「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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山さんの刑事部屋
ジャンバラヤ、ランドサット
棗 翔太(一一)男性。小学生。
棗 敬(四二)男性。翔太の父親。
メアリー(二六)女性。メイド喫茶店員。
●イタリアンファミレス・午前
混雑の兆しを見せる昼前の店内。
片隅の二人席に向かい合う父子。
父・棗敬、息子・棗翔太。
お互いメニューに顔は隠れて。
敬「決まった?」
翔太「・・・ドリアで」
メニューの陰から顔を出す敬。
着崩れたスーツにくたびれ顔。
敬「だけ? 足らんやろ」
翔太、顔を見せずに考え込む。
翔太「じゃあ、ペペロンチーノも」
敬「一番安い組み合わせやんか」
翔太「いいの」
メニューを閉じる翔太。
年齢の割に小柄で痩せ型の少年。
リュックから本を出して読み始める。
中高生向けの北欧神話の本。
●同・承前
黙ってフォークを動かす翔太。
チキンステーキにナイフを入れる敬。
テーブルの傍を通り過ぎる店員。
ムール貝とデカンタワインを運んで。
敬、一瞬だけ店員に視線。
翔太「飲みたいんちゃうん?」
敬「飲まへん、今日と明日は」
翔太「ふーん・・・」
敬、息子の分別臭い顔を見て。
敬「勘違いするなよ。別にあの人の目を気に
してるわけちゃうからな」
翔太「いいよ、わざわざそんなこと」
チュルンと吸い込まれるパスタ。
翔太の唇の端に鷹の爪の鮮やかな赤。
敬「・・・付いてる」
敬、自分の唇に触れてジェスチャー。
鷹の爪を器用に舐め取る翔太。
敬「いつの間に食えるようになったん?」
翔太「いちいち覚えてないよ」
敬「そうか。お前もゆくゆくは吞兵衛やな」
敬に向けられた渋い顔。
敬「冗談や」
話題を変えようとスマホを弄る敬。
敬「楽しみやな、明日の試合」
翔太「・・・そやね」
敬「言うても地元ダービーやしな。チケット
取るん大激戦やったわ」
翔太「すごいね」
敬「スタメンどうするんやろ。点取れてへん
からガラっと変えて来るかもな」
翔太「どうやろ」
食いつきの悪い翔太。
スマホを置いて身を乗り出す敬。
敬「で、どうなんソフトは。レギュラー取れ
たんか」
翔太「・・・それなんやけどな」
俯いてフォークを皿の上で空回し。
翔太「・・・後で言うわ」
ニンニクの欠片をフォークで刺す翔太。
●同・承前
綺麗に食べ終えた食器。
翔太、皿を重ねようとする敬を制止。
翔太「逆に運びにくいらしいよ」
敬、気まずそうに皿を戻す。
敬「・・・この後、リクエストは?」
翔太「まさかのノープラン?」
敬「明日は俺プロデュースの日。だから今日
は翔太にお任せや」
おずおずとスマホ地図を見せる翔太。
翔太「じゃあ、ここ行きたいんやけど」
●電気街・午後
混雑したメインストリート。
行き交うオタクに混ざって棗父子。
店並びやキャッチの列を見回す敬。
敬「この辺もすっかり変わったな」
翔太「よく来てたん?」
敬「それほどちゃうけど。昔、自作PC組み
たくてパーツショップ回ったりしててん」
翔太「ふーん」
敬「ま、いざ組んだところでほぼゲーム専門
やったけどな」
珍獣でも見るような翔太。
敬「意外か?」
翔太「だって、見たことないもん。パソコン
で遊んでるとこ」
敬「俺がゲームするん大嫌いやったからな、
あの人」
ゲーセンの前に差し掛かる二人。
敬「腕前見せよか」
翔太「いいんちゃう。まだ時間あるし」
●ゲームセンター・午後
ガンシューティングコーナーの父子。
夢中で熊や猪を撃ちまくる敬。
他人事のように眺める翔太。
敬「ハア、ハア、しばらくやらん間に操作性
もグラフィックも段違いに進化しとるわ。
けど、どうや。見たやろノーコンクリア」
息を切らして誇らしげに振り向く敬。
そこに翔太の姿は無い。
●同・承前
クレーンゲームの前に翔太。
景品のアニメフィギュアを眺めて。
握りしめた五百円玉。
逡巡の後、スロットに近づける。
敬「こんなとこにおったんか」
声を掛けられて瞬時にポケットへ。
敬「黙って離れたらアカンやん。これ、やり
たいんか?」
翔太「別に。見てただけやし」
伏し目がちに出口に向かう翔太。
翔太「そろそろやわ。約束遅れる」
筐体に視線を残しつつ、後を追う敬。
●メイド喫茶<荒涼館>・外・午後
英国カントリーハウス風の入口。
フェイクウッド扉の前に棗父子。
敬「・・・ここ?」
翔太「立ち止まってたら邪魔やって」
敬の背中を両手で押す翔太。
ガーゴイルのドアベルが鳴る。
●同・店内・午後
店内はヴィクトリア様式の図書室風。
本棚に囲まれたフロアに散在する客。
テーブル席で落ち着きのない敬。
口元を手で隠して翔太に囁く。
敬「前にも来たことあるん?」
翔太「一回だけ」
メニューを手に歩み寄るメアリー。
小柄で童顔のクラシカルメイド。
人形のように端正な無表情。
メアリー「やあ、ジャンバラヤ」
翔太「・・・ちわ、ランドサット」
恥ずかしげに返す翔太。
微かに微笑みを浮かべるメアリー。
敬「あの・・・ランドサット?さん」
メアリー「メアリーです」
敬「へ?」
メアリー「私、メアリーです。あ、ちなみに
パーシーはいませんよ。設定上も現実も」
敬「へ、へー・・・」
メアリー「ちなみにあの子はシャーロット。
あちらで紅茶をサーブしているのはヴァー
ジニア。レジにいるのがエミリー。シャー
ロットの妹ちゃん」
次々と店内を指し示すメアリー。
敬「はあ・・・」
メアリー「店長のジェインが休暇中につき、
本日は私が店長代理を務めさせて頂きます」
優雅にお辞儀するメアリー。
敬「こりゃどうも。で、さっきのは何ですか。
ジャンバラヤとか・・・」
テーブルの下で敬の足を蹴る翔太。
敬「っ痛、なんやねん」
翔太「・・・別に何だっていいやん」
翔太、蚊の鳴くような声。
メアリー、その様子を一瞥して。
メアリー「私たち二人だけの合言葉です」
敬「合言葉・・・山と言ったら川、的な?」
メアリー「稲妻と雷鳴、みたいな」
敬「???」
翔太、メアリーに目配せ。
メアリー「とにかく、詳細は内緒です」
メニューを広げて差し出すメアリー。
メアリー「ご注文をお伺いします」
●同・承前
店内に流れる『水上の音楽』。
手持ちぶさたげな棗父子。
翔太「・・・ソフトの事やけど」
敬「おう」
翔太「やめてん、こないだ」
敬「・・・初耳やな」
翔太「塾と両立できひんからって」
敬「・・・そうか」
翔太「最後の試合、途中から出してもらった」
敬「どうやった?」
翔太「フライ一個取ったよ。打つ方はあかん
かったけど。惜しいファールはあった」
敬「うん」
翔太「出塁はした、フォアボールで。広大君
がでかいの打って、一気にホーム突入した。
クロスプレーになったけど、相手がボール
こぼしてて」
少し紅潮した翔太の頬。
敬「やったやん」
翔太「ボロ負けしてたから、意味ない一点」
敬「そんなことないやろ」
翔太「でも、みんな言ってたよ。何であんな
悠々アウトのタイミングで突っ込むねん、
たまたまセーフになっただけや、って」
敬「突っ込んだから、たまたまが起こったん
ちゃうんか。人生ってそういうもんやろ」
敬をマジマジと見る翔太。
敬「ちょっと物言いたげな表情やめて」
翔太「ふふ」
にやつく翔太、咳払いする敬。
敬「・・・で、翔太さ、いま塾がんばってて
偉いと思うわ。たぶん中学は余裕で受かる
やろ。それから高校大学と順調に行ったと
してな、その先のことは考えてるんか」
翔太から笑顔が消える。
翔太「急に、なに?」
敬「そう急でもないやろ。そろそろ聞いても
いい年やなーって思って」
翔太「・・・お母さんに言われた?」
敬「そんなんちゃう。俺かって一応親やで。
そういう話題出すん、言うほど変か?」
翔太「・・・似合えへん」
敬「は?」
翔太「そんなキャラちゃうやん」
敬「おま・・」
メアリー「お待たせ致しました」
不穏な空気を断ち切るメアリー。
メアリー「アフタヌーンセットがお二つ。お
飲物はダージリンとココアですね」
ワゴンから手早く食器を並べる。
メアリー「本日のお菓子はファッジです」
敬「あの・・・」
メアリー「はい?」
中腰になってメアリーに顔を寄せる敬。
翔太に背を向けて内緒話のように。
敬「システムとかってどうなってるんですか、
このお店」
メアリー「とおっしゃいますと」
敬「料金体系、オプションとか」
メアリー「ふふん、なるほど」
飲み込み顔のメアリー。
メアリー「当店はごく普通の飲食店ですので、
特殊なサービスは一切ございません」
敬「じゃあ、一緒にチェキ撮ったりとか」
メアリー「ございません。お給仕だけです」
敬「オムライスに絵を・・・」
メアリー「そもそもメニューにございません。
もしあったとしても、お絵描きは接待には
当たりませんので」
メアリー、アルカイックスマイル。
メアリー「どうぞ、ごゆっくり」
ワゴンと共にしずしずと去る。
中腰のまま取り残される敬。
翔太「冷めるで」
ココアを一口、口の周りにクリーム髭。
●同・承前
カップの底に残った紅茶を覗く敬。
翔太、本棚から取ってきた本に夢中。
『アーサー王宮廷のヤンキー』。
敬「なあ、翔太」
翔太「なに?」
敬「約束の相手ってメアリーさんか?」
翔太「そうやけど」
敬「どういう関係?」
翔太「関係て・・・大げさ」
翔太、空返事。
敬「ちょっと、本置き」
敬の口調に顔を上げる翔太。
いつになく苦い表情の敬。
翔太「おなか痛いん?」
敬「正露丸飲んできたから大丈夫、やなくて」
接客中のメアリーの様子を窺う。
敬「前に一回だけって、一人で?」
翔太「まあ、そうやけど」
敬「そのこと、あの人は知ってる?」
翔太「言うわけないし」
敬「どういう経緯でここ入ったん?」
翔太「・・・・・・」
拗ねたような翔太の表情。
敬「親に言われへんことか。しゃあないな」
卓上のハンドベルを鳴らす敬。
近くにいたエミリーが歩み寄る。
背が高くスタイル抜群のメイド。
エミリー「お呼びですか」
敬「ごめん、あの人に用が」
遠くのメアリーを指し示す。
エミリー「メアリーさんですね。少々お待ち
ください」
颯爽と立ち去るエミリー。
後ろ姿をついつい目で追う敬。
翔太「・・・やらし」
敬「お前なあ・・・」
メアリー「どうなさいましたか」
ややこしくなる前にメアリー到着。
敬「そこ座ってください」
隣席の椅子を示す。
メアリー「席に着いてのお話は・・・」
敬「いや、少々確認したいことがね」
翔太「お父さん、やめてよ」
足を蹴ろうとするもガードされる。
メアリー「少しだけでしたら」
素直に腰掛けるメアリー。
敬「こいつのこと、客引きしたんですか」
一瞬、翔太と目を合わせるメアリー。
メアリー「何をおっしゃって・・・」
敬「最初にここに来た時のことです」
メアリー「・・・違います」
敬「じゃあ、どういう流れで?」
メアリー、もう一度翔太に視線。
メアリー「秘密です」
敬「はあ?」
メアリー「友達同士の秘密。軽々しくは申せ
ません」
敬「小学生を友達って・・・それ結構危うい
響きですよ。普通に言ってはるけど普通に
聞き流されへん」
メアリー「弁えてます。こう見えてそこそこ
オトナですから」
精一杯に薄い胸を張るメアリー。
敬、長く深い溜息。
敬「お愛想お願いします」
メアリー「あの、まだ・・・」
珍しく慌てぎみのメアリー。
敬「翔太、行くで。まだこういう店は早いわ。
せめて高校生になってからや」
翔太の手を引いて立たせる。
翔太「痛いって・・・」
敬「釣りは取っといてください」
卓上に二千円札を二枚。
敬「足らんかったら今言ってくださいよ」
メアリー「待って、伝票・・・」
敬「領収書も要りませんから。ごちそうさん
でした」
敬、強引に翔太を伴って出口へ。
翔太、悲しい視線をメアリーに残す。
ポツンと取り残されるメアリー。
ワゴンを押してシャーロットが来る。
ぽっちゃりタイプの癒し系メイド。
シャーロット「ハッピーバースデー♪」
空っぽの席に気づいて。
シャーロット「あら? 少年は?」
ワゴンの上、一人サイズの誕生ケーキ。
●電気街・夕
日が傾いてますます活気づく街。
先々と足を進める敬。
翔太、リュックを引きずりながら続く。
自然と開く二人の距離。
足を止めて振り向く敬。
敬「いつまで拗ねとんねん」
何か口の中で呟く翔太。
街のざわめきや音楽に遮られて。
敬、翔太の元へ歩み寄る。
敬「ズルズルズルズルと、寛平ちゃんか」
リュックを持ち上げて埃を払う敬。
揺れるキャラ物のファスナーホルダー。
翔太「何であんな失礼なこと言うたん?」
敬「何でもクソも、親やからや」
翔太「・・・こんな時だけ、親、親って」
一瞬、翔太の肩に伸びる敬の手。
思い止まったように下ろして。
敬「機嫌よう行こ。一年に一回なんやし」
●シティホテル・フロント・夜
フロントデスクに手を突く敬。
深く頭を下げるフロント係。
敬「無いって、何が?」
フロント係「ですから、ご予約が」
敬「そんなわけ・・・半年も前に予約してん
ねんで。ほら、これ」
スマホの予約画面を突きつける敬。
フロント係「拝見してもよろしいでしょうか」
画面に顔を近づけ、眼鏡をずらす。
フロント係「なるほど、十五日で三名様」
敬「ほらな」
敬、肩をそびやかす。
フロント係「お客様、恐れ入りますがお日付
が来月でございます」
後ろから裾を引っ張る翔太。
●駅前・夜
賑やかな往来がひっきりなしに。
建物の凹に隠れるような父子。
敬、スマホに向かって大声。
敬「はい、はい。そう、二人で。え、ダメ?
はあ、ダメですか・・・」
通話を終えて画面操作に戻る。
敬「この一帯は全滅や。ちょっと離れたとこ
でもいいよな?」
翔太「いいけどさ・・・家に帰るって選択肢
は無いん? すぐ近くやん」
スクロールする敬の指が止まる。
敬「・・・最悪、翔太だけでも帰り。父さん
は大人やから何とでもなる」
翔太「一緒に帰ったらいいやん」
敬「それが出来たら簡単やけどな」
再び電話をかけ始める敬。
敬「あ、すみません。今晩空きがないか確認
したいんですけど」
翔太の肩に置かれる女性の手。
敬「そうですか、そうですよね・・・」
メアリー「あのー」
ビクッと振り返る敬。
翔太の傍に佇むメアリー。
仕事中と一変した地味OL風。
手に雑貨屋の紙袋を提げて。
メアリー「私ですよ」
敬「・・・なんや、エミリーさんですか」
翔太「メアリーさん!」
翔太、父の脇腹に肘でツッコミ。
メアリー「無理ですよ当日じゃ。カプセルも
満室。ほら、インバウンドとか」
敬「知ってますって、そんなこと」
無愛想に目を逸らす敬。
メアリー「心当たりあるんですか」
敬「関係ないでしょ。ほっといてください」
メアリー「うち来ます?」
敬「だからねえ・・・・えっ!?」
敬、漫才みたいな驚き方。
メアリー「二人くらいウェルカムです」
敬「いやいやいや、それはマズイ」
メアリー「マズイですかね」
敬「・・・一人暮らし、でしょ?」
メアリー「ええ、一応」
敬「会ったばかりのオッサン連れ込むって」
メアリー「翔太くんも一緒じゃないですか」
敬「それはそうやけど・・・」
メアリー「小学生連れて夜通し街をさまよう
方がマズイと思います。それに・・・」
敬の耳元に囁くメアリー。
メアリー「子連れなのにいかがわしい事考え
ちゃう人なんですか?」
●コンビニ・駐車場・夜
路上の灯影に立ち止まるメアリー。
メアリー「少し寄って行っていいですか」
敬「いいですよ。俺も何か買います」
駐車場を横切る父子とメアリー。
店内に目をやった翔太の足が止まる。
敬「翔太?」
翔太「・・・外で待っとく」
コンビニに背を向ける翔太。
●同・店内・夜
雑誌コーナーで屯する男子小学生。
それぞれ通塾バッグを背負って。
無邪気さを通り越した悪ふざけ具合。
敬、横目で見過ごして店の奥へ。
メアリー、衛生用品コーナーで吟味。
パンを適当にカゴに入れる敬。
騒がしい群れが店内を出て行く気配。
レジに並ぶ敬、すぐ後ろにメアリー。
雑誌コーナーの外に見える駐車場。
退店した小学生たちが翔太の傍へ。
翔太と肩を組むように戯れる。
口元を綻ばせ目を離す敬。
言い争うような声に再び視線は外へ。
●同・駐車場・夜
尻餅をついている男子小学生。
ちぎれたファスナーホルダーを手に。
その周りで居心地悪そうな友達。
入口から駆け寄る敬。
敬「君、大丈夫か」
尻餅小学生の手を引いて立たせる。
敬「ごめんやけど、さっきまでここにおった
男の子知らんか。君らと同い年ぐらいの」
こそこそ話を始める小学生たち。
小学生A「親ちゃうん」
小学生B「親やな」
小学生C「親かー」
小学生D「あの、棗くんのお父さんですか」
敬「そうや。君らは塾の友達?」
小学生D「僕、突き飛ばされたんですけど」
周りで笑いをこらえる小学生たち。
敬「そうなんか、悪かった。ケガは?」
慌てて屈み込んで手足を確かめる。
小学生D「あー、そう言えばオケツが割れた
みたいに痛いなー。あいたたたた」
小学生B「おまえケツ濡れてんで。血ぃ出て
るんとちゃうか」
小学生D「え、マジ? うわ、ほんまや!」
尻を触ってわざとらしく。
足下には昨日の雨の名残の水溜り。
小学生A「イシャリョウや、イシャリョウ」
ますます盛り上がる小学生たち。
無力感を漂わせて立ちつくす敬。
敬の傍にいつの間にかメアリー。
メアリー「早く。翔太くんを追って」
敬「けどアイツ、友達に暴力を・・・」
メアリー「ここは私に預けてください」
敬を見上げてにっこり。
敬「・・・申し訳ない」
迷いながらも踵を返す敬。
小学生C「あー、逃げるんですかあ」
小学生B「警察、はよ警察」
小学生D「防犯ブザー鳴らしたれ」
小学生の前に立ちはだかるメアリー。
敬の退路を確保するように。
小学生D「なんですか。誰ですか」
メアリーに詰め寄る小学生たち。
両者の背丈、あまり差がない。
小学生A「お姉さんとか?」
小学生B「お母さんやろ」
小学生C「でも中学生にしか見えへんし」
メアリー「僕たち、ちょっといいかな」
メアリーの笑顔、限界突破。
●駅前~コンコース~飲食街・夜
駅から吐き出される人波に逆らう敬。
敬「翔太! どこや!」
コンコース直結の飲食街を駆け回る。
土曜の夜の熱気に揉まれるように。
マーブルの色彩に酔いそうになって。
群衆の只中で途方に暮れる敬。
苛むようにこめかみをグリグリ。
敬「これ以上失点したらコールドなんや」
誰かの腕が敬を雑踏から引き剝がす。
メアリー「いました?」
首を横に振る敬。
メアリー「ふむ、なかなかの逃げ足ですね」
敬「あの子らは?」
メアリー「思い違いだったそうです」
敬「思い違い?」
メアリー「ふざけていて勝手にこけて水溜り
に尻餅を。それと、翔太くんはお友達でも
何でもないって」
メアリー、敬の手に何か握らせる。
ちぎれたファスナーホルダー。
メアリー「もう一度探しましょう。私は百貨
店の方を」
敬「じゃあ、俺は劇場のビルを」
二手に分かれかけて。
敬「メアリーさん」
深々と頭を下げる敬。
敬「・・・すみません、お店で失礼なこと」
メアリー「ほんとに失礼でしたよ。お詫びに
今度、一番高いセット注文してください」
顔を上げた時にはメアリーはいない。
●ファーストフード店・カウンター席・夕
横並びで座る翔太とメアリー。
翔太は通塾スタイル。
メアリーは仕事帰りの私服。
ポテトやパイ、ドリンクを脇に除けて。
開かれた塾のテキスト。
悩む翔太、教えるメアリー。
喧騒の中で、そこだけ穏やかな空間。
●駅前・夜
ロータリーで合流する敬とメアリー。
無言で徒労を確認。
為すすべなく天を仰ぐ敬。
その背後をシャトルバスが徐行。
メアリー「翔太くん、よく言ってました」
バスを追うメアリーの視線。
憔悴した顔でメアリーを見る敬。
メアリー「一度この世界をてっぺんから俯瞰
してみたい、って」
背後のシャトルバスに気づく敬。
行先表示は数駅先の高層ビル。
バスの向かう先に視線を移す敬。
道路の果て、巨大な塔のごとき影。
灯の宝石を纏って、一際高く聳えて。
●高層ビル・展望台・夜
閉館時間が迫り、人が退き始める。
夜景パノラマを臨む一面の硝子。
翔太、鼻がつくくらいに張りついて。
メアリー「やあ、ジャンバラヤ」
振り返る翔太、気まずそうに笑う。
得意げに佇んでいるメアリー。
翔太「さすがランドサット。やっぱり見つけ
られちゃった」
メアリー「見つけたのは私じゃありません」
メアリーの背後からニュッと敬。
翔太「あ・・・」
敬「ここまでどうやって登ったん?」
翔太「・・・団体に・・・紛れ込んで」
敬「ハァ・・・ここぞの無鉄砲は誰に似たん
や」
翔太「・・・ごめん、悪事働いた」
敬「・・・下で払っとくわ」
翔太の傍に寄り、夜景を見下ろす敬。
敬「見たかったもん、見えたんか?」
漆黒の布地に織りなされた街。
動物園。寺院。広告塔。歓楽街。
全てが闇と光のパッチワークに。
翔太「・・・ようわからん。暗いし小さいし
光ってるし。でっかい基板を見下ろしてる
みたいや」
二人の背後で微かに呟くメアリー。
メアリー「今は見えなくてもいいんですよ。
怖いものも汚いものも・・・」
●電気街・路地・夕
ゲーセンの裏口に雨が降る。
ビニール傘が禿鷹のように集る。
三人のヤンキーに囲まれた翔太。
壁に押しつけられ縮こまって。
ヤンキーの一人が気配に振り向く。
路地の入口に毅然としたシルエット。
傘を差した小柄なメイド。
●シェアハウス・玄関・夜
広々とした玄関が光で満たされる。
ポカンと天井を見上げる父子。
翔太「すげー」
敬「まさか一軒家とは。もしかしてええとこ
のお嬢さんか何かですか」
一足先にブーツを脱ぎ始めるメアリー。
メアリー「いえ全く。ここシェアハウスなん
です」
敬「・・・やっぱり迷惑やったのでは?」
メアリー「シェア相手、絶賛募集中です」
メアリー、不器用なウィンク。
●同・ダイニング・夜
椅子の上に荷物を下ろすメアリー。
紙袋から煙を上げる紙箱を取り出して。
メアリー「何か食べたいものは?」
敬「そこまでしてもらうわけには。寝床だけ
で十分です。コンビニでパンも買うたし」
メアリー「で、そのパンとやらは?」
不在のコンビニ袋を探す敬。
敬「あ・・・レジ・・・」
メアリー「ご遠慮なく、フーバーですから。
この辺りなら大抵のメニューは揃いますよ」
翔太「じゃあ・・・」
目を輝かせる翔太。
ピシリと人差し指を立てるメアリー。
メアリー「ジャンバラヤはございません」
●同・承前
テーブル一面に広げられた中華料理。
メアリー「食器に移し替えたら、それなりに
見えますね」
取り皿と箸を運んできた敬。
敬「あと何しましょか。コップとか」
コップを運んでくる翔太。
メアリー「もう座っててください。そろそろ
始めちゃいましょう」
敬と翔太、テーブルにつく。
冷蔵庫から紙箱を取り出すメアリー。
メアリー「持って帰ってきてよかった」
箱の中、小さくなったドライアイス。
守られるように一人サイズのケーキ。
●同・寝室・夜
部屋の真ん中にキングサイズベッド。
それ以外は本やディスクに占領されて。
もはや寝室だか物置だか判らない。
シーツの上にちょこんと座る翔太。
翔太「これ、みんなメアリーさんの?」
メアリー「はい。気がついたらいつの間にか
こんなことに」
ゴソゴソと本棚を物色するメアリー。
メアリー「この部屋は私の頭の中。だから、
どうしても捨てられなくて。あ、もし地震
が来てもベッドは安全な配置なので」
漸く探し出した梅津画集を翔太の膝に。
メアリー「約束の画集です」
翔太「うわあ、ありがとう。本当に借りても
いいん?」
メアリー「差し上げます。新品じゃなくても
よろしければ」
大判の本を抱きしめる翔太。
翔太「嬉しい。僕も何かお返ししたいな」
メアリー「でしたら、いつか私にプレゼント
してください」
ベッドの端にポスンと尻を下ろす。
メアリー「翔太くんの夢の結晶」
時かけポスターの横の古い掛時計。
今しも零時ちょうどを示す針。
メアリー「ようこそ、十二歳」
●同・リビング・深夜
暗い室内にTVの放つ燐光。
無音で流れる『コヤニスカッツィ』。
ソファで猫のように丸まったメアリー。
ヘッドフォンをつけてグラス片手に。
湯気を立てているグラス。
サイドテーブルにバーボンの瓶。
ふと気配を感じて姿勢を正す。
メアリー「うるさかったですか」
ヘッドフォンをずらして囁いて。
リビングの入口に佇む敬。
敬「大丈夫、音は漏れてないです。ちょっと
寝つけなくて」
メアリー「どうぞ、生暖かいですけど」
座る場所を空けるメアリー。
遠慮がちに腰を下ろす敬。
敬「明日・・・今日は仕事休み?」
メアリー「はい。それでついつい」
悪戯っぽくグラスを揺らす。
メアリー「どうですか、ナイトキャップ」
敬「や、遠慮しときます」
メアリー「憲法修正第十八条」
敬「へ?」
メアリー「セルフ禁酒法ですか」
敬「そんな大仰なもんとちゃいますよ」
無精髭を掻く敬。
敬「メアリーさんはご存知なんですか。その
・・・翔太の夢」
メアリー「・・・内緒です」
敬「それも友達同士の?」
メアリー「もちろん」
エッヘンと胸を張るメアリー。
メアリー「悔しかったらご自分で突き止めて
ください」
敬「キッツイなあ・・・」
うなだれる敬。
敬「・・・なんでしたっけ、合言葉。ジャン
バラヤと」
メアリー「ランドサット」
敬「ああ、それ」
メアリー「人工衛星。今も私たちの七百キロ
上空を一周約百分の速さで周回中。任務は
地球観測。彼らが撮った画像は誰もが一度
は目にしてる。教科書や地図などで」
夢見るようなメアリーの眼差し。
見上げた天井をまるで星空のように。
敬「お好きなんですか」
メアリー「似てるって、ある人に言われて。
私、何もかも俯瞰してしまう性質だから」
敬「俯瞰?」
メアリー「俯瞰するのはとても楽。苦しみも
悲しみも怒りもちっぽけに見える」
敬「・・・・・・」
メアリー「でも、気がついたら自分の後頭部
も一緒くたに見下ろしてる。そうなったら
万事休す」
敬「・・・・・・」
メアリー「嬉しさも愛しさも、みんな他人事
としか感じられなくなる」
敬「それは・・・しんどそうや」
メアリー「私は一通り経験できたから、もう
大抵の事は平気なんです」
敬「・・・・・・」
メアリー「翔太くんはこれから。俯瞰なんて
しなくていい。一歩一歩、どっぷりと沼に
はまったらいい。泥の底にはきっと黄金が
隠れてる筈だから」
敬、急に落着きをなくして。
敬「あの、一つ提案がありまして」
メアリー「はい?」
敬「明日の交流戦、チケット三人分持ってて。
もし良かったら・・・」
メアリー「私じゃないと思いますけど」
敬「え?」
メアリー「そこを埋める最後のピースは」
敬をまともに見据えるメアリー。
メアリー「夜が明けたら、お家にお電話して
みませんか」
敬「・・・もう修復不可能やから」
メアリー「ハンプティダンプティ並みに?」
敬「ようわからんけど、まあまあバラバラ」
メアリー「死力は尽くしました?」
敬「そりゃ何度も。最後の方はいつも禅問答
か泥仕合に陥りましたけど」
メアリー「そこに翔太くんは?」
敬「あ・・・」
虚を突かれた表情。
敬「そうか、考えたことがなかった。アイツ
の気持ちなんか一度も・・・」
メアリー「盲点なんてレベルじゃないですよ、
それ」
ジト目で追い打ちするメアリー。
敬「・・・情け容赦ない人や」
メアリー「でも、よかった」
敬「ポジティブ要素あります?」
メアリー「まだ裏の攻撃が残ってる」
敬「期待してもいいんかな、サヨナラホーム
ラン」
メアリー「安易な考えはダメですよ。泥臭く
てもコツコツと攻めなきゃ」
敬「内野安打、バント、進塁打、とか?」
メアリー「死球、盗塁、パスボール、とか」
敬「それ、ガチで盛り上がらんやつ。知らん
間に勝ってたみたいな」
メアリー「勝ちに不思議の勝ち無し、です」
敬「あー惜しい。逆、逆」
メアリー「いざとなったら息子譲りの無鉄砲
で・・・」
敬「それも逆」
メアリー「そうでしたっけ」
二人の間に流れる和やかな空気。
映画がエンドクレジットに入る。
次のケースを手にするメアリー。
メアリー「もう一本、いかがですか?」
『世界残酷物語』のパッケージ。
敬「いや、そろそろ失礼しよかな。ほんまに
寝るタイミング逃しそうや」
欠伸しながら立ち上がる敬。
デッキに屈み込むメアリー。
取り出したディスクを指に掛けて。
メアリー「もし、仮に、万が一、健闘虚しく
一歩及ばなかった時は・・・」
去りかけて止まる敬。
メアリー「代打で席を埋めます。一日限定で、
翔太くんの友達として」
敬「・・・ありがとう」
メアリー「おやすみなさい」
敬「おやすみなさい」
●ドーム球場・昼
グラウンドで守備練習する選手たち。
少しずつ埋まり始めた外野ビジター席。
中段にレプリカユニフォーム姿の敬。
その隣に同じくユニ姿の翔太。
その隣はまだ空席。
近づく気配に顔を向ける翔太。
表情がたちまち歓びで決壊して。
●メイド喫茶<荒涼館>・店内・夕
雨宿りがてらの客で賑わう店内。
濡れた髪をタオルで拭く翔太。
翔太の前に置かれるホットココア。
笑顔でメニューを差し出すメアリー。
メアリー「何か食べたいものは?」
翔太「・・・・・・」
遠慮していた翔太の口が微かに動く。
●タイトルバック
黒地に浮かび上がる『ジャンバラヤ』。
入れ替わるように『ランドサット』。
了
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