「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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山さんの刑事部屋
ホーマーは忘れない
本間(三三)男性。不動産会社社員。
三枝(四二)男性。通称リリー。
安堂(二九)男性。本間の同僚。
関屋(二五)女性。本間の同僚。
築山(七一)男性。不動産会社の客。
二上(四八)男性。不動産会社の客の親。
グレンダ(?)男性。リリーの同僚。
恵那(三五)女性。タクシードライバー。
●四葉荘・中庭・夕
辺り一面を覆う煙。
かき分けて現れる本間。
筋肉質の体に馴染まないスーツ。
煙の発生源は地面に置かれた七輪。
七輪の上で焼ける五尾のシシャモ。
中腰で団扇をあおぐ三枝。
貧相な体型を作務衣で隠して。
三枝「お帰り。すっかり日も長くなったね」
本間「・・・何の儀式ですか」
顔の周りを手で払う本間。
三枝「いや、思ったより脂が乗ってて。部屋
の中で焼かなくて正解だったよ。あ、大家
さんには許可いただいてます」
本間「火事かと思いました」
煙と不快感に顔をしかめながら。
三枝「お詫びに一匹いかが?」
菜箸でシシャモを摘み上げて。
三枝「こいつに頭からかぶりついて口の中で
身と卵が一緒くたに混じり合う感覚が好き
なんだよ。命を食らってるって感じで」
本間「火、ちゃんと始末してくださいね」
言い捨てて外階段を上る本間。
煙に目を細めながら視線で追う三枝。
●同・二〇三号室・夕
物は多いが彩りは少ない八畳間。
脱いだスーツを鴨居に吊るす本間。
畳にヨガマットを広げて。
肌着姿で腹筋運動を始める。
本間「・・・中まで煙いっつーの」
霞んだ空気を斜めに斬る夕光。
本間が体を起こす度に顔を照らす。
●社用車内・午前
運転席に本間。
シートベルトが窮屈そう。
助手席に安堂。
他人事みたいにスマホポチポチ。
カーオーディオからK‐POP。
安堂のスマホに着信。
安堂「どうもー。お世話になっております。
あーいえ、ちょっと道混んでまして。もう
手前まで来てます。ええ、ちょうど斎場の
辺りですかねー」
カーナビ「およそ三〇〇メートル先左です」
暫く走らせてハンドルを切る本間。
電話を切った安堂、本間の靴を蹴る。
安堂「オイ、一本早いって」
本間「あ、次の信号・・・」
カーナビの画面に大回りのルート。
安堂「ったくどうすんの、この先一通だぞ。
向こうさん既にキレ気味なんだけど」
本間「すいません」
安堂「その年で何一つまともにできないとか
生きてて恥ずかしくないのかよ」
薄ら笑いでごまかす本間。
交差点で大きくハンドルを回す。
●売家・外・午前
玄関先で待つ夫婦客に歩み寄る安堂。
車内と打って変わった腰の低さ。
後ろから子分のように付き従う本間。
薄ら笑いを貼りつけたまま。
●社用車内・昼
助手席でイライラ顔の安堂。
本間の靴を足で執拗に突っつく。
運転席で必死に耐える本間。
本間「あの、危ないんで・・・」
安堂「事故らないよう気合い入れるんだよ。
何だあの客、どうせ冷やかしのくせに」
安堂、煙草に火をつける。
黙ってウィンドウを少し下げる本間。
安堂「それに俺言ったよな、カーポート周り
雑草刈っとけって」
本間「刈りましたよ」
安堂「いつ?」
本間「月曜ですけど」
安堂「ハァ? 三日もすりゃ草は生えてくん
だよ。頭で考えろ、前日だろフツー」
大袈裟な舌打ちと溜息。
安堂のスマホに着信。
安堂「どうもー。お疲れっす。へい、へい。
あー順調っすね。もう最後の買主とも売契
巻いてるんで。現場? 三〇分ほどで行け
ますけど。なんかあったんすか?」
安堂の表情が徐々に強張る。
●更地・午後
戸建て六軒分ほどの更地。
途中で止まった埋設物調査。
社用車から降りる安堂と本間。
渋い顔の現場監督の元に近づく。
安堂「親方、エライもんってまさか遺跡とか
じゃないっすよね」
監督、黙って穴に小石を蹴り落とす。
穴の底の白い物体に当たる小石。
安堂「・・・人間?」
穴底に無数に散らばるバラバラの骨。
監督「パッと見、犬猫かそれより小さいやつ
だな。イタチとか。数はえげつないけど」
安堂「なんでこんな物。築ウン十年の長屋跡
でしょ? しかもこの辺って普通に部屋が
あった所じゃ」
監督「住んでた奴が床下に埋めたのかもな。
理由なんぞ知らん」
二人のやり取りを傍観している本間。
その存在も忘れたかのような安堂。
安堂「え、待って。これって瑕疵?」
監督「俺に聞くなよ。お宅さんが専門だろ」
安堂「人じゃなかったら警察に届ける必要は
ないよな。土壌汚染ってほどでもないし」
ブツブツ呟く安堂。
本間「告知義務ってどうなるんですか」
幽霊を見たような顔で振り向く安堂。
●社用車内・夕
神妙な顔でハンドルを握る本間。
助手席の安堂、考え込んだ様子。
本間「・・・安堂さん」
安堂「・・・何?」
本間「ホントに良かったんですか」
虚ろな眼で本間を見る安堂。
安堂「お前、チクる気?」
本間「いやそれは・・・」
安堂「あれくらいの事気にして家なんか建て
られっかよ。大体、人だって何千何万って
死んでるよ、あの場所でも」
本間「古代からカウントしたらそうかもです
けど・・・」
安堂「もうキレイさっぱり取っ払っただろ。
これ以上何しろってんだ。畜生の供養でも
してやれってか?」
本間「・・・・・・」
安堂「なあ本間、さん」
急な猫なで声。
安堂「歓迎会まだだったよね。次の火曜とか
どうかな?」
本間を覗き込む作り笑い。
●四葉荘・外・夜
夜道を帰ってくる本間。
その顔を自転車灯がまともに照らす。
本間の前で止まる自転車。
ジャージ姿の三枝が跨っている。
三枝「お帰り。こんな遅くまでお疲れ様」
黙って会釈する本間。
三枝「随分胃の具合が悪そうだね。今度よく
効く漢方分けてあげるよ。じゃ」
応える間もなく去る三枝。
遠ざかる姿を見送る本間。
●同・二〇三号室・夜
畳の上に直に横になる本間。
丸めて立てかけてあるヨガマット。
夕食の入ったビニール袋もそのまま。
怠そうに、額に前腕を乗せて。
本間「・・・お節介ババアかよ」
●キャバクラ・夜
耳を圧するようなEDM。
嬢を両側に侍らせて上機嫌の安堂。
対面に、居心地の悪そうな本間。
傍につく嬢に視線もくれずに。
安堂、煙草をくわえて本間に合図。
本間「何ですか?」
安堂「何ですか?じゃないんだよ。俺がこう
したら秒でライターだろ」
キャバ嬢A「ごめんお兄さん。うち全面禁煙
なのー」
愛想よく取りなす右隣の嬢A。
安堂「クソ、マジ生きづらい世の中だな」
折り曲げた煙草を嬢Aの掌に。
キャバ嬢A「ご協力感謝しまーす」
気を取り直してグラスをあおる安堂。
安堂「なあ、こいつの綽名知ってる?」
本間を顎で指しながら。
首を横に振るキャバ嬢たち。
安堂の袖を引く左隣の嬢B。
キャバ嬢B「こいつ、ってこちらの方が年上
でしょ? いいの、そんな呼び方して」
安堂「いいんだよ、仕事の上じゃ俺が大先輩
なんだからさ。こいつは無駄に年食ってる
だけ、なあ?」
本間「・・・ええまあ」
キャバ嬢A「それより綽名って?」
安堂「それがさ、傑作だぜ。ノー・ホーマー
っつうの」
キャバ嬢A「なにそれ、どういう意味?」
本間の耳から遠ざかる店内の喧騒。
代わりに疎らな溜息とブーイング。
●球場・午後(回想)
空を切るバット。
アウトローに逃げていくボール。
体勢を崩され膝をつく本間。
背番号三桁のユニフォーム姿。
●キャバクラ・夜
本間の五感が店内に復帰する。
こちらに向かって何か喚く安堂。
本間「え」
安堂「だからアレだよ。得意の一発芸見せて
やれって。ほれ、カ・ラ・サ・ン!」
曖昧な表情でグラスを干す本間。
その勢いで立とうとしてふらつく。
体を支えてやる隣の嬢C。
キャバ嬢C「嫌だったら無理にやらなくても
いいんじゃない?」
微笑んでCの手を優しく除ける本間。
その場でバッティングフォーム。
安堂「ホーマー! ホーマー!」
安堂の囃しに応えて思い切り振る。
勢い余ってテーブルにぶつかる本間。
卓上のドリンク類が軽く零れる。
本間「何やってんだこの給料泥棒! バット
に当てなきゃ飛ばねーぞ!」
ご満悦の様子でヤジを飛ばす安堂。
テーブルをお絞りで拭く本間。
その表情は俯いて見えない。
●歓楽街・夜
水溜りのネオンに叩きつける雨。
路地の壁に凭れて座り込んだ本間。
上着をどこかで失くしてシャツ姿。
濡れ透けた布地に浮かぶ筋肉。
酔い潰れて意味不明な繰り言。
本間「俺の前で敬遠とか・・・なめとんのか
ヴォケェ・・・」
傘を差した人影が覗き込む。
本間の耳元で囁くハスキーボイス。
声「こんな所で寝てたらオケツのオケケまで
競売にかけられるわよ」
●ショーパブ〈ジョアンナ〉・楽屋・夜
眩しそうに目を開ける本間。
壁際のソファに寝かされている。
反対の壁際にずらりと並んだ鏡台。
リリー「あら、おっきしたの?」
突然死角から視界を占領する極彩色。
本間を覗き込んだリリー。
ステージ衣装のドラァグクイーン。
慌てて飛び起きた本間。
下着姿に気づきタオルケットを被る。
リリー「いいガタイしてるのに案外乙女ね。
今さら隠さなくていいわよ。十二分に鑑賞
させてもらったから」
鏡台の前に座りアクセを外し始める。
楽屋の外から微かに聞こえるBGM。
『カーマは気まぐれ』。
リリー「もうすぐ看板だわ。送ったげるから
ちょっと待ってて」
慣れた手際でメイクを落とすリリー。
*****
ソファに腰かけた本間。
ピチピチのTシャツにハーフパンツ。
リリー、鏡に映った本間を見て。
リリー「グレンダの服でもギリギリなのね。
意図せざるセクシーアピールって感じ」
くるりと椅子を回転させるリリー。
ウィッグを取って微笑みかける。
三枝である。
三枝(リリー)「グーテンアーベン♪」
本間、声も出ない。
●タクシー車内・夜
車窓を流れ落ちる雨だれ。
ジョアンナの前で手を振るDQたち。
車内から手を振り返すジャージ三枝。
走り出すタクシー。
後部座席の三枝の隣に本間。
本間の足元に黒いゴミ袋。
本間「すいません、お世話になって」
三枝「いいよいいよ。どうせ僕だって自転車
じゃ帰れないし」
本間「あの、リリーさん」
三枝「その名前はお店の中だけ。今は三枝」
本間「三枝さん、あんなお仕事されてたとは
知らなくて」
三枝「仕事って言うか、あっちが素だから。
これは世を忍ぶ姿。トップシークレット」
本間「じゃあこんな会話・・・」
女性運転手を気にして。
三枝「大丈夫。恵那っちはマブダチ、ね」
ルームミラーの中で頷く恵那。
カーオーディオをスイッチオン。
野球中継の真っ最中。
三枝「こんな時間までやってるんだ」
恵那「雨で中断してたのと、延長戦」
三枝「文字通りの泥仕合だね」
ふと隣の本間を見やる三枝。
本間、細かく震えている。
試合は申告敬遠で無死満塁。
三枝「恵那っち、悪いけど何か音楽かけて。
ブルーな気分の吹っ飛ぶやつ」
恵那、カーオーディオを操作。
流れ出すご機嫌なジャズ。
『クレオパトラの夢』。
*****
ダッシュボードに貼られた写真。
恵那と仲良く映る女児。
三枝「写真替えたの? 前は男の双子ちゃん
だったじゃない」
恵那「いまいちしっくり来なかった」
二人の会話を聞き流す本間。
雨に濡れた街を見つめて。
●四葉荘・中庭・夜
雨の中、軒下に駆け込む三枝と本間。
本間、黒いゴミ袋をぶら下げて。
外階段を上りかけて三枝にお辞儀。
本間「あの、今日は本当に・・・」
三枝「だからいいって。でもそうだな、もし
恩義を感じてくれてるんなら、一度お店に
遊びに来てよ。どうせグレンダにも服返さ
ないといけないでしょ」
本間「あ、それは、はい」
三枝「そうそうスーツ。早めにクリーニング
出しなよ。とりあえず今晩は風通しのいい
所に干して。まあこのあばら家にそんな所
あるか知らんけどアハハ」
本間「フフ・・・ですね」
本間、思わず釣られ笑顔。
もう一度お辞儀して階段を上る。
二人、一階と二階の上下の部屋へ。
●築山家・客間・午前
古いながらも整った和室。
本間の前に置かれる湯呑。
年季の入った信楽焼に緑茶。
盆を置いて向かいに座る築山。
築山「独り身で客人も滅多に来られんから、
どうも不精になって。まあどうぞ」
本間「どうぞお気遣いなく」
築山「なに、ペットボトルの茶を温めただけ
です。温度調節が難しくてね、少しばかり
温いかもしれんが」
勧める築山に応えて本間、一口。
本間「ちょうどです。猫舌なので」
築山「そりゃよかった。あんたには何度も足
を運ばせて悪いと思うとるんです」
本間「そんな」
築山「何とかあんたの熱意に報いてあげたい
とは思うとる。でも私の胸の内も分かって
やってください。この年になるとね、どう
しても〈終の棲家〉って言葉が頭をよぎる
んだ。勤め上げ、先立たれ、後はじっくり
人生を振り返るだけになった時、この家は
丁度いい。一人には少々広すぎるが、家族
の思い出が隙間を埋めてくれる」
遠い目になる築山。
本間「本当に素敵なお宅だと思います。市の
中心部なのにひっそりと静かで、緑豊かな
庭もあって。それに建物は古いですけど、
丁寧に手入れされていて」
早口に褒め立てる本間。
その脳内に響く安堂の声。
安堂(声)「何でもいいから引きずり出せ」
●不動産会社・事務室・朝(回想)
自席で横柄に爪を切る安堂。
向かいのデスクで外出支度の本間。
本間「何でも?」
安堂「だーかーらー、泣き落としでも何でも
いいんだよここに連れて来りゃ。年寄りの
一匹くらい掌で転がしてみろよ。お前でも
できんだろ、それくらいなら」
飛んだ爪が本間の目の前へ。
俯いた本間、嫌悪感を隠して。
ふと視線を感じる。
関屋。ダウナー系の事務員。
離れた自席からこちらを見ている。
何か言いたげな物憂い眼差し。
安堂「誘い出したら後は俺が引き継ぐ。肝心
なのは契約だからな。見てろ、じいさんに
ハッピーな気分で判押させてやっから」
●築山家・客間・午前
本間、築山から少し視線を逸らして。
本間「実は、ご売却後もこちらにお住いいた
だけるプランもございまして・・・」
開いた襖から隣の仏間が見える。
仏壇と、その隣の棚。
棚に飾られたトロフィーとグラブ。
築山、本間の視線に気づき振り返る。
築山「とんだ不作法を。仏さんが丸見えだ」
立ち上がって襖を閉めようとする。
本間「あちらのグラブは?」
築山「あれですか。倅のですが」
本間「息子さん・・・もお亡くなりに?」
きょとんとした築山、直に笑い出す。
築山「アッハッハ、とんでもない。まだまだ
ピンピンしよります」
本間「失礼なことを」
築山「いや無理もない。未練がましくあんな
物飾っとるのが誤解の元だ。けどね、もう
ほとんど死んだようなもんです。二〇年は
会っとらん。縁もすっかり切れました」
築山の寂しそうな微笑。
本間「あの」
●不動産会社・給湯室・朝(回想)
ケトルでお湯を沸かす関屋。
カップを持った本間が入って来る。
関屋「お疲れ様でーす」
本間「うん、お疲れ」
カップをシンクで洗い出す本間。
関屋「おかわり要らないんですか」
本間「もう出ないとだから」
会話が途切れ、水音と微かな蒸気音。
関屋「相変わらずですね、アンディー氏」
本間「まあ・・・通常運行だね」
関屋「ちょっとくらいムカつきましょうよ、
好き勝手言われてるんだから」
一瞬手を止めるも再び洗い出す本間。
本間「心を無にするの慣れてるし」
関屋「何ですかそれ」
関屋、沸いた湯をドリッパーに注ぐ。
関屋「あの人最近やけに張り切ってますけど
原因知ってます?」
本間「全然」
関屋「コレがコレなんですって」
小指を立て、膨れた腹のしぐさ。
本間「ほんとに?」
関屋「聞いてないんですか。あれだけ一緒に
外回りしてるのに」
本間「しないなあ、そういう話」
関屋「私にはアピりまくりですよ。頑張って
おむつ代稼がなきゃとか、プレパパ教室が
どうだとか。どの口が言ってんだって」
本間「大変そうだ」
関屋「本間さんは理解できます?」
本間「え」
関屋「そういう、父親的な」
カップを布巾の上に伏せる本間。
本間「分からない。なる前に終わったから」
●築山家・庭・午前
革を叩く乾いた音が青空に響く。
本間「いいんですか」
築山「思いっきり来い!」
ブロック塀の上で欠伸する猫。
鋭い捕球音に驚いて逃げ出す。
築山「まだ手加減しとるでしょ」
本間「じゃあ・・・」
軽くステップを踏みながら投球。
強い球を難なくキャッチする築山。
築山「いい音だ。やってたね?」
本間「・・・少し」
暫く無言で続くキャッチボール。
築山「外野手投げだな。ピッチングはできる
かい?」
その場に腰を屈める築山。
ミットを真ん中に構えて。
築山「倅はリトルシニアのエースでさ。家で
練習する時はいつも私がこうやって受けて
やってたんだ」
本間、ぎこちないフォームで投球。
球をミットで掬い上げる築山。
築山「直球が垂れとる。握りが中途半端なん
じゃないかな」
投げ直す本間、今度はど真ん中に。
築山「指にかかったナイスボールだ。お次は
変化球、心得は?」
本間「遊び程度なら」
築山「じゃあスライダー」
手を離れた球、大きく曲がりすぎて。
ミットを弾いて明後日の方向へ。
危うく花鉢を倒しそうに。
築山「いかんいかん。昔よく叱られたんだ、
こんな所で練習するなって」
懐かしそうに笑ってボールを追う。
築山「倅に教えた時は何株犠牲にしたかな。
マメを幾つも潰してさ。最後にはすっかり
得意球にしよったけど」
ボールを直接本間のグラブに返して。
築山「ありがとう。色々思い出せましたよ」
端正に手入れされた庭を見渡して。
築山「実のところ年金だけじゃ心許なかった
んだよ。固定資産税も馬鹿にならんしね。
まあ、お話だけでも聞いてみましょう」
●ショーパブ〈ジョアンナ〉・外・夜
地下の入口に続く階段前に本間。
手に紙袋二つ。下りるのを躊躇。
グレンダ「あらお客さん?」
背後からの野太い声。
振り返るとメイク前のグレンダ。
本間と同じくらいの体格、短髪。
本間「いえ・・・」
ごまかして去ろうとする本間。
肩を掴んで引き留めるグレンダ。
グレンダ「あなた、本間ちゃんじゃない?」
●同・客席・夜
開店準備の整った店内。
同僚に挨拶しながらグレンダ登場。
本間の背中を押すように席に誘導。
グレンダ「リリーから聞いてるわ。まだ早い
けどここで待ってて。あ、そうそうアタシ
グレンダよ。よろぴく~」
本間「あ、グレンダさん・・・これ」
紙袋の片方を差し出す。
本間「お借りしてた服、洗濯してます。本当
に助かりました」
グレンダ「ご丁寧にどーも。でもあえて洗濯
しない方が良かったかもー、なんてネ」
本間「ハア・・・」
圧倒されつつもう一方の紙袋。
本間「あとこれ、皆さんで召し上がってくだ
さい」
グレンダ、袋を受け取って喜色満面。
グレンダ「あらやだ、ツマガリじゃないの。
あなたグッドセンスだわ」
同僚に向かって。
グレンダ「リリーのお友達からステキなモノ
いただいたわよ。冷蔵庫入れとくから後で
シェアしましょ。抜け駆けしたヤツはぶっ
飛ばすかんね」
店内のあちこちから喝采と口笛。
グレンダ「お酒何にする? あ、ウチ料理も
評判いいのよ。メニュー持ってくるわね。
いけない、アタシまだスッピンだったわ。
また後でねー」
嵐のように去るグレンダ。
呆然と取り残される本間。
*****
少しずつ席が埋まり始める店内。
客層は老若男女色とりどり。
テーブルを巡る華やかなDQたち。
独りソフトドリンクを啜る本間。
一際ド派手なグレンダが傍へ。
グレンダ「ほったらかしにしてゴメンねー。
退屈すぎて天に召されてなかった?」
本間「こういうお店初めてなので周り見てる
だけで楽しいですよ。結構普通な感じなん
なんですね。あ、変な意味じゃなくって、
ハードルが低い、みたいな」
グレンダ「ウチはね、来るものウェルカムが
モットーなのよ。ポリコレだの何だのって
肩肘張ってちゃ逆に閉鎖的になるでしょ。
それじゃ多様性って旗印がくすんじゃう」
突然暗くなる照明。
グレンダ「それにウチの子たち、根っからの
エンターテイナーだしね」
鳴り響く強烈なドラムイントロ。
ステージから放たれるレーザー照明。
スモークにゴージャスなシルエット。
脱ぎ捨てられるヒールと毛皮コート。
リリーのワンマンショー開幕。
BGM『ス・ト・リ・ッ・パ・ー』。
情熱的な口パクパフォーマンス。
煽られて客席の温度も急上昇。
いつしか身を乗り出す本間。
体格を感じさせない躍動感に釘づけ。
ハットが客席に投げ入れられて。
無意識にキャッチする本間。
リリー、ステージ上からウィンク。
喝采を浴びてギラギラに輝いて。
*****
いまだ熱が冷めやらない本間。
リリーのハットを膝に乗せたまま。
衣装替えしたリリーが傍へ。
リリー「いいかしら、隣」
返事を待たず腰を下ろす。
リリー「何飲んでるの、ジンフィズ?」
本間「はい、ノンアルの」
リリー「ほっぺが真っ赤だからもう酔ったの
かと思った。禁酒の誓いでも立てた?」
本間「こないだ色々失ったので、暫くは自重
しようかと」
リリー「たまげた、とんだ石部金吉金兜ね。
失う代わりに得た物もあったんじゃない?
ジェーン、アタシにシャーリー・テンプル
ちょうだい。喉乾いちゃった」
通りかかった同僚に声をかける。
本間からの視線に気づいて。
リリー「何よ、ツケマでも落ちてる? あ、
心配しなくてもいいわ。ウチはキャストの
ドリンク、お客さん持ちじゃないから」
本間「違うんです。リリーさんもアルコール
飲まないんですか」
リリー「ああ、別に遠慮してるわけじゃない
のよ。ほら、アタシチャリ通勤でしょ」
ジャージ姿で自転車に乗る姿IN。
本間「マジメなんですね」
リリー「そんなことで褒められたって嬉しか
ないわ。こちとら誇り高きアウトサイダー
なのよ。それよりどうだった、ショー」
ハットに目を落とす本間。
本間「・・・何かすごかったです。綺麗って
言うかカッコイイって言うか。語彙が貧弱
ですいません・・・」
リリー「それって『とても筆では書けない』
ってことでしょ。やだ、最高の賛辞♪」
本間の肩をバンバン叩く。
ステージで始まる二人組のショー。
ピンク・レディー・メドレー。
初っ端『サウスポー』。
うっとりとステージを眺める本間。
本間「自分に嘘つかない生き方ってこんなに
眩しいんですね」
リリー「全方位にワガママなだけよ。それが
意外と難しいんだけど」
本間「なんか癖になりそうです。また来ても
いいですか」
リリー「いいわよ、いつでもいらっしゃい。
でも気をつけてね」
本間「え」
リリー「ここで提供できるのはあくまで憂さ
晴らし。忘れたいことならいくらでも忘れ
させてあげる。でも救済は求めちゃダメ。
弱ってる人にとってアタシたちは劇薬よ。
時に命取りにもなりかねないわ」
見つめ合う本間とリリー。
メドレーが『S・O・S』に。
●四葉荘・外・朝
スーツ姿で門を出る本間。
ジャージ姿の三枝が自転車で帰宅。
すれ違いざまに会釈する二人。
どこかくすぐったげ。
互いに遠ざかる二人、頬が緩んで。
●不動産会社・事務室・午前
室内には本間と関屋だけ。
それぞれPCに向かってタイピング。
FMラジオの交通情報が流れる。
関屋「本間さん」
本間「ん」
関屋「今ちょっといいですか」
本間「待って、保存するから」
本間、自席から離れて関屋の傍へ。
本間「どうしたの。またセルが行方不明?」
関屋「馬鹿にしてるんですか。それくらいは
自己解決できますよ。これ見てください」
プリンターから吐き出される書類。
関屋「アンディー氏から売契製本しとけって
言われたんですけど。大丈夫なんですか、
この内容で」
バラの売買契約書を手に取る本間。
一枚目の売主欄に築山の氏名。
ページをめくる手が止まって。
関屋「売買金額とか、賃料とか、最初の案と
全然違くないですか。それに定期借家権、
転売の特約・・・」
書類に隠れて見えない本間の顔。
関屋「こんなの、老後が安泰どころの話じゃ
ないですよ」
●同・駐車場・昼
減速せずに入ってくる社用車。
雑な駐車、降り立つ安堂。
背後から呼び止める本間。
本間「お疲れ様です」
安堂「急に声かけんな。店長かと思った」
本間「ちょっとお話が」
安堂「メシ買って来たんだよ。食ってからに
してくれ」
面倒くさそうに牛丼屋の袋を振って。
安堂「そうそうじいさんの件。見直したよ、
なかなかやるじゃん。どんな手使ったの。
後学のために教えといてくんない?」
本間「そのことで。売契なんですけど」
安堂の上機嫌が雲散霧消する。
●男子トイレ・個室・昼
ビルの共用トイレ。
個室から聞こえるくぐもった声。
狭い個室内に安堂と本間。
本間、便器に押しつけられるように。
安堂「もういっぺん言ってくれよ。俺の鼓膜
が正常かどうか確認したいからよ」
本間「だからあんなの詐・・・」
タンクにぶつけられる本間の背中。
安堂「鼓膜はイカレてなかったわ。誰かさん
の頭は要検査みたいだけどな」
誰かがトイレ内に入ってくる気配。
手を伸ばして水を流す安堂。
本間を蓋の上に座らせて顔を寄せる。
囁くような怒りの声。
安堂「俺が押印済みの売契いじったってか?
あ? 違うだろ? これからあの契約条項
をじっくり丁寧に説明して、ご納得の上で
ご押印いただくんだよ。どこに問題が?」
本間「じゃあ、説明するんですか。この内容
だと最悪二年で退去になるかもしれません
って。手元に残るのは色んな名目で引かれ
まくった後の端金だって」
安堂、タンクの水で手を洗う。
それを本間のシャツで拭く。
安堂「店長の決裁は下りてんだ。法的に何の
瑕疵もない契約だってな。これ以上吠えた
ところで誰の共感も得られやしない。その
マヌケな口閉じて大人しくお座りしてりゃ
いいんだよ」
鍵を開けて出て行こうとする安堂。
安堂「来週は立ち会わなくてもいいからな。
それと・・・」
最後に氷のような一瞥。
安堂「余計な事考えんなよ」
●ショーパブ〈ジョアンナ〉・客席・夜
虚ろな眼をステージに向ける本間。
ショーの幕間でステージは空。
本間の前にほぼ空になったグラス。
その横に少し減ったバーボンの瓶。
リリー「禁酒の意思は脆くも崩れ去りぬ」
見下ろすリリーと目が合う。
本間「・・・うす」
リリー「ご相伴に預かろうかしら」
本間「飲酒運転する気ですか」
リリー「また恵那っちに来てもらうから」
本間「専属運転手じゃないですか」
リリー「いいのよ。向こうがいつでも呼んで
って言ってるんだもん。有難くパシらせて
もらうわ」
隣に腰を下ろすリリー。
本間のグラスにバーボンを注ぐ。
持参した自分のグラスにも。
リリー「ボトルなんか入れちゃって。たまに
来るくらいがちょうどいいのよ、こういう
所は」
ストレートで飲もうとする本間。
リリー「割らなきゃダメ。食道やられてから
後悔したって遅いんだから」
本間「リリーさんってオカンみたいですね」
リリー「やだあ、母性愛感じちゃう?」
本間「ちょっと意味違いますけど」
リリー「マンマ・ミーア!」
水割りにしたグラスで乾杯。
リリー、本間の横顔を見て。
リリー「シャドウ入れてんじゃないわよね」
目の下をこする本間。
本間「最近変な夢ばっか見て。一時間ごとに
目が覚めるんです」
リリー「アタシのご尊顔を拝んだせい?」
本間「はは・・・」
リリー「無理に笑ってくれなくていいわよ」
少し離れた席で酔っぱらいの大声。
男女大学生グループが酩酊状態。
やんわり諫めているDQ。
チラッと視線を飛ばすリリー。
リリー「大笑いウン十年の馬鹿騒ぎ、か」
ステージに照明。
流れ出す『マテリアル・ガール』。
リリー「グレンダのマドンナ最高よ。見逃す
手はないわ」
衣装完コピのグレンダが踊り出す。
コミカルさを加えながらもキレキレ。
男子大学生「引っ込めバケモノ!」
立ち上がって野次る大学生。
周りの友人も面白がって囃し立てる。
余裕の表情で流すグレンダ。
アドリブで大学生へ投げキッス。
男子大学生「キモイんだよ、巣から一生出て
くんな!」
グレンダの頬を掠めるスミノフの瓶。
背景幕に当たって砕け散る。
凍りつくステージの上と下。
虚しく流れ続けるマドンナの歌声。
大学生グループの周囲に空間。
男子大学生「なんか文句ある? 事実言った
だけですけどー」
他の客やDQたちを威嚇するように。
立ち上がろうとする本間を制する手。
静かに大学生に歩み寄るリリー。
ほとんどキスしそうな距離まで。
無駄に発育した若者との体格差。
男子大学生「・・・なんだよ、俺とガチンコ
する気? 勝てると思ってんの? どうせ
○○○も○○○○もついてねえくせによ」
リリー「ついてるよ」
深く重い声に一瞬で静まり返る場。
リリー「てめえの股にぶら下がってる粗末な
引きこもりよりよっぽど上等なのがな」
余りの迫力に一歩下がる大学生。
椅子に躓いて尻餅をついてしまう。
大学生の股に広がる濡れ染み。
連れの女子のヒステリックな笑い。
男子大学生「だ、誰だよ、こんなオバケ屋敷
行こうって言ったバカ・・・」
あたふたと立ち上がって。
男子大学生「で、出るぞ。こんなトコいたら
○○○○が伝染っちまう・・・」
すごすご退散する一群を見送る人々。
リリー、周囲の客に一礼。
リリー「大変お騒がせ致しました。どうやら
昭和末期から迷い込んだタイムトラベラー
御一行だったようです。彼らにこの時代は
まだ早すぎたのね」
自然と湧き起こる拍手。
リリー「グレンダ、ケガはない?」
瓶の破片を片づけたグレンダ、丸印。
リリー「では引き続きお楽しみください」
流れ出す『ヴォーグ』。
まだ中腰の本間を座らせるリリー。
リリー「キミみたいなデカブツが出てったら
血を見ずには終わらないわよ。筋肉だって
そんな目的で鍛えたんじゃないでしょ」
●四葉荘・二〇三号室・夜
本間、ヨガマットの上でプランク。
玄関ドアをノックする音。
本間「・・・はい」
三枝(声)「勝手に開けるよ」
言葉の途中で開くドア。
作務衣姿の三枝の柔和な笑顔。
本間「返事する前に開けないでくださいよ」
三枝「だから『勝手に』って言ったでしょ。
おやおや感心だね、筋トレかい?」
本間「体イジメたら熟睡できるかなって」
限界に達して膝をつく本間。
三枝「こんな時間に運動したら、熟睡の前に
お腹すくでしょ。ちょうどよかった。ウチ
来ない?」
本間「三枝さんの部屋?」
三枝「そ。夕食作りすぎたからご一緒にどう
かなって」
本間「今日はお仕事じゃないんですか」
三枝「真の姿を毎日晒すのも、それはそれで
疲れるんだよ」
本間「めんどくさい設定ですね」
三枝「ほら、いいからとにかくおいでよ」
強引に上がり込んで本間の手を引く。
本間「待ってください。汗拭くから」
三枝「どうせすぐかくのに」
●同・一〇三号室・夜
地獄の釜のようなホルモンキムチ鍋。
箸と碗を持って汗ダラダラの本間。
三枝は涼しい顔。
本間「・・・初夏!」
三枝「今年初めて冷房入れてあげたんだよ。
贅沢言わずに食べな」
本間「今以上精力つけてどうするんですか」
三枝「やらしい発想だなあ」
本間「じゃあ何で」
三枝「キムチといえば安眠効果でしょ。ほら
GABAってやつ」
本間「あ・・・」
素直に食べ始める本間。
ほっこりと見守る三枝。
*****
無駄な家具のないミニマリスト部屋。
唯一、立派なオーディオセット。
レコードをかける三枝。
コルトレーンの『私のお気に入り』。
目を閉じて聴き入る三枝。
本間、〆のリゾットを食べながら。
本間「音楽お好きなんですか」
三枝「母の影響。幼い頃からジャンル問わず
聴かされまくってね。しまいには聴くだけ
じゃなく弾く方まで」
本間「素敵なお母さんですね」
三枝「興味ない父とは始終ぶつかってたよ。
父は僕に別のことをさせたかったんだね。
結果、ご覧の通りのキメラの出来上がり」
本間、少し迷った末に。
本間「・・・真の姿のこと、ご両親は?」
三枝「いきなり火の玉ストレートだね」
三枝、苦笑。
三枝「打ち明けたさ。あとはご想像に」
*****
シンクで並んで食器を洗う二人。
三枝「家族の縁なんて切れる時はあっけない
もんだよ。繋がってるうちは精一杯しがみ
ついときなさい」
本間「またお説教」
三枝「親孝行してる?」
本間「できたかな、って思った瞬間はありま
したけど」
三枝「その言い方だとまだ不十分みたい」
本間「・・・ですね」
三枝「キミならできると思うけどな」
本間「え」
丁寧に鍋を洗う本間の手元を見て。
三枝「人の本質は食器の洗い方で分かる」
手が滑って鍋を落としかける本間。
三枝「おっと」
手を出してキャッチする三枝。
三枝「イタズラな泡だね」
本間と三枝の手が一瞬触れ合う。
本間「わ、すごい・・・」
思わず三枝の左手を取る本間。
三枝の中指に固いタコ。
三枝「ちょっと。指紋でも取ろうっての?」
本間「何やったらこんなになるんですか」
三枝「ああこれ、あんまり見ないでよ。負の
遺産みたいなもん。気がついたらブスな手
になっちゃってた」
本間「いーや、かっこいい手ですよ。何かを
極めた手って感じ」
三枝「そういうキミこそ分厚くてガチガチ。
働く男の手って感じじゃない」
本間「あっ、ツボ押さないで・・・」
泡だらけで戯れる二組の手。
●築山家・外・朝
玄関からゴミ袋を提げた築山。
電柱の陰の本間に気づく。
本間、背中を向けて考え事。
築山「やあ、おはようさん」
ほがらかな挨拶に本間ビクッ。
本間「お、おはようございますっ」
会釈し、そそくさと退散。
不思議そうに見送る築山。
●社用車内・午後
停車中の運転席に本間。
ハンドルを握って信号を見つめる。
赤信号が赤いマグネットに。
オーバーラップする会社の白板。
六月九日(大安)のスケジュール。
『ツキヤマ→契約&手付』の記載。
本間「このままじゃ・・・」
次の刹那、車内を衝撃が襲う。
●舗道・午後
スマホを手に途方に暮れる本間。
路肩に停められた社用車。
その後部に突っ込んだバン。
社用車の前部も派手に凹んで。
配送ドライバーを聴取する警官たち。
レッカー車が到着する。
もう一度スマホを見る本間。
不動産会社、無応答の表示。
●病院・ロビー・午後
通話可能エリアに佇む本間。
再度、会社への発信を試みる。
ほぼ同時に会社から着信。
慌てて電話をとる本間。
本間「もしもし」
関屋(声)「あ、本間さん?」
電話の向こう、関屋の押し殺した声。
本間「そう。実はえらい目に遭っちゃって。
まだ少し帰れそうになくて」
関屋(声)「どうしたんですか」
本間「事故。信号で停まってたら掘られた。
いま病院。幸い無傷だったけど手続きやら
何やらで・・・」
関屋(声)「ちょうどよかったです。今日は
もう帰って来ないで」
本間「は?」
●街~駅~電車・午後
徒歩と電車で移動する本間。
関屋との通話プレイバック。
関屋(声)「桜台のC号地って、いわくつき
なんでしょ」
本間(声)「何でそんなこと」
関屋(声)「買主の二上さん。父親が怒鳴り
こんできて」
本間(声)「えっ」
関屋(声)「しかもその親、コレらしくて」
本間(声)「コレ?」
関屋(声)「コレですよ。指の数が少ない」
本間(声)「・・・・・・」
関屋(声)「いま店長とアンディー氏が対応
してます。ただ雲行きが・・・」
本間(声)「安堂さんは何て」
関屋(声)「応接閉め切ってるから。でも、
ドアの外で耳澄ましたら、やたら『本間』
『本間』って・・・」
本間(声)「・・・・・・」
関屋(声)「とにかくそのまま直帰してくだ
さい。店長には私がうまくごまかしておき
ますので」
●四葉荘・二〇三号室・夕
薄暗い室内をうろうろする本間。
関屋の携帯から着信。
関屋(声)「まだ無事ですか」
本間「一応は」
関屋(声)「例の人とりあえず帰りました。
店長はさっきから鬼電中です」
本間「知ってる。完無視してる」
関屋(声)「全部おっ被せられたようです」
本間「そう・・・」
関屋(声)「明日も来ちゃダメですよ」
本間「でも明日は築山さんの・・・」
関屋(声)「さっきそれとなく偵察したら、
店の周り恐いオジサンだらけ」
本間「それ、俺狙いってこと?」
関屋(声)「モテモテですね」
本間「おい」
関屋(声)「いま、お家ですか」
本間「そうだけど」
関屋(声)「そこも危ないかもしれません。
移動した方が」
本間「まさか」
関屋(声)「履歴書持って行かれたって」
本間、カーテンの隙間から覗く。
窓の下、黒塗りの車が到着。
慌てて部屋を見回す本間。
目に留まった長細いケースを掴む。
●街・夜
ケースを担いでさまよう本間。
目立つ荷物に集まる視線。
人ごみを避けてなるべく寂しい方へ。
悪相を見かけるたび反射的に隠れる。
今度はパトロール警官。
ケースを見咎めて近づいてくる。
本間「そうだ、いっそ・・・」
その時、無線が入って。
元来た方へ走り去る警官。
本間、置いてけぼり。
●ショーパブ〈ジョアンナ〉・入口・夜
ドアを内側に開く三枝。
外から転がり込んでくる影。
三枝「わっ」
ドアに凭れて座っていた本間である。
本間「あっ、あっ、俺じゃないんです」
寝ぼけ面であたふた。
三枝「お外でネンネするの好きだねー」
●同・客席・夜
クローズした店内。
二人のいる席にだけ照明。
本間「他に行く所なくて・・・」
三枝「構わないけど。事情は話せないの?」
本間「ご迷惑がかかるから」
三枝「今さらだよ。残業つかないし」
ますます縮こまる本間。
本間「それに、救済を期待するなって」
三枝「救済と手助けは違うんだけどな」
席を立ってステージに歩み寄る三枝。
三枝「マスカレードって知ってる?」
本間「・・・・・・」
三枝「仮面舞踏会。その夜だけは階級も家柄
も、場合によっては性別さえも曖昧にして
誰もが自由を謳歌できる。この店ってさ、
そういう場所なんだよ」
弾みをつけてステージに腰かける。
三枝「一度だけ上がってみない?」
●同・楽屋・夜
リリーに戻った三枝、手に化粧道具。
鏡台に背を向け、椅子に屈み込んで。
リリー「うん、こんなもんかな」
リリーが退いて鏡に映る本間。
オールド・ハリウッド風フルメイク。
その出来栄えに自ら目を見張る。
リリー「メイミー・ヴァン・ドーレンを意識
してみたの。って知らないか」
本間「これ・・・俺なんですか」
リリー「れっきとした本間クンよ。そうだ、
せっかくだからステージネームも」
ウィッグを被せてブラッシング。
リリー「ホンマだから・・・ホーマー!」
本間「その名前はちょっと」
リリー「そうねえ・・・ホーマーだと黄色い
オッサンしか浮かばないか。そもそもオス
の名前だし・・・」
本間を立たせて着せ替え人形。
リリー「あーもう、ミリも思いつかないわ。
ホーマーでいきましょ。汝は今この時より
ホーマー。それ以外の名は捨てよ!」
パーンとドレスの尻を叩く。
ホーマー「暴君だ・・・」
ホーマー、頭から爪先まで変身完了。
●同・ステージ・夜
暗がりに二人の微かなシルエット。
鮮烈なピアノのグリッサンド。
回り始めるミラーボール。
照明に浮かぶリリーとホーマー。
『ダンシング・クイーン』に乗せて。
ホーマー、最初は恥ずかしげ。
リリーの振りを見よう見まね。
やがてリリーに引っ張られるように。
慣れないヒールを床に打ち鳴らして。
いつしか全身全霊のパフォーマンス。
煌めくスパンコール、飛び散る汗。
化粧の下の清々しい笑顔。
●同・客席・深夜
白い付け爪をじっと見つめるリリー。
手を裏返すとタコだらけの無骨な手。
ふっと寂しく微笑んで。
リリー「それも親孝行ってこと?」
ホーマー「はい・・・」
話し疲れて天を仰ぐホーマー。
リリー「そもそも親じゃないのに」
ホーマー「他人と思えなくて」
リリー「解らないでもないけどさ」
リリー、ホーマーを見据える。
ホーマーも視線を受け止める。
リリー「腹くくってんの」
ホーマー「うまく行く気はしないですけど」
リリー「まさにガントレットだもんね」
ホーマー「あるいは少林寺木人拳」
リリー「アンタ何歳よ」
ホーマー「夏休みにテレビで観ました」
リリー「テレ東ね」
軽口に頬が緩む二人、すぐ真顔に。
ホーマー「ハァ、何とか晴らせないかな」
リリー「先輩をゲロらせたらいいじゃない」
ホーマー「簡単に言わないでください」
リリー「そんなにタフなの?」
実感こめて頷くホーマー。
リリー「せめて音くらい録っときなさいよ。
パワハラ対策の基本」
ホーマー「そうなんですよねえ・・・」
数瞬後、顔を見合わせる二人。
二人「あっ」
*****
スマホを見て肩を落とすホーマー。
ホーマー「ダメだ、営業一〇時から・・・」
リリー「車飛ばしても無理ゲー?」
ホーマー「あっちも一〇時スタートなんで」
リリー「うーん・・・」
垂れ込める重々しい空気。
リリー「・・・とりあえず寝ましょ」
ホーマー「えっ」
リリー「アンタこないだよりヒドイ顔してた
わよ。ファンデのノリの悪いこと。とても
戦える顔じゃない」
ホーマー「そんな吞気な・・・ぐふっ」
顔にタオルケット命中。
リリー「錆びたオツムをいくらひねったって
クソの欠片も出やしないわ」
ホーマー「だからって・・・ぶはっ」
続いて枕も命中。
リリー「ボックスなら足伸ばし放題よ。安心
してお休みなさい。夜明け前には起こして
あ・げ・る♪」
店の奥に消えるリリー。
強制的に消される照明。
●同・朝
ボックス席で目を覚ますホーマー。
手探りでスマホを引き寄せてタップ。
表示された時間に目を見張る。
飛び起きて駆け出そうとするも暗闇。
スマホライトを懐中電灯がわりに。
一瞬照らし出される卓上。
書き置きに気づかない本間。
『おつかい中』
『単独行動は死刑よ!』
こまわり君の手描きイラスト付き。
●同・楽屋・朝
鏡台のボトルを漁る手。
クレンジングオイルを発見。
●同・客席・朝
長細いケースを掴み上げる手。
ドアが開き、閉じる音。
*****
明々と照明が灯った店内。
フロアを見回す三枝。
人っ子一人いない。
手にしたコンビニ袋を投げ出して。
三枝「やれやれ。これだから早漏ボーイは」
●不動産会社・外・午前
ビルの陰に屈んで潜む本間。
肩に掛けたケース。
スマホ画面、『九時五七分』。
二〇メートルほど前方のビル。
一階路面に不動産会社の店舗。
その入口を見つめる本間の瞳。
にわかに蘇る球場の歓声。
●球場・夜
ネクストバッターズサークルの本間。
歓声を受けてゆっくり立ち上がる。
グリップが汚れ切ったバットを手に。
ユニフォームには二桁の背番号。
バッターボックスへと歩みを進める。
全て埋まった塁上。
マウンドを真っ直ぐ見据える本間。
と、なぜか走者たちが塁を離れる。
守備につく野手や、審判・コーチも。
両軍ベンチからも出てくる人々。
内野の両側に築かれた人間の壁。
本間と投手の間にできた一本道。
歓声「ホーマー! ホーマー!」
●不動産会社・外・午前
店舗に向かって立つ本間の背中。
ワイシャツの背中には汗じみ。
本間と店舗を結ぶ直線上。
左右に築かれた人間の壁。
いずれも強面の構成員たち。
花道の先に立つ二上。
スーツ姿の苦み走った中年男。
二上「本間さんか?」
応えない本間。
見えない表情。
二上「物騒なモン持ってどうする気だ。それ
にそのツラ・・・」
本間の足元に落ちた空のケース。
手に握られた木製バット。
本間、前に歩き出す。
色めき立つ手下たち。
今にも懐から何か抜こうとして。
二上「手ぇ出すんじゃねえ!」
二上、手下を一喝。
暴発寸前の花道を進む本間。
二上「俺は聞きてえだけだ。どういう了見で
娘夫婦にケチついた土地掴ませやがった。
最初から承知の上で上司にも黙ってたって
言うじゃねえか」
数メートル手前で止まる本間。
本間「店に入れてください」
二上「駄目だな。全部歌ってからだ。答えに
よっちゃ出勤する手間が永久に省けるかも
しれねえが」
本間のバットが静かに持ち上がる。
力強いバッティングフォーム。
二上「ちゃんと当てれんのか。お宅のことは
知ってるんだぜ、一軍出場わずか三打席の
ノー・ホーマーさんよ」
本間の構えに力がこもる。
三枝「ホーマー!」
突然の一喝。
本間の背後に滑り込んで止まる車。
恵那のタクシーである。
助手席から降り立つ三枝。
敏腕弁護士のような装い。
本間「リリーさん・・・」
三枝「道具の使い道を間違っちゃいけない」
人垣の一部が崩れて三枝を取り囲む。
二上「・・・誰だ、てめえは」
三枝「閻魔大王の使いの者です。浄玻璃鏡を
お持ちしました」
おふざけか真面目か分からない口調。
体の前に掲げられたタブレット端末。
本間を含む一同の視線が集中。
映し出されるドラレコの映像。
画面外から聞こえてくる二人の会話。
疑問を口にするも封殺される本間。
開き直った安堂の暴言が響き渡る。
三枝、静まり返った一同を見渡して。
三枝「さてさて、舌を抜かれるべきなのは誰
でしょうね」
●同・廊下・午前
応接室のドア。
ノックしようとしてやめる手。
●同・応接室・午前
ノックもなく開けられるドア。
室内の面々、一斉に戸口に注目。
奥の席の店長と安堂、手前の築山。
卓上に湯吞を並べかけていた関屋。
安堂、誰より早く立ち上がる。
安堂「本間・・・さん、どうしたんですか。
今日はお休みじゃなかったんですか」
怒りを愛想で押し隠して。
戸口の本間にずかずかと詰め寄る。
安堂「話があるんだったらこれが済んでから
じっくりと・・・」
間近で本間を見て、安堂棒立ち。
安堂「顔・・・」
青ずんだ目の周り、唇の端に朱の色。
殴り合いを演じたような本間の顔。
築山「本間さん、こりゃ一体・・・」
本間「判は押さないでください。この売買、
あなたにとって何のメリットもない。散々
搾り取られた挙句、裸で放り出されるのが
オチです」
店長「キミ、黙って聞いてれば・・・」
安堂、立とうとした店長を制する。
安堂「ここは私に」
気を取り直して本間と向き合う安堂。
その手には契約書の片割れ。
安堂「築山様の署名と押印です。私の説明を
聞かれた上で、今この場でご自分の意思で
押されたんです。分かりますよね、契約は
何の問題もなく成立したんですよ」
契約書を手に取ろうとする本間。
契約書を遠ざける安堂。
安堂「お前、何のつもり・・・」
三枝「困るなあ、父さん」
本間の背後にいつの間にか三枝。
目が合った築山に微笑みかける。
三枝「こんな大事なこと、家族に何の相談も
ないなんて」
困惑する一同をよそに室内へ。
築山の隣に腰かけて店長に名刺。
三枝「申し遅れました。私、長男です。父は
年のせいか最近どうも言動が心許なくて。
お手数なんですが、もういちど契約内容と
やらをご教示願えませんか」
築山の前の湯呑を一気に飲み干す。
三枝「この部屋やけに蒸しますねえ。お二人
だけ残っていただいて、それ以外の方には
ご遠慮願いましょうか」
●同・廊下・午前
本間と関屋の前で閉じるドア。
顔を見合わせる二人。
お盆を胸に抱いたままの関屋。
関屋「やり合ったんですか」
本間「え」
関屋「外の人たちと」
関屋、自分の目の下と唇を指す。
本間、同じ部分を指で拭う。
指に付いた青と赤の汚れ。
●男子トイレ・午前
手洗い場の鏡の前に立つ本間。
汚れた顔の自分と向き合って。
落としきれず広がったメイクの名残。
肩を震わせる本間。
ついには笑いの発作を抑えられずに。
ぽろぽろ涙までこぼして。
思いきり水栓を開く本間。
笑い声が水音に掻き消される。
●不動産会社・廊下・午前
行ったり来たり落ち着かない本間。
応接室のドアが開く。
築山の肩を押すように出てくる三枝。
室内に向き直って深々と礼。
三枝「この度はとんだご迷惑を。またご縁が
ございましたら是非」
ドアを閉めて本間に気づく。
三枝「雨でも降ったの?」
本間の髪先や襟元が湿っている。
本間「もっと落ちやすいクレンジング使った
方がいいんじゃないですか」
三枝「アレ、結構高いんだよ」
本間を促して出口へと向かう。
本間「契約は・・・」
二組の契約書を取り出す三枝。
三枝「いいですね、『お父さん』」
築山「お任せする」
三枝、本間に契約書を渡す。
三枝「倍額がどうとか駄々こねられたけど、
そもそも手付の交付がまだだったからね。
あとはキミ次第だ」
本間、築山に目配せして。
契約書を縦二つに裂く。
●同・外・午前
店舗の出口、関屋がお見送り。
三枝「結構なお抹茶ごちそうさま」
関屋「どういたしまして。粉末ですけど」
出て行く三人に頭を下げる関屋。
関屋「ご来店ありがとうございました!」
入れ替わりで足を踏み入れる二上。
手下を両脇に従えて。
関屋、目も合わさずスルー。
*****
恵那のタクシーへ歩み寄る三人。
運転席から降りた恵那。
本間にバットケースを差し出す。
恥ずかしそうに受け取る本間。
後部座席に築山を乗せる三枝。
三枝「この人を自宅までお送りして。我々は
ぶらぶら帰るから」
頷いて再び乗り込む恵那。
本間、窓越しの築山と目が合う。
微笑んで会釈する築山。
本間「あの・・・今回は何と言うか・・・」
築山「嬉しかった、息子が二人も助けにきて
くれて」
本間、何も言えず唇を噛む。
走り出すタクシーを見送る二人。
●街・午前
肩を並べて歩く三枝と本間。
本間、急に足を止める。
三枝「まだ忘れ物?」
本間「すいませんでした!」
土下座せんばかりの勢い。
本間「知らなかったとは言え、リリーさんの
お父様を騙すような」
きょとんとする三枝。
三枝「いいよ、僕になんか謝らなくて」
本間「でも・・・」
三枝「逆に心苦しいから」
本間「いやそんな・・・」
三枝「だって全部嘘だし」
本間「ふぁ?」
三枝「赤の他人。さっき初めて会ったの」
今度は本間が豆鉄砲食らった顔。
●駅・プラットホーム・昼
ホームで電車を待つ二人。
本間、少し拗ねた表情。
本間「よくもまあ噓八百をペラペラと」
三枝「人生はお芝居さ」
本間「もし築山さんに否定されてたら即終了
だったんじゃ」
三枝「あのご老人かなりの切れ者だよ。打ち
合わせてもいないのに僕の意図に気づいて
すぐ話を合わせてくれた。どうやら今回の
取引が危ういのにも薄々勘づいてたみたい
だね。耄碌してるなんて方便でも悪いこと
言っちゃったな」
本間「何で・・・」
三枝「・・・・・・」
本間「何で言われるがまま判子まで・・・」
三枝「花を持たせたかったんじゃないかな、
君に」
三枝、慈愛の眼差し。
●電車内・昼
並んで吊革に掴まる二人。
大きく揺れる車内。
思わず三枝に凭れかかる本間。
左手で本間の肩を支える三枝。
三枝「体幹、鍛え足りないんじゃない?」
三枝の左手を取る本間。
本間「・・・投げダコ」
三枝「うん?」
本間「前にこれ見てたから、築山さんの話と
勝手にこじつけちゃって。偶然ってこわい
ですね」
なぜか顔を逸らす三枝。
本間「やってましたよね、野球」
三枝、我慢できずに吹き出す。
三枝「まったくキミは・・・純粋すぎるのも
時には罪だよ」
本間「・・・・・・」
三枝「言ったでしょ、負の遺産って。これは
母に習わされたヴァイオリンの置き土産。
まあ、今でも隠れてちょくちょく弾いてる
けど。気づかなかった?」
本間「・・・・・・」
三枝「ああそうか、昼間いないもんね」
●四葉荘・外・午後
二人、外階段の下。
上りかけた本間、振り返って。
本間「このご恩は一生・・・」
三枝「ちょっとやめてよ。そういうの苦手。
何かこそばゆくて」
本間「でも、それじゃ俺の気持ちが」
三枝「じゃあね、こうしよう。また近いうち
店に来てよ。その時、花の一輪でも持って
来てくれればいいから、ね」
本間「・・・うす」
三枝「じゃ、グーテナハ♪」
照れ隠しのように先に部屋に消える。
見送ってから階段を上る本間。
*****
穏やかな午後、人影絶えて。
思い出のように静かに佇むアパート。
どこからか押し殺した弦の響き。
パガニーニ『奇想曲第二四番』。
●歓楽街・夕
賑わい始めた街をゆく本間。
すれ違いざまに振り返る人たち。
本間の手には上品な百合の花束。
晴れやかな顔で踊るような足取り。
流れ続けるパガニーニ。
フラフラとこちらに歩いてくる男。
いつかジョアンナで見た大学生。
黒ずくめの服装に虚ろな眼。
気づかずすれ違う本間。
大学生の黒いシャツに一際濃い染み。
その手には何かキラリと光る物。
何事もなく離れてゆく二人。
どこか遠くでむせび泣くサイレン。
●四葉荘・二〇三号室・朝
畳の上に並べた朝食。
正座で黙々と箸を進める本間。
背後の部屋はすっかり片づいて。
積み上げられた引越しの荷物。
本間、シシャモを一尾摘み上げる。
にらめっこするように暫く見つめて。
頭から大胆にかぶりつく。
じっくりと命を噛みしめる口元
●歩道・午前
車道に手を上げる本間。
タクシーが目の前で停まる。
●タクシー車内・午前
ダッシュボードの写真。
真っ白なサモエドと戯れる恵那。
カーオーディオからはAMラジオ。
ベテランパーソナリティーの独演会。
前夜のプロ野球をくだくだと語る。
黙ってハンドルを握る恵那。
流れ去る街を見つめる本間。
恵那、ラジオを他局に変えようと。
本間「いいですよ、そのままで」
本間の隣に置かれた荷物。
スポーツバッグとバットケース。
本間「地元で小学生に教えることになったん
です。教えられることがあればですけど」
恵那「そうですか」
車内沈黙、饒舌なラジオ。
恵那「・・・彼女から伝言です」
いつの間にかトークが終わって。
パーソナリティー「ではここで一曲どうぞ。
ジョニー・キャッシュで・・・」
恵那「とっとと忘れなさい」
ルームミラー越しに目が合う二人。
本間、視線を逸らして再び窓外へ。
何一つ変わらずに動き続ける街。
空に流れるような『谷間のユリ』。
●ショーパブ〈ジョアンナ〉・客席・午前
薄闇の中で微睡むような店内。
ステージに一筋のスポットライト。
細かい埃が主なき舞台で輝き舞う。
タイトル『ホーマーは忘れない』
了
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