタリックピンクのスーツ。
ヘルメットから覗く眸が凛々しい。
少し離れた場所では宗像が獅子奮迅。
子供たちを庇いながら大槌を振う。
バッタバッタと倒れる戦闘員たち。
陽光に煌めくメタリックイエロー。
カメラ、再びもう一方の戦場へ。
綾乃、落ちていた鉄棒を拾う。
獣人、巨大な爪を閃かせて突進。
綾乃の持つ棒が光のブレードに変性。
逆袈裟に斬り上げた刃が火花を散らす。
獣人、仁王立ちのまま両断大爆発!
爆炎に覆い隠される綾乃の姿。
●同・病室・午後
看護師たちに押さえ込まれた隼人。
それでもテレビからは目を離さずに。
隼人「シュウ・・・」
●同・デイルーム・午後
看護師に支えられ辛うじて立つ風花。
それでもテレビからは目を離さずに。
風花「綾乃ちゃん・・・」
画面の中の炎煙が晴れて。
黄桃赤青緑の五色の戦士、威風堂々。
了
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