甘夏と円周率



裕香(一七)女性。高校二年生。

佳奈(一六)女性。高校二年生。

唯(一五)女性。中学三年生。裕香の妹。





●高校・文芸部部室・午後
   それは八月の昼下がり。
   蝉でさえ職務放棄するような炎暑。
   扇風機が無駄に熱気をかき混ぜる。
   向き合って座る二人の少女。
   共に高校の夏服だが対照的な容姿。
   参考書とにらめっこしている裕香。
   日焼けした長い手足が少年のよう。
   栗色の短髪がその印象を強める。
   原稿用紙にペンを走らせる佳奈。
   小柄で色白の柔らかそうな肢体。
   肩までの黒髪がどこか涼しげだ。
   勉強という現実から目を背ける裕香。
   上げた視線の先に、佳奈の胸。
   シャツの襟元から覗く白い谷間。
   吸い込まれるようにぽーっと見蕩れる。
   裕香の視線に気づく佳奈。
佳奈「集中できない?」
裕香「えっ」
佳奈「扇風機くんには荷が重かったか」
   クーラーに『故障中』の貼り紙。
裕香「う、うん、そうだね。役不足」
佳奈「私も限界。気分転換しない?」
   席を立ち、開いた窓辺に臨む佳奈。
佳奈「わ、外の方が涼しい!」
   微かな風が黒髪をさらさら弄ぶ。
   佳奈の横にそっと並ぶ裕香。
   運動場を見るふりして視線は隣。
   夏の陽に無防備に晒された佳奈の体。
   制服の胸にたわわに実る瑞々しい果実。
   程よく豊かな太腿も艶めかしい。
佳奈「そうそう、さっきのは間違いだよ」
裕香「へ?」
佳奈「『役不足』だと逆の意味。扇風機くんの
 場合は『力不足』だね」
裕香「へーそうなんだ。さすが閨秀作家」
佳奈「その呼び方はやめて。女流ナントカは
 今どき死語だから。ていうか、何でさらに
 古色蒼然たる化石語を知っているのですか
 キミは」
   佳奈、エア眼鏡をクイッ。
裕香「いやあその、佳奈の小説読んでるとね、
 知らない単語が続々と出てくるから。じい
 ちゃんの辞書片手に読むうちに、関係ない
 言葉まで覚えちゃって・・・」
   裕香の肩に手を置く佳奈。
佳奈「素晴らしいよ裕香くん。それが生きた
 勉強ってものだよ。それに比べたら今して
 いる受験勉強なんて・・・」
   佳奈の声が意識の中を遠ざかる。
   視線は再び佳奈に吸い寄せられて。
   袖の奥、見えそうで見えない腋。
   楽しそうに踊る可憐な唇。
裕香(M)「やだ・・・またあたし・・・」
   佳奈の首筋を伝う、一雫の汗。
裕香(M)「同じ女の子なのに・・・」

●裕香の部屋・夜
   それは八月の宵。
   網戸から、夜の風と遠くの花火。
   ベッドに寝転がるジャージ姿の裕香。
   抱き枕を抱えてローリング。
裕香「うわぁん、あたしのばかぁ!」
   思い余って抱き枕を部屋の隅に投擲。
   被害に遭うソフトテニスの準優勝盾。
裕香「・・・こんなのダブルフォルトだよ」
   どたどた階段を駆け上がる音。
   ドアの外から唯の声。
唯(声)「おねえ、大丈夫?」
裕香「えっなにが?」
唯(声)「だって・・・入るよ」
   室内に踏み込む唯。
唯「すごい音聞こえたんだけど」
   足元に落ちた盾と抱き枕に気づく。
   拾い上げて物問いたげに。
裕香「あ、それね・・・クモだよクモ。そこ
 の壁にでっかいのがいたから思わず・・・」
唯「マジ? ナニグモ? タランチュラ?」
   急にテンションが上がる唯。
   目を輝かせて周囲を探し回る。
唯「何もいないよ・・・」
裕香「じゃあ錯覚だ錯覚。それより、なんで
 ちょっと残念そうなわけ?」
唯「えー、だって見たいじゃん。大きいの」
裕香「大きかったら何でもいいのか、妹」
唯「大きいことはいいことだよ。唯の夢はね、
 世界中のありとあらゆる世界最大をこの目
 で見ることなのだ!」
   両手を一杯に広げる唯。
   風呂上がりのシャツの胸が揺れる。
   それを見る裕香の表情は<無>。
唯「それはそうと、お風呂空いたよ」
   抱き枕を裕香に押しつけて。
唯「おねえが早く入んないとパパいつまでも
 入れないじゃん」
裕香「わかったわかった。五分したら行く」
唯「ホントだよ。確かに伝えたからね。もし
 遅れたら唯がママに怒られちゃう」
裕香「しつこいなあ。武士に二言はない」
   部屋を出かけた唯、振り向いて。
唯「武士なら武士らしく、一分でも遅れたら
 ハラキリして・・・」
   最後まで言い終わる前に抱き枕飛来。
   閉じた扉に弾き返される抱き枕。

●浴室・夜
   同日、数刻後。
   有馬温泉の入浴剤が入った浴槽。
   顎の下まで浸かった裕香。
   両手を組み合わせて水鉄砲。
   向かいの壁に泡で描いた的に命中。
裕香「佳奈・・・」
   のぼせたような裕香の瞳。

●高校・教室(回想)
   それは、四月の朝。
   窓の外、グラウンドの桜が霞む。
   窓際の席で頬杖を突く裕香。
   背後から、綺麗な手が目隠し。
佳奈「卒アルのお渡し会以来、かな」
   振り返る裕香に微笑みかける佳奈。
佳奈「変わんないね、裕香」
   桜色の唇が柔らかく綻んで。

●浴室・夜
   スポンジで体中に泡を立てる裕香。
   肘の擦り傷に沁みてしかめ面。
裕香(M)「三年間別々の中学。なんとなく
 連絡取らなくなって友情は儚くも自然消滅。
 高二のクラス替えで初めて同じ高校に進学
 したことを知った」
   降り注ぐシャワーの雨。
   泡の下から、細くも筋肉質な腕。
裕香(M)「四年ぶりの佳奈は見違えるよう
 だった。身長は記憶と比べて誤差の範囲内
 だったけど、それ以外の部分が色々オトナ
 になってた・・・」

●小学校・グラウンド(回想)
   小学生の裕香、友達とゴム段遊び。
   離れた所から見ている小学生の佳奈。
   仲間に入りたいけど勇気が出ない。
   気づいた裕香、大きく手を振って呼ぶ。
   周囲を照らすお日様のような笑顔で。
   おずおずと集団に近づいてゆく佳奈。
裕香(M)「先に声をかけたのはあたしだ。
 彼女はすごく恥ずかしがり屋であたしとは
 真逆。でも不思議とうまくやっていけた。
 二人の足りない部分がパズルみたいに噛み
 合ったんだと思う・・・」
   ゴムを跳び越える佳奈のモンタージュ。
   最初はおっかなびっくり。
   次第に慣れて笑顔も多くなって。
裕香(M)「今じゃ彼女の方が積極的。いつ
 の間にか独りに慣れてたあたしを、あの朝
 サルベージしてくれた。そこから始まった
 日々は空白なんて元から無かったみたいで。
 今度こそ友情は永遠に続くものと思ってた。
 でも・・・」
   ゴムを跳びながら成長してゆく佳奈。

●高校・プール(回想)
   それは、七月の昼下がり。
   水泳の授業の自由時間。
   プールのあちこちで戯れる少女たち。
   歓声から離れ裕香は独りプールサイド。
   温い水にしなやかな脚を浸して。
   佳奈がゆったりと泳ぎ着く。
佳奈「ああ、疲れちゃった」
   プールサイドに上がろうとする佳奈。
   裕香の目の前に、佳奈の胸。
   スクール水着から大きく覗く谷間。
   膝に当たった乳房がぷるんと揺れる。
   どきん、と裕香の心臓が大きく搏つ。

●脱衣所・夜
   鏡の前で髪を乾かす裕香。
   無造作にドライヤーを動かして。
裕香(M)「眩しかった。綺麗だった。それ
 を見た瞬間から胸が苦しくなって、ヘンな
 気持ちになった。おかしい。おかしいよ。
 あたしたち、女の子同士なのに・・・」
   鏡の中から見つめ返す裕香。
   ノースリーブシャツにショートパンツ。
   ますます少年っぽい姿。
   裕香、鏡にドライヤーを向ける。
   曇りに隠されてゆく自分の鏡像。

●ダイニング・夜
   扉から顔を覗かせる裕香。
裕香「お待たせ。出たよ」
   ナイター観戦中の父親、手で生返事。
裕香「唯、ちょっといい?」
   そのままの体勢で妹を手招き。
   父の隣で観戦中の唯、不満げ。
唯「えー、いま大大大チャンスなんですけど。
 ノーアウト二三塁で次クリーンナップだよ。
 ダブルプレーも無くなったし、これは一打
 同点でしょ。おねえも一緒に応援・・・」
   裕香の表情を見てクールダウン。
唯「・・・大事なお話?」
裕香「大事かどうかは分からないけど・・・
 <大きいもの>に関係がある話・・・」
唯「マジ? 聞く聞く!」
   大一番に背を向けて椅子から飛び出す。
唯「パパ、結果言わないでよ」

●裕香の部屋・夜
   ベッドに胡坐をかく唯。
   机の上の文房具を神経質に揃える裕香。
唯「で?」
   本棚のマンガを巻の順に並べ直す裕香。
唯「で?」
   窓の外の星の数を数える裕香。
唯「おねえ!」
   気まずそうに振り向く裕香。
唯「話す気ないなら下行くよ」
裕香「ないわけじゃないんだけど・・・」
唯「あーあ、もう九点くらい入ってるかも」
裕香「わかった、話す、話すから」
   裕香、ベッドの足元に正座。
唯「で、何が大きいの?」
   裕香、口の中で呟くが聞き取れない。
唯「はい?」
裕香「佳奈の・・・ぱい」(ぼそ)
唯「聞こえないって」
   悲壮な面持ちで深呼吸する裕香。
   次の瞬間、世界に向けて。
裕香「佳奈の! おっぱい!」
   強風を顔に受けたかのような唯。
唯「・・・おっぱい?」
   裕香、顔を真っ赤にして何度も頷く。
唯「佳奈って・・・あの佳奈ねえ?」
裕香「・・・そうだけど」
唯「えっ、えっ、よくわかんない。最初から
 順を追って話して」
   膝の上で握りしめられる裕香の拳。
   *****
   全てを聞いてフリーズした唯。
   数瞬後、コテンと横倒れ。
唯「ちょ、ちょっと待って、タイム・・・」
   ベッドに顔を埋めて笑いを堪える。
唯「だ、ダメ・・・反則・・・同性の友達の
 おっぱいに悶々とか・・・ウヒャヒャ」
   堪えきれずベッド上でローリング。
   ベッド下でじっと耐える裕香。
   一筋の涙が褐色の頬を伝う。
唯「あっ、ごめん・・・」
   目ざとく気づいて起き直る唯。
   思わず自分もベッド上に正座。
   ベッドの上下で姉妹の奇妙な対峙。
唯「・・・そんなにしんどい?」
   俯いた裕香のつむじに問いかける。
   微かに動いて肯定を示す頭。
唯「どうしたらしんどくなくなる? おねえ
 はどうしたい?」
裕香「・・・触りたい」
唯「そっか」
裕香「けどムリ・・・」
唯「そう?」
裕香「絶対ムリ」
唯「そうかなあ。女の子同士だよ?」
   唯、自分の豊かな丘を見下ろす。
唯「挨拶のノリでさ、おはよ、今日もチャー
 ミングだねー、ぽよーんみたいな感じで。
 そしたら佳奈ねえも、もーやめてよーって
 笑って流してくれるんじゃない?」
   涙目で恨めしそうに見上げる裕香。
裕香「おちょくってる?」
唯「マジだって。唯の友達の夏織、知ってる
 でしょ? アイツなんか後ろから不意打ち
 で鷲掴みだよ。グワシとか言ってさ。もう
 いちいち怒ってらんないよ」
   裕香、右手で謎のモーション。
   自然なタッチのシミュレーション。
   やがて首を横に振る。
裕香「それができたら悩んでないって」
唯「だろうね」
   思案する唯。
唯「あのさ」
裕香「なに?」
唯「そんなに触りたいなら、唯のでどう?」
   両手で胸を持ち上げて。
唯「大きさでは負ける子もいるけど、感触は
 唯が極上なんだって。by夏織調べ」
   言いながら自分で少し照れている。
   裕香の表情、離岸流なみの引き具合。
唯「か、勘違いしないでよ。別にどうしても
 触ってほしいってわけじゃないんだから」
   無造作に腕を伸ばす裕香。
唯「うっ」
   反射的に目を閉じる唯。
   薄目を開けると機械的に動く姉の手。
唯「どう?」
裕香「どうって・・・触り心地いいけど普通。
 別にドキドキとかは」
   手を払いのける唯。
唯「・・・地味に傷つくんですけど」
裕香「ゴメン。でもやっぱりそういうんじゃ
 ないんだよ・・・」
唯「ハァ・・・」
   途方に暮れた姉を見て溜息。
唯「わかった。唯にまかせて」
裕香「え」
唯「ただし、手段は選り好みしないこと」
   腕組みする唯にLEDの後光。

●高校・サブグラウンド・午後
   コート周りで練習中のソフトテニス部。
   無心にラケットを振る裕香。
   ふと視線を感じて校舎を見上げる。
   廊下の窓から見下ろす佳奈。
   笑顔で無邪気に手を振って。
   裕香、こっそりラケットで返事。
   後ろから伊達公子似顧問の一喝。
顧問「こら集中!」

●同・廊下・夕
   時は八月の夕間暮れ。
   廊下の壁に凭れ、文庫本を読む佳奈。
   本は『ジョナサンと宇宙クジラ』。
裕香「ごめん、お待たせっ!」
   ラケットケースを振り回して駆け来る。

●通学路・夕
   数刻後、坂道を下る裕香と佳奈。
佳奈「最近、気合い入ってるね」
裕香「へ?」
佳奈「これよ、コレ」
   佳奈、ボレーのアクション。
裕香「秋の総体のレギュラー候補だし」
佳奈「裕香は偉いなあ。私だったら絶対途中
 で音を上げちゃう。二度とサーブなんか受
 けたくないよーって。で、使わなくなった
 ラケットでパスタ茹でるの」
裕香「フフ、何よそれ」
佳奈「さあ何でしょう」
   道に伸びる長い影が睦まじく。
裕香「佳奈だってスゴイじゃん。小説なんて
 誰にでも書けるものじゃないよ。あたしは
 読むだけでも七転八倒なのに」
佳奈「悪戦苦闘?」
裕香「あ、それ」
佳奈「・・・誰だって書いてるよ今時は」
   儚げに笑う佳奈。
佳奈「誰かに読んでもらえなきゃ書いてない
 のと同じだから」
裕香「あたしがいるじゃん。あたし読むよ」
佳奈「七転八倒するのに?」
   その時、坂の上から自転車のベル。
唯「どいてどいてー! ブレーキワイヤーが
 切れちゃったー!」
   猛スピードで二人に突っ込む自転車。
   風に煽られながら自信満々の唯。
唯(M)「おねえ、これが研究の成果。夏織
 から『HoLIVEる』全巻借りた甲斐が
 あったってもんだよ。いざラッキータッチ
 作戦発動!」
裕香「危なッ・・・」
   身を挺して佳奈を庇おうとする裕香。
佳奈「危ない!」
   一瞬早く、佳奈が裕香を押し倒す。
   虚しく通過する唯の自転車。
   そのまま急カーブをコーナリング。
唯「風の歌が聴こえる・・・」
   佳奈の掌、裕香の平坦な胸に。
佳奈「あ、ごめん」
   慌てて裕香を抱き起す佳奈。
佳奈「大丈夫かな、今の子・・・」
   心配そうにカーブの先を見つめて。
   赤面して胸を押さえる裕香。

●同・夕
   その翌日の夕間暮れ。
   坂道を下る裕香と佳奈。
佳奈「昨日、大丈夫だった?」
裕香「う、うん。痛い所ないし、平気」
佳奈「よかった。心臓止まるかと思ったよ」
   制服の膨らみをむぎゅっと押さえる。
   頬を染めて盗み見る裕香。
唯「オゥオゥ、公道で堂々とイチャついとる
 のお。エライ見せつけてくれるやんけ」
   二人の前に立ちはだかる唯。
   ド派手なレディース服にマスク。
   おでこには締まらない絆創膏。
   肩に担いだ竹刀で威嚇して。
唯「ええとこで会うたわ。ウチ今カラッケツ
 なんや。ちょっと小遣い恵んでくれへんけ」
   堂に入った芝居だが声が可愛い。
唯(M)「おねえ、今度こそは間違えないよ。
 ママ秘蔵の少女マンガから導き出した作戦。
 さあ、騎士(ナイト)におなり!」
裕香「ちょっとアンタ・・・」
   前に出ようとする裕香を制止する佳奈。
   佳奈の学生鞄が足元に落ちる。
   軽やかにステップを踏み始めて。
   にこやかに挑発する指先。
唯「テメ・・・」
   出しかけた竹刀を速い蹴りが砕く。
   茫然とする裕香と唯。

●裕香の部屋・夜
   その日の宵の口。
   ベッドで折れた竹刀を抱く涙目の唯。
唯「体育の先生に怒られる・・・」
裕香「あたしが代わりの買ったげるから」
唯「何なの佳奈ねえ、ドラゴンなの?」
裕香「截拳道の通信教育始めたんだって」
唯「聞いてないよぉ・・・」
   ベッドに倒れこんで駄々っ子。
唯「なんでうまくいかないの。唯、ちゃんと
 研究したのにぃ・・・」
裕香「頑張ってくれてありがとね」
   唯の隣に腰を下ろして頭を撫でる。
裕香「でもね、マンガとラノベだけじゃ人生
 って難問は解けないんだよ、きっと」
唯「・・・そうだ!」
   何かを悟ったように起き直る唯。
唯「こうなったらパパの本棚から先人の叡智
 を得るしかない!」
裕香「それはやめてあげて」
   駈け出そうとする唯にしがみつく。
   *****
   ベッドの足元に並んで座る姉妹。
   クーラーの音に混ざって雨音。
   唯、所在なげに前屈運動。
唯「・・・降ってきたね」
裕香「明日はひたすら階段ダッシュか・・・
 サガるなぁ・・・」
唯「・・・・・・」
   気まずい沈黙を湿らせる雨。
   唯、爪先を掴んだまま視線を裕香に。
唯「もういっそ真正面から頼んでみたら?」
裕香「え」
唯「『佳奈ねえのこと好きだから、おっぱい触
 らせて』って」
裕香「・・・・・・」
唯「・・・違うの?」
裕香「何が?」
唯「・・・ううん、いい」
   裕香、体育座りで顔を隠す。
   ぴょこんと立ち上がる唯。
唯「唯たち、お互い時間が必要みたいだね」
裕香「時間?」
   見下ろす唯の凛々しい眼差し。
唯「おねえが気持ちを整理できるまで、唯は
 おっぱい学をとことん究めるよ」

●高校・教室・朝
   それは、二学期最初の日。
   夏の名残りで騒々しい教室。
   自慢、後悔、驚き、好奇。
   自分の席で突っ伏す裕香。
佳奈「おはよ、いい夏休みだった?」
   机に両手を置いて覗き込む佳奈。
   吸い込まれそうな雪白の胸元。
   裕香、思わず目を逸らす。
裕香「練習漬けだったの知ってるくせに」
佳奈「それもそうだ。毎日のように会ってた
 もんね」
   あっけらかんと笑う。
裕香「ホント、親の顔よりよく見たよ」
佳奈「私は・・・結構楽しかったけどな」
   声のわずかな変化に気づかない裕香。

●中学校・教室・午前
   ホームルームの終わりを告げる担任。
   同時に鞄を手に立ち上がる唯。
   後ろの席の夏織が慌てて声をかける。
夏織「ちょっとアンタ、部活!」
唯「ゴメン、お休みするって言っといて!」
   早くも教室を飛び出す寸前。
夏織「理由は!」
唯「家庭の事情!」

●高校・サブグラウンド・午後
   ネットを背にした伊達公子似の顧問。
   秋季総体に向けた熱い訓示。
   直立不動で拝聴する女子部員たち。
   皆に混じって裕香も大きな返事。
   ただ、表情だけは今ひとつ冴えない。

●図書館・午後
   検索機に貼りつく制服姿の唯。
   次々と印刷される情報票。
   後ろで咳払いするオジサン。
   *****
   情報票を頼りに館内行ったり来たり。
   歴史学、民俗学、美術、宗教、心理学。
   医学、動物学、社会学、果ては文学。
   棚を巡る内に胸に抱えた本の山が高く。
   *****
   閲覧机に積み重ねられた多様な本。
   ノートを片手に次々と頁を捲る唯。
   論文執筆に取り組むような真剣さ。

●高校・廊下・夕
   それは、九月の放課後。
   廊下の角から教室前を盗み見る裕香。
   佳奈、男子生徒と楽しそうに立ち話。
   男子に文庫本を渡す姿が乙女だ。
   何か冗談っぽく声をかける男子。
   笑いながら男子の肩を押す佳奈。
   居たたまれなくて踵を返す裕香。
   無人の渡り廊下を大股に歩み去る。

●同・文芸部部室・夕
   数刻後、ドアを遠慮がちに開く裕香。
   佳奈、一人ぼっちで執筆中。
裕香「まだかかりそう?」
佳奈「もうすぐだよ。待ってて」
   入口近くの机に腰を下ろす裕香。
   裕香に背を向けたままの佳奈。
   窓の隙間から残陽と生徒たちの声。
   教室に響くのはペン先の音だけ。
佳奈「・・・最近さ、重度のスランプだった
 んだよね。全然筆が進まなくって」
裕香「へー珍しいじゃん。いつもは自動筆記
 かってくらい休みなく手動かしてるのに」
佳奈「そうでもないよ。そういう時は人前で
 書かないから。見せてないだけ」
裕香「なーる」
佳奈「それがね、先輩から借りた小説が刺激
 になったみたいで。ゆうべくらいから書き
 たいことが頭から溢れ出しそうになって止
 まらないんだ。ほんと怖いくらい」
裕香「・・・・・・」
佳奈「知ってる? 日本のSFなんだけど、
 宇宙で漁師してる主人公が・・・」
裕香「知らない」
   断ち切るような返事に空気が軋む。
佳奈「・・・とにかく、いま浮かんでる感情
 とか衝動、書き留めとかないと消えちゃい
 そうだから・・・もうちょっと待って」
   沈黙を埋めるように走るペン。

●図書館・夕
   椅子に背を預けた唯。
   ほわーんとした顔で天井を眺める。
   机の上に開かれた複数の本。
   『図説乳房全書』『乳房の神話学』
   『ゆれるおっぱい、ふくらむおっぱい』
   『おっぱいの進化史』『巨乳の誕生』
   『乳房抄』等々。
   疲れ目をしばたたかせる唯。
   その頭の周りで踊る女神たち。
   ヤクシニーや旧石器時代のヴィーナス。
   脳内BGM『おっぱいがいっぱい』。

●高校・文芸部部室・夕
   机を退かせた空間に夕陽が射す。
   茜に染まり、裕香と佳奈の二人芝居。
佳奈(声)「一つだけお願い、いい?」
   裕香をリード役にしてチークダンス。
   裕香の肩の辺りで微笑む佳奈。
佳奈「助かったよ。背の高い相手と踊る時の
 描写、一人じゃイメージできないから」
裕香「これくらい、別に・・・」
   佳奈の手と腰に触れた手がぎこちない。
佳奈「へー、こんな距離感なんだ」
   裕香を見上げる蠱惑的な瞳。
   密着しそうになる度に体を離す裕香。
佳奈「ごめんね。暑苦しいでしょ?」
裕香「そんなこと、ない」
   裕香の首筋を伝う汗。
   佳奈の胸元にも、汗。
佳奈「ねえ、もうひとつだけ」
裕香「ん」
佳奈「背の高い人と、キスする時の感じ」
   ステップを止めて背伸びする佳奈。
   目を閉じた佳奈の顔が近づく。
   裕香の脳内をよぎる廊下での光景。
   背の高い先輩男子と佳奈の2ショット。
裕香「・・・先輩にも読んでもらうの?」
   動きを止めて目を開ける佳奈。
佳奈「・・・たぶん」
   感電したように佳奈から離れる裕香。
佳奈「だって・・・部活の先輩だし、アドバ
 イスももらって・・・」
裕香「悪い、変な事聞いて。今日親が早く帰
 ってこいって言ってたの忘れてた」
   早口で呟きながら鞄を手に。
佳奈「待って、私も帰る・・・」
   佳奈を待たずに開いて閉じる扉。
   教室の真ん中にぽつんと立つ佳奈。

●図書館・外・夜
   図書館の閉館時間。
   追い出されるように外に出る唯。
   すっかり暗くなった空に溜息。
   歩き出そうとして返却ポストに視線。
   ポストの前の人影と目が合う。
唯「あ・・・」

●裕香の部屋・夜
   それは、九月の宵の口。
   秋の虫の合唱も裕香の心を慰めない。
   ベッドに寝転んで両手を上に伸ばす。
   見えない乳房を揉むような仕草。
   宙を彷徨うマメだらけの手が寂しい。
   心に去来する佳奈の様々な姿。
   制服、私服、体操着、水着・・・。
   どんな服装でも胸は誇らかに主張。
   だが、イメージ上の視線が胸から上へ。
   いつしか佳奈の笑顔が心を占めている。
裕香(M)「おかしいな、あたし変態のくせ
 して・・・」
   空中の両手が佳奈の両頬に触れる。
裕香(M)「全部欲しいって思ってる?」
   派手にドアが開く。
   室内に踏み込む唯。
唯「おねえ!」
裕香「ぎゃっ!」
   弾かれたように飛び起きる裕香。
裕香「ざっけんな、殺す気か!」
唯「お姉さま、お言葉が乱れていてよ」
裕香「ノック三回返事待ち、社会常識!」
唯「まあまあ」
   裕香を宥めて座らせる。
   その前を左右に行ったり来たりの唯。
裕香「・・・ジョブズの真似?」
唯「おねえ、唯は遂に辿り着いたよ」
   ジェスチャーを交えて語り出す。
唯「おっぱい学、それは数百万年の人類史と
 共に流れる長く深い大河なの。生命と美。
 愛と官能。それら概念は、すべておっぱい
 という象徴へと回帰して・・・」
裕香「唯」
唯「そもそも、おっぱいを愛でる事イコール
 性的嗜好に結びつける考え方こそ短絡的で、
 明治維新以前の日本では・・・」
裕香「ゆーい」
唯「ちなみに、よく言われる臀部擬態仮説と
 いうのはね・・・」
裕香「唯ッ!」
   ようやく気づいてプレゼンを止める唯。
裕香「・・・怪しい空気清浄機売りつける人
 みたいになってるから」
   裕香、呆れ声。
唯「マジ?」
裕香「マジ」
唯「マジか・・・」
裕香「外の空気でも吸いなよ」
   窓を全開にして深呼吸する唯。
唯「・・・よし、空冷完了」
   気を取り直して姉の前に戻る。
唯「とにかく唯は辿り着いたんだ、おっぱい
 の本質に」
裕香「で、なんなの」
唯「鏡だよ」
裕香「鏡?」
   狐につままれたような顔。
唯「そう、おっぱいは鏡。観測者が抱く感情
 によって見え方も意味も複雑に変化する。
 自然の恵みだったり、包み込むような母性
 だったり、性的アイコンだったり・・・」
裕香「またそんな話?」
唯「だからこそ問う!」
   裕香の胸に人差し指を突きつけて。
唯「今のおねえにとっておっぱいって・・・
 ううん、佳奈ねえのおっぱいって何?」
   裕香、たじろぎながらも考え込む。
裕香「んー・・・」
唯「持たざる者の憧れ?」
裕香「オイ」
唯「先ほど不適切な発言がありました」
裕香「局アナか」
唯「訂正はしないけどお詫びいたします」
裕香「開き直ってんじゃん」
   思わず吹き出す裕香。
裕香「前半は余計だけど、憧れっていうのは
 近いかも・・・」
   裕香の脳裏に蘇る黄昏の部室。
   取り残された佳奈の翳になった顔。
裕香「・・・違う」
   唯の視線を真っ直ぐ受け止めて。
   はっきりと動く裕香の唇。
   その時、開いた窓から飛行機の轟音。
   観客には聞こえなかった答え。
   唯には届いていた答え。
唯「おねえも辿り着いたんだね」
   慈愛に満ちた微笑み。
唯「だったら、もう手段は一つしかないよ」
   制服の胸ポケットから何か取り出す。

●通学路・夕
   それは、九月の釣瓶落とし。
   宵闇迫る坂道を下る裕香と佳奈。
佳奈「久しぶりだ、裕香んち♪」
裕香「そ、そうだね・・・」
   見るからに浮き足立った佳奈。
   今ひとつ浮かない表情の裕香。
佳奈「荷物置いたらスーパー行こ。裕香は何
 食べたい?」
裕香「うーん・・・和食?」
佳奈「うわー漠然! 倦怠期の旦那みたい」
   前に回り込んで大袈裟に笑う。
裕香「・・・着くまでに考えとく」
   裕香、心ここにあらず。
   目を逸らす裕香、寂しげな佳奈。
   ふと、重苦しい空を見上げて。
佳奈「空、半泣きみたい・・・」
   雨粒が佳奈の頬に落ちる。

●裕香の部屋・夜(回想)
   唯の指に摘まれたアリスっぽい小壜。
裕香「さすがにそれは・・・」
唯「選り好みしないって言ったよね?」
   裕香ドン引き、唯メフィストの笑み。
唯「大丈夫、おまじないみたいなもんだから。
 人体に害はないし法にも触れない」
   振られて揺れる無色透明の液体。

●同・夕(現在)
   濡れた髪をタオルで拭う佳奈。
   飲み物のお盆を持って裕香入室。
   湯気を立てる二つのマグカップ。
裕香「すぐにお風呂沸かすから、これ飲んで
 温まって・・・」
   カップを差し出す裕香。
   飲み込んだ息が喉から漏れる。
   濡れて透けた佳奈の夏服の胸。
   ブラを大きく盛り上げる膨らみが露わ。
   濡れ髪や白い首筋と相まって色っぽい。
佳奈「うん、ありがと」
   無自覚で幼い佳奈の笑顔。
   カップを受け取ろうとした手が空振り。
   自分でゴクゴク飲み干している裕香。
佳奈「えー・・・」
   咄嗟のツッコミも出てこない。
裕香「すまん間違えた。佳奈はこっち」
   もう一つのカップを強引に押しつける。
裕香「じゃ、先にシャワー浴びるねっ」
   あたふたと退散する裕香。
   湯気を浴びながら物思わしげな佳奈。

●浴室・夕
   少しずつ溜まってゆく浴槽。
   窓を斜めに叩く雨音。
   未開封の城崎温泉の入浴剤。
   髪を乱暴にわしゃわしゃ洗う裕香。
   給湯器のインターフォンの呼出音。
唯(声)「このヘタレおねえ! 客放置して
 何で先に風呂入ってんだ!」
   泡々の頭のまま応答ボタンを押す裕香。
裕香「だって、いざとなったら・・・」
唯(声)「計画が台無しだよ。特製しょうが
 湯とシャワーで温まって佳奈ねえが悶々と
 してる所に颯爽乱入、って流れだったのに」
裕香「・・・アレもあたしが飲んじゃった」
唯(声)「ハァ? それ以上悶々としてどう
 する気なの!?」
裕香「でも・・・やっぱムリだよ! あたし
 ヘタレでいい、佳奈の気持ちを踏みにじる
 ような最低な奴にはなりたくない」
   その時、脱衣所で物音。
   曇硝子の向こうに蠢く影。
   裕香、声を潜めて。
裕香「唯、あんた今キッチン?」
唯(声)「そうに決まってるじゃん。コレで
 喋ってるんだから」
裕香「シッ、声大きい。佳奈どうしてる?」
唯(声)「知らないよ。見つかんないように
 隠れてるし。こっちからも見えない」
   脱衣所の人影、次第に肌色に。
裕香「佳奈? もうちょっと待って。すぐに
 出るから・・・」
   慌てて泡を流そうとする間もなく。
   浴室の扉が内側に開く。
   落ちて暴れるシャワーヘッド。
   湯気の中に浮かぶ佳奈のシルエット。
   泡を食って浴槽に飛び込む裕香。
   まだ少ない湯に無理やり体を沈める。
   シャワーヘッドを拾い上げる佳奈。
裕香「へへ・・・待ちくたびれちゃった?」
   佳奈、無言でシャワーを浴び始める。
   裕香、見ないよう水面に目を落とす。
   泡々頭のピエレットが見返してくる。
   肌が水を弾く音が妙に生々しい。
裕香「あーのぼせそう。いい湯でしたー」
   棒読みで、背を向けたまま立ち上がる。
   裕香の灼けた肩にかかる佳奈の手。
佳奈「行かないで」
   反射的に振り向いてしまう裕香。
   裕香の瞳に映る、佳奈の裸身。
佳奈「裕香・・・」
   裕香の腕の中に身を投げ出す佳奈。
佳奈「ゆか・・・」
   裕香を見上げる佳奈の潤んだ瞳。
裕香「だ、だめ、こんな・・・」
   佳奈を押し返そうとする裕香。
   弾みで、佳奈の胸を掴んでしまう。

●河川敷・夜
   夜の訪れと共に空は泣き止んでいる。
   土手の石段で膝を抱える裕香。
   シャツ、ショーパン、乱れた洗い髪。
   頭のてっぺんに小さな名残り泡。
   肩が震えているのは秋の夜風のせい?
唯「結局、逃げ出しちゃうんだ」
裕香「・・・そうだよ悪い?」
唯「ま、初手から詰んでたけどねー」
   河原で小石を積んでいる唯。
唯「一つ積んではおねえの為、二つ積んでは
 佳奈ねえの為・・・」
裕香「やめてよ縁起でもない」
   その拍子にばらばら崩れる石積みの塔。
唯「あーあ、大きい声出すから。まるで二人
 の関係みたい」
裕香「オニ! アクマ!」
唯「そんなこと言うんだ? 可愛い妹が親身
 に相談に乗ってあげたのに。それに願いも
 叶ったよね?」
   唯、再び小石を積み始める。
裕香「あんな形でなんか望んでないよ!」
唯「なんで? 佳奈ねえがおねえと同じ目線
 に立ってくれたら全部うまくいく話だった
 じゃん」
裕香「だからって、変な薬の力なんか・・・」
   絶妙に積み上がっていく小石。
唯「・・・でも実際に飲んだの、おねえなん
 でしょ」
裕香「・・・・・・」
   立ち上がりかけて言葉を失う裕香。
唯「あのしょうが湯、ゲロ甘じゃなかった?」

●キッチン・夕(回想)
   アリスの小壜に注がれる液体。
   唯が支えているのはかき氷シロップ。

●河川敷・夜
   キコキコという音が近づいてくる。
   土手道をこちらに向かう自転車の影。
裕香「・・・佳奈?」
   必死にママチャリを漕ぐ佳奈の顔。
   裕香の手前で急ブレーキ。
佳奈「はぁ、はぁ・・・ごめん。勝手に借り
 ちゃった、自転車」
   スタンドを立てて裕香に歩み寄る。
佳奈「あと、これも・・・」
   着ているジャージの裾を摘んで。
裕香「それあたしの?」
佳奈「うん。着替え、パジャマしかなかった
 から・・・」
   息を整える佳奈。
   その姿を頭から爪先まで見る裕香。
   半乾きの髪に化粧っけのない顔。
   上も下もブカブカのジャージ。
   体の線は全く目立たない。
   踵を踏み潰したローファー。
   紅潮した頬と、それより紅い目尻。
裕香「・・・やば、全然似合ってない」
佳奈「ひどくない?」
裕香「でも・・・ウヒ・・・事実だし・・・
 ヒヒヒ・・・」
   裕香、おなかを抱えて引き笑い。
裕香「む、娘のジャージ借りて買い物に行く
 オバチャン・・・ウヒャヒャ」
佳奈「もぉ、バカ!」
   思いっきり裕香の肩をどつく佳奈。
裕香「ヒィー、やったな!」
   笑いながらやり返す裕香。
佳奈「なんだよー!」
   自然とじゃれ合う二人の姿。
   そこにはもう今までの距離感は無い。
裕香(M)「どうしてかな。ダッサイ格好で
 スッピンの佳奈を見て、今までで一番ドキ
 ドキしてんだけど・・・」
   いつの間にか河原から消えた唯の姿。
   ロックバランシング作品だけ残して。
   二つの塔を繋ぐ、頂上の平石。

●住宅街・夜
   一人ぶらぶら家路を辿る唯。
   足元をついてくる黒い仔猫。
唯「世話のかかるおねえだよ、まったく」
   返事するようにニャーと鳴く仔猫。
唯「結局、おっぱい研究も役に立たなかった。
 ファインプレーは天気予報の的中だけ」
   仔猫、問うようにニャ?
唯「佳奈ねえの気持ちなんて一ミリもブレて
 ないんだし、唯の手柄じゃないよ。ほっと
 いてもいずれ噛み合ったと思う」
   仔猫、ニャニャニャ(なるほど)。
唯「まあ、唯には何の得もなかったけどさ。
 この割り切れない世の中で、たまには甘い
 おとぎ話くらいあったっていいじゃん」
   夜空を見上げる唯。
   雲間から現れる十三夜の月。
唯「それに、世界一のクソデカ感情を見せて
 もらったしね」

●河川敷・夜
   同じ月の下。
   石段に並んで座る裕香と佳奈。
   佳奈の原稿を真剣に読む裕香。
   その姿を幸せそうに見つめる佳奈。
   BGM『ビー・マイ・ベイビー』。





                   了

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